結婚とは案外悪いもんじゃない

あまんちゅ

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最終話 夢ノ終了-1

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その日は、俺は夢を見なかった。

朝は弱い方だと思うが、すんなりと起きれた。頭も冴えている。とりあえずベッドから体を起こし、ベランダに出る。

いつものようにラキストにマッチで火をつけ、煙を吐き出す。もう完全な春が訪れたようで、寒さは微塵も感じない。

ジュースの空き缶に灰を捨てながら、街の様子を眺めた。今日は、昼から仕事だ。今はまだ朝だから、まだ時間はある。


結局あの後、俺は美幸を見つけることはできなかった。子どもの頃一緒に遊んだ公園や、一緒に通っていた学校も見に行ってみたが、どこにもあいつの姿はなかった。

日付が変わる時間まで探し回ったけど、成果は得られず退散。だが、俺はまだ諦めた訳じゃない。必ず見つけ出すと決めたんだ。こんなことじゃへこたれない。


こうなれば最後の手段を取るしかない。

最後の煙を吐き出し、俺は吸い殻を缶の中へ捨てた。朝の気持ちよい空気を肺いっぱいに取り込み、ゆっくりと息を吐く。

これで会えなかったら、どうしようか。
その時は、東京まで行ってみようかな。


俺は朝食も食べずに、出かける準備を整えた。顔を洗って歯を磨き、髭もきちんと剃る。俺の持っている服のなかで1番のお気に入りアイテムたちに身を包み、靴も1番良いものを履いた。

俺は意を決して、玄関の扉を開けた。



車の免許は持っているが、車は持っていない。自転車はあるが、それでは何時間かかるか分からない。だから俺は、ここから最寄りの駅まで自転車で行き、そこから電車を使うことに決めていた。

久々に自転車に股がり、ペダルを漕ぎだす。パンクしてる様子もないし、チェーンが切れたりも大丈夫そうだ。

5分ほどで最寄り駅に到着した。そこから電車に乗り込む。平日のこの時間、人は多い。通勤ラッシュというやつか。満員電車とはまではいかないが、座ることは難しそうだ。



『次は~○○。○○です。右側の扉が開きます』

車内のアナウンスを聞きながら、俺は自分の目的地を確認する。そう、俺が目指しているのは空港だ。この街には空港はひとつしかない。となれば、美幸たちはそこから帰るはず。

新幹線は通ってないし、この街から東京まで電車で帰ろうとすれば、時間もお金もかかる。普通に考えれば、飛行機を利用するのが妥当。車で帰るというのもひとつだが、わざわざ時間と労力を使う方を選ぶとは思えない。

とはいえ、これは賭けだ。どの便に乗るかなんて分からないし、本当に飛行機に乗るのかも分からない。唯一の手がかりは、今日の昼には帰るという情報だけ。これも、予定が変わってしまっていたらそれまでだが。

俺は、期待と不安を胸に電車に揺られていた。段々と乗客が減っていくなか、空いた座席にも座らず、車窓から外の景色を見ていた。


美幸と会ったら、何を話そうか。もう一度告白するか? また断れたら、俺は多分二度と立ち直れないだろう。心がポキッと折れてしまう。ていうか、一度フラれてるのにその翌日にまた告白するってかなりキモいよな。

それでも、俺は確かめたい。昨日の美幸の言葉を。あれが、ただの幻覚だったのか。それとも……。




『次は~○○空港。○○空港です。○○空港をご利用の方は……』

気がつくと、もう目的地についたようだった。時間はまだ昼前。ここから先は、運任せだ。

空港の正面入口を抜け、空港内に足を踏み入れた。平日ということもあってか、人の数はそこまで多くはない。これなら、美幸たちを見つけるのもそこまで苦労しなさそうだ。

ただ、俺の視力は相変わらず低下の一途をたどっているため、今日はメガネを持参した。普段は全くつけないが、車の運転をする時などは付けている。

早速メガネを付けて、辺りを見渡してみる。まだ到着してないよな。既に出発してました、なんて洒落にならないぞ。

とはいえ、その可能性は否定できない。昨日から美幸にLIMEでメッセージを送ってはいるが、返信はない。情報を得る手段がないのだ。


タイムリミットは、俺の出勤時間まで。ここからの距離を考えると、あと1.2時間ってところだ。猶予はあまり残されていない。


俺に出来るのは、ここで信じて待つことだけだった。美幸がこの場所に現れるのを。

空港の売店で軽食を購入し、腹ごしらえをしながら待つことにした。入口から美幸たちが入ってこないかを確認する。見逃すことのないよう、全神経を集中させる。
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