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7章
3 罪と罰~反逆者と罪人~
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暖かい…うっすら見開いた目にオレンジ色の光が入りこむ
何だ、眠ってしまったのか…
裸の体に掛けられている掛物のぬくもりに安心し再び目を瞑る
その時、よく周りを気にもしなかった私はここが自分の家の寝室だと錯覚していた
しかしすぐ、「おい」という自分に呼びかけているであろう聞き覚えのない男の一声で現実へと戻された哀れな男は誰だと言わんばかりに飛び起き辺りを見回す
「気が付いたか?」
すぐ横にいたのは銀髪の見知らぬ若い男…
その見知らぬ男はこちらを見て軽く微笑んでいる
「おまえは…誰だ…?」
そう言いかけながら私はその男の一風変わった外見に目を止めた
先のとがった人のものとは思えぬような耳の形に血のように赤い瞳…
「なるほど、ここに来て悪魔と会うのは初めてなわけか?」
訝しげにじろじろと見る私に男はこちらに近寄り薄ら笑った
悪魔…?何を言ってるんだこいつは?
姿や着ているものからして奇妙な奴だがよその国の人間か?しかし言葉は通じるようだ…
悪魔なんて物騒なことを口にして…頭がおかしいのか?何かの比喩なのか…?この荷物からしてこの男は旅をしている旅芸人か何かなのだろう
私は近くに置かれた薄汚れた大きめの鞄を見ながらそのようなことを考えた
旅芸人をしているからにはこの男はここの地理に詳しいはずだ
私はここに来てから今に至るまでの経緯を順を追って話し始めた
もちろんあの化け物の事は伏せてだ
疲れから見たかもしれないあの幻覚のようなものの事を言って自分もこの男同様頭のおかしな男に成り下がるつもりはなかったからだ
「それで目が覚めたらここに居たんだ…誰が私をこんな気味の悪い場所に連れてきたのか、それすら覚えていない…きっと何か薬を盛られるかして眠っている間に連れて来られたのだと思うのだが…誰が何のためにかは分からない」
男は笑をこらえているような面持ちでうんうんと頷きながら私の話を聞いていたが言い終えるや否やこらえていた笑いが噴き出し腹を抱えて笑い出した
何がおかしいのか…開いた口がふさがらなかった
その様子に気付いた男はへらへらとした口調で謝りながら水筒からコップに水を注ぐとそれを私に差し出し飲むよう促した
男のふざけた態度に少しイラつきながらも私は何日かぶりにありつけた水を一気に飲み干し深く息を吐いた
「ここがどこか…俺が何と言おうときっとあんたは信じないだろうが、そんなに知りたきゃ教えてやる
ここは地獄さ、あんたは死んで地獄に落とされた」
男の言葉に一瞬頭の中が真っ白になったが、直ぐにそれはこの男の妄言だと思った私はがくりとうなだれため息をついた
地獄?私が死んでいる?現に私はこうして生きて火にあたり飲食もまともにできている
まあここが地獄という例えでいえば納得するところもある
地獄があればきっとこんな所だろう、あの化け物の存在が本当ならこの男の考えも頷ける
しかし私は今こうして生きている、生きてる人間が地獄に落ちた話など今まで聞いたことがない
あの化け物の事についていえば私が疲れか盛られた薬のために見た幻覚だったに他ならない
地獄だの悪魔だのおまけに死んでいるだの、物騒なことばかり口にするこの男は見下しているのにも関わらず鼻で笑っている
「地獄でもどうでもいいが私はここから帰りたいんだ、おまえは見るからして旅をして少ない日銭を稼いでいる旅芸人か何かだろう?
そこで私はおまえに家までの道案内を頼みたいんだ
無事帰れたら一生遊んで暮らせるだけの金を払ってもいい、どうだ?悪い話じゃないだろう?」
私のその言葉に男はまたへらへらと笑い出したかと思うと突然真剣な表情になり私の腰に手を回し自分の方へと引き寄せた
突然の男の行動に驚いた私は拒絶の声を上げようとしたが、すぐ耳元で「静かに」と制止されたので気まずい沈黙が辺りに流れた
火の燃える音が辺りに響き渡る
男の首筋から甘いような香りが鼻に流れ込んでくる、何の臭いか?決して嫌な臭いではない
その香りが原因か?私は次第に変な気分に支配されようとしていた
が、しかし、たき火のパチパチと燃えるその音に混じりズ…ズ…と何か重たいものを引きずるかのような音をとらえた私ははっと現実に戻され音に聞き耳を立てた
ズ…ズ…音はだんだんこちらに近づいているかのようにはっきりとしたものになりはじめ、私はその音が近づくにつれ体をくすぐられるような冷たさと足元から湧き上がるような恐怖を感じ始めた
そして私にはその音の主が何なのか直感で分かった、あいつだ…!
ズ…ズ…ズズ…ッ…
「分かるだろ?もう俺の真下にいるよ」
男が冷静な口調で私の耳元で呟く
こちらからは見えないが言われなくてもさっきから足首を掴まれているから分かる、膝ががくがくと震え今にも腰が抜けそうだ
見下ろすことはあまりにも恐ろしかった私はきつく目を閉じると、助けてくれ!と強く思いながら男の背を抱いた
男はフフと笑うと私の背をなだめるように撫ではじめ「大丈夫、大丈夫」と何度も言い聞かせた
その不思議な感覚に次第に私の恐怖心は薄らいでいった
「去れ」
今までに聞いたこともないような男の声が響き、足首の感覚がぱっと離れる
ズ…ズ…音が離れていくのがわかる、それからほどなくして恐ろし気な物音はぱたりと消えてなくなった
はあ…助かった…私は安堵し深く息をついた
「消えたぞ?」
男は耳元でそのように言うと耳たぶを唇で甘噛みしぺろりと舌を這わせた
「何をする!?」
思わぬ男の行動に驚いた私は後ろに身を引くと、舐められた箇所を手で何度も拭いながら威嚇するように睨みつけた
私のその態度に驚いたのか男は一瞬目を丸くするも再び目を細めふざけたような笑みを浮かべる
「からかってみただけさ」
ふざけるなと言ってやりたかった、しかしこの男はあの化け物から私を救ってくれた、彼といればここでは安全なのかもしれない?
それにこの男にもあの化け物が見える以上あれは現実に存在するもののようだ…私を追ってここまで来たのだろう
なぜ私があんな化け物に追われなくてはならないのか考えても思いつかない…化け物の考えなど人の私に分かるはずもない
あれを見た後だというのに男の態度はいたって冷静だ、見慣れているのか?直接聞いてやろうと口を開きかけたその時、男の「それにしても…」という言葉に遮られた私はしょうがなく男の言葉に耳を傾けた
「あんた、あれに随分気に入られてるみたいだな?
生前色欲の罪を犯した人間が腐れた死骸の形の亡霊に犯され続けるってのは聞いていたがまさかあんなのに犯されるなんてな」
その言葉に私は耳を疑った
この男は私があいつと交わった事を知っている!?なぜだ!?一言も言ってないはずなのに…
それに色欲の罪だと男は言う、ゾフィアを無理矢理犯し子を孕ませたのは確かに事実だ、しかしその前まで私たちはお互い愛し合っていた、愛し合っていたはずだ!
「なるほどな?あんたは愛していたかもしれない…でも彼女が愛していただなんて何であんたに分かるんだ?
しかも自分の欲望のために娘の母親の命まで奪っておいて
終いには他の男にうつつを抜かした娘に腹を立て男に対する嫉妬から娘を孕ませて…あんたはそれでも愛されていたと?」
男の問いに私は驚き目を見開いた
「なぜそれを知っている!?こっちはおまえに言った覚えはないぞ!」
動揺し後ずさる私に男はにやけながら詰め寄ってくる
「なぜだって?さっきも言っただろう?俺は悪魔だ、それにここは地獄、地獄に落ちた罪人のやったことなんて悪魔にならお見通しさ
それにしてもあんたは俺より悪魔的な男だな」
「そんなのでたらめだ!そうだ!おまえは私をここに連れてきた連中の仲間だな!?大方あの伯爵家の若造に頼まれてこんな大掛かりな芝居を打ったってわけか!
おまえはここが地獄だというが私はまだ死んでいない!この通り生きている!そのことについてどう説明できるっていうんだ!?」
そう言いながらも頭の中ではゾフィアに刺された時の記憶が繰り返し、繰り返しよみがえり始めていた
認めたくない私は頭をふってその事を忘れよう、消えてくれと願った
しかし願えば願うほど頭の中の映像は鮮明さを増してゆき、終いには刺された箇所がズキズキと痛みだしてきた
「ほら…思い出してきたんだろ?自分が死んだときのこと、その記憶を消したいか?
無理な話だな、あんたは刺殺されるだけの苦痛を少女に与えた
肉体の死が肉体への罰であるなら、ここは魂への罰が下される場所…永遠をもってあんたはそれを償う」
詰め寄る男に恐怖を覚えた私は足元に転がる木の枝を拾うと先のとがった先端を男の方へと向け凄んだ
「来るな!私は信じないぞそんな事!!」
虚勢を張り棒切れを男に向けるもこんな頼りない枝棒切れ一本で何ができるわけでもなく、男は私の手首をつかみそれを簡単に取り上げるとたき火の中に投げ入れ、私の腰に手を回し自身の方へと引き寄せると困ったような笑みを浮かべた
「な!何をする!」
顔が近い…この状況はまずいと思った
さっきのことといいやはりこいつは男色家の変人なのだろう
逃げなければ…しかし私はその赤い瞳から視線がそらせなくなっていた
鋭くて、一見不気味な色なのに美しくて…なんて悲しげな目をするのだろう…
不本意ながら私はその男の虜になりかけていた
「あんたも…腐りかけているな…」
男は私の手のひらを見ながらそのように言った
男のその言葉で我に返った私は自分の両手の平に視線を落とす
彼の言った通り私の手は所々黒く変色しはじめている
死んでいるのに…もはや肉体じゃないはずなのに腐れる…
そんな事を思い知った瞬間、一気に体の力の抜けた私はその場に崩れ落ちた
「そんな…私もあの化け物みたいになってしまうのか…?」
「ああ…ここにいればいずれはな…欲の強い人間は肉体への依存が大きいから魂も同じような一途をたどる…まあでもその方があんたにとっても恐怖もなくなるしいい事かも知れないな?」
男はたき火の前に腰を下ろすと静かな口調でそのよような事を言うと取り出した服を裸の私に投げ渡した
「いくら地獄でも男がすっ裸でウロウロするのは恥ずかしいだろ?」
「あ…ああ…」
悪魔と名乗る男と出会ったその日、夢でも見ているかのような事実に絶望した私は疲れか再び眠りに落ちて行った
何だ、眠ってしまったのか…
裸の体に掛けられている掛物のぬくもりに安心し再び目を瞑る
その時、よく周りを気にもしなかった私はここが自分の家の寝室だと錯覚していた
しかしすぐ、「おい」という自分に呼びかけているであろう聞き覚えのない男の一声で現実へと戻された哀れな男は誰だと言わんばかりに飛び起き辺りを見回す
「気が付いたか?」
すぐ横にいたのは銀髪の見知らぬ若い男…
その見知らぬ男はこちらを見て軽く微笑んでいる
「おまえは…誰だ…?」
そう言いかけながら私はその男の一風変わった外見に目を止めた
先のとがった人のものとは思えぬような耳の形に血のように赤い瞳…
「なるほど、ここに来て悪魔と会うのは初めてなわけか?」
訝しげにじろじろと見る私に男はこちらに近寄り薄ら笑った
悪魔…?何を言ってるんだこいつは?
姿や着ているものからして奇妙な奴だがよその国の人間か?しかし言葉は通じるようだ…
悪魔なんて物騒なことを口にして…頭がおかしいのか?何かの比喩なのか…?この荷物からしてこの男は旅をしている旅芸人か何かなのだろう
私は近くに置かれた薄汚れた大きめの鞄を見ながらそのようなことを考えた
旅芸人をしているからにはこの男はここの地理に詳しいはずだ
私はここに来てから今に至るまでの経緯を順を追って話し始めた
もちろんあの化け物の事は伏せてだ
疲れから見たかもしれないあの幻覚のようなものの事を言って自分もこの男同様頭のおかしな男に成り下がるつもりはなかったからだ
「それで目が覚めたらここに居たんだ…誰が私をこんな気味の悪い場所に連れてきたのか、それすら覚えていない…きっと何か薬を盛られるかして眠っている間に連れて来られたのだと思うのだが…誰が何のためにかは分からない」
男は笑をこらえているような面持ちでうんうんと頷きながら私の話を聞いていたが言い終えるや否やこらえていた笑いが噴き出し腹を抱えて笑い出した
何がおかしいのか…開いた口がふさがらなかった
その様子に気付いた男はへらへらとした口調で謝りながら水筒からコップに水を注ぐとそれを私に差し出し飲むよう促した
男のふざけた態度に少しイラつきながらも私は何日かぶりにありつけた水を一気に飲み干し深く息を吐いた
「ここがどこか…俺が何と言おうときっとあんたは信じないだろうが、そんなに知りたきゃ教えてやる
ここは地獄さ、あんたは死んで地獄に落とされた」
男の言葉に一瞬頭の中が真っ白になったが、直ぐにそれはこの男の妄言だと思った私はがくりとうなだれため息をついた
地獄?私が死んでいる?現に私はこうして生きて火にあたり飲食もまともにできている
まあここが地獄という例えでいえば納得するところもある
地獄があればきっとこんな所だろう、あの化け物の存在が本当ならこの男の考えも頷ける
しかし私は今こうして生きている、生きてる人間が地獄に落ちた話など今まで聞いたことがない
あの化け物の事についていえば私が疲れか盛られた薬のために見た幻覚だったに他ならない
地獄だの悪魔だのおまけに死んでいるだの、物騒なことばかり口にするこの男は見下しているのにも関わらず鼻で笑っている
「地獄でもどうでもいいが私はここから帰りたいんだ、おまえは見るからして旅をして少ない日銭を稼いでいる旅芸人か何かだろう?
そこで私はおまえに家までの道案内を頼みたいんだ
無事帰れたら一生遊んで暮らせるだけの金を払ってもいい、どうだ?悪い話じゃないだろう?」
私のその言葉に男はまたへらへらと笑い出したかと思うと突然真剣な表情になり私の腰に手を回し自分の方へと引き寄せた
突然の男の行動に驚いた私は拒絶の声を上げようとしたが、すぐ耳元で「静かに」と制止されたので気まずい沈黙が辺りに流れた
火の燃える音が辺りに響き渡る
男の首筋から甘いような香りが鼻に流れ込んでくる、何の臭いか?決して嫌な臭いではない
その香りが原因か?私は次第に変な気分に支配されようとしていた
が、しかし、たき火のパチパチと燃えるその音に混じりズ…ズ…と何か重たいものを引きずるかのような音をとらえた私ははっと現実に戻され音に聞き耳を立てた
ズ…ズ…音はだんだんこちらに近づいているかのようにはっきりとしたものになりはじめ、私はその音が近づくにつれ体をくすぐられるような冷たさと足元から湧き上がるような恐怖を感じ始めた
そして私にはその音の主が何なのか直感で分かった、あいつだ…!
ズ…ズ…ズズ…ッ…
「分かるだろ?もう俺の真下にいるよ」
男が冷静な口調で私の耳元で呟く
こちらからは見えないが言われなくてもさっきから足首を掴まれているから分かる、膝ががくがくと震え今にも腰が抜けそうだ
見下ろすことはあまりにも恐ろしかった私はきつく目を閉じると、助けてくれ!と強く思いながら男の背を抱いた
男はフフと笑うと私の背をなだめるように撫ではじめ「大丈夫、大丈夫」と何度も言い聞かせた
その不思議な感覚に次第に私の恐怖心は薄らいでいった
「去れ」
今までに聞いたこともないような男の声が響き、足首の感覚がぱっと離れる
ズ…ズ…音が離れていくのがわかる、それからほどなくして恐ろし気な物音はぱたりと消えてなくなった
はあ…助かった…私は安堵し深く息をついた
「消えたぞ?」
男は耳元でそのように言うと耳たぶを唇で甘噛みしぺろりと舌を這わせた
「何をする!?」
思わぬ男の行動に驚いた私は後ろに身を引くと、舐められた箇所を手で何度も拭いながら威嚇するように睨みつけた
私のその態度に驚いたのか男は一瞬目を丸くするも再び目を細めふざけたような笑みを浮かべる
「からかってみただけさ」
ふざけるなと言ってやりたかった、しかしこの男はあの化け物から私を救ってくれた、彼といればここでは安全なのかもしれない?
それにこの男にもあの化け物が見える以上あれは現実に存在するもののようだ…私を追ってここまで来たのだろう
なぜ私があんな化け物に追われなくてはならないのか考えても思いつかない…化け物の考えなど人の私に分かるはずもない
あれを見た後だというのに男の態度はいたって冷静だ、見慣れているのか?直接聞いてやろうと口を開きかけたその時、男の「それにしても…」という言葉に遮られた私はしょうがなく男の言葉に耳を傾けた
「あんた、あれに随分気に入られてるみたいだな?
生前色欲の罪を犯した人間が腐れた死骸の形の亡霊に犯され続けるってのは聞いていたがまさかあんなのに犯されるなんてな」
その言葉に私は耳を疑った
この男は私があいつと交わった事を知っている!?なぜだ!?一言も言ってないはずなのに…
それに色欲の罪だと男は言う、ゾフィアを無理矢理犯し子を孕ませたのは確かに事実だ、しかしその前まで私たちはお互い愛し合っていた、愛し合っていたはずだ!
「なるほどな?あんたは愛していたかもしれない…でも彼女が愛していただなんて何であんたに分かるんだ?
しかも自分の欲望のために娘の母親の命まで奪っておいて
終いには他の男にうつつを抜かした娘に腹を立て男に対する嫉妬から娘を孕ませて…あんたはそれでも愛されていたと?」
男の問いに私は驚き目を見開いた
「なぜそれを知っている!?こっちはおまえに言った覚えはないぞ!」
動揺し後ずさる私に男はにやけながら詰め寄ってくる
「なぜだって?さっきも言っただろう?俺は悪魔だ、それにここは地獄、地獄に落ちた罪人のやったことなんて悪魔にならお見通しさ
それにしてもあんたは俺より悪魔的な男だな」
「そんなのでたらめだ!そうだ!おまえは私をここに連れてきた連中の仲間だな!?大方あの伯爵家の若造に頼まれてこんな大掛かりな芝居を打ったってわけか!
おまえはここが地獄だというが私はまだ死んでいない!この通り生きている!そのことについてどう説明できるっていうんだ!?」
そう言いながらも頭の中ではゾフィアに刺された時の記憶が繰り返し、繰り返しよみがえり始めていた
認めたくない私は頭をふってその事を忘れよう、消えてくれと願った
しかし願えば願うほど頭の中の映像は鮮明さを増してゆき、終いには刺された箇所がズキズキと痛みだしてきた
「ほら…思い出してきたんだろ?自分が死んだときのこと、その記憶を消したいか?
無理な話だな、あんたは刺殺されるだけの苦痛を少女に与えた
肉体の死が肉体への罰であるなら、ここは魂への罰が下される場所…永遠をもってあんたはそれを償う」
詰め寄る男に恐怖を覚えた私は足元に転がる木の枝を拾うと先のとがった先端を男の方へと向け凄んだ
「来るな!私は信じないぞそんな事!!」
虚勢を張り棒切れを男に向けるもこんな頼りない枝棒切れ一本で何ができるわけでもなく、男は私の手首をつかみそれを簡単に取り上げるとたき火の中に投げ入れ、私の腰に手を回し自身の方へと引き寄せると困ったような笑みを浮かべた
「な!何をする!」
顔が近い…この状況はまずいと思った
さっきのことといいやはりこいつは男色家の変人なのだろう
逃げなければ…しかし私はその赤い瞳から視線がそらせなくなっていた
鋭くて、一見不気味な色なのに美しくて…なんて悲しげな目をするのだろう…
不本意ながら私はその男の虜になりかけていた
「あんたも…腐りかけているな…」
男は私の手のひらを見ながらそのように言った
男のその言葉で我に返った私は自分の両手の平に視線を落とす
彼の言った通り私の手は所々黒く変色しはじめている
死んでいるのに…もはや肉体じゃないはずなのに腐れる…
そんな事を思い知った瞬間、一気に体の力の抜けた私はその場に崩れ落ちた
「そんな…私もあの化け物みたいになってしまうのか…?」
「ああ…ここにいればいずれはな…欲の強い人間は肉体への依存が大きいから魂も同じような一途をたどる…まあでもその方があんたにとっても恐怖もなくなるしいい事かも知れないな?」
男はたき火の前に腰を下ろすと静かな口調でそのよような事を言うと取り出した服を裸の私に投げ渡した
「いくら地獄でも男がすっ裸でウロウロするのは恥ずかしいだろ?」
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