義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

文字の大きさ
上 下
67 / 86
義姉妹の夏休み

きがえれない

しおりを挟む
 ロッカールームへと足を運ぶ。
 さっきの服をもし買うってことになったら、私はそれを毎日着ることになるのだろうか。それは恥ずかしいな。
 家の中で着るのなら、まぁいいけど。

 お姉ちゃんは、どこか期待に満ちた表情をしている。
 ……お姉ちゃんには、そういう着せ替え趣味があるのだろうか。
 などと思いながら、複数あるロッカーの一番端っこのやつに入る。
 別に他のロッカーが全部使用済みというわけじゃないけど、端っこはなんとなく好きなので、そこを選んだ。

「じゃ、着替えてみるから。ちょい待ちね」

 カーテンの隙間からひょこっと顔を出し、買い物かごを持ったお姉ちゃんに呼びかける。

「ん。わかった」
「じゃーねー」

 シャッと、カーテンを閉めた。
 そして姿見に向き直る。
 服をパッと広げて、改めてどんな服か確認してみる。

 ……うーん。
 やっぱり、どうも可愛すぎるんだけど。
 夢の国の子供が着てる服みたいな感じだ。
 でも。サイズはぴったりっぽい。
 まぁ、一応着てみるけど──

 ──シャッ。

 あれ?
 鏡に、カーテンを開けるお姉ちゃんが写っているぞ。
 これはなんだ。

 あれ。
 今度はこのロッカーに侵入してきたぞ。
 律儀に靴も脱いじゃって。
 カーテンも閉めちゃって。
 これはなんでだ。

「お、お姉ちゃん? 狭い。というかまだ着替えてないんだけど」

 距離が近い。
 もはやこれは密着と言える。

「どうぞ。お着替えを続けてください」
「いやいや、着替えれないよ。見られてると、恥ずかしいし」
「見たいからここにいます。どうぞ、続けてください」

 んー。
 無茶苦茶だ。
 家でならいいけど、こんな場所だし。

「出てけー! じゃないと変態認定するよ!」
「それでいいので、はい。どうぞ」

 いやよくないから。
 と、強引にお姉ちゃんを追い出そうとしたら、

「なにかお困りですか?」

 不意にカーテンの向こう側から飛んでくる女性店員の声。
 少し肩がビクついた。

 やましいことなんてしてないけど、なんか二人いるってバレたら変に思われるかもしれない。

「な、なんでもないです!」
「邪魔しましたね。ごゆっくりどうぞー」

 足音が遠ざかる。
 良かったと安堵しながら、今度は小声でお姉ちゃんに話しかける。

「お姉ちゃん。でてって」
「やだ」

「でなさい」
「でません」

「じゃないとこの服着ないよ?」
「でます」

「素直でよろしい」
「はぁーーーー」

「あからさまな溜息をくのはやめてもらおうか」
「やめますやめまーす」

「そんな不服ですか」
「そんなんじゃないですけど」

「というか、窮屈でお姉ちゃんいると着替えが──」

「なにかお困りでしょーか?」

 またまた突然、さっきとは違う声の店員さんが呼びかけてきた。
 ……そんなうるさくしてる?

「なんでもありません!!」

 全力で否定する。

「ごゆっくりどうぞ~」

 またまた足音が遠ざかる。
 よし。ちゃんとお姉ちゃんに言って、出て貰わないと。

 私は、近すぎる距離のお姉ちゃんに、顔をずいと寄せて──。

「え、てんちゃん、キス? こんなところで、てんちゃん大胆なんだから」
「ちっがーーーう! 出てけー!」

 大声で訴える。が、
 またまたまた、向こう側から足音が──

「なにかお困りですか?」
「なんでもございません!」
しおりを挟む

処理中です...