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第10章 城山における最後の戦い
第8話
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「西郷隆盛が、自決したらしいぞ」
ひたすら前へと進んでいた桐野利秋の耳に、政府軍の兵士の叫び声が聞こえてきた。
桐野は思わず一瞬、瞑目した。
目を見開いた桐野は、周囲を見回した。
桐野の目に、誠の旗が入った。
「あの旗の下には土方歳三がいる筈だ。
あの男と一騎打ちをし、刺し違えた後、西郷どんの供をしてあの世へと逝こう」
誠の旗が目に入った桐野は決心を固め、誠の旗の下へと部下と共に走った。
土方は、周囲を見渡しながら、第3海兵大隊の指揮を執っていた。
土方が気が付くと、傍には、斎藤一も永倉新八も島田魁もいなかった。
皆、西郷軍との乱戦で奮闘しているのだ、と土方は考えた。
そして、土方の近くまで迫る西郷軍の兵も何人かいたが、土方の周囲の兵が撃退していた。
だが、明らかに気色の違う西郷軍の兵数人が、更に迫ってきた。
その先頭に立った男が叫んだ。
「土方歳三だな」
「いかにも」
土方は返答した。
「桐野利秋だ。
いや、かつてに戻って、中村半次郎と名乗らせてもらおうか。
最期の戦いとして、お前と刺し違えさせてもらう」
そう叫んだ後、中村は思い切り突っ込んできた。
土方の周囲の兵が阻止しようとするが、鬼気迫る中村の表情に、完全に腰が引けてしまっている。
土方は、兵の様子を見て、前に出て叫んだ。
「よかろう、だが、刺し違えはせん。
天然理心流の真髄を見せてくれる」
「こちらこそ、薬丸自顕流の精髄を見せてくれるわ」
中村は、そう叫んだ。
中村は、初太刀に全てを賭けることにした。
土方は、刀を中段に自然に構えて、中村の初太刀を待った。
「キェー」
絶叫しながら、中村は全力で刀を振り下ろした。
土方は、ぎりぎり見切ってかわしたと思ったが、わずかに遅れていた。
中村の初太刀は、土方の左の鎖骨を折り、肋骨を何本か切った。
だが、土方の返しの刀も、中村の腹を存分に割いていた。
中村は、力が抜け、刀を取り落して倒れた。
一方、土方は、苦痛をこらえながら、刀を右手のみで持ち、倒れた中村にトドメを刺した。
中村にトドメを刺した直後、土方は叫んだ。
「西郷さんも死に、桐野さんも死んだ。
速やかに西郷軍の兵は投降しろ。
投降すれば殺しはせん。
命は保障する」
その声の中に込められた気迫を感じて、桐野に従っていた部下は、全て武器を捨てて投降した。
そして。
「土方少佐」
そう叫びながら、土方の負傷に気付いた周囲の兵が、慌てて駆け付けてくる。
その中には、永倉新八や林忠崇の姿もあった。
「あいつらは無事か」
彼らの姿に気付いた瞬間、土方の気が緩んだ。
血が止まらないのも加わり、気の緩みから、土方の意識が段々遠のいてくる。
土方は、そう呟きながら、地面に倒れ込んだ。
永倉は、後悔の念を思わず抱かざるを得なかった。
林も同様だった。
ほんの僅かな隙を桐野に突かれてしまったのだ。
だが、できる限りのことを、土方少佐にするしかない。
林大尉らは、近くの家から戸板を外し、土方少佐を乗せて、野戦病院に担ぎ込んだ。
運ぶ際の衝撃で、土方少佐は気づいたが、意識を回復したことから、今度は酷い痛みに苦しむ羽目になった。
野戦病院の軍医は土方少佐をわずかに診察した後、首を横に振ってしまった。
取りあえず血止めの包帯が巻かれ、苦痛を軽くするためのアヘンチンキが、土方少佐に飲まされた。
アヘンチンキのお陰で痛みが軽くなり、土方少佐は、布団に横たわりつつ、何とか話せるようになった。
土方少佐は、まず尋ねた。
「新選組の旗は、どこにある」
「すぐ傍に翻っております」
永倉が涙ながらに答えた。
実際、土方少佐の傍に、新選組の旗は常にあるべきだ、との永倉の判断から、新選組の旗は、野戦病院内に持ち込まれて、土方少佐の傍に立てられていたのだ。
「そうか、それは良かった」
土方少佐の返答は、満足げだった。
「戦はどうなった」
「西郷さんの自決、桐野さん等の幹部の戦死、そういったことから、西郷軍の兵士は続々と投降しています。
戦は本当に終わりました」
土方少佐の問いかけに、今度は林が涙をこらえつつ答えた。
「それはよかった」
そう何とか答えた後、土方は天井を眺めた。
アヘンのせいで、眠気が押し寄せていた。
島田や斎藤らが、急を聞いて、土方の死に目に何とか間に合おう、と駆け付けてきていた。
だが、既に人が充満していて、中々近寄れない。
それを横目で見ながら、土方は目を瞑った。
アヘンによる幻覚作用のせいもあるのか、これまでの人生が走馬灯のように浮かび上がってきていた。
「近藤さん、新選組の仲間たち、それから、戊辰戦争以来の知己たち、今から自分もそちらに行く。
それから、琴、子どもたち、村に生きて帰るという約束を守れなくて、本当にすまん」
土方は心の中で呟きながら、眠るように息を引き取った。
土方の絶命に気が付いた永倉や林は、思わず号泣した。
何もこんな時になって、あの世に旅立たれなくとも。
そんな想いが溢れたのだ。
その想いを周囲の島田や斎藤らも共有して号泣した。
ひたすら前へと進んでいた桐野利秋の耳に、政府軍の兵士の叫び声が聞こえてきた。
桐野は思わず一瞬、瞑目した。
目を見開いた桐野は、周囲を見回した。
桐野の目に、誠の旗が入った。
「あの旗の下には土方歳三がいる筈だ。
あの男と一騎打ちをし、刺し違えた後、西郷どんの供をしてあの世へと逝こう」
誠の旗が目に入った桐野は決心を固め、誠の旗の下へと部下と共に走った。
土方は、周囲を見渡しながら、第3海兵大隊の指揮を執っていた。
土方が気が付くと、傍には、斎藤一も永倉新八も島田魁もいなかった。
皆、西郷軍との乱戦で奮闘しているのだ、と土方は考えた。
そして、土方の近くまで迫る西郷軍の兵も何人かいたが、土方の周囲の兵が撃退していた。
だが、明らかに気色の違う西郷軍の兵数人が、更に迫ってきた。
その先頭に立った男が叫んだ。
「土方歳三だな」
「いかにも」
土方は返答した。
「桐野利秋だ。
いや、かつてに戻って、中村半次郎と名乗らせてもらおうか。
最期の戦いとして、お前と刺し違えさせてもらう」
そう叫んだ後、中村は思い切り突っ込んできた。
土方の周囲の兵が阻止しようとするが、鬼気迫る中村の表情に、完全に腰が引けてしまっている。
土方は、兵の様子を見て、前に出て叫んだ。
「よかろう、だが、刺し違えはせん。
天然理心流の真髄を見せてくれる」
「こちらこそ、薬丸自顕流の精髄を見せてくれるわ」
中村は、そう叫んだ。
中村は、初太刀に全てを賭けることにした。
土方は、刀を中段に自然に構えて、中村の初太刀を待った。
「キェー」
絶叫しながら、中村は全力で刀を振り下ろした。
土方は、ぎりぎり見切ってかわしたと思ったが、わずかに遅れていた。
中村の初太刀は、土方の左の鎖骨を折り、肋骨を何本か切った。
だが、土方の返しの刀も、中村の腹を存分に割いていた。
中村は、力が抜け、刀を取り落して倒れた。
一方、土方は、苦痛をこらえながら、刀を右手のみで持ち、倒れた中村にトドメを刺した。
中村にトドメを刺した直後、土方は叫んだ。
「西郷さんも死に、桐野さんも死んだ。
速やかに西郷軍の兵は投降しろ。
投降すれば殺しはせん。
命は保障する」
その声の中に込められた気迫を感じて、桐野に従っていた部下は、全て武器を捨てて投降した。
そして。
「土方少佐」
そう叫びながら、土方の負傷に気付いた周囲の兵が、慌てて駆け付けてくる。
その中には、永倉新八や林忠崇の姿もあった。
「あいつらは無事か」
彼らの姿に気付いた瞬間、土方の気が緩んだ。
血が止まらないのも加わり、気の緩みから、土方の意識が段々遠のいてくる。
土方は、そう呟きながら、地面に倒れ込んだ。
永倉は、後悔の念を思わず抱かざるを得なかった。
林も同様だった。
ほんの僅かな隙を桐野に突かれてしまったのだ。
だが、できる限りのことを、土方少佐にするしかない。
林大尉らは、近くの家から戸板を外し、土方少佐を乗せて、野戦病院に担ぎ込んだ。
運ぶ際の衝撃で、土方少佐は気づいたが、意識を回復したことから、今度は酷い痛みに苦しむ羽目になった。
野戦病院の軍医は土方少佐をわずかに診察した後、首を横に振ってしまった。
取りあえず血止めの包帯が巻かれ、苦痛を軽くするためのアヘンチンキが、土方少佐に飲まされた。
アヘンチンキのお陰で痛みが軽くなり、土方少佐は、布団に横たわりつつ、何とか話せるようになった。
土方少佐は、まず尋ねた。
「新選組の旗は、どこにある」
「すぐ傍に翻っております」
永倉が涙ながらに答えた。
実際、土方少佐の傍に、新選組の旗は常にあるべきだ、との永倉の判断から、新選組の旗は、野戦病院内に持ち込まれて、土方少佐の傍に立てられていたのだ。
「そうか、それは良かった」
土方少佐の返答は、満足げだった。
「戦はどうなった」
「西郷さんの自決、桐野さん等の幹部の戦死、そういったことから、西郷軍の兵士は続々と投降しています。
戦は本当に終わりました」
土方少佐の問いかけに、今度は林が涙をこらえつつ答えた。
「それはよかった」
そう何とか答えた後、土方は天井を眺めた。
アヘンのせいで、眠気が押し寄せていた。
島田や斎藤らが、急を聞いて、土方の死に目に何とか間に合おう、と駆け付けてきていた。
だが、既に人が充満していて、中々近寄れない。
それを横目で見ながら、土方は目を瞑った。
アヘンによる幻覚作用のせいもあるのか、これまでの人生が走馬灯のように浮かび上がってきていた。
「近藤さん、新選組の仲間たち、それから、戊辰戦争以来の知己たち、今から自分もそちらに行く。
それから、琴、子どもたち、村に生きて帰るという約束を守れなくて、本当にすまん」
土方は心の中で呟きながら、眠るように息を引き取った。
土方の絶命に気が付いた永倉や林は、思わず号泣した。
何もこんな時になって、あの世に旅立たれなくとも。
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