魔術師の仕事

阿部うりえる

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6章

4 精霊使いの女

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木々の鬱蒼と覆い茂る山の斜面を歩きながら二人は精霊使いナターシャの元を目指していた
「痛っ!!」
行く先を遮るような背の高い草やいばらをかきわけて進むのもあってネリーがその棘で手を擦りむく
「大丈夫か?」
ルカが擦りむいた手をさすり心配そうに顔を覗き込む
「これくらい大丈夫だよ」
ルカったらこれくらいで大げさなんだから
だけど少し嬉しいかも
その時、ゴーッという音とともに強風が吹き抜け草木を揺らした
そのせいで帽子が空高く舞い上がりどこかへと飛ばされてしまった
「あ!帽子が…」
このドレスを作った時一緒に作ったものだったのに…
ルカも似合うって言ってくれて結構気に入ってたのにな…
「あいつか…悪戯好きは相変わらずか」
あいつ?ルカは何を言っているのだろう…?
歩くうちに道が開けなだらかな斜面が広がる
そこには誰かが植えたであろう草花が見事な花を咲かせていた
それにいつからだろう?もう秋の終わりだというのになんだか暖かい
ここがそうなのだろうか?
私は足元の紫色のいい香りのする花に触れルカを見上げた
「いい香り…ルカ、ここがそうなの?」
「ああ」
ルカは私の横に腰を下ろすと摘み取った花を私の髪に刺し優しく微笑む
ルカ、本当に表情が豊かになったな
付き合う前は無表情で何考えてるかよくわからなかったのに…
少しは私も信用されてるってことなのかな?
「あらあら、今年は可愛い女の子も一緒なのね」
背後から聞き覚えのない女性の声
後ろを振り向くと、そこには流れるような金色の髪を腰まで下ろした美しい女性が草花の間をこちらへ進んで来るではないか
なんて綺麗な人なんだろう…
私はその人間離れした美しさに釘付けになった
「師匠、お久しぶりです、お元気そうで何よりです」
師匠?…え?
ゲルハルトさんが若いお婆さんとは言ってたけど…見た目はゲルハルトさんくらいだろうか?
まさかこんな若い人だなんて思いもしなかった…
「紹介します、僕の助手をやってくれているネリーです」
「は!初めまして!ネリー・ローランハルトです!私なんかがついて来てしまって…あ!色々お祭りのお手伝いとか頑張ります!よろしくお願いします!」
私ははじかれたように現実に戻ると言葉を考えながら自己紹介する
緊張とナターシャの意外な外見に驚いたことで声が上ずってしまう
「ふふふ…面白いお嬢さんだこと、来てくれてありがとう
私はナターシャ・ビューラー、精霊祭に向けていろいろ作ったのだけど、私たちだけでは食べきれそうにないから一人でも多くいてくれると助かるわ」
柔らかい笑顔、優しそうな人みたいだ…
ふと彼女の手に視線を移すとそこには先ほどの強風で飛ばされた自分の帽子が握られていた
ここまで飛ばされてきたのか…私はほっと胸を撫で下ろすと「あの…その帽子…」と遠慮がちに尋ねた
「ああ、これあなたのだったのね、そのドレスとおそろいのデザインでとても可愛らしいわね」
私の頬を撫でながら帽子を被せるナターシャさん
手のひらがすごく柔らかかった
これでかなりの歳だというのだから驚きだ
「シルフが気に入るはずね、彼のした悪戯は許してやってね…かわいい子を見ると困らせたくなるらしいの」
シルフ…?じゃあさっきのはシルフという人の魔法だったのだろうか?
私は彼女の物腰の柔らかさと美しさに相槌しか打てなかった
「さあ、長旅で疲れたでしょう?お茶を入れるから二人ともいらっしゃい」
彼女に案内されるまま私たちは花畑の奥へと進みアカシアの林を通り抜ける
花の甘い香りが心を和ませ、色とりどりの花々が目を楽しませる
春のような暖かで優しい風が頬に触れ草木をさわさわと揺らすたび歓迎されているようで心が温まるのを感じた
エデンの楽園があるのなら、きっとこんな所に違いない
ルカはこんな美しい場所で少年時代を過ごしていたのか…と私は羨ましく感じた
それにしてもこんな美しい場所なのにさっきから誰一人すれ違う人もいない
こんなに花が咲き誇っているのなら遠くからだって誰かがきっと気付くはずだ
何か特殊な結界のようなものを魔法で施しているのだろうか?
「それにしても今年はまた随分と盛大に咲かせましたね」
こじんまりとした可愛らしい小屋の外壁に咲いた純白のつる薔薇を見上げながらルカが言う
「シルフの春風と花の精が力をあわせてこれだけにしたのよ、彼ももう私の手から離れる日が近いのかも知れないわね」
一人前の魔術師になるってことかな?
シルフって人もルカみたいにすごい魔術師なのかも知れない
ナターシャが扉に手をかけようとしたその時、勢いよく開かれた扉から色白で不思議な髪の色をした青年が飛び出してきたので一同は驚き後ろに身を引いた
「ねえ!あの子はもう来た?来た!?」
青年ははしゃぎながらきょろきょろと辺りを見回すと、ルカの隣のネリーの姿を見つけるやいなや頬を紅潮させにっこりと微笑む
もしかして…この人がシルフさん?
白でも青でも緑でもない不思議な髪の色に見とれていると、そのシルフかもしれない人は私の方にずんずんと進んできて突然体を抱き上げたので私は酷く驚いてしまった
「え!?」
彼はテーブルの前で私を下ろすと、椅子を引き出し座るように促す
「あ…ありがとう…」
いったい何がどうしたっていうの?
青年は満面の笑みを私に向けるので、私はわけもわからないまま苦笑いで返す
「今急いでお茶の支度するから!待っててね!」
「あ…うん…」
彼はいそいそと台所の棚をあさりお目当ての瓶を取り出すと手際よくお茶を入れ始めた
「あなたシルフに相当気に入られたようね」
あの子がシルフ…
ルカと同じくらいの男性なのになんか子供っぽい人だな…ルカとシルフを見比べテーブルに頬杖をつく
「それにしても前まで小妖精だったのに随分と成長しましたね、人の姿を真似れるまでになるとは…」
ルカは荷物をどさりと下ろすと帽子やマントを脱ぎながら言う
妖精?人の真似?
一体どういうこと…?
「彼も一応は精霊王家の血を引いてるから覚えは早いのでしょうね
私ももう年だから…青年がいてくれるといろいろと助かるのよ」
精霊?王家?
そういった知識の全くない私は二人の不思議な会話についていけないでいた
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