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1章
4 魔術師ルカ
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街にたどり着いたネリーだったが、どこでも仕事をもらえず、一人広場の石段で頬杖をついていた。住居がないということが主な理由だった。さっきなどは身なりがあまりにもひどいということで取り合ってすらもらえなかった。
「そりゃ、ボロだけど…洗えばそれなりにまだ着れるのに…」
つぎはぎだらけの服を見ながらネリーはため息をついた。
午後、それでも彼女は諦めずに職を求めた。しかし、相変わらずどこも雇ってはくれず…
「はあ…なんか疲れてきちゃった…」
辺りが次第に暗くなる中、ネリーは一番明るい宿場の通りをとぼとぼと歩いていた。
その時、ある宿場の前に立っていた太った大柄の男が「見ない顔だな?宿を探してるのか?」と声をかけてきたので、ネリーは首を横に振った。
「この辺の娘じゃないようだが、どうした?」
「わ…私、今日この町に来たばかりで、仕事を探してるんです…」
男は顎髭をぽりぽりかきながら大きく二、三度頷くと、「なら早く言え」と、ネリーの肩を抱き店の中へと招き入れた。
店に入るなり柄の悪そうな客が酒を飲みながらこちらを指さし汚らしく笑っている。ネリーは彼らとできるだけ目を合わせないようにした。
男は数人の客と言葉を交わし大きな声で笑うとカウンターの所にいた派手な化粧とドレスの若い女性の耳元でこそこそと何か囁くと店の奥にある衣裳部屋にネリーを連れて行き鍵をかった。なぜ鍵までかる必要があるのか?とネリーは少し不審に思ったが今まで着たこともないような衣装を手に取りため息をついた。
「綺麗なドレス」
「どれでも好きな服を選んでいいぞ?」
男は息を荒くしながらネリーの肩を嫌らしく揉みはじめたので彼女はそれからさりげなく逃げるようにドレスを見て回った。
部屋は派手なドレスと空き瓶の入った箱であふれかえっていている。
その時、積まれた木箱の陰からぼさぼさの黒髪の女の子が怯えたような表情でこちらを見たのち「シー!シー!」と口元に手を当て再び物陰へと隠れてしまった。
しかし、それを見ていたのであろう男がぽかんと立ちすくむネリーを押しのけ女の子の隠れた物陰にずんずんと進むと、隠れる彼女の腕を引っ張り無理矢理に引っ張り上げた。
少女は異様なまでに痩せ、男を凝視する顔はひどく怯えていた。
異国の言葉で何かを必死に訴える少女。言葉のトーンや怯えた様子からおそらく助けを求めるものであることがなんとなくわかったが自分にはどうすることも出来ない。
少女はさらに奥の方にある部屋へと引きずられていった。ガタガタと暴れるような音がしたのち、彼女と男のものであろう悩ましい音が響きはじめた。
膝がガクガクとと震えた。ここはきっと売春宿だ。こんな所でなんか絶対働けない。ネリーは後ずさりしながら部屋を出ると、誰とも目を合わせないように店から出て宿場の通りをを足早に切り抜けた。
明るかった宿場とは違い、普通の家の立ち並ぶ通りは暗く人すら歩いていない。多分今は夕飯時なのだろう、家々からは楽しそうな談笑と灯りとがもれ彼女の心を一層暗くさせた。
彼女は今夜宿に泊まる金も持っていなかったので、とりあえず安全に眠れる場所を探すことにした。
ちょうど川に架かる大きな橋に差し掛かかろうとした時だった、暗い夜道で道に段差があることに気付けなかったネリーはそこに躓き派手に転んでしまったのだ。
「痛…」
どうやら足首を挫いたらしい。「どうしていつもこうなの…?」彼女の中で今まで堪えてきた何かがはちきれ涙となってあふれ出だした。
しかし泣いたところでどうにかなるわけでもなく彼女は涙を拭うと挫いた足を庇うように立ち上がろうとした。
その時だった。「お嬢ちゃん?」突然、背後から響いた男の声にネリーはびくりと体を震わせ恐る恐る振り向いた。
こちらを見下ろしていたのは中年の痩せた汚らしい見知らぬ男だ。しかも男はにたにた笑いながら酒瓶片手にふらつく酔っ払いだ。
見知らぬその男に恐怖し後ずさるも、男はよろよろと詰め寄ってくる。
「ほう…なかなかいいじゃないか?ガキを相手にするのは何年ぶりかな…ヒック…」
男はそう言いいながらベルトを緩め酒臭い顔をネリーの方にに近づけてきた。
彼女は恐怖から反射的に男を押しのけ、立ち上がると足を引きずりながら急いでその場から離れようとした。しかし…
「ってなー…このクソガキ…何しやがる!」
怒った男は逃げようとするネリーの手首をすかさず掴みあげると自分の方に引き寄せ、彼女の口を塞ぐと、「大人を舐めるクソガキには躾が必要だなぁ、あ?へへへ、大丈夫だ殺しゃーしねーよ、一発ぶちこませてもらうだけさ」とニタニタ笑いながら抵抗するネリーを橋の下へと引きずって行った。
男は草むらに彼女を押し倒し、体重を乗せ自由を奪ったうえでスカートを腰までまくり上げ露出した足をごわごわした手で撫でさすり始めた。
「たまんねーな」
暗闇でゴソゴソとズボンを下ろしながら男が息を荒げる。もうだめだ…と思いかけたその時だった。鈍い音とともに体の自由が戻った。
上体を起こしすぐ横に目を向けると暗闇の中さっきの男が誰かともみ合っている。そこにいたのは…
「ルカ…?なんでここに…?」
次の瞬間、ルカの拳が男のこめかみに当たり男は勢いよく弾き飛ばされ地面に激突した。
「悪いがうちの使用人に汚い手で触れないでくれるか?」
倒れたまま動かなくなった男に彼はそう言うと、呆気にとられ座り込むネリーに手を差し伸べてきた。
「大丈夫か?」
「大丈夫…だけど、どうしてここに…」
「気まぐれだ」
彼の差し出された手を掴みネリーは挫いた足をかばい立ち上がる。あんなに嫌だった彼の横顔と手のぬくもりに安心し彼女の瞳からはまた大粒の涙が流れ落ちた。
と、その時、硝子の破れる音が二人の背後で響いた。
「クソガキどもが舐めくさりやがって!殺してやる!」
さっきまで倒れていたはずの男が割れて鋭く尖った瓶を片手に凄い勢いで突進してきたのだ。
今度こそ本当におしまいだ…私のせいでルカまでもが巻き込まれてしまう…しかし、その時何かが起きた。
「あれ?何だ?動かねえ…クソが!動けよクソ!」
突進してきた男の動きがぴたりと止まったのである。男は必死に体を動かそうとしているようだが体はびくともしない。そして次の瞬間、男の握り締めていた瓶は亀裂が入るような鈍い音とともに一気に弾け粉砕してしまったのである。
「ひいぃぃぃぃっ!!」男の顔がみるみる恐怖に歪む。
ルカの方を見ると、男を睨みつけながら何かを小声で唱えている。彼女は今朝あの怪物から助けてもらった時のことを思い出した。
彼は私みたいな普通の人間には想像もつかないような力を使っているのだ。ネリーはそんなルカから目を離せないでいた。
それからすぐルカの口が閉じるとともに男の体の自由も戻り、男はどさりと地面に尻餅をついた。
「もう懲りたろ?それともまだやるのか?」
「い、一体何を…ばっ!化け物ー!!」
冷静な口調でそういうルカとは打って変わって、男は顔面蒼白で後ずさりながらそう吐き捨てると、一目散にどこかへ走り去って行った。
ちょうどその時、彼らのいる場所から川を挟んだ橋のたもとで月の光に照らされ一人の男が姿を現した。闇に隠れるような黒いマントに身を包んだ謎の男はフードを深くかぶり見るからに怪しい感じの人物だ。
「やはりあの娘だったか…」
自分の存在になど気付いてないであろう二人に男はそう呟くと、薄笑いを浮かべ夜の闇へと消えて行った
ルカはまだ震えているネリーを家まで連れて帰ると、とりあえず椅子に座らせ肩に毛布をかけてやった。
「何か食べるか?」
鍋の蓋を開け、多分何も食べてないであろう彼女を気遣うようにルカが言う。
「………」
もし彼が不思議な力を使えなかったら、あの時どうなってたことか…ネリーは申し訳なさから顔を伏せたまま首を横に振った。
ルカは「そうか…」と一言いうと、今度は棚をガサゴソとあさりだし、お茶の入った瓶を取り出すと慣れた手つきでお茶を入れ始めた。
甘いリンゴのような香りが辺りに漂いなぜか心が落ち着いてきた。
「これを飲んだらとりあえず二階の角部屋が空いてるからそこで寝るといい」
「でも…私…お金持ってないし…」
差し出されたお茶を受け取り、昨日のことを思い出し顔が熱くなってくる。
「代金は取らないよ…昨日は本当悪かった…その…暗くてあまり見えなかったから気にするな…悪かった…」
彼の言葉にさらに恥かしさが増し、ネリーは手のひらの中のお茶よりも熱くなってしまったかのような顔を伏せるのだった。
「…それに…今出て行った所でさっきみたいな変態の餌食になるだけだろ…?これは僕からの提案なんだが、住む所が見つかるまでうちで働いて資金を稼ぐってのはどうだ?働くといっても雑用程度だから君にもできることだし、君にとっても変な店に足を踏み入れるよりは安全だろ?」
「もしかして…ずっと見てたの…?売春宿に入ったこととか…」
「まあ…少しな…見てたのは…気まぐれでだ」
気まずい沈黙を破るようにルカは咳ばらいをすると、再び真剣なまなざしで「それで?君はこれからどうするつもりなんだ?」と問いなおした。
彼が何者なのか、どんな人間なのか、果たして人間なのかもよくわからないが、彼に助けられたのはこれで二回目だ、悪い人ではないのだろう。それに住むところもない自分にとって、まともな仕事が見つからない以上彼の提案はありがたい限りだ。
ネリーは少し考えたのち「あなたがそう言ってくれるなら…ここで働くわ」と顔を上げた。
ルカは頷くと彼女の頭をくしゃくしゃと撫で軽く微笑んでみせた。その一瞬だけ見せた微笑みにネリーの心は高鳴ったのだった。
彼に案内された二階の部屋のベッドに横になりながらネリーはさっき彼に抱いた気持ちについて思い巡らせていた。
「もしかして…恋しちゃったのかな…」
その日はやっとベッドで寝れるというのに、そんなことや彼の不思議な力について考えていたせいかなかなか寝つけなかった。
「そりゃ、ボロだけど…洗えばそれなりにまだ着れるのに…」
つぎはぎだらけの服を見ながらネリーはため息をついた。
午後、それでも彼女は諦めずに職を求めた。しかし、相変わらずどこも雇ってはくれず…
「はあ…なんか疲れてきちゃった…」
辺りが次第に暗くなる中、ネリーは一番明るい宿場の通りをとぼとぼと歩いていた。
その時、ある宿場の前に立っていた太った大柄の男が「見ない顔だな?宿を探してるのか?」と声をかけてきたので、ネリーは首を横に振った。
「この辺の娘じゃないようだが、どうした?」
「わ…私、今日この町に来たばかりで、仕事を探してるんです…」
男は顎髭をぽりぽりかきながら大きく二、三度頷くと、「なら早く言え」と、ネリーの肩を抱き店の中へと招き入れた。
店に入るなり柄の悪そうな客が酒を飲みながらこちらを指さし汚らしく笑っている。ネリーは彼らとできるだけ目を合わせないようにした。
男は数人の客と言葉を交わし大きな声で笑うとカウンターの所にいた派手な化粧とドレスの若い女性の耳元でこそこそと何か囁くと店の奥にある衣裳部屋にネリーを連れて行き鍵をかった。なぜ鍵までかる必要があるのか?とネリーは少し不審に思ったが今まで着たこともないような衣装を手に取りため息をついた。
「綺麗なドレス」
「どれでも好きな服を選んでいいぞ?」
男は息を荒くしながらネリーの肩を嫌らしく揉みはじめたので彼女はそれからさりげなく逃げるようにドレスを見て回った。
部屋は派手なドレスと空き瓶の入った箱であふれかえっていている。
その時、積まれた木箱の陰からぼさぼさの黒髪の女の子が怯えたような表情でこちらを見たのち「シー!シー!」と口元に手を当て再び物陰へと隠れてしまった。
しかし、それを見ていたのであろう男がぽかんと立ちすくむネリーを押しのけ女の子の隠れた物陰にずんずんと進むと、隠れる彼女の腕を引っ張り無理矢理に引っ張り上げた。
少女は異様なまでに痩せ、男を凝視する顔はひどく怯えていた。
異国の言葉で何かを必死に訴える少女。言葉のトーンや怯えた様子からおそらく助けを求めるものであることがなんとなくわかったが自分にはどうすることも出来ない。
少女はさらに奥の方にある部屋へと引きずられていった。ガタガタと暴れるような音がしたのち、彼女と男のものであろう悩ましい音が響きはじめた。
膝がガクガクとと震えた。ここはきっと売春宿だ。こんな所でなんか絶対働けない。ネリーは後ずさりしながら部屋を出ると、誰とも目を合わせないように店から出て宿場の通りをを足早に切り抜けた。
明るかった宿場とは違い、普通の家の立ち並ぶ通りは暗く人すら歩いていない。多分今は夕飯時なのだろう、家々からは楽しそうな談笑と灯りとがもれ彼女の心を一層暗くさせた。
彼女は今夜宿に泊まる金も持っていなかったので、とりあえず安全に眠れる場所を探すことにした。
ちょうど川に架かる大きな橋に差し掛かかろうとした時だった、暗い夜道で道に段差があることに気付けなかったネリーはそこに躓き派手に転んでしまったのだ。
「痛…」
どうやら足首を挫いたらしい。「どうしていつもこうなの…?」彼女の中で今まで堪えてきた何かがはちきれ涙となってあふれ出だした。
しかし泣いたところでどうにかなるわけでもなく彼女は涙を拭うと挫いた足を庇うように立ち上がろうとした。
その時だった。「お嬢ちゃん?」突然、背後から響いた男の声にネリーはびくりと体を震わせ恐る恐る振り向いた。
こちらを見下ろしていたのは中年の痩せた汚らしい見知らぬ男だ。しかも男はにたにた笑いながら酒瓶片手にふらつく酔っ払いだ。
見知らぬその男に恐怖し後ずさるも、男はよろよろと詰め寄ってくる。
「ほう…なかなかいいじゃないか?ガキを相手にするのは何年ぶりかな…ヒック…」
男はそう言いいながらベルトを緩め酒臭い顔をネリーの方にに近づけてきた。
彼女は恐怖から反射的に男を押しのけ、立ち上がると足を引きずりながら急いでその場から離れようとした。しかし…
「ってなー…このクソガキ…何しやがる!」
怒った男は逃げようとするネリーの手首をすかさず掴みあげると自分の方に引き寄せ、彼女の口を塞ぐと、「大人を舐めるクソガキには躾が必要だなぁ、あ?へへへ、大丈夫だ殺しゃーしねーよ、一発ぶちこませてもらうだけさ」とニタニタ笑いながら抵抗するネリーを橋の下へと引きずって行った。
男は草むらに彼女を押し倒し、体重を乗せ自由を奪ったうえでスカートを腰までまくり上げ露出した足をごわごわした手で撫でさすり始めた。
「たまんねーな」
暗闇でゴソゴソとズボンを下ろしながら男が息を荒げる。もうだめだ…と思いかけたその時だった。鈍い音とともに体の自由が戻った。
上体を起こしすぐ横に目を向けると暗闇の中さっきの男が誰かともみ合っている。そこにいたのは…
「ルカ…?なんでここに…?」
次の瞬間、ルカの拳が男のこめかみに当たり男は勢いよく弾き飛ばされ地面に激突した。
「悪いがうちの使用人に汚い手で触れないでくれるか?」
倒れたまま動かなくなった男に彼はそう言うと、呆気にとられ座り込むネリーに手を差し伸べてきた。
「大丈夫か?」
「大丈夫…だけど、どうしてここに…」
「気まぐれだ」
彼の差し出された手を掴みネリーは挫いた足をかばい立ち上がる。あんなに嫌だった彼の横顔と手のぬくもりに安心し彼女の瞳からはまた大粒の涙が流れ落ちた。
と、その時、硝子の破れる音が二人の背後で響いた。
「クソガキどもが舐めくさりやがって!殺してやる!」
さっきまで倒れていたはずの男が割れて鋭く尖った瓶を片手に凄い勢いで突進してきたのだ。
今度こそ本当におしまいだ…私のせいでルカまでもが巻き込まれてしまう…しかし、その時何かが起きた。
「あれ?何だ?動かねえ…クソが!動けよクソ!」
突進してきた男の動きがぴたりと止まったのである。男は必死に体を動かそうとしているようだが体はびくともしない。そして次の瞬間、男の握り締めていた瓶は亀裂が入るような鈍い音とともに一気に弾け粉砕してしまったのである。
「ひいぃぃぃぃっ!!」男の顔がみるみる恐怖に歪む。
ルカの方を見ると、男を睨みつけながら何かを小声で唱えている。彼女は今朝あの怪物から助けてもらった時のことを思い出した。
彼は私みたいな普通の人間には想像もつかないような力を使っているのだ。ネリーはそんなルカから目を離せないでいた。
それからすぐルカの口が閉じるとともに男の体の自由も戻り、男はどさりと地面に尻餅をついた。
「もう懲りたろ?それともまだやるのか?」
「い、一体何を…ばっ!化け物ー!!」
冷静な口調でそういうルカとは打って変わって、男は顔面蒼白で後ずさりながらそう吐き捨てると、一目散にどこかへ走り去って行った。
ちょうどその時、彼らのいる場所から川を挟んだ橋のたもとで月の光に照らされ一人の男が姿を現した。闇に隠れるような黒いマントに身を包んだ謎の男はフードを深くかぶり見るからに怪しい感じの人物だ。
「やはりあの娘だったか…」
自分の存在になど気付いてないであろう二人に男はそう呟くと、薄笑いを浮かべ夜の闇へと消えて行った
ルカはまだ震えているネリーを家まで連れて帰ると、とりあえず椅子に座らせ肩に毛布をかけてやった。
「何か食べるか?」
鍋の蓋を開け、多分何も食べてないであろう彼女を気遣うようにルカが言う。
「………」
もし彼が不思議な力を使えなかったら、あの時どうなってたことか…ネリーは申し訳なさから顔を伏せたまま首を横に振った。
ルカは「そうか…」と一言いうと、今度は棚をガサゴソとあさりだし、お茶の入った瓶を取り出すと慣れた手つきでお茶を入れ始めた。
甘いリンゴのような香りが辺りに漂いなぜか心が落ち着いてきた。
「これを飲んだらとりあえず二階の角部屋が空いてるからそこで寝るといい」
「でも…私…お金持ってないし…」
差し出されたお茶を受け取り、昨日のことを思い出し顔が熱くなってくる。
「代金は取らないよ…昨日は本当悪かった…その…暗くてあまり見えなかったから気にするな…悪かった…」
彼の言葉にさらに恥かしさが増し、ネリーは手のひらの中のお茶よりも熱くなってしまったかのような顔を伏せるのだった。
「…それに…今出て行った所でさっきみたいな変態の餌食になるだけだろ…?これは僕からの提案なんだが、住む所が見つかるまでうちで働いて資金を稼ぐってのはどうだ?働くといっても雑用程度だから君にもできることだし、君にとっても変な店に足を踏み入れるよりは安全だろ?」
「もしかして…ずっと見てたの…?売春宿に入ったこととか…」
「まあ…少しな…見てたのは…気まぐれでだ」
気まずい沈黙を破るようにルカは咳ばらいをすると、再び真剣なまなざしで「それで?君はこれからどうするつもりなんだ?」と問いなおした。
彼が何者なのか、どんな人間なのか、果たして人間なのかもよくわからないが、彼に助けられたのはこれで二回目だ、悪い人ではないのだろう。それに住むところもない自分にとって、まともな仕事が見つからない以上彼の提案はありがたい限りだ。
ネリーは少し考えたのち「あなたがそう言ってくれるなら…ここで働くわ」と顔を上げた。
ルカは頷くと彼女の頭をくしゃくしゃと撫で軽く微笑んでみせた。その一瞬だけ見せた微笑みにネリーの心は高鳴ったのだった。
彼に案内された二階の部屋のベッドに横になりながらネリーはさっき彼に抱いた気持ちについて思い巡らせていた。
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