魔術師の仕事

阿部うりえる

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5章

5 放たれた刺客

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「大丈夫だ気を失ってるだけだ…」
ルカが駆け寄り男の上体を起こす
「おい運ぶぞ、手伝え」
「ああ」
ロジーナとは離れた茂みにとりあえず彼を寝かせ俺は一息ついた
いろいろ言い訳作りが必要だというとは重々承知らしい
「さあ、何があったのか話してもらおうか?」
ルカはロジーナの近くに腰を下ろすと俺に鋭い視線を送った
真実を話すわけにはいかない…
「ナベリウスの仕業だ…俺たちを殺す気だ」
俺は少し話を盛った
あいつが狙うのは俺だけだ
「あいつが…?僕らに執着する理由はなんだ?」
「さあな、さっき酒場で会った時は自分の契約者の興味でとは言っていたが…」
「そうか…そう言えばさっきの封印した奴は前に会った事があるような気がするんだが…あの時とは力が違っていた…あの力も術者の命令でナベリウスが与えた力なのか?」
「だろうな」
やはりこいつも感づいていたか…
あれはナベリウスの与えた力に間違いない…しかし術者の命令と言うよりはナベリウスの意思だろう
いずれにしてもあの短剣の事を奴はもう知っている…
どうやらルカは肌身離さず持ち歩いてるようだが…これがここにある以上、狙われるのは俺だけとは限らない
「そうか…ところでおまえ、妹には手を出すなと言ったはずだぞ?」
ルカがゲルハルトに詰め寄り言う
「出しかけたが、ちょうどいいとこで邪魔が入ってできなかったさ
それにしても、おまえには助けられたよ、このお礼はたっぷりしてあげなきゃな」
彼の顎をくいと持ち上げゲルハルトは悪戯っぽく微笑んだ
「ルカ―!!」
その時、遠くからネリーの僕を呼ぶ声が聞こえたので僕はその手を叩くように払いのけた
「ルカ!え!?ロジーナ!?どうしたの!?さては…ゲルハルトさん!彼女に何したんですか!?」
「違う彼じゃないんだネリー、悪魔だ、ほら伯爵家で逃した奴がいただろ?あいつが違う人間に憑りついて襲って来たんだ
ちなみに彼は気を失ったからそこの藪の中に隠してある」
「あの悪魔が…大丈夫なの…?」
「今度はちゃんと払ったから安心しろ」
僕は不安がる彼女の肩を抱いて言い聞かす
「実はその憑りつかれたやつってのは彼女の旦那で、まずいことに彼女は俺の使った術を目撃してしまったんだ
ルカの仕事にせよ俺の仕事にせよ彼女には話してない…だから今から一芝居打つから君も協力してくれるな?」
ネリーが真剣な表情でこくりと頷いたその時、気絶していたロジーナが目を覚ました
「よかった、気付いたか?」
僕はロジーナの手を握りほっと一息つく
さて…なんて言い訳する?
ゲルハルトはああ言ったがこいつは力をもろに見ている筈だ…
こればかりはゲルハルトの作り話に頼るしかなさそうだ
「全く、大丈夫かロジーナ?俺のあれを見たとたん気絶するからほんと驚いたよ」
な…!何を言うかと思ったらこいつは…馬鹿か!?
ルカとネリーは顔を赤くしなが呆れたように顔を見合わせた
「そんなんじゃないわ…エーリッヒが居たの…彼私に怒っていた…いつもすごく優しいのに…彼が手をあげた瞬間何か強い風が吹いて…すごい衝撃だった気がする…それからは覚えてないけど…」
やっぱりダメか…もう本当の事話すしかなさそうだ…
僕が諦めたように口を開きかけたその時
「俺と一緒にいるときでも、罪悪感からここにいない筈の彼の幻影を見るくらいに彼の事が好きなんだろ?
なら答えは出ているじゃないか?」
「…じゃあ…あれは…私が見たのは幻なの…?」
普通の人間から見たらわけの分からない力なんてそう済ますのが普通だ
ロジーナは少し訝しげに思いながらもこくりと頷くと立ち上がった
「私、帰るわ」
はあ…どうやらうまく説得できたみたいだ…
こいつの無駄過ぎる饒舌っぷりに助けられ僕はネリーと顔を見合わせ安堵した
その後、僕は用事が出来て遅れないと嘘をつくとゲルハルトとネリーにロジーナを頼み茂みに隠した彼が意識を取り戻すまで見守った
しばらくして意識を取り戻した彼に僕は強盗に襲われて意識をなくしていたのだと嘘の説明をした
彼は金をとらない強盗ってのもあるのかと小首をかしげたので僕は「新手のやつに引っかかったんでしょうね」と笑い彼女が帰った事を彼に告げた
これで一先ず安心か…
それにしても、あのナベリウスという悪魔とまだ姿を現さない彼の術者…彼らの狙いは何だ?
笛を破壊された報復か?伯爵家の悪魔を使役したのが彼だとすると…この剣に関係することは確かだろう…
彼女ならこの手の事には詳しいだろうか…?
僕は13の時から付き合いのある精霊使いの女性の事を思い浮かべた
当時あいつからうける恥辱に一人泣いていた僕を自分の元に招き様々な知恵を授けてくれた僕の恩師
毎年秋の終わりに彼女の元を訪ねている
その時に聞いてみた方がよさそうだ…
僕は短剣をしまうとネリーとゲルハルトの待つ家へとその歩みを進めた
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