【童話集】あなたのおとぎ話

天使と悪魔の賭け事

むかしむかしあるところに、1人の作曲家がおりました。街一番、いえ、国一番の作曲家です。
作曲家の前に客が1人現れて、神を讃える曲を作るよう注文しました。客は大変な美貌の持ち主でした。男性のようにも女性のようにも見えました。作曲家は、耳の病を患っていました。徐々に聴力を失う病です。客が去ると、何故だか作曲家の耳は完全に治っていました。

またある日のこと、別の客が1人でやってきました。コツコツとかかとの音が響きました。この客は、驚く程に美しい顔をしていました。そして、男性とも女性ともつかない心地よい声音で、地獄を讃える曲を作るよう注文しました。作曲家は
「私は神を信じている。それはできない。」
と、断りました。客は帰っていきました。

さあ、神を讃える曲はクライマックスに差し掛かりました。神々しい壮麗な曲が出来上がりました。客は大喜びすることでしょう。

戸を叩く音がします。扉を開けるとそこには、作曲家が愛した、人生でたった1人の女性が立っていました。女性は言いました。
「私、結婚することになったの。お祝いに、私のために曲を作ってくれないかしら。」
作曲家は絶望を隠して、おめでとうを言い、
「もちろん引き受けるよ。」と答えました。

曲が出来上がってみると、神を讃える曲よりも、女性を讃える曲の方がもっと素晴らしく、もっと美しく、もっと壮麗でした。
神を讃える曲を注文した客は、曲が気に入らなかった様子で、大金だけを残して立ち去りました。
その瞬間、男は聴力を完全に失いました。

そして大金のために、ある日泥棒に殺されてしまいました。彼の死後、女性を讃えた曲は人々に愛される名曲となりましたが、男は地獄に堕ちました。

おしまい。