土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第9章 鹿児島上陸作戦と鹿児島占領

第5話

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「本当につらかったでしょうね」
 北白川宮大尉が、ぽつんと言った。
「本当につらかったろうな」
 本多幸七郎少佐も、北白川宮大尉に同意して返答した。
 鹿児島攻防戦が始まって4日目、5月8日になっていた。

 5月5日、鹿児島攻防戦が始まって、すぐに川村純義参軍が命じたのが、鹿児島の街並みに対する放火だった。
 鹿児島の住民の多くは、西郷軍に同情的で、鹿児島に乗り込んできた政府軍に対する反感を、あからさまに示す住民が多く見られた。
 更に鹿児島の街並みは、いざ西郷軍との戦闘が始まった際には、政府軍の射撃に際して射界を妨げると共に、西郷軍の潜入を容易にさせると見られていた。
 こういったことから、鹿児島の住民を退避させて、鹿児島の住民の西郷軍への協力を阻止すると共に、政府軍の戦闘を容易にするために、川村参軍は、鹿児島の街並みへの放火を命じたのだった。

 言うまでもなく、川村参軍は薩摩藩の出身であり、また、放火に従事した警視隊にしても、幹部から巡査に至るまで、薩摩藩出身者が数多くいる。
 そうした人たちにとって、第一の故郷ともいえる鹿児島の街並みに、火を放つのは断腸の思いだったに違いない。
 だが、戦闘に際して勝つために必要な合理的な判断である以上は、やむを得ない判断でもあった。

 北白川宮大尉も本多少佐も、川村参軍らの心情を思うと、何とも言えない想いに駆られた。

 実際には、鹿児島の街並みへの放火による死者は出ていないし、負傷者も極めて少なくて済んだ。
 だが、鹿児島の住民からは、当然のことながら、怨嗟の声が強く上がっている。
 それに対する対策として、川村参軍は、米を長崎等から急送して、無料配布を行う等のことをしているが。
 半ば当然のことだが、自分で火をつけておいて、米を配り、その米に感謝しろというのか、と鹿児島の住民の多くが公然と言う有様で、政府軍の評判は全く好転していない。
 また、西郷軍と政府軍の戦闘の現状は、極めて政府軍に厳しい。

「艦砲射撃の援護が無くとも、西郷軍が1発砲弾を撃ち込んだら、こちらは2発は撃ち返すくらいの砲撃を、西郷軍に対して加えているのに、西郷軍は粘りますな」
「西郷軍にとっては、第一の故郷を奪われたのだ。死に物狂いにもなる」
 北白川宮大尉の問いに。本多少佐は、そう答えざるを得なかった。

「そして、西郷軍は夜襲に活路を見出すというわけですか。
 困りましたな。我々、第4海兵大隊は、他の海兵大隊、特に第3海兵大隊ほど白兵戦は得意ではないのですが」
「仕方あるまい、我々には、土方歳三少佐も林忠崇大尉もいないのだ」
 北白川宮大尉の言葉に、本多少佐は渋い顔をして、そう言わざるを得なかった。

 川村参軍は、田原坂の死闘等から海兵隊は白兵戦に強い、と思い込んでいるらしかった。
 そのために、第4海兵大隊は、後方に回され、白兵戦の際に投入される緊急予備戦力的な扱いを受けている。
 だが、実は第4海兵大隊は、編制の経緯等から、第3海兵大隊程は白兵戦には強くないのだった。
 だが、川村参軍は、第4海兵大隊を第3海兵大隊と同様に考え、戦線の危急時に投入することを決めてしまった。

「陸軍の鎮台兵よりは、士族出身者が多いだけ、白兵戦において我が海兵隊は強いがな。
 現状の中で、精いっぱい頑張るしかない」
 本多少佐は、北白川宮大尉に対する返答というより自分に対して言い聞かせるように言った。
 
 北白川宮大尉も、本多少佐の内心を察して肯きはしたが、自分の立場に何とも皮肉を覚えた。
 皇族の身なのに、白兵戦に身を投じることになるとは。
 こんなことをする皇族は、懐良親王以来、つまり、南北朝時代以来の事態ではないだろうか。
 北白川宮大尉は覚悟を固めざるを得なかった。
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