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6章
6 精霊使いの女
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行ってしまった…
あの精霊に彼女を預けるのは少し心配な気もするが、ここまで連れてきといて今さら何だっていうんだ
「あなた、あの子を愛してしまったのね」
やっぱりこの人は気付いていたらしい
6年前、僕が悪魔と契約していることも彼女は知っていた
精霊の力故そういった事が見えてしまうのだろう
僕は頷き近くの椅子に腰かける
「あの子はあなたが悪魔と契約していることは知っているの?」
「まだ知らない…言ってないんだ…ネリーのことを考えるなら今まで一緒にいるべきじゃなかったし、関わるべきでもなかった
だけど愛してしまったんだ…誰かを好きになることなんて僕には許されないことなのに…」
彼女に話せたことで今までこらえてきたものが一気に溢れ頬を伝う
「昔とちっとも変わらないのね、初めて会った時も全部一人で抱えこんで…」
今思えば6年前もこうして抱きしめられて泣いていたっけ…
母のような彼女の存在に僕は安心したように弱さをさらす
「人間なんだから誰かにすがったって構わない…人間なんだから愛することは当然なのよ」
「でも…僕がネリーを愛したら…あいつは僕にしたようなことを彼女にも…」
所詮人の力は悪魔に劣る
僕は涙を拭うと思い出したように荷物の中から短剣の入った箱を取り出し彼女に見せた
「ある屋敷の悪魔祓いを頼まれた時譲り受けた悪魔関連の品です、あなたなら分かると思って…」
僕はこの忌まわしい短剣を手にするまでの経緯と自分たちが見た幻視、ネリーによく似たゾフィアという不幸な少女のこと、これを狙うまだ見ぬ魔術師と彼と契約した悪魔ナベリウスの事など彼女に話して聞かせた
「なるほどね、それで?その時の悪魔を使役した魔術師の手がかりは未だに解らないということね…」
ナターシャは短剣を手に立ち上がると隣の部屋に来るよう促した
その部屋に置かれた小ぶりの家具をどかすと地下へと続く隠し扉が露わになり、僕たちは地下へと続く階段を下って行った
ランプで照らされた石壁には古代の精霊文字でこの地の誕生の秘密が記されているらしいが僕にはその文字を読むことはできなかった
所々貼られる羊皮紙で作られた護符は邪悪なものがこの場所に踏み入らないようにする守りの役割をはたしている
ここは彼女が契約した四人の精霊王と交信する時に使っている場所だ
地下の最下部には四つの祭壇、祭壇にはそれぞれの元素を示す記号と彼らを象徴する品が置かれていて、四つの祭壇の中央には天井と床に光と闇を示す巨大な魔法円が刻まれている
精霊を呼び出し、彼らに魔術師がこの短剣にこだわる理由を聞こうというのだ
彼女は大きく息を吸い込むと僕に合図する
僕は四隅と彼女の立つ祭壇の蝋燭に火を灯すと少し離れた位置から事の次第を見守った
「偉大なる霊サラマンドラよ、汝の司りし焔をもって人の子の内を流れし血潮の記憶を呼び起こし、この品を欲する者たちの秘密を我らに教えたまえ」
呼び出すのは四大精霊のひとり焔を司るサラマンドラだ
彼女は祭壇に短剣を置くと跪き祈祷文を唱え始める
祈祷文も中盤に差し掛かろうとしたころ、祭壇の蝋燭の火が激しく燃え上がり生き物のように動き出す
勢いを強めた火はやがて焔へと変わりロウを全て溶かしてなおも燃え続けている
精霊が降りたのだ
「偉大なる王サラマンドラ、我らはあなたを歓迎します」
彼女は深々と頭を下げると、一歩下がり僕を手招く
「人の子よ、汝の願いは聞き届けられたり」
サラマンドラの低い声が焔の中からそのように言うと焔はうねりながら人の形を取り始める
ナベリウスを使役する魔術師の姿が形作られるのか…
しかし、形が出来上がっていくにつれ僕は胸騒ぎを覚えはじめた
そしてその不安は確信へと変わり僕は打ちのめされたように膝から崩れ落ちた
焔が作り出した形は…
ゲルハルト…
「おまえが…僕はまんまとあいつの仕掛けにはまってしまっていたのか…?」
悪魔は契約者を裏切る…
そんなどこかで聞いた言葉が今さらながら沸いてくる
「この男が魔術師なのでしょうか?」
酷く動揺し集中力のかけてしまったルカに変わりナターシャが精霊に問う
「それは違う、彼は地獄の者だ、彼は生前寵愛した娘ゾフィアの手にかかり地獄に落ちたがある誓いにより悪魔として生を受けるに至った
半分は人で半分は悪魔という呪われた存在になり果て
そして見つけ出した、アロイスの魂をもつおまえを」
サラマンドラの指さす先には…
僕が…アロイスの生まれ変わり…?
それにあいつが…ゲルハルトがバルツァー公だったなんて…
「そして彼は愛する娘も見つけ出した…おまえもそれ故ここに彼女を連れてきたのだろう?」
「?ネリーのことか…?」
「いかにも、魂が強く望んだ結果おまえたちは再び巡り合った」
ネリーがゾフィアの生まれ変わり?
だからゾフィアとネリーは似ていて、ネリーは彼女の記憶を見れたのか?
でもこんなことって…前世で繋がりのあった者たちが現世でも関わるなんてことありうるのか…?
何もかも信じたくなかった
でも…だとしたら辻褄が合う
ネリーと僕の見た同じ少女、彼女と出会うことを見越して近づいてきたあいつ…
「ではこの短剣を狙う姿なき術者と、彼の契約する悪魔とは一体どういった関係なのですか?」
ナターシャの問いに精霊が語りだそうとしたその時だった
「どうやら地獄の者に感づかれたようだ」
サラマンドラがそう言うと壁に貼られた守りの護符が一斉に二つに裂け、それに合わせ焔も真っ二つに裂け瞬時に消えてしまった
交信を強制的に遮断された衝撃でナターシャにも負荷がかかったのだろう
彼女はがくりと崩れ落ちるとそのまま床に倒れこんでしまった
「ナターシャ!!」
こんな所まで入り込むなんて…
ゲルハルトではない…
なんだ?何も感じ取れない…
「…大丈夫よ…それより短剣を…」
彼女を起こしながら辺りを見回す
ナベリウスなのか…?
悔しいことに僕には奴の気配すら読めない
ここにいるのか…遠くから力を使ったのか…それすら分からない僕は急いで短剣をしまうと、彼女をかつぎ地下の部屋を後にした
あの精霊に彼女を預けるのは少し心配な気もするが、ここまで連れてきといて今さら何だっていうんだ
「あなた、あの子を愛してしまったのね」
やっぱりこの人は気付いていたらしい
6年前、僕が悪魔と契約していることも彼女は知っていた
精霊の力故そういった事が見えてしまうのだろう
僕は頷き近くの椅子に腰かける
「あの子はあなたが悪魔と契約していることは知っているの?」
「まだ知らない…言ってないんだ…ネリーのことを考えるなら今まで一緒にいるべきじゃなかったし、関わるべきでもなかった
だけど愛してしまったんだ…誰かを好きになることなんて僕には許されないことなのに…」
彼女に話せたことで今までこらえてきたものが一気に溢れ頬を伝う
「昔とちっとも変わらないのね、初めて会った時も全部一人で抱えこんで…」
今思えば6年前もこうして抱きしめられて泣いていたっけ…
母のような彼女の存在に僕は安心したように弱さをさらす
「人間なんだから誰かにすがったって構わない…人間なんだから愛することは当然なのよ」
「でも…僕がネリーを愛したら…あいつは僕にしたようなことを彼女にも…」
所詮人の力は悪魔に劣る
僕は涙を拭うと思い出したように荷物の中から短剣の入った箱を取り出し彼女に見せた
「ある屋敷の悪魔祓いを頼まれた時譲り受けた悪魔関連の品です、あなたなら分かると思って…」
僕はこの忌まわしい短剣を手にするまでの経緯と自分たちが見た幻視、ネリーによく似たゾフィアという不幸な少女のこと、これを狙うまだ見ぬ魔術師と彼と契約した悪魔ナベリウスの事など彼女に話して聞かせた
「なるほどね、それで?その時の悪魔を使役した魔術師の手がかりは未だに解らないということね…」
ナターシャは短剣を手に立ち上がると隣の部屋に来るよう促した
その部屋に置かれた小ぶりの家具をどかすと地下へと続く隠し扉が露わになり、僕たちは地下へと続く階段を下って行った
ランプで照らされた石壁には古代の精霊文字でこの地の誕生の秘密が記されているらしいが僕にはその文字を読むことはできなかった
所々貼られる羊皮紙で作られた護符は邪悪なものがこの場所に踏み入らないようにする守りの役割をはたしている
ここは彼女が契約した四人の精霊王と交信する時に使っている場所だ
地下の最下部には四つの祭壇、祭壇にはそれぞれの元素を示す記号と彼らを象徴する品が置かれていて、四つの祭壇の中央には天井と床に光と闇を示す巨大な魔法円が刻まれている
精霊を呼び出し、彼らに魔術師がこの短剣にこだわる理由を聞こうというのだ
彼女は大きく息を吸い込むと僕に合図する
僕は四隅と彼女の立つ祭壇の蝋燭に火を灯すと少し離れた位置から事の次第を見守った
「偉大なる霊サラマンドラよ、汝の司りし焔をもって人の子の内を流れし血潮の記憶を呼び起こし、この品を欲する者たちの秘密を我らに教えたまえ」
呼び出すのは四大精霊のひとり焔を司るサラマンドラだ
彼女は祭壇に短剣を置くと跪き祈祷文を唱え始める
祈祷文も中盤に差し掛かろうとしたころ、祭壇の蝋燭の火が激しく燃え上がり生き物のように動き出す
勢いを強めた火はやがて焔へと変わりロウを全て溶かしてなおも燃え続けている
精霊が降りたのだ
「偉大なる王サラマンドラ、我らはあなたを歓迎します」
彼女は深々と頭を下げると、一歩下がり僕を手招く
「人の子よ、汝の願いは聞き届けられたり」
サラマンドラの低い声が焔の中からそのように言うと焔はうねりながら人の形を取り始める
ナベリウスを使役する魔術師の姿が形作られるのか…
しかし、形が出来上がっていくにつれ僕は胸騒ぎを覚えはじめた
そしてその不安は確信へと変わり僕は打ちのめされたように膝から崩れ落ちた
焔が作り出した形は…
ゲルハルト…
「おまえが…僕はまんまとあいつの仕掛けにはまってしまっていたのか…?」
悪魔は契約者を裏切る…
そんなどこかで聞いた言葉が今さらながら沸いてくる
「この男が魔術師なのでしょうか?」
酷く動揺し集中力のかけてしまったルカに変わりナターシャが精霊に問う
「それは違う、彼は地獄の者だ、彼は生前寵愛した娘ゾフィアの手にかかり地獄に落ちたがある誓いにより悪魔として生を受けるに至った
半分は人で半分は悪魔という呪われた存在になり果て
そして見つけ出した、アロイスの魂をもつおまえを」
サラマンドラの指さす先には…
僕が…アロイスの生まれ変わり…?
それにあいつが…ゲルハルトがバルツァー公だったなんて…
「そして彼は愛する娘も見つけ出した…おまえもそれ故ここに彼女を連れてきたのだろう?」
「?ネリーのことか…?」
「いかにも、魂が強く望んだ結果おまえたちは再び巡り合った」
ネリーがゾフィアの生まれ変わり?
だからゾフィアとネリーは似ていて、ネリーは彼女の記憶を見れたのか?
でもこんなことって…前世で繋がりのあった者たちが現世でも関わるなんてことありうるのか…?
何もかも信じたくなかった
でも…だとしたら辻褄が合う
ネリーと僕の見た同じ少女、彼女と出会うことを見越して近づいてきたあいつ…
「ではこの短剣を狙う姿なき術者と、彼の契約する悪魔とは一体どういった関係なのですか?」
ナターシャの問いに精霊が語りだそうとしたその時だった
「どうやら地獄の者に感づかれたようだ」
サラマンドラがそう言うと壁に貼られた守りの護符が一斉に二つに裂け、それに合わせ焔も真っ二つに裂け瞬時に消えてしまった
交信を強制的に遮断された衝撃でナターシャにも負荷がかかったのだろう
彼女はがくりと崩れ落ちるとそのまま床に倒れこんでしまった
「ナターシャ!!」
こんな所まで入り込むなんて…
ゲルハルトではない…
なんだ?何も感じ取れない…
「…大丈夫よ…それより短剣を…」
彼女を起こしながら辺りを見回す
ナベリウスなのか…?
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ここにいるのか…遠くから力を使ったのか…それすら分からない僕は急いで短剣をしまうと、彼女をかつぎ地下の部屋を後にした
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