魔術師の仕事

阿部うりえる

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6章

10 捕らわれの乙女

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意識を取り戻したネリーが目を開けるとそこはどこかの地下なのか窓一つない薄暗い地下の一室だった
彼女はベッドから起き上がると自分が意識を失う前にさかのぼり何があったのか考えようとした
多分誰かに後ろから殴られるかして…その後から記憶がない…
どのくらい意識を失っていたのかすら見当がつかない
彼女はとりあえずここから出ようと鉄格子のついた扉を開けようとするも鍵がかかっているようで開かない
ここはどこなのだろう?
自分はなぜここに閉じ込められているのだろう?
そしてある不安が彼女の頭を過る
「魔女狩り…?」
もしかしたらあの時彼らに捕まってしまったのだろうか?確かにあの時の自分は感情的になっていたのもあり傍から見たら不審だったに違いない…
彼らの捕まえる基準が何なのかは分からないし、もしかしたら誰でも良いのかも知れない…
自分の立場は天涯孤独で貧乏な女だ…いくら彼らに訴えようと助かる見込みなんてない…膝ががくがくと震え出す
その時だった部屋の隅の方で誰かの笑い声が聞こえたので私はびくつき恐る恐る振り返る
「魔女狩りなんかじゃないですよ?」
その誰かが暗闇からゆっくりと姿を現す
声は男のようだったがフードを深く被っているせいで誰なのかどんな人なのかよく分からない
彼はランプの近くまで来るとそのフードを脱ぎ隠れた顔を晒した
ナベリウス…ネリーにとってはハーメルン以来だったが彼の顔はよく覚えている
暗闇でも分かるほどの赤い瞳に漆黒の長い髪…
「あなたは…どうしてここに…?」
「少し君と話してみたくてね、確かネリーといったかな?」
悪魔は私の頬を撫で下ろすと顎を引き整った顔を近づけながらそのように言った
近くで見るその血のように赤い瞳がランプの明かりに照らされギラギラと輝きこの世のものとは思えぬ不気味さを醸し出していた
彼はなぜ私の名を知っているのだろう…
訝しげに思っていると彼は鼻で笑いベッドの横に腰を下ろした
「君はあのルカと言う術者が何者と契約し、またその契約の内容に興味があるんじゃないか?」
「契約…?」
そう言えばつい最近ゲルハルトさんが魔術師なら何かしらと契約を結んでいると話していた…
ルカの口からは一度も出ない内容…そして彼が聞かれることを一番恐れているであろう内容に私はごくりと唾をのんだ
正直興味があった
しかし彼が秘密にするだけの事を私が何の断りもなく聞いてもいいのだろうか…?
私は人の心を読めるかのような悪魔の視線から目をそらし考えた
でもどうしてこの人はそんなことまで知っているのだろう…
私が口をつぐんでいると悪魔は立ち上がり「べつに君はもう捨てられたも同然の身、彼の秘密を知ったところで罪の意識を感じることもないだろう?」と私の髪を手に取るとスーッと香りをかぎ始めたので危険を感じた私は彼から離れ壁際に逃れた
一体何を考えているのか…彼は睨みつける私ににっこりと微笑みかける
「まあいいだろう…それにしても君はまだ処女なんだな?てっきりもう彼とは肉体関係にあったものだとばかり思っていたよ」
「だ…だったらなんだっていうんですか…?」
どうしてそんなことまで…
恥かしさと怒りと悲しみが一気に押し寄せる
「まあ、あの術者は悪魔に性処理してもらっていたからな、君への欲情に走らないのもわからなくないか」
「え…?」
この人は何を言っているの…?
性処理…?ルカが悪魔に…?
「本当に何も聞かされていないんだな、君もよく知っているだろ?ゲルハルトという悪魔にさ
彼は10つの頃、力と引き換えに悪魔に自身の体を売ったんだ」
ゲルハルトが悪魔…ルカと契約している…
一瞬頭の中が真っ白になった
そして今まで不可解に思っていた事柄の全てが一瞬のうちに繋がりだし、ショックで体の力が抜けた私は膝からがくりと崩れ落ちた
「そんな…」
「ショックだろうが彼は君より悪魔を選んだんだ、そんな男にいつまでも執着するだけ馬鹿らしいとは思わないか?」
もう何も考えられない
考えたくもないのに…ただただ悲しさから涙があふれた
その時、地下室の鍵が開き修道服に身を包んだ金髪の若い男が入ってきた
男はネリーが泣いているのを見て驚きナベリウスにこそこそと事情を聞くと「ああ…」と分かったように頷きネリーの前にしゃがむとその頭を撫でてやった
「お嬢さん、悪かったな、騙され続けている君があまりに不憫だったものだからあいつに頼んで連れてきてもらったんだが、俺はダニエル・ローゼンハイン、あいつはナベリウス、俺と契約している悪魔だ
あいつは女の子の扱いに慣れてないからきついことを言ったみたいで…悪かったな」
この人がナベリウスの魔術師…服からして修道士の人だ…だとしたら何で?神に仕える彼が悪魔なんかと…
「私…もう帰ります…」
私は涙を拭うとすくりと立ち上がりドアの方へと進む
嘘をつかれていたのはショックだったけど、私はルカに直接確かめたかった
こんな終わりは嫌だったし、それにこの人たちはハーメルンで子供を誘拐していた悪い人たちだ…嘘をついてる可能性だってある
「俺たちを信じられないのは分かる、でも戻って彼に聞いたところで本当だったら?
間違いなく君の居場所はなくなるんじゃないか?」
後ろからダニエルが投げかけた言葉に私の歩みは止まった
そうだ…もし悪魔に聞いたことが本当だったら?
ただ彼の口から聞きたいという気持ちが先走りそんなこと考えてもみなかった
それによく考えたら聞いてどうするの?
私の今の立場はルカに捨てられたようなものじゃないか…
ナターシャさんの家に行くの?
でも彼女だって何の才能も持ち合わせていない私が居たところで迷惑に違いない…
叔母さんたちの所には帰れない…
完全に行く宛てを失った私は開け放たれている扉の前で立ちつくした
数分前までここから出て彼の元へ帰ることを望んでいたというのに…
入り口の前で立ち止まる私の肩に男はそっと手を乗せると「行くところがないんだろ?よかったら俺の元で働かないか?大丈夫、君に不自由はさせないし、人買いとは縁を切ったからやばい仕事はもうしてないさ」
差し出される居場所…
差し出される手のひら…
思えばルカにもこうして手のひらを差し出されたっけ…
でもあの時の彼はもうここにはいない…
彼はもう私を愛してすらいない…
「分かったわ…」
私はその男の提案を受け入れた
その瞬間、心に染みついて離れない彼の顔が薄れたような気がした
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