魔術師の仕事

阿部うりえる

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4章

5 ハーメルンの悪魔

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一方ナベリウスはというと不気味に笑いながら闇夜に溶けるように消え去ってしまった
「ルカ!どうしよう…」
「ゲルハルト、ネリーを頼むこいつは僕が地獄へ送り帰す」
ルカはアリエルを睨みつけながらそのように言うと、ポケットから聖水を取り出し地に円を描くように撒くと呪文を唱え始めた
ネリーはゲルハルトにかばわれるように抱かれていたが聞こえてくる笛の音で気分が悪くななり意識を保つのがやっとだった
ルカは平気のようだ、きっと円の力で守られているのだろう
そのことに気付いたアリエルは鋭い眼をうっすら見開くと舌打ちとともに曲調を変え演奏しだした
すると森の木々が鈍い音を立てきしみ地響きとともに地面から根こそぎ堀あげられた木が宙に浮かんだ
浮きあがった数十の木は先端は瞬く間に鋭く尖らされルカの方に向けられている
「ルカ…逃げ…」
それを見ていたネリーはもうろうとした意識の中彼に呼びかけたが、木はものすごい勢いでルカに襲い掛かってきた
土埃が視界を遮り、物凄い音と地響きが辺りに響いた
「ルカー!!」
ネリーが青ざめ叫ぶ
「不味いな…今の音で人が集まるのも時間の問題だぞ…」
ゲルハルトは自分の腕の中でもがくネリーを抑えながら辺りを警戒するように見回した
土埃が晴れるとそこには立ち続けるルカが姿が…
「ルカ!よかった…」
どうやら彼は作り出した結界のおかげで無事だったようだ
ネリーはホッと胸を撫で下ろしたが、彼の右頬から滴り落ちる血を見て息をのんだ
血は彼の頬を伝い地面に滴り落ちる
どうやらかなり深く切り込んだらしい
「ほう…この攻撃もかわしてしまうとは…術者よなかなかやるじゃないか?
しかしかわすだけで私には攻撃も仕掛けられないなんてぶざまなものだな、それに見ろ、その結界は血で汚れもう使い物にはなるまい
私が奏でる次の演奏の後おまえは生きたままネズミのエサになるのだ」
アリエルはそう言うと今度は耳障りな曲を奏で始める
頭の中に響いてとても痛い、ネリーは苦しさから耳を塞ぐ
その音色に誘われるようにどこからともなくネズミが一匹また一匹と集まり始め次第に群れになりはじめた
「ネズミが…」
足の間を通り抜けていくネズミを見下ろしネリーが不安そうに呟く
「ハーメルンの伝承の真似ってわけか、悪趣味な奴だ」
ゲルハルトは震えるネリーを自分の方に引き寄せ舌打ちをする
ルカは役に立たなくなった円から外に出ると、耳を塞ぎながら急いで近くの木に回り込み何かをし始めた
その姿が悪魔には彼がネズミの群れから逃げ惑っているようにも見えたのでとても愉快そうに演奏を続けた
演奏がリズムを速めてくるとともにネズミたちは興奮していった
そしてその中の一匹が動き出した途端群れは一気に彼めがけ襲い掛かってきた
「止めて―!」
ネリーはゲルハルトの腕の中もがきながら叫んだ
その時、ネズミの群れが一斉に方向転換し笛を奏でるアリエルめがけどうっとなだれ込んだ
アリエルはその際笛を取り落としてしまい、体にまとわりつくネズミを引き離そうと地べたを転げまわった
ルカはアリエルの方を向き直ると大きく息を吸い込み呪文を唱え始める
すると地面に巨大な魔法円が浮き上がりその中から触手のようなものが出てきて悪魔の体を縛り上げた
「なぜ!?なぜだ!!」
アリエルは身じろぎしながら悔しそうに叫ぶ
「僕がただ結界をはっておまえの攻撃を回避してただけだと思ったのか?
あれはおまえの術をおまえにはね返すための準備だったともっと早くに見破るべきだったな」
ルカはそのように言うとアリエルを縛る魔法円の外に出て再び呪文を唱え始めた
「我は汝悪魔アリエルを神の定めしその日まで地獄の深淵へと繋ぎ留めん
汝無間地獄よ、直ちにこの悪魔をその内にのみ込みたまえ」
ルカがそのように言うと悪魔は絡みつく触手に引っ張られるように魔法円の中へと消えていった
魔法円が跡形もなく消えた場所には大量のネズミの死骸と二つに割れた笛だけが残った
「これでもう大丈夫だろう…」
ルカが壊れた笛を取り上げ言う
「ルカ!」
ネリーはゲルハルトの腕をすり抜けるとルカの方に駆け寄り抱きつき泣き出してしまった
「ネリー?」
ネリーの取り乱しようにルカは目を丸くして驚いたが、ふふと笑うとなだめるように背中をさすった
「おい、こっちに来てみろよ!」
その時ゲルハルトが洞窟の中から二人に呼びかけた
洞窟の中には数十人のさらわれた子供たちが眠った状態いるのがで発見された
しばらくしてさっきの音で何事かと集まってきた人々にゲルハルトがお得意の作り話を話して聞かせたのでルカたちはその場にいたことを人々に疑われずにすんだ
その後子供たちは無事親元に返され、この笛吹き男騒動は幕を閉じたのだった
それから彼らは市長の家で行われた事件解決の晩餐に招待されたためそこに一泊したのちハーメルンの街を後にした_____
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