11 / 120
第1章 土方歳三、北の大地へ
第11話
「これは想像以上に大変だな」
と北海道にいる榎本武揚は、一人ごちる有様に至っていた。
「何か言われましたか」
「独り言だ。気にするな」
新政府のスパイを兼ねている(と榎本は睨んでいる)一人の部下の言葉に、榎本は返した。
石狩平野を主にして、旧徳川家の家臣、つまり旧幕臣を中心に屯田兵を置くことは新政府の方針として(一応は)定まっていた。
しかし、問題が山積していた。
榎本は海軍の職を全て解かれて(予備役海軍少将扱い)、北海道開拓使の一員として北海道に赴任して、屯田兵問題を主に担当する身になっていたのだが。
最大の問題は、屯田兵が行う農業だった。
明治2年の春現在、石狩平野では稲作は不可能だった。
将来的にはできるかもしれない。
しかし、現状は北海道の一部、それも函館や室蘭近辺で、苦労を重ねて稲作を行っている段階で、屯田兵が駐屯する石狩平野では、寒すぎることから、稲作が不可能なのだった。
ジャガイモや蕎麦、麦類を中心に、屯田兵は農業を行うしかない。
しかし、これでは現金収入の道が乏しいので、養蚕や亜麻栽培も行うことで、屯田兵には現金収入の道を確保させようとは考えているが、どこまで対応できるだろうか。
また、1つの屯田兵村で中隊編成が可能な規模で屯田兵村を設置しようと考えてはいる。
だが、そうなると1つの村が200戸前後の規模ということになる。
二毛作が可能な西国だったら、三反百姓、それが不可能な東国では、五反百姓という言葉があるが、それは一戸当たりどれだけの農地があれば自活可能か、というのを暗に示している。
では、ここ北海道ではどうかというと、榎本自身が、その試算内容を確認したのだが、屯田兵一戸当たり1町歩どころか、その5倍、5町歩は欲しい、というのが試算結果だった。
つまり、1つの屯田兵村を置くのに1000町歩(約1000ヘクタール)の農地が必要なのだった。
これほど大変な仕事とは思わなかったというのが、榎本の偽らざる実感であり、多くの部下もその困難さを予測して、暗い思いに、まずは囚われているのが現実だったのだ。
「まずは、1つ今年中に屯田兵村を作るぞ。来年は2つ、それ以降は毎年、2つずつ屯田兵村を作るのが目標だ。全員で努力してくれ」
「分かりました」
榎本の言葉に、多くの部下が答えた。
「また、農学校を作り、授業を行うと共に、屯田兵として入植した者に対する農業の指導も併せて行わせよう。
北海道に適した農業を屯田兵に指導しないとどうにもならん。
大体、屯田兵の多くは元武士だ。
農作業に詳しいとは思えんからな」
「戸主は兵士として鍛えるとともに、その家族は農業に粉骨砕身させるというわけですか」
ある部下の質問に、榎本は答えた。
「そのとおりだ。
だが、そうしないと屯田兵は自活できない。
入植当初はいろいろと支援を行うが、3年、最大でも入植後5年以内には、屯田兵が自活できるようにしないといけないと考える。
皆、頑張ってくれ」
「はい」
部下が口を揃えて、榎本の言葉に答えはするが。
これだけでも本当に大変極まりない話だな、そう榎本は考えざるを得なかった。
もう一つの荒井郁之助に託した問題は、現在、どうなっているのだろうか、榎本はふと思った。
あちらもかなり困難な話の筈だ。
荒井と最後に会った際に、徳川家の陰護衛の意味もあって、屯田兵と海兵隊の建設、維持を図りたい旨を、こんこんと、自ら説明はしている。
しかし、海兵隊の存続が認められるかどうか、については、私が下手に働きかけると、薩長が中心の新政府内部の疑心を掻き立てる危険があるので、荒井に任せるしかなかった。
荒井は、海兵隊を維持することに成功できるだろうか。
榎本は不安だった。
と北海道にいる榎本武揚は、一人ごちる有様に至っていた。
「何か言われましたか」
「独り言だ。気にするな」
新政府のスパイを兼ねている(と榎本は睨んでいる)一人の部下の言葉に、榎本は返した。
石狩平野を主にして、旧徳川家の家臣、つまり旧幕臣を中心に屯田兵を置くことは新政府の方針として(一応は)定まっていた。
しかし、問題が山積していた。
榎本は海軍の職を全て解かれて(予備役海軍少将扱い)、北海道開拓使の一員として北海道に赴任して、屯田兵問題を主に担当する身になっていたのだが。
最大の問題は、屯田兵が行う農業だった。
明治2年の春現在、石狩平野では稲作は不可能だった。
将来的にはできるかもしれない。
しかし、現状は北海道の一部、それも函館や室蘭近辺で、苦労を重ねて稲作を行っている段階で、屯田兵が駐屯する石狩平野では、寒すぎることから、稲作が不可能なのだった。
ジャガイモや蕎麦、麦類を中心に、屯田兵は農業を行うしかない。
しかし、これでは現金収入の道が乏しいので、養蚕や亜麻栽培も行うことで、屯田兵には現金収入の道を確保させようとは考えているが、どこまで対応できるだろうか。
また、1つの屯田兵村で中隊編成が可能な規模で屯田兵村を設置しようと考えてはいる。
だが、そうなると1つの村が200戸前後の規模ということになる。
二毛作が可能な西国だったら、三反百姓、それが不可能な東国では、五反百姓という言葉があるが、それは一戸当たりどれだけの農地があれば自活可能か、というのを暗に示している。
では、ここ北海道ではどうかというと、榎本自身が、その試算内容を確認したのだが、屯田兵一戸当たり1町歩どころか、その5倍、5町歩は欲しい、というのが試算結果だった。
つまり、1つの屯田兵村を置くのに1000町歩(約1000ヘクタール)の農地が必要なのだった。
これほど大変な仕事とは思わなかったというのが、榎本の偽らざる実感であり、多くの部下もその困難さを予測して、暗い思いに、まずは囚われているのが現実だったのだ。
「まずは、1つ今年中に屯田兵村を作るぞ。来年は2つ、それ以降は毎年、2つずつ屯田兵村を作るのが目標だ。全員で努力してくれ」
「分かりました」
榎本の言葉に、多くの部下が答えた。
「また、農学校を作り、授業を行うと共に、屯田兵として入植した者に対する農業の指導も併せて行わせよう。
北海道に適した農業を屯田兵に指導しないとどうにもならん。
大体、屯田兵の多くは元武士だ。
農作業に詳しいとは思えんからな」
「戸主は兵士として鍛えるとともに、その家族は農業に粉骨砕身させるというわけですか」
ある部下の質問に、榎本は答えた。
「そのとおりだ。
だが、そうしないと屯田兵は自活できない。
入植当初はいろいろと支援を行うが、3年、最大でも入植後5年以内には、屯田兵が自活できるようにしないといけないと考える。
皆、頑張ってくれ」
「はい」
部下が口を揃えて、榎本の言葉に答えはするが。
これだけでも本当に大変極まりない話だな、そう榎本は考えざるを得なかった。
もう一つの荒井郁之助に託した問題は、現在、どうなっているのだろうか、榎本はふと思った。
あちらもかなり困難な話の筈だ。
荒井と最後に会った際に、徳川家の陰護衛の意味もあって、屯田兵と海兵隊の建設、維持を図りたい旨を、こんこんと、自ら説明はしている。
しかし、海兵隊の存続が認められるかどうか、については、私が下手に働きかけると、薩長が中心の新政府内部の疑心を掻き立てる危険があるので、荒井に任せるしかなかった。
荒井は、海兵隊を維持することに成功できるだろうか。
榎本は不安だった。
あなたにおすすめの小説
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
局地戦闘機 飛電の栄光と終焉
みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです