義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

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義姉妹の学校生活

ご褒美ください

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 てんちゃんと向かい合って正座する。
 ノート、教科書、オレンジジュース。
 勉強の準備は万全だ。

「準備完了したので勉強おしえて」
「じゃあまず、お姉ちゃんの頭の出来を測りましょう!」
「なんかその言い方失礼じゃない?」
「まぁまぁ。……えっとー、まずは数学ね。『7-10』はなんでしょう!」

 なな引くじゅう。
 答えがゼロ以下になる引き算か。
 えっとー。たぶん──

「マイナス3?」
「ぴんぽんぴんぽーん!」

 てんちゃんはぱちぱち手を叩きながら、クイズ番組みたいなノリでそう言う。

 だけど、意外と私もできるじゃん。
 これなら案外早く、ほかの人たちに追いつけそう。

「やったー。つぎの問題ぷりーず」
「おっけー」

 てんちゃんは数学の教科書をペラペラとめくり、良さそうな場所を見つけたのか、めくる手を止め、一つの問題の指差し、私に教科書を差し出してきた。

「よし。じゃあ、『x+5=2』は?」
「ん?」

 一瞬、思考が停止する。
 えっくす?
 えっくすって、あのえっくす?
 ばってんのやつ?

「あーやっぱり、ここは難しいかー」

 やっぱりねーという風に言うてんちゃん。
 私は、てんちゃんが教えるところを間違ってるのでは無いかと思って問うてみる。

「それってちゃんと数学?」
「え、うん。めっちゃ数学」
「なんでアルファベットが出てくるの? 数学と一緒に英語も学ぼうという教育者側の魂胆だったり?」
「違うと思うけど……いや待って。小学校の算数でも図形で点Aとか出てなかった?」
「確かに。言われてみれば……」

 ……小学校。
 その言葉の響きを聞くと、嫌なことを思い出す。
 一瞬だけ、その過去がフラッシュバクするようだ。
 それは、もちろん私を不登校に追いやった、あの出来事だけど。

 まぁ。だから、てんちゃんは凄い。
 そんな私の嫌な思い出を、忘れさせるくらいの人だから。
 私を学校に行く気にさせたのだから。

 顔を見るだけで、こんなに安心感を与えてくれるって。本当に凄い。
 というか、恋って凄い。
 凄い凄いってずっと連呼してるけど、本当に凄いんだから仕方ない。

 今、てんちゃんの顔はどんな顔?
 ふと気になって、
 教科書に向けていた目を、てんちゃんに向ける。

「どしたの。まぁ、楓先生が詳しく教えてあげる! えっとね、これは方程式って言ってね──」

 やっぱり。
 美人で可愛い。
 その二つの欲張りセット。

 それを私は今、独り占めにしている。


※※※※※※


 今の時間帯は、いつの間にか夕刻。
 今は、英語の教科書の問題を解いている。
 ……楓先生の教え方は、決して分かりやすいと言えるものではなかった。

「お姉ちゃん」
「なーに?」
「飲み込み早くない? もう最後のページだよ」
「割と、覚えやすかった。私って、もしや天才かも」
「うん。意外とその通りなのかもしれない」

 私は、シャーペンを動かす手を止めずに会話をする。
 自分でもびっくりだけど、スラスラ解けて楽しい。
 てんちゃんがいるから、いいとこ見せたい自分がいるのかも。

 やがて、解き終わり。
 解答を書いたノートをパッと広げて、てんちゃんに差し出した。

「……よし! 終わった。どう?」
「どれどれ。……合ってる。合ってる。……全部まるなんだけど」
「私、頑張りました!」
「これは。素直に感心。えらいえらい」

「よし。そういうわけなので、ご褒美ください」
「どういうわけ⁉︎」

「撫でて。……ん」

 なんか言ってるけど、私は気にせずに頭を差し出す。
 頑張ったのだから、これくらい求めてもいいだろう。
 ハグよりかは、だいぶランク下がったと思うし。
 てんちゃんもやりやすいだろう。

「もう。しょうがないなぁ」

 妹を見るかのような声。
 たまに、私が妹扱いされるのはなんなのだろう。
 これに関しては、私の気にしすぎ?
 でも、その声には、心なしか嬉しさが混じっているように思えた。

 ぽんぽん。

 柔らかい手が触れる。
 髪を隔てているのに、それを感じる。

 あぁ。いいなぁ。

 今の時間は幸せだ。
 心の底から思う。

 てんちゃんも、こういうこと求めてくればいいのに。
 今日のハグみたいに、ちょっと怖いのは嫌だけど。
 てんちゃんは妹なんだから、もっと甘えても別にいいと思うけどな。

「よし、これくらい撫でれば十分でしょ!」
「だめ。あと一時間」
「……あと三分ね」
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