土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
2 / 120
第1章 土方歳三、北の大地へ

第2話

しおりを挟む
 1868年、慶応4年8月のある日、フランス軍のブリュネ大尉は、目の前の状況に正直にいうならば、心から困惑していた。
 まさか、こんな依頼のために、榎本武揚海軍副総裁が来られた、とは自分は思ってもみなかった。

 榎本海軍副総裁(厳密にいえば、日本が2つに割れている現在、その呼び方が正しいのか、間違っているのかもわからないが)が、フランス軍事顧問団を訪ねてくると聞いたとき、感情的には反発を自分は覚えていた。
 もし、榎本海軍副総裁が、将軍を説得して徹底抗戦を行ったならば、少なくとも海軍を率いて蝦夷地を目指すと決断していたならば、自分は榎本海軍副総裁と行動を共にし、フランス陸軍から脱走する決断を固めていた。
 それなのに榎本海軍副総裁まで投降する決断を下したと聞いたときは本当に落胆したものだった。
 一体、どんな理由から訪ねてくるのか、と自分は身構えていたのだが、こんな理由だったとは。

 シャノワーヌ大尉も同様の想いなのだろう。
 困惑の表情を、浮かべているのが見える。
 だが、自分よりは理解できたのか、得心したような表情を浮かべつつはあった。

「ムシが良すぎる話だとは思います。
 なぜ、自分が説得に赴かないのか、と非難されれば甘んじて受けます。
 でも、私が行くよりは可能性が高いと思うのです。
 これ以上、幕臣だった人たちを死なせたくはない。
 死なせないとなると、降伏を勧めざるを得ません。

 でも、私が説得に赴くと、何で海軍と共に来てくれなかった、来てくれれば、蝦夷地で徹底抗戦できたはずだ等々の非難が巻き起こるでしょう。
 感情が高ぶる余り、私を殺して、偽官軍に斬り込んで死のう、という話になるやもしれません。
 裏切り者の非難を浴びて殺されても私は当然です。
 しかし、それによって日本にとって有為の人材が失われるのは本当に忍びません。

 そして、あなた方が指導した幕府歩兵隊は今や分裂し、多くは奥羽越列藩同盟の一員として戦っていますが、一部はいろいろ事情はあるのでしょうが薩長軍の一員となって奥羽越列藩同盟に銃を向けています。
 このままいけば、かつて肩を並べた幕府歩兵隊の一員同士の殺し合いが起こる、いや、既に起こっているかもしれません。
 教官だったあなた方から奥羽越列藩同盟に参加している幕臣の人達に投降を勧めていただけないでしょうか。
 師からの言葉となれば、幕臣の人達も聞き入れてくれるのでは、と思うのです」
 榎本は、懸命に長広舌を振るっての熱弁をした。

「よろしいでしょう。
 私が行きましょう。
 私も自分の教え子同士が殺しあうのは望みません」

 いつの間にか、そう自分から発言したことに気づいたとき、ブリュネ自身が驚いていた。
 だが、考えてみれば、榎本のいうことは、至極当然のことだった。
 それに自分も、ここ日本で懸命に手塩にかけた教え子同士が殺しあうのは、決して望むことではない。

「シャノワーヌ大尉、私は脱走したことにしてください。
 この内戦について、中立を保とうとするフランス本国に、迷惑をかけるわけにはいきません」
 ブリュネは、終に自らそこまで、シャノワーヌ大尉に、直訴してしまっていた。 

「ブリュネ大尉、心から感謝します。
 この御恩を、私は決して忘れません。
 出来る限りの便宜を、私は図ることを確約します。
 私からの書簡も逆効果になるやもしれませんが、あなたに託したいと思います。
 どうか、皆の命を助けてください」
 榎本は、ブリュネ大尉に頭を下げながら言った。

 ブリュネ大尉は、榎本のその姿を見て、固く誓った。
 何としても、一人でも多くの幕臣を、そしてその戦友達を救い出して、榎本さんの想いを果たして見せよう。
 それが、日本とフランスに、後々で役に立つことになるだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...