14 / 59
3章
1 銀色の記憶
しおりを挟む
ベルンシュタイン家の悪霊との対決から数日たった7月の午後のことルカは譲り受けた短剣を手に取り難しい顔をし見ていた
彼の頭の中に何かの残像が瞬時に駆け巡る
ルカは短剣が見せるその残像に神経を集中させるため目を瞑った
しかし彼にはまだその映像が何を意味するのか理解できなかったのでため息をつきながら再び箱の中に短剣を収納した
その時、突然ノック音が響いた
「何だ?」
ルカは箱をそのままにドアの方に振り向く
「ルカ、今から市場に食材買いに行くんだけど何か買ってくるもの…!!」
ネリーは入るなりそう言うと彼の手元にあった箱の存在に気付きびくりと体を震わせた
(あの剣だ…)
またあの時と同じような妙な胸騒ぎと頭がクラクラする感覚にとらわれはじめたネリーは冷や汗をかきながらも箱の中の短剣を凝視した
「ああ、今のところはないな…
さてと、今日は暇だし僕は少し庭の手入れでもするかな…」
ルカは動揺するネリーに気付かずにそう言うと箱を閉じ、それを本棚の一番上の奥の方へとしまいこんだ
「そ…そう…ねえルカ、悪魔…ここにも来るかな…?」
ネリーは短剣がしまわれた事で気分もよくなってきたので、疑問に思っていたことを不安そうにルカに聞いてみた
「奴の契約者はそれなりの力もあるようだし…ここに移されてることくらいもう分かってるはずだ…でも相手が同じ魔術師ならあっちもこれまでのようには侵入できないだろうな…まあ、来たら来たで僕が何とかするから君が思い悩むことでもないさ…
そうだ、庭仕事が終わったらこの前約束してた護符魔術の基礎を教えてやろう」
ルカはネリーの頭をくしゃくしゃと撫でながらそう言うと一人部屋を後にした
いつもなら飛んで喜ぶはずの事なのに今日は違った、まるで何も頭に入らない…あの短剣の事しか…彼女は箱の置いてある場所を不安そうな顔で見つめた
しかしルカが下から「いつまで何やってるんだ?」と呼びかけてきたのでネリーは我に返りいそいそと彼の部屋を後にした
それからネリーは一人市場に出向いた
ここはこの町で一番大きな市場で隣町の市場に比べれば規模は小さいものの普段食べる芋や肉魚類はここで手に入るので買い物はここで済ますことが多かった
「えーと…あとそのお肉を一つ下さい」
ネリーは包まれた肉を受け取るとバスケットに入れ、エプロンのポケットから硬貨を取り出しそれを店主に渡した
「じゃがいもと人参とお肉…こんなもんでいいかな…」
バスケットを確認しながらネリーが独り言を呟く
その頃には短剣の事など頭から離れてしまっていたらしく、ネリーはいつものように少し遠回りをして街を散策しながら家へと帰った
「ただいまー」
家へ着くと一階の部屋にも庭にもルカの姿はない
「あれ?ルカ出掛けたのかな…?」
ネリーはテーブルにバスケットを置くと階段を上ってルカの部屋へと行ってみた
「ルカ?」
ルカの部屋の戸を開けながら彼の名を呼んだが、そこにもルカの姿はなかったのでいじけたネリーは彼のベットに寝転がった
「もう…出かけるなら出かけるで一言言ってくれてもいいじゃない!私一応助手なんだから」
ネリーは枕に顔を埋めながらそう言うと仰向けになり天井を見上げた
そして彼女は本棚に収納された箱のことを思い出すとむくりと起き上がりそちらへと近づいた
(なんでこんなにあの剣の事が気になるんだろう…)
ネリーは脚立に乗りると恐る恐る本棚から箱を取り出し緊張した面持ちでその箱を開ける
しかし箱の中を見てもさっきのような胸騒ぎは覚えなかった
「なんだ…気のせいか…どう見ても普通の高そうな短剣だもんね」
ほっとした彼女はそれを取り出してよく見てみようと手をのばすが、それを片手に握り締めた瞬間急に激しい目眩に襲われた
「っあ…」
頭の中に何かの残像が瞬時によぎり、目の前が急に真っ赤になったかと思うと一気に暗くなり彼女はそのまま床に倒れ込んでしまった
その少し前、ルカは庭にある小屋にバケツなどの道具をしまい終え、一階の居間で樽から水を汲み顔を洗おうとしていたところだった
「あいつ帰ってたのか…」
ルカがテーブルに置かれたままのバスケットを見て呟いたその時、二階から大きな物音が聞こえたのでルカは不審そうな面持ちで上を見上げると急いで階段を駆け上がった
彼が部屋の扉を開け放つとそこにはネリーが短剣を握り締めたまま仰向けの状態で倒れていた
彼はは急いで彼女に駆け寄ると息を確かめ怪我をしてないかを確認した
「ネリー!おい大丈夫か!?しっかりしろ!」
ルカはネリーを揺さぶり起こそうとするも彼女は息はしているが目覚めない
「傷口もないし…悪魔が来たわけでもないようだし…いったい何があったんだ…」
ルカはネリーの手に握られたままになっていた短剣を彼女の手から抜き取るとそれを見て息を飲んだ
「まさか…これの影響なのか…?」
彼はネリーを自分のベットに運ぶと短剣を机に起き彼女の様子を心配そうに伺った_____
ルカがネリーを不安げに見守る中、意識を失ったネリーは夢を見ていた
(あれ?私…何してるんだろう…箱を開けて短剣を見ていたら急に目の前が真っ暗になって…もしかして私倒れているの?じゃあここは…)
夢だと理解できるはずもないネリーが目を開けると、そこは何処かの草原で近くには人影もなく強い風が背の高い草をざわざわと鳴らしていた
見上げた空は黒く曇り今にも降り出してきそうな空模様だ
「ここは…」
ネリーはそのまま空をぼーっと眺めていたが冷たい雫がぽつりと額に落ちてくると我に返って起き上がり雨宿りできそうな木陰を探し走り出した
木陰たどり着くまで勢いを増した雨のせいでネリーはずぶ濡れになってしまっていた
「やだ…びしょ濡れ…それにいったいここどこ?私ルカの部屋に居たのに…」
ネリーは濡れたドレスの裾を絞りながら辺りをキョロキョロと見回した
すると彼女から少し離れた位置に見知らぬ少女の姿があった
不思議なことに彼女は空を見上げたまま雨の中一人佇んでいる
綺麗な銀色の長い髪が雨に濡れようとドレスが水を吸って体にまとわりつこうとお構いなしのように少女は両手を高々と天に上げ、その横顔からはまるでこの雨を楽しんでいるかのような表情さえ読み取れた
ネリーは不思議に思いながらその少女を見ていた
しかしその少女の背後に背の高い黒髪の男が現れた瞬間、突然の激しい頭痛に襲われた
「っ…痛い…」
ネリーはあまりの痛さにその場に崩れるようにしゃがみこんだ
少女は男に手を引かれ近くの大きな建物の中へと連れて行かれる
それを激しい頭痛の中見ていたネリーは本能的に何度も行ってはダメと少女に呼びかけるも少女に彼女の言葉は届かなかった
「だめ…そっちに行ったら…あなたは…」
ネリーがわけもわからない悔しさと痛みに泣きながらうなだれていると誰かが近づいてくる音が聞こえ、それと共にその痛みは不思議と和らいでいった
「ゾフィア?泣いているのか?」
ネリーが後ろを振り向くとそこにはルカが立っていた
ルカはしゃがみこむとネリーの肩を抱き心配そうな面持ちで彼女の顔を覗き込んだ
「ルカ…」
ネリーは流れ出る涙を拭うとルカに思い切り抱きついた
「…?ルカって…?それにゾフィア、君髪の色が…」
ルカに似たその青年はネリーの髪に触れながら不思議そうに尋ねた
ネリーは青年から離れるとその顔を不安そうに眺めた
よく見るとその青年は髪の色や瞳の色、顔立ちはルカには似ているもののどことなく彼とは違っていた
ルカはあまり感情を表に出したりしないし、眼差しが彼より鋭いのに対しその青年は表情が豊かで優しそうな眼差しだったからよく見れば別人であることはすぐに分かった
「あなたは…?」
ネリーはルカそっくりなその青年をまじまじと見つめながら不安そうに尋ねる
「ごめん、人違いしたみたいだ…僕はアロイス・ベルンシュタイン
君があまりにもゾフィアに似ていたものだから…」
アロイスと名乗るその青年は乗ってきた馬の手綱を木にくくり付けながらそう言った
(え…ベルンシュタインって…)
ネリーはその名にユリウスの事を思い出したが彼は一人っ子だし、父親も亡くなっているはずなので別のベルンシュタインだと思い一人納得したように頷いた
ネリーはこの時やっと雨で濡れたはずの自分のドレスが完全に乾いていることと、地面は水たまりどころか一つも濡れたあとすらないことに気付き不思議に思った
辺りは民家さえないだだっ広い野原、あの少女も背の高い男も彼らの消えた建物さえそこには見当たらなかった
(いったいどうなって…)
ネリーは不安になりながらも彼の座る木陰に腰を下ろすと膝を抱え考え込んだ
「そういえば君の名は?
あんなに泣いて…何か嫌な事でもあったのか?」
アロイスはそう言うとネリーに水筒の水を差し出した
「あ…ありがとう…私はネリー…実は私にもよく分からなくて…」
ネリーは彼から水を受け取るとそれを一口飲み言った
「そうか…それにしてもネリーは本当にゾフィアにそっくりだ」
アロイスが微笑みながらそう言う
「ふーん…ねえ、ゾフィアさんってあなたのお友達?それとも恋人?」
ネリーはアロイスに水筒を返すと好奇心から彼に聞いてみた
「今のところは恋人かな…彼女の父君が婚約を認めてくれればだけど…
バルツァー公にとってゾフィアは義理の娘とはいえ一人娘だし、亡き妻の残した大事な子供だから慎重になっているんだろうけど…」
悲しそうに言うアロイスにネリーは少し気まずくなりながらも
「…認めて貰えるといいね…」
と草をいじりながらそう言った
アロイスがこくんと頷きしばしの沈黙が流れる
そしてその沈黙を破りアロイスがルカの事を聞いてきたのでネリーは彼の事を話し始めた
それからしばらく二人はたわいない会話を楽しんだ_____
「本当に途中まで乗せて行かなくて大丈夫か?」
アロイスは馬に跨るとネリーを見下ろし心配そうに聞く
「大丈夫、少し歩きたいから…」
ネリーがそう言うとアロイスは不安そうに頷き馬を走らせ直ぐに見えなくなってしまった
「…ここが何処なのか家さえ分からないのに迷惑かけられないよ…それにしてもあの人、ルカにそっくりだったな…」
ネリーはそう呟くととりあえず道なりに歩き出そうとした
その時突然酷い眩暈に襲われ、視界が揺らぐ
眩暈により立っていることもままならない彼女はその場に倒れこんでしまった_____
彼の頭の中に何かの残像が瞬時に駆け巡る
ルカは短剣が見せるその残像に神経を集中させるため目を瞑った
しかし彼にはまだその映像が何を意味するのか理解できなかったのでため息をつきながら再び箱の中に短剣を収納した
その時、突然ノック音が響いた
「何だ?」
ルカは箱をそのままにドアの方に振り向く
「ルカ、今から市場に食材買いに行くんだけど何か買ってくるもの…!!」
ネリーは入るなりそう言うと彼の手元にあった箱の存在に気付きびくりと体を震わせた
(あの剣だ…)
またあの時と同じような妙な胸騒ぎと頭がクラクラする感覚にとらわれはじめたネリーは冷や汗をかきながらも箱の中の短剣を凝視した
「ああ、今のところはないな…
さてと、今日は暇だし僕は少し庭の手入れでもするかな…」
ルカは動揺するネリーに気付かずにそう言うと箱を閉じ、それを本棚の一番上の奥の方へとしまいこんだ
「そ…そう…ねえルカ、悪魔…ここにも来るかな…?」
ネリーは短剣がしまわれた事で気分もよくなってきたので、疑問に思っていたことを不安そうにルカに聞いてみた
「奴の契約者はそれなりの力もあるようだし…ここに移されてることくらいもう分かってるはずだ…でも相手が同じ魔術師ならあっちもこれまでのようには侵入できないだろうな…まあ、来たら来たで僕が何とかするから君が思い悩むことでもないさ…
そうだ、庭仕事が終わったらこの前約束してた護符魔術の基礎を教えてやろう」
ルカはネリーの頭をくしゃくしゃと撫でながらそう言うと一人部屋を後にした
いつもなら飛んで喜ぶはずの事なのに今日は違った、まるで何も頭に入らない…あの短剣の事しか…彼女は箱の置いてある場所を不安そうな顔で見つめた
しかしルカが下から「いつまで何やってるんだ?」と呼びかけてきたのでネリーは我に返りいそいそと彼の部屋を後にした
それからネリーは一人市場に出向いた
ここはこの町で一番大きな市場で隣町の市場に比べれば規模は小さいものの普段食べる芋や肉魚類はここで手に入るので買い物はここで済ますことが多かった
「えーと…あとそのお肉を一つ下さい」
ネリーは包まれた肉を受け取るとバスケットに入れ、エプロンのポケットから硬貨を取り出しそれを店主に渡した
「じゃがいもと人参とお肉…こんなもんでいいかな…」
バスケットを確認しながらネリーが独り言を呟く
その頃には短剣の事など頭から離れてしまっていたらしく、ネリーはいつものように少し遠回りをして街を散策しながら家へと帰った
「ただいまー」
家へ着くと一階の部屋にも庭にもルカの姿はない
「あれ?ルカ出掛けたのかな…?」
ネリーはテーブルにバスケットを置くと階段を上ってルカの部屋へと行ってみた
「ルカ?」
ルカの部屋の戸を開けながら彼の名を呼んだが、そこにもルカの姿はなかったのでいじけたネリーは彼のベットに寝転がった
「もう…出かけるなら出かけるで一言言ってくれてもいいじゃない!私一応助手なんだから」
ネリーは枕に顔を埋めながらそう言うと仰向けになり天井を見上げた
そして彼女は本棚に収納された箱のことを思い出すとむくりと起き上がりそちらへと近づいた
(なんでこんなにあの剣の事が気になるんだろう…)
ネリーは脚立に乗りると恐る恐る本棚から箱を取り出し緊張した面持ちでその箱を開ける
しかし箱の中を見てもさっきのような胸騒ぎは覚えなかった
「なんだ…気のせいか…どう見ても普通の高そうな短剣だもんね」
ほっとした彼女はそれを取り出してよく見てみようと手をのばすが、それを片手に握り締めた瞬間急に激しい目眩に襲われた
「っあ…」
頭の中に何かの残像が瞬時によぎり、目の前が急に真っ赤になったかと思うと一気に暗くなり彼女はそのまま床に倒れ込んでしまった
その少し前、ルカは庭にある小屋にバケツなどの道具をしまい終え、一階の居間で樽から水を汲み顔を洗おうとしていたところだった
「あいつ帰ってたのか…」
ルカがテーブルに置かれたままのバスケットを見て呟いたその時、二階から大きな物音が聞こえたのでルカは不審そうな面持ちで上を見上げると急いで階段を駆け上がった
彼が部屋の扉を開け放つとそこにはネリーが短剣を握り締めたまま仰向けの状態で倒れていた
彼はは急いで彼女に駆け寄ると息を確かめ怪我をしてないかを確認した
「ネリー!おい大丈夫か!?しっかりしろ!」
ルカはネリーを揺さぶり起こそうとするも彼女は息はしているが目覚めない
「傷口もないし…悪魔が来たわけでもないようだし…いったい何があったんだ…」
ルカはネリーの手に握られたままになっていた短剣を彼女の手から抜き取るとそれを見て息を飲んだ
「まさか…これの影響なのか…?」
彼はネリーを自分のベットに運ぶと短剣を机に起き彼女の様子を心配そうに伺った_____
ルカがネリーを不安げに見守る中、意識を失ったネリーは夢を見ていた
(あれ?私…何してるんだろう…箱を開けて短剣を見ていたら急に目の前が真っ暗になって…もしかして私倒れているの?じゃあここは…)
夢だと理解できるはずもないネリーが目を開けると、そこは何処かの草原で近くには人影もなく強い風が背の高い草をざわざわと鳴らしていた
見上げた空は黒く曇り今にも降り出してきそうな空模様だ
「ここは…」
ネリーはそのまま空をぼーっと眺めていたが冷たい雫がぽつりと額に落ちてくると我に返って起き上がり雨宿りできそうな木陰を探し走り出した
木陰たどり着くまで勢いを増した雨のせいでネリーはずぶ濡れになってしまっていた
「やだ…びしょ濡れ…それにいったいここどこ?私ルカの部屋に居たのに…」
ネリーは濡れたドレスの裾を絞りながら辺りをキョロキョロと見回した
すると彼女から少し離れた位置に見知らぬ少女の姿があった
不思議なことに彼女は空を見上げたまま雨の中一人佇んでいる
綺麗な銀色の長い髪が雨に濡れようとドレスが水を吸って体にまとわりつこうとお構いなしのように少女は両手を高々と天に上げ、その横顔からはまるでこの雨を楽しんでいるかのような表情さえ読み取れた
ネリーは不思議に思いながらその少女を見ていた
しかしその少女の背後に背の高い黒髪の男が現れた瞬間、突然の激しい頭痛に襲われた
「っ…痛い…」
ネリーはあまりの痛さにその場に崩れるようにしゃがみこんだ
少女は男に手を引かれ近くの大きな建物の中へと連れて行かれる
それを激しい頭痛の中見ていたネリーは本能的に何度も行ってはダメと少女に呼びかけるも少女に彼女の言葉は届かなかった
「だめ…そっちに行ったら…あなたは…」
ネリーがわけもわからない悔しさと痛みに泣きながらうなだれていると誰かが近づいてくる音が聞こえ、それと共にその痛みは不思議と和らいでいった
「ゾフィア?泣いているのか?」
ネリーが後ろを振り向くとそこにはルカが立っていた
ルカはしゃがみこむとネリーの肩を抱き心配そうな面持ちで彼女の顔を覗き込んだ
「ルカ…」
ネリーは流れ出る涙を拭うとルカに思い切り抱きついた
「…?ルカって…?それにゾフィア、君髪の色が…」
ルカに似たその青年はネリーの髪に触れながら不思議そうに尋ねた
ネリーは青年から離れるとその顔を不安そうに眺めた
よく見るとその青年は髪の色や瞳の色、顔立ちはルカには似ているもののどことなく彼とは違っていた
ルカはあまり感情を表に出したりしないし、眼差しが彼より鋭いのに対しその青年は表情が豊かで優しそうな眼差しだったからよく見れば別人であることはすぐに分かった
「あなたは…?」
ネリーはルカそっくりなその青年をまじまじと見つめながら不安そうに尋ねる
「ごめん、人違いしたみたいだ…僕はアロイス・ベルンシュタイン
君があまりにもゾフィアに似ていたものだから…」
アロイスと名乗るその青年は乗ってきた馬の手綱を木にくくり付けながらそう言った
(え…ベルンシュタインって…)
ネリーはその名にユリウスの事を思い出したが彼は一人っ子だし、父親も亡くなっているはずなので別のベルンシュタインだと思い一人納得したように頷いた
ネリーはこの時やっと雨で濡れたはずの自分のドレスが完全に乾いていることと、地面は水たまりどころか一つも濡れたあとすらないことに気付き不思議に思った
辺りは民家さえないだだっ広い野原、あの少女も背の高い男も彼らの消えた建物さえそこには見当たらなかった
(いったいどうなって…)
ネリーは不安になりながらも彼の座る木陰に腰を下ろすと膝を抱え考え込んだ
「そういえば君の名は?
あんなに泣いて…何か嫌な事でもあったのか?」
アロイスはそう言うとネリーに水筒の水を差し出した
「あ…ありがとう…私はネリー…実は私にもよく分からなくて…」
ネリーは彼から水を受け取るとそれを一口飲み言った
「そうか…それにしてもネリーは本当にゾフィアにそっくりだ」
アロイスが微笑みながらそう言う
「ふーん…ねえ、ゾフィアさんってあなたのお友達?それとも恋人?」
ネリーはアロイスに水筒を返すと好奇心から彼に聞いてみた
「今のところは恋人かな…彼女の父君が婚約を認めてくれればだけど…
バルツァー公にとってゾフィアは義理の娘とはいえ一人娘だし、亡き妻の残した大事な子供だから慎重になっているんだろうけど…」
悲しそうに言うアロイスにネリーは少し気まずくなりながらも
「…認めて貰えるといいね…」
と草をいじりながらそう言った
アロイスがこくんと頷きしばしの沈黙が流れる
そしてその沈黙を破りアロイスがルカの事を聞いてきたのでネリーは彼の事を話し始めた
それからしばらく二人はたわいない会話を楽しんだ_____
「本当に途中まで乗せて行かなくて大丈夫か?」
アロイスは馬に跨るとネリーを見下ろし心配そうに聞く
「大丈夫、少し歩きたいから…」
ネリーがそう言うとアロイスは不安そうに頷き馬を走らせ直ぐに見えなくなってしまった
「…ここが何処なのか家さえ分からないのに迷惑かけられないよ…それにしてもあの人、ルカにそっくりだったな…」
ネリーはそう呟くととりあえず道なりに歩き出そうとした
その時突然酷い眩暈に襲われ、視界が揺らぐ
眩暈により立っていることもままならない彼女はその場に倒れこんでしまった_____
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる