77 / 86
義姉妹の夏休み
わたあめ
しおりを挟む
会場には既に多くの人がいた。
堤防沿いから見下ろしたその場所は、以前見たがらんとした場所とは思えないほどに、多くの屋台が立ち並んでいて栄えていた。
あたりを近所の小、中学生が楽しそうにはしゃぎ回っていて楽しそう。
こんな早くからそんなに騒いでて、最後まで持つのか少し気になるところではあるけど。
手を繋いだままの私たちは、コンクリートの割と急な階段を降りる。
草履が脱げそうなので、一段一段、着実に降りて行った。
地面へと足をつけ、改めて、お祭りの会場にやってきたのだと実感する。
「ついたついたー」
「うん。ついた」
「……何する?」
「なんか食べたい」
くいしんぼーだなー。
なんて、心の中で思って。
お姉ちゃん、お昼ご飯はそんな食べてなかったなと思い返す。
「とりあえず、回ってみよっか?」
「うん」
そういう提案をするのだった。
※※※※※※
「てんちゃん。ここ」
適当にぶらついて、そしたらお姉ちゃんが不意に、私の浴衣を引っ張る。
見れば、お姉ちゃんは一つの屋台を指していた。
その指から出る、見えない線を辿って、そこに目をやる。
「あ。綿あめ屋さんだ! お姉ちゃん好きなの?」
「うん。好きだよ」
好きだよ。
うん。綿あめね。わかってるわかってる。
誰も並んでいないっぽいのでラッキーって思いつつ、その場へと向かう。
「あの。二つください」
奥で何かを作業している店員に呼びかけた。
別に味とかはないっぽい。白いやつだけだと思う。
一つ100円。めちゃ安い。
私は巾着を漁り、小銭入れから200円を取り出し、カウンターの上へと置く。
「はいはい。二つね。ちょっと待っててね」
おばさん店員にそう言われる。
割り箸を、綿あめメーカーみたいなのに入れてグルグルと巻き始めた。
オレンジ色のプラスチック製のケースから見える綿あめが大きくなっていく様は、いつ見てもなんか楽しい気持ちになる。
「はい! 二つ! お待たせ! 200円しっかり頂きました!」
「あ。ありがとうございます」
それを受け取って。
後ろに突っ立ってるお姉ちゃんに大きい方を手渡した。
「ありがと」
「うんうん。じゃ、早速」
屋台から少し離れたところで綿あめをペロリと舐めてみる。
お姉ちゃんもそれに続くようにかぶりつく。
ふわりと溶ける綿の感触。
ザラザラと触れる、甘くて柔らかい砂糖。
すっごくあんまーい。
でも。
「美味しいね! お姉ちゃん!」
「うん。すごく美味しい」
笑顔を向けると、お姉ちゃんもつられるように笑って言った。
そして、綿あめに顔を隠す様にしながら、
「えへへ。来てよかった」
恥ずかしそうに。
それでいて本当に嬉しそうに、そう零すのだった。
……可愛すぎる。
「私も、来てよかった!」
お姉ちゃんの無邪気な笑顔。
それを見れて、今日は間違い無くいい日になると思う。
でも。だんだんと、私の中の何かが疼く。震える。
すぐ食べ終わって、ゴミ箱にポイした。
お姉ちゃんは、綿あめがなくなった割り箸をぺろって舐めて「美味しい」と言ってから捨てていた。
結構、いやしんぼなのかな。
偏見だけど、お姉ちゃんは二個入りのショートケーキのフィルムをぺろぺろ舐めるタイプだと思う。
「てんちゃん。どうしたの?」
不思議そうな顔で問われる。
「いやーあはは。可愛いなーって」
「ほんと?」
「……うん」
ショートケーキのフィルムをぺろぺろと舐めてそう、だなんて口が裂けても言うことができず、思わずこう答えてしまう。
「へー! てんちゃんも可愛いよ」
不意打ちをくらう。
またまた無邪気にそう言われた。
上半身をちょっと曲げて、上目遣いで。
こういうところが、ずるい。
今度こそ可愛いなって思ってしまった。
お姉ちゃんは、この夏祭りの雰囲気にすっかりあてられているようだ。
でも。私もかな。
そういえばお姉ちゃんのこと、ずっと可愛いって思いっぱなしだ。
……前まで、私がお姉ちゃんに可愛いってずっと言われていたのに。
うん。実際可愛いし、
「まぁいいや」
「……なにが?」
「あ。ひとりごとひとりごとー」
そうやって誤魔化して、また手を繋ぐ。
目的地も特に決めずに歩き出す。
明日になったら、今日という日が間違いなく恋しくなる。
昨日に戻りたいって思う。
それは毎年思うこと。
だから、それを自覚している今の内にめいっぱい楽しもう。
堤防沿いから見下ろしたその場所は、以前見たがらんとした場所とは思えないほどに、多くの屋台が立ち並んでいて栄えていた。
あたりを近所の小、中学生が楽しそうにはしゃぎ回っていて楽しそう。
こんな早くからそんなに騒いでて、最後まで持つのか少し気になるところではあるけど。
手を繋いだままの私たちは、コンクリートの割と急な階段を降りる。
草履が脱げそうなので、一段一段、着実に降りて行った。
地面へと足をつけ、改めて、お祭りの会場にやってきたのだと実感する。
「ついたついたー」
「うん。ついた」
「……何する?」
「なんか食べたい」
くいしんぼーだなー。
なんて、心の中で思って。
お姉ちゃん、お昼ご飯はそんな食べてなかったなと思い返す。
「とりあえず、回ってみよっか?」
「うん」
そういう提案をするのだった。
※※※※※※
「てんちゃん。ここ」
適当にぶらついて、そしたらお姉ちゃんが不意に、私の浴衣を引っ張る。
見れば、お姉ちゃんは一つの屋台を指していた。
その指から出る、見えない線を辿って、そこに目をやる。
「あ。綿あめ屋さんだ! お姉ちゃん好きなの?」
「うん。好きだよ」
好きだよ。
うん。綿あめね。わかってるわかってる。
誰も並んでいないっぽいのでラッキーって思いつつ、その場へと向かう。
「あの。二つください」
奥で何かを作業している店員に呼びかけた。
別に味とかはないっぽい。白いやつだけだと思う。
一つ100円。めちゃ安い。
私は巾着を漁り、小銭入れから200円を取り出し、カウンターの上へと置く。
「はいはい。二つね。ちょっと待っててね」
おばさん店員にそう言われる。
割り箸を、綿あめメーカーみたいなのに入れてグルグルと巻き始めた。
オレンジ色のプラスチック製のケースから見える綿あめが大きくなっていく様は、いつ見てもなんか楽しい気持ちになる。
「はい! 二つ! お待たせ! 200円しっかり頂きました!」
「あ。ありがとうございます」
それを受け取って。
後ろに突っ立ってるお姉ちゃんに大きい方を手渡した。
「ありがと」
「うんうん。じゃ、早速」
屋台から少し離れたところで綿あめをペロリと舐めてみる。
お姉ちゃんもそれに続くようにかぶりつく。
ふわりと溶ける綿の感触。
ザラザラと触れる、甘くて柔らかい砂糖。
すっごくあんまーい。
でも。
「美味しいね! お姉ちゃん!」
「うん。すごく美味しい」
笑顔を向けると、お姉ちゃんもつられるように笑って言った。
そして、綿あめに顔を隠す様にしながら、
「えへへ。来てよかった」
恥ずかしそうに。
それでいて本当に嬉しそうに、そう零すのだった。
……可愛すぎる。
「私も、来てよかった!」
お姉ちゃんの無邪気な笑顔。
それを見れて、今日は間違い無くいい日になると思う。
でも。だんだんと、私の中の何かが疼く。震える。
すぐ食べ終わって、ゴミ箱にポイした。
お姉ちゃんは、綿あめがなくなった割り箸をぺろって舐めて「美味しい」と言ってから捨てていた。
結構、いやしんぼなのかな。
偏見だけど、お姉ちゃんは二個入りのショートケーキのフィルムをぺろぺろ舐めるタイプだと思う。
「てんちゃん。どうしたの?」
不思議そうな顔で問われる。
「いやーあはは。可愛いなーって」
「ほんと?」
「……うん」
ショートケーキのフィルムをぺろぺろと舐めてそう、だなんて口が裂けても言うことができず、思わずこう答えてしまう。
「へー! てんちゃんも可愛いよ」
不意打ちをくらう。
またまた無邪気にそう言われた。
上半身をちょっと曲げて、上目遣いで。
こういうところが、ずるい。
今度こそ可愛いなって思ってしまった。
お姉ちゃんは、この夏祭りの雰囲気にすっかりあてられているようだ。
でも。私もかな。
そういえばお姉ちゃんのこと、ずっと可愛いって思いっぱなしだ。
……前まで、私がお姉ちゃんに可愛いってずっと言われていたのに。
うん。実際可愛いし、
「まぁいいや」
「……なにが?」
「あ。ひとりごとひとりごとー」
そうやって誤魔化して、また手を繋ぐ。
目的地も特に決めずに歩き出す。
明日になったら、今日という日が間違いなく恋しくなる。
昨日に戻りたいって思う。
それは毎年思うこと。
だから、それを自覚している今の内にめいっぱい楽しもう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
33
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる