願いがかないますように… （ダーク版） 別バージョン

6 最後の願い

あの嵐の夜、王子は、船から落ちたのではなく、自ら海に飛び込み自殺を図った事。

 浜辺で助かったことにより、さらに苦しみが増し、死ぬこともできなくなった事。

 美貌の王族を他の国に売ることでこの国が成り立ちっている事。

この事実は諸外国の王族のみが知る事で、国民は、もちろん、王族の子供たちさえ成人するまで、教えられずに育てられる事。


 明日、王子は、隣の国の王女に買われて結婚式をあげます。

 私は、恋の成就ができなかった為、夜明けと共に海の泡となって消えてしまいます。

 姉たちは、あの美しい髪と引換に魔女から王子を殺せば助かるからと短剣を渡してくれました。

でも、私には王子を殺すことは、どうしてもできません。

 王子の全ての苦しみは、私が助けたことによってもたらされたのです。

 例え本人が望んでいた事でも、彼を害することは私にはできない事でした。

 時間が戻せるならと何度願ったことでしょう。

けれど、もう、時間がありません。


どこかの時代の王子の子供たちへ

 もし、この手紙を見つけたなら。
どうしても逃げることができない時は。
 満月の夜に、この指輪を海に投げてください。




 声と引き換えに願い事を叶えてくれると海の魔女は言いました。

 恋が成就しなければ海の藻屑となってしまうよ。それでもいいのかい？と。

 王子のそばにいたかった私は、後先も考えず飛び付いてしまったけれど。

もし、もしも、恋が成就することなく消えていくことになった時は。

その時は、その消え行く命と引き換えに一度だけ願い事を叶えてくれると。

この指輪を満月の夜に海に投げ入れなさい。と。

この指輪をくれました。

あの優しい魔女は、生きのびる最後の手段を残してくれたのです。


 最後の最後までやさしい人。

 私は、そんな彼女の優しさを裏切ってしまう。
 姉たちの想いを裏切ってしまう。

 許してください。





この指輪を、王子の子供たちに残していきます。

どうか、幸せになってください。

それが私の最後の願いです。