魔術師の仕事

阿部うりえる

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4章

6 ハーメルンの悪魔

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ほどなくして街に出たルカとネリーは人形が悪魔に反応するまで街中をウロウロしていた
「なかなか反応しないね…まあ、もう現れないならそれに越したことないんだけど…」
ネリーはため息をつきルカのポケットから顔を出す人形を見ながら言った
「まだ0時になったばかりだからな…」
ルカはそう言うと近くの石段に腰を下ろした
「悪魔を見つけたとしてそれからはどうするの?こんな街中で払ったら人に見られちゃうかもよ?」
ネリーが心配そうにルカに聞く
「悪魔だって生身の人間を連れてそんな人の多く集まる場所になんか行かないだろ?
この身代わりが奴の手に渡って人形だとばれるまでには数時間の猶予があるからそれまでに奴の隠れ家を探せればいいだけのことだ」
ルカは人形をポケットから取り出すとそれを見つめながら言った
「悪魔は子供をさらってどうするんだろう…」
ネリーはルカの隣に腰かけると膝を抱え考え込んだ
「さあな…」
ルカが人形をしまおうとしたその時、人形が彼の手をすり抜け宙に浮きあがった
「人形が…」
そのことに驚いたネリーがルカの方を見たら彼は黙ってそれを見上げているだけだった
次の瞬間、人形の体が溶けるように消え出し完全にその場からなくなってしまった
「行くぞ」
ルカはそう言うと立ち上がりある方向へと走り出した
「あ、ルカ待ってよ!」
ネリーは彼の後を見失わないように急いで追いかけた
どうやら胸に描いた印のおかげででルカには人形がどこにあるのか分かるらしく、彼は迷う様子すら見せず町外れの森まで一気に走り抜けた
「はあ…はあ…どうやら…この辺だ…おい、ちゃんとついて来てるか?」
ルカは近くの木にもたれかかり息を整えたながらネリーが来ているかを確認した
「はあ…こんな森の中に…?」
少し遅れて来たネリーもまた息を切らせへなへなと座り込んだ
「もうすぐだ…立てるか?」
ルカはネリーに手を差し出し立ち上がらせると暗い森を印の導くままに進んで行った
しばらく歩いたころルカはツタで覆われ一見洞窟には見えない洞窟の前で足を止め、この中だとネリーに指で合図してみせた
彼らは顔を見合わせ頷くと意を決し中に入ろうとした
その時、後ろから誰かに肩を触られたネリーは驚きのあまり声を出しそうになったがその誰かにすぐさま口をふさがれたので中にいるであろう悪魔に気付かれずにすんだ
ネリーが後ろを振り向くとそこにはゲルハルトの姿があり、そのことに気付いたルカは呆れたようにため息をついたが、悪魔であるゲルハルトがネリーに触れていることに気付いたルカはひそひそ声でネリーに
「おまえ、護符はどうしたんだ?」
と聞いた
「え?ここに…あ…忘れてきたみたい…」
ポケットの護符を確認するも忘れたことに気付いたネリーは青ざめながら同じく小さな声で言った
「はあ…おまえな…」
ルカが呆れかえる
「おまえたちの事は俺が命に代えてでも守るから安心しろ」
ゲルハルトはおろおろするネリーを抱きしめると彼女の耳元でひそひそと囁いた
「おまえなあー…大体おまえはナベリウスを探してたはずだろうが…もしかして…」
ルカは辺りをきょろきょろと見ながらゲルハルトに言う
「ああ、もしかしなくても奴はここにいる…
そして今回おまえが用いた術は奴には通用しない…それにほら、奴はもう俺たちに気付いてる」
ゲルハルトがそういい終えないうちにルカたちの方に何かが投げ捨てられ草原に転がった
「あ…あの人形…」
ネリーはそれを見て青ざめた
「全く、やっと気が付いたのか?」
木の上から何者かの声が三人に言った
「ナベリウス…」
ゲルハルトがそう呟くとその何者かは木から飛び降りルカたちの前に進み出た
月明かりに照らし出さたその男は漆黒の長い髪を後ろで束ね、闇の中でもはっきりわかるような赤い瞳をぎらつかせ尖った耳といったように、人間ではないことはネリーにですら分かった
「悪魔…なの…?」
ネリーはゲルハルトの腕の中身を縮め言った
「ん?おまえは…ああそういうことか…」
ナベリウスはネリーを抱き寄せていたゲルハルトの存在に気付くとにやりと笑った
「契約者の姿が見えないようだが?」
ゲルハルトはネリーを離し立ち上がるとナベリウスの前に進み出ながら殺気を漂わすように言った
「待てよ、悪いが今日はおまえらと戦うつもりで来たわけではないんだ
ただ我が主の敵になりうる相手がどんな奴なのか見てみたくてね」
ナベリウスはルカを見ながらそのように言った
「………」
ルカは不気味に微笑むナベリウスを黙って睨みつけた
「あなたが街の子供たちをさらった悪魔なの?いったい何が目的で…」
ネリーが恐る恐るナベリウスに聞く
「それは少し違うな、まあ私が頼まれたことではあるが私は人さらいなんて悪趣味なことには手を染めたくないんでね…私の部下に命じてやらせたのさ
ちょうどこの町の伝承に出てくる笛を見つけたからそれを使ってね
裏の世界では子供は高値で売れるから目的なんてそんなものだろ?」
ナベリウスは失笑しながらそのように言う
「そんなのって…酷いよ…」
ネリーはショックをうけへなへなと座り込んでしまった
「そうだ、実はこの洞窟の中にまだ部下がさらった子供が何人かいるんだ
彼らの事は連れて帰ってもいいが、その前におまえの力を少し見せてもらおうか?」
そう言ってナベリウスが指を鳴らすと空から笛の音とともに奇妙ないでたちの男が彼らの前に舞い降りた
「我が名はアリエル、またの名をハーメルンの笛吹き、術者よいざ勝負」
アリエルと名乗る悪魔はそのように言うと片手に持っていた笛をおもむろに奏で始めた
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