魔術師の仕事

阿部うりえる

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3章

7 訪問者

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ルカの親友ゲルハルトの突然の訪問にネリーは朝からいつもより手の込んだスープやサラダなどを作っていた
「二人ともまだ寝ているのかな…?」
ネリーがそう呟きながら鍋を混ぜていると、音もなしに現れた誰かに突然後ろから抱きつかれた
「きゃ!」
驚いたネリーは持っていた杓子を取り落としそうになったが、大きくて華奢な手が彼女の手を握ったので間一髪落とさずにすんだ
「驚かせて悪かったね、おはようネリー」
彼女が後ろを振り返るとそこには彼女の顔を間近で見つめ笑いかけるゲルハルトの姿があった
「あ…」
ネリーは彼が別人であるとは分かっていても夢の男と酷似している彼にあらためて恐怖を感じ離れようとしたが、彼は杓子を握るネリーの手を握ったまま鍋のスープを底の方からかき混ぜると一さじすくってそれを自身の口に運んだ
「んー美味しい、ルカは幸せだな…こんな美味しいものが毎日食べれて
ゲルハルトはスープを飲み込むとネリーの耳元で静かにそう呟いた
ネリーは耳元にかかる彼の吐息に緊張しカタカタと震えた
「べ…別に私が毎日作ってるわけじゃないんです…どっちかというとルカの方が料理は上手で…でもお口に合って良かったです…
あ…あのルカはまだ寝てるんですか?」
緊張のあまり声が上ずってしまうネリー
「ああ、あいつならまだ寝てるよ
昨夜は久しぶりの再会もあって話に花だ咲いてね、夜遅かったんだよ」
ゲルハルトは緊張から固まったままのネリーを後ろから抱きしめたまま彼女の頭を撫でながらそのような作り話を言う
ネリーは彼に撫でられることに妙な安心感を覚え気持ちを落ち着かせたが、次第に頭がぼーっとして何も考えられなくなってしまった
そして…
「お…とう…さま…」
まるで彼女の意思ではないように開かれた口からはそのような言葉が飛び出した
「!?いまなんて…」
ゲルハルトはうつろな目でぼーっとするネリーを驚いたように覗き込む
しかし、彼の言葉に我に返ったネリーは自分を覗き込む彼に顔を赤らめると
「あ…ごめんなさい…なんかぼーっとしちゃって、私何か失礼なこと言っちゃったんじゃ…あの…あとそろそろ離してもらえると助かります…」
どうやらネリーは一瞬記憶をなくしてしまっていたようだ
彼女が恥かしそうにそう言ったのでゲルハルトはフフと笑うと、顔を真っ赤にして困り果ててるネリーから体を離してやった
ネリーはふうと大きく息を吐きながら近くの椅子に腰かけると、まだ紅潮する顔を伏せるようにゲルハルトに話しかけた
「そう言えばゲルハルトさんってルカと同じ魔術師なんですか?」
ルカと話の合う人が普通の人なはずはないとネリーはゲルハルトに聞いてみる
「うーん…まあそんなところかな?彼に魔術を教えたのは俺みたいなもんだし」
にこにこしながらゲルハルトが言う
「やっぱり!すごい!じゃあルカの師匠なんですね!いいなぁー私も教わりたいなー」
身を乗り出し目を輝かせながらネリーが言う
それを聞いたゲルハルトはにこいにこ顔を一変させ鋭い目つきでにやりと微笑むと彼女の顎をくいと持ち上げた
「教えてあげてもいいが、君はその代償に何を支払うんだ?」
彼女の瞳の中をじっと見つめるにやついた目はまるで全てを見透かしているかのようでネリーは恐怖を覚えた
「代償…?あ…あの私お金まだ少ししかなくて…」
怖くなったネリーはその視線から目をそらし言う
「何も金銭を要求してるんじゃない、そうだな…例えばその体で…」
ゲルハルトがネリーの胸を指さしながら言いかけたその時
「駄目だ!」
いつの間にか下に下りてきていたルカが慌てたように二人の間に割って入った
「ルカ!?」
ネリーはホッとするとともにルカの慌てように驚く
「ネリーは僕の弟子だ、僕が彼女に教える
おまえみたいに高くつくやつの弟子は僕だけで十分だろ!」
ルカはゲルハルトに詰め寄りながら怒鳴りつけるように言った
「はあ…いいとこだったのに…ネリー、師匠を変えたくなったらいつでも歓迎するよ?」
そのように言うゲルハルトはさっきまでのにこにこ顔だ
「はあ…あ、みんな揃ったことだしご飯にしましょうか?」
ネリーは気まずそうにそう言うと食器を取り出しスープをよそった
さっき一瞬見たゲルハルトの怖い表情が気になりはしたものの彼の微笑みに微笑みを返しネリーはそのことを心の奥へとしまい込んだ_____

午後、洗濯を終えたネリーはルカに買い出しを頼まれたので一人市場に来ていた
(はあ…ゲルハルトさんからルカの事もっと聞きたかったんだけどな…)
ネリーは支払いをしながらため息をついた

その頃ルカたちはというと…
「おまえ!どういうつもりだ!」
ルカはゲルハルトの胸ぐらを掴んで壁に押し付ける
「どうって…彼女が魔術を習いたいっていうから親切心でだよ」
ふざけたようににやつきながらゲルハルトが言う
「ネリーはおまえが悪魔だと知らない!そしておまえがどんなふうに気まぐれや対価と称しこっちの都合も関係なく人を扱うのかも知らない!なぜそんなに彼女に執着するんだ!?」
ルカは怒りに顔を歪めながらゲルハルトに問う
しかしゲルハルトは余裕の笑みをたたえながら彼を見つめ
「おまえがそんなに執着する女だからだ」
と言った
ゲルハルトの言葉にルカはぶわっと顔を赤らめる
ルカは悔しそうに舌打ちをするとゲルハルトの服を放した
「どうした?何をそんなに動揺する?昨日の誓いはもう破られたのか?」
ゲルハルトは彼の腕を掴みあげると服をまくりあげ印を確認し彼を引き寄せキスをした
「止めろ…」
ルカは涙を流しながら彼にされるままにベッドに押し倒され力なく抵抗した
「おまえは俺のおかげで今もこうして生きていられるんだ
もしあの時俺と契約していなかったら?おまえだって魔女として捕らえられ殺されていただろ?変態審問官のおもちゃにされた後にな」
ゲルハルトはそう言うと嫌がるルカの服を脱がせ始めた
ルカは彼に抵抗することができない、なぜなら悪魔との契約は絶対で逆らうことや、契約放棄も自分の死を意味することになるからだ
行為は彼が失神し疲れて眠りにつくまで行われ続けた
「寝たのか…?」
ゲルハルトは耳元で指を鳴らし完全に眠っているのか確認すると裸の彼にシーツを被せ、自分は服を着ながら本棚の方へと目を向けた
あの短剣が置かれてある場所だ
彼はそれの収められている箱を確認するとにやりと微笑んだ
「これはおまえたちにはふさわしくない物だ…」
ゲルハルトはそう言いながら箱に手を伸ばす
しかし次の瞬間、箱と彼の間に火花のようなものが散って彼の手に深い火傷を負わせた
「!!…やはり俺では駄目なのか…ゾフィア…俺は諦めないからな…」
ゲルハルトは火傷した手をかばいながらそのように言うと黒い霧となってどこかへ消えてしまった_____

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