義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

文字の大きさ
上 下
76 / 86
義姉妹の夏休み

向かう道中

しおりを挟む
 前に遊びに行った道を通って、堤防へと歩む。
 いつも通りに手を絡めて。
 だけど、浴衣同士が触れ合ってちょっとだけ繋ぎにくい。
 それに結構暑い。

 あと何分くらいで着くかな。
 まぁ何分でもいいけどさ。
 お祭りが終わったら、お祭りが始まる前のこの時間が恋しくなっちゃたりするだろうし。
 今は今で、この時間をしっかりと楽しんでおこう。

「……」

 にしても、会話が起きない。
 ……そういえば、私から会話が始まることの方が多いっけ。

 ま。無理に会話しても、しょうがないし。
 今日のことについて、ちょっと考えてみようかな。

 いや、考えると言っても何も思い浮かばないな。
 んー。どうしよ。
 まぁ。お祭りのこと考えよ。
 お姉ちゃんと何をしたいか、心のメモ帳に記しておこう。

 えっと。綿あめ食べたいかも。
 お祭りの綿あめほど美味しいものはこの世に……。
 いや、あるけどさ。

 金魚すくいとかもしたいけど。
 ……確か、水槽とかなかったしなー。

 最後は花火かー。
 一緒に眺めて、その光景に見惚れる。
 そして……。

 告白。

 その二文字が頭をよぎる。
 と思えば、頭の中で暴れ出した。

 告白。
 うーん。告白。
 告白?
 告白……。
 告白ねぇ。

 告白って、自分の思いを伝えることだと思うけど。
 私、もう伝えちゃっているし。
 確かに私自身、お姉ちゃんと結ばれたい気持ちはあるけどこんな急ぐ必要はあるのだろうか。

 私、前にお姉ちゃんのこと振っちゃているし。
 お姉ちゃんがまた、私に告白してくる可能性はほぼないと思う。
 あったとして、それは結構先の話になりそう。
 こんなこと考えるのは身勝手だなぁ。なんて思う。

 前にお姉ちゃんが告白した時は、結構いろいろ悩んでたのかな。

『あなたのことが好き。だから──』

 お姉ちゃんの告白はこんな感じだったはず。
 結構、鮮明に頭の中に残っている。覚えている。
 今は思えば、あの時の私、酷いな。
 振り絞って出そうとしていた言葉を遮ってまで、断るだなんて。

 いや、だけど。
 あの時の私は、女同士が結ばれるなんておかしいと思っていたから。
 ここで付き合ってとか言われたら、もう、私はそのまま付き合ってしまいそうだったから。
 だから、先の言葉は言わせなかった。
 身勝手の極意すぎるけど。

 でも。あの時、お姉ちゃんは何を続けようとしていたんだろう。
 
『彼女になって』
『恋人になって』
『付き合って』
『特別な関係になって』

 こんなところかな。
 こんなん恥ずかしすぎませんかね。
 お姉ちゃん、ああ見えて結構勇気あるんだな。

「……てんちゃん? 私の顔、なんかおかしい?」
「あっ! いや! なんでも!」

 無意識に、お姉ちゃんの方に目を向けていた。
 慌てて顔を前方に向ける。

 でも。
 決めた。
 ……私から。告白しよう。
 その可愛い横顔を見るたびに、私の心の内の何かがうずく。
 それをどうにかするには、結ばれる以外に手段はないと思う。
 けど。今日は告白しない。まだ、心の準備ができていないから。
しおりを挟む

処理中です...