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第4話 夢中説夢-6
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ふと時計を見ると、もうすぐ夜の営業が始まる時刻だった。あらかた準備を終えた俺たちは、いつ店を開けてもいい状態だった。
「あの、高坂さん」
「ん? どした?」
テーブルを拭いていた神田が、その手を止めて声をかけてきた。
「あの、ですね。昨日高坂さん、幼なじみさんに会ったんですか?」
「ん? ああ、そうだけど。どうかしたのか?」
「いえ、特に何かあったという訳ではないんですけど。世間話ですよ世間話」
「世間話ねえ」
「そうです。世間話なんです。それで、その方とはどのようなご関係なんですか?」
「幼なじみだって言ってるだろ」
「現在の関係を聞いています!」
なんだコイツ。やけに食いついてくるな。別にそこまで興味持つようなことか?
女子っていうのは、どうもこの手の話に敏感だな。どいつもこいつも頭のなかお花畑かよ。
「だから、幼なじみだって。それ以上でもなくそれ以下でもない」
「へ、へえ。そうなんですか。7年ぶりにお会いしたそうですけど、何かおは…………は、ハックション!」
話の途中で豪快なくしゃみをかます神田。もろに唾がかかる俺。
「あ、すみません。くしゃみです」
「…………」
「ああ、ごめんなさい。いま拭きます」
神田はそう言って、テーブルを拭いていたふきんで俺の顔を拭こうとする。慌ててその手を掴み、暴挙を防いだ。
「テーブル拭いてたやつで人の顔拭くなよ!」
「そうでした。アルコールかけてからでした」
「それはテーブルの拭き方だろ!!」
今更ながら、なんて無礼な後輩なんだ。今まで生きて来て、こんなやつは見たことない! ……はずなのに、神田と話していると、どこか懐かしさを感じている俺がいた。
「それで、何の話してましたっけ?」
「知らねえよ。お前がなんか喋ってたんだろ?」
「んー。何を聞こうとしてたんですかね?」
「俺に聞くなよ……」
「まあいいです。忘れるってことは、大したことじゃなかったんでしょう。うんうん。そういうことです」
どういうことなんだ、とツッコミを入れたくなったがやめておいた。ちょうどお客さんがいらっしゃったからだ。いつの間にか開店時間になっていたらしい。
会社帰りらしい男性2名。上司と部下といった感じか。俺がいらっしゃいませ、と言うと同時に神田が動いていた。
「いらっしゃいませ! ご来店ありがとうございます!」
「あ、うん。もうやってるよね?」
「はい! 2名様ですね? お席はお好きなところをご利用くださいませ!」
「はいはい」
上司らしい男性は、カウンターに腰をおろした。そのとなりにもう一人の男性も座る。そこで、お冷とおしぼりをカウンターにスッと用意する神田。それと同時に、「ご注文お決まりになりましたら、お声かけくださいね」と丁寧に言葉を伝える。
「やっぱ接客はピカイチだよね、神田ちゃん」
「……ああ、そうだな」
その様子を見ていた三嶋が、こっそりと話しかけてきた。そう、こいつの接客は実に気持ちがいいと思う。愛嬌があって、お客さんにもウケがいい。
普段はちゃらんぽらんなところばかりだが、接客をしているときはテキパキと働いてる。俺ですら参考にさせてもらっているとこもあるくらいだ。
「そういや高坂、お前今日フロアだよな?」
「おう」
「今日は、いけんのか?」
「任せろって。後輩にばっかりいい格好はさせられないだろ」
「あいよ。んじゃ、頼むぜ」
昨日は、突然店に来た美幸に驚きを動揺を隠せなかった。まともに接客できないと思い、焼き場に入っていた三嶋に変わってもらったのだ。
今日はもう大丈夫。神田にばかりいい格好はさせられない。俺も全力でやろう。頭に巻いているバンダナを結び直し、気合いを入れた。
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ふと時計を見ると、もうすぐ夜の営業が始まる時刻だった。あらかた準備を終えた俺たちは、いつ店を開けてもいい状態だった。
「あの、高坂さん」
「ん? どした?」
テーブルを拭いていた神田が、その手を止めて声をかけてきた。
「あの、ですね。昨日高坂さん、幼なじみさんに会ったんですか?」
「ん? ああ、そうだけど。どうかしたのか?」
「いえ、特に何かあったという訳ではないんですけど。世間話ですよ世間話」
「世間話ねえ」
「そうです。世間話なんです。それで、その方とはどのようなご関係なんですか?」
「幼なじみだって言ってるだろ」
「現在の関係を聞いています!」
なんだコイツ。やけに食いついてくるな。別にそこまで興味持つようなことか?
女子っていうのは、どうもこの手の話に敏感だな。どいつもこいつも頭のなかお花畑かよ。
「だから、幼なじみだって。それ以上でもなくそれ以下でもない」
「へ、へえ。そうなんですか。7年ぶりにお会いしたそうですけど、何かおは…………は、ハックション!」
話の途中で豪快なくしゃみをかます神田。もろに唾がかかる俺。
「あ、すみません。くしゃみです」
「…………」
「ああ、ごめんなさい。いま拭きます」
神田はそう言って、テーブルを拭いていたふきんで俺の顔を拭こうとする。慌ててその手を掴み、暴挙を防いだ。
「テーブル拭いてたやつで人の顔拭くなよ!」
「そうでした。アルコールかけてからでした」
「それはテーブルの拭き方だろ!!」
今更ながら、なんて無礼な後輩なんだ。今まで生きて来て、こんなやつは見たことない! ……はずなのに、神田と話していると、どこか懐かしさを感じている俺がいた。
「それで、何の話してましたっけ?」
「知らねえよ。お前がなんか喋ってたんだろ?」
「んー。何を聞こうとしてたんですかね?」
「俺に聞くなよ……」
「まあいいです。忘れるってことは、大したことじゃなかったんでしょう。うんうん。そういうことです」
どういうことなんだ、とツッコミを入れたくなったがやめておいた。ちょうどお客さんがいらっしゃったからだ。いつの間にか開店時間になっていたらしい。
会社帰りらしい男性2名。上司と部下といった感じか。俺がいらっしゃいませ、と言うと同時に神田が動いていた。
「いらっしゃいませ! ご来店ありがとうございます!」
「あ、うん。もうやってるよね?」
「はい! 2名様ですね? お席はお好きなところをご利用くださいませ!」
「はいはい」
上司らしい男性は、カウンターに腰をおろした。そのとなりにもう一人の男性も座る。そこで、お冷とおしぼりをカウンターにスッと用意する神田。それと同時に、「ご注文お決まりになりましたら、お声かけくださいね」と丁寧に言葉を伝える。
「やっぱ接客はピカイチだよね、神田ちゃん」
「……ああ、そうだな」
その様子を見ていた三嶋が、こっそりと話しかけてきた。そう、こいつの接客は実に気持ちがいいと思う。愛嬌があって、お客さんにもウケがいい。
普段はちゃらんぽらんなところばかりだが、接客をしているときはテキパキと働いてる。俺ですら参考にさせてもらっているとこもあるくらいだ。
「そういや高坂、お前今日フロアだよな?」
「おう」
「今日は、いけんのか?」
「任せろって。後輩にばっかりいい格好はさせられないだろ」
「あいよ。んじゃ、頼むぜ」
昨日は、突然店に来た美幸に驚きを動揺を隠せなかった。まともに接客できないと思い、焼き場に入っていた三嶋に変わってもらったのだ。
今日はもう大丈夫。神田にばかりいい格好はさせられない。俺も全力でやろう。頭に巻いているバンダナを結び直し、気合いを入れた。
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