堕ちる犬

四ノ瀬 了

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警官とヤクザの二股してるヤリマンのくせに、これくらい平気だろ。

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「犬にでも何でもなると言ったらしいな。」
「……。」
「まさかまた嘘をついたとは言わないな?」
「……。」
「まるで死体だな。」

二条の声が部屋中に反響していた。いや、本当は反響などしていないが、疲れて脳によく響いているだけかもしれない。 足音が近づいてくる。自然と霧野の身体はこわばって、一部が震え始めた。止まれと思うほど身体がブルブルと震えた。背後で関節のなるような音を聞いた気がした。

「デートしようか、霧野遥君。」

霧野の視線が床の上を滑るように動いていった。拘束が外される。それ以上身体に触れられることはなく、彼はすぐさま立ち上がり、近くに重みを持った荷物が投げ捨てられる音がした。

「外で待っているから着替えてこい。3分以内に。」

黒いボストンバックがひとつ捨て置かれていた。彼はいなかった。手首と足首を軽く回してから立ち上がったが、安定せず、二歩三歩と身体がつんのめった。頭の中の振り子が大きく揺れるような感覚で貧血だとわかった。鼻の奥で血のような匂いを嗅いだ。視界が安定するまで、少し時間がかかった。

中にまた霧野の私物のスーツ一式があり、おしゃかにされたお気に入りのスーツが頭をよぎった。奥を漁ると、底に厚みのある茶封筒がひとつ入っていた。

「……。」

着替えを済ませて封筒の中身を取り出した。中は写真の束であった。1番上に一軒家を真正面から撮影した写真があった。それは霧野の実家の写真であった。喉の奥の方がきゅうと締まる感じがした。写真をめくると玄関の前、開いた玄関、家の中まで撮影されていた。その後に家族の写真。幸い死体などではなく、どこかから盗撮されたであろう写真である。霧野は表情を変えないまま次の写真をめくった。

知らないマンションの写真がでてきた。エントランス、エレベーター、305号室、部屋の中、昔の恋人の現在の写真。……。写真をめくる手が止まらなかったが、束の半分くらいで見るのを止めた。時間がない。くだらない脅しだ、脅迫の証拠じゃないかと自分に言い聞かせながらも、喉に何か仕えたような感じがとれなかった。

二条は30秒程遅れたなと静かに言った。
「……お待たせしてすみませんでした。」
彼の横について歩いていた。太陽が眩しく陽射しが暑かった。光が目に痛く目があまりあかない。

視線をいくつか感じた。自然と霧野の視線は軽く俯きがちになるが、すぐに気を取り直してまた前を向いた。汗が背中をつたって滲みた。また、息が上がって目眩がし始める。霧野の顔は普段より一層透き通るように白く、目に鋭さが増していた。

「まるで獣みたいな酷い面だぜ。」

二条が霧野の顔を覗き込むようにして言って笑った。霧野は視線を彼の方に向けた。

太陽を背負った彼の顔は暗く陰って、眼だけががランランと獣のように輝いていた。「どっちが獣だ」と言いたいくらいだった。彼の瞳が細くなり、彼の大きな手が霧野の顔を掴んだ。親指が唇をなぞった。インクの様な香りと煙草の味がした。手はすぐに離れた。

二条の足は彼の車の方へ向かっていたが方向転換して事務所の方へ向かっていった。霧野は顔を擦るようにしながら彼の後を追った。事務所の上階から感じる視線に目をやる。誰かわからない影が窓の向こうに引っ込んだ。

諜報部が管理する資料室、そのデスクの一角に座らされた。部屋の中では作業用のデスクの他大型のPC、メディアや書類を収めたバインダーなどが棚やデスに整理され、確認中、調査中の物であろうものが雑多に転がっていた。
部屋の中に3人の組員が居た。入った瞬間から次々頭を下げられたが、二条に対してであって、霧野に対しては、違った視線が投げかけられていた。いちいち何か言うのも睨みつけるのも面倒だった。こういう輩には無視が一番いいのだ。

デスクの上に乗せられていたノートPCの画面に何かの表が映し出されていた。また、データの山だ。先程の写真のような脅しだろうかとデータを眺めていたがそうではなかった。霧野が食い入るように画面見始めたと同時にPCがすげ替えられ、別のデータの羅列を用意された。

「人間性を取り戻したいだろ。久しぶりに頭脳労働をさせてやるよ。」

目の前には事業の経営者の名前、事業に関する様々な情報、経営者に関する細かな、まともでない手段で集めたであろう個人情報が並んでいた。これらの事業に対して、切り捨てるべきかこちらから手を伸ばし、利用するべきか判断してみろというわけだ。

「1時間やるから、仕分けして理由を教えてみろ。」
「……なに、1時間…?1週間くらいは」
「全部やれとは言ってない。1週間?寝ぼけてんのか?お前は別にやることがあるだろ。甘えたことを言うな。」

別にやること、別にやることってなんだよ笑える、と、霧野は思い出せる限り最近の生活を思い返したが、自分からやろうと思ってやったことなどないのだった。身体が勝手に睡眠を欲し眠り、たたき起こされては身体を好き勝手にされる繰り返しだ。霧野はじっと二条を見た。二条は「どうした?」とでもいうように霧野と対称的な表情で微笑んでいた。

「今の俺がお前らに加担して何の意味が」
「あ、そう。やりたくないならいい、今すぐ出かけよう。」
二条の大きな手が霧野とPCの間を遮った。パンっといい音がして、霧野の手が二条の手を払いのけていた。とっさにしまったと思った霧野だが、上から怪しい含み笑いが聞こえてきた。
「なんだ?やりたいんじゃねぇか。遠慮せずゆっくりやれよ。」
「……。」
1台目のデータは明らかに、いくらかの闇組織と警察関係者との繋がりを示唆するデータであった。
「さっきのは何です。あんなの俺に見せて、」
「口じゃなくて頭を使えよ。それとも流石にもう使い物にならなくなったかな。別にそれはそれで別の使い道があるから良いんだが。」
「……。」

二条に無駄な期待をして話しかけるのは止めた。ただひとつ理解したこととしては、目の前に提示されたデータの分析は間違いなく仕事であり、彼を納得させる結論を何かしら出さなければいけない。さもなくば、「別の使い道」しかされなくなるということだ。

思考を始めると思った以上に頭が働かないことに気が付いた。集中がうまくできないのだ。

「別の使い道」が何度も頭の中にチラついた。すると、切れ切れの集中と思考の間で、何かを期待するように、身体の上を撫でられているような感覚がする。誤魔化すように顔を拭い目頭を抑えた。

散々別の使い道をされてきたのに、どうしてされていない時にまで、そのことが頭をよぎる。

ずっと彼の視線を感じていた。いや、彼だけではない。姿勢を正すたびに性感帯に通された金属のことが意識された。意識するとそこは熱を持った。熱誰かに固くなった身体の一部を捩じられているような感覚を思い起こした。身体の表面の熱っぽい感じはさらに求めるように強くなる。

口内に唾液がにじみ出始めていた。手を強く握った。剥がれた爪のあった箇所が痛かった。そうして、意識の舵をとりながら、途切れ途切れに考えをまとめていった。気が狂いそうだ。どうしてこうなった。自分が自分じゃ無いようだ。誰だ?

「できたかな?」

軽い猫撫で声で二条が言った。霧野は二つほど業者を上げて拾うべき理由、捨てるべき理由を説明した。二条はじっと彼の意見に耳を傾け、ひと時も目を離さず見降ろしてきた。威圧的ではあるが見守るようなどこか父性を覚えるたたずまいである。一瞬だけ澤野に戻ったような気分になる。

二条は何度か頷いて「そうだな、前者は俺もそう思っていた。後者はもう少しお前の言う情報を集める必要があることが分かった。」と言い、続く意見をつらつらと述べ、霧野もまたそれに意見を返した。悪くない感触だ。霧野は心の荷が下りたことを顔に隠す余裕がなく、あからさまにほっとした表情を二条に見せた。二条が応えるように微笑んだ。

「ま、一時間じゃそれで及第点だな。ご褒美にここで一発してやるから脱げよ。」
「……なに、」

続く言葉を見つけられなかった。聞き間違いではないとわかっていながらも聞き間違いかと聞き返したかった。全身に粟立つ鳥肌が立っていた。

「どうした。脱がして欲しいか?無理やり脱がしてやってもいいが、今の俺は勢い余ってお前の皮膚の一部まで剥いじまうかもしれない、さらに勢い余ってお前の玩具の様な一物を裂いて裏返してしまうかもしれない。」

霧野が言葉を失っているのに対して、二条は普段と変わらぬ様子で淡々と続けた。

「その場合は病院で施術をして良い形に形成してもらわないとな、ペニスに縦に穴をあけて生殖器としては使い物にならなくするんだ。尿道が開かれ、精液が滲み出はしても発射はできなくなる。しかし穿たれた穴には感覚器が残っているわけだから触られ、挿れられたら感じるわけだ。つまり指しか入らん性器だ。奇麗にできればなかなか面白いらしい。一度やらせたことがあるが暴れてな、ほら、こんな風になっちまった。」

二条が喉の奥で笑いながら見せてきた携帯の画面に写る画像は一見、何も言われなれば何かわからないピンクと肌色をした二つの塊であった。

しかし、今の話を聞いた後では脳が正確に情報を処理して、何か理解させられる。血が凍るような感覚の後、すぐに目を逸らしたが頭の中に焼き付いた塊が消えない。

「グロテスクなものを見せるな……」
自然と手がベルトにかかっていた。手の中がぬるぬるし、焦って指先が滑った。
「なんだ?警官とヤクザの二股してるヤリマンのくせに、これくらい平気だろ。他にも見るか?」
「結構です、」
ようやくベルトの留め金が外れた。
「つまらねぇ野郎だな、まあ、お前がそれほど嫌がるなら、もしやるとなった時が楽しみだな。」
「やるわけがねぇっ」
「何言ってる、物事はお前の意志と関係なく進むんだよ。今のところお前は物好きな組長の目にかかっているが、いつまで続くかな。それが明日か一か月後か、はたまた一年先かどうだっていいが……言ってることの理解はできるよな。」

川名が二条に対してまるで餌を与えるようにイキのいい不要な人間を与えていることを霧野は察していた。組織内外問わず。

「お前があの人の前で常に愚かな失敗をするように仕込んでやったっていいが、あの人も頭が回るからな。あからさまなことをしてバレても厄介だ。最近、ずっと、目の前に肉を置かれてるのに焦らされてる気分だよ。お前に俺の気持ちがわかるか?……。どうした?さっきから手が止まっているが。」

異常者だとはわかっていたが、ここまで異常者とは、と思いながら立ち上がり、衣服を上下とも脱ぎ捨てた。妙に肌寒く、静かだった。見回せば部屋の中に二条と二人きりになっていた。さっきまで他の組員がいたはずなのに、あれほど嫌だった視線が今は恋しく感じるほどだった。何か根本的な恐怖の様な物を揺さぶられ続けていた。二条は霧野の身体を何か等身大の絵画でも見るように眺めていたかと思うと言った。

「立っているだけじゃダメじゃないか。俺を導いてみせろよ。お前は何をあの娼婦に教わったんだよ?それともお前らふたりしてあそこで乳繰り合ってるんじゃないだろうな。そういう話ならアイツを外さないといけない。」

冗談ではなかった。ようやく美里に協力材料となる餌を与えたばかりなのだ。あの野郎、外でバレるような真似してるんじゃないだろうな、と霧野の恐怖に満ちていた心の中に感情らしい感情が湧いて出た。

その勢いを糧に、娼婦の真似事でもなんでもやってやろうと二条のベルトに手をかけ、外した。パンツの前張りの部分に触れると既に大きく勃起した熱い雄の存在を確認できた。衣服の上から脈打っているのを感じた。上から何度か触れてから、彼のペニスを露出させた。天を突くように反りあがるソレを見ながら、跪いて湿らせるように舐め、よく見もせずに彼に背を向けてさっきまで作業をしていたPCをどけてデスクの上に上半身をうつ伏せに倒した。

自分自身まだ何もされていないはずなのに軽く鼓動が高鳴り始めていた。頬に触れる冷たかったデスクがもうぬるく感じられる。腰元から尻、太ももに自身の右手を軽く這わせて、脚を開いた。

「ふふふ、お前の本職が何だったかどんどんわからなくなる。」

二条が上に覆いかぶさった。霧野の左右に大きな手が獣が爪を立てるようについた。ワイシャツの袖がめくりあげられて、しなやかに伸びた筋肉質な腕が見えた。

彼の重さと気配に、霧野の呼吸は軽く乱れ、つっかえた。尻にあてがわれたソレは狙いを逸らさず、一気に奥に突き立てられた。

諦めたように弛緩していた霧野の手のひらも猫が爪を立てるように、デスクの表面を搔いた。演技ではなく勝手に身体がそのように動いて、中を緩やかに数度締めたてた。呼吸に熱が混じる。うつぶせになった顔面とデスクの中にこもり、顔を濡らした。

突かれるたびに、奥の、綻びが緩んで、ガタンガタンとデスクが電車のように大きな音を立てるのと反対に、ゆるやかに、熱を持って花開いていった。

痺れる感覚。ぴくぴくと意識せずとも身体のどこそこの筋肉が、皮膚が、快楽を感じ取って反応した。霧野は、先ほどの二条の見せてきた画像の中の開かれた男性器を思い出し、突如、幼少期の理科の実験を思い出していた。蛙のもぎとられた脚に電極を通して、筋肉を動かすのだ。ぴくぴくとそれは脳がないのに、電気刺激で官能的に筋肉を躍らせた。

自分は彼に解剖された蛙に過ぎない。と霧野は思ったが、最早感じるなとも思っていなかった。感じるなと思って感じるより、作業と思って身を任せるのがすぐに終わらせるコツだ。しかし……

「く……っ、ふ……、」

霧野は自らの身体が、徐々に責められる快感を知らないとは言えない身体になったことを、自覚しないではおれなかった。そして、恐怖の対象であり上司の一人であった二条とふたりであるということ、一瞬だけ昔の関係性を取り戻したことが、霧野の心を奇妙な色に染め上げていった。快楽と情けなさで流れる涙は余計に劣情を煽り、身体を感じさせる。熱い塊との境目がわからなくなり、蕩けそうだ。四つの腕をついた一つの獣のようだった。一段と裂け目が熱くなり、身体の中から発せられるとは思えない熱を感じた。

「あ゛ああ……っ!」
声を出しながら、ここが事務所と思い出して口を手で覆った。ペニスが引き抜かれた感覚であった。
「お前の、顔を見たい」

熱を持った彼の声と同時に抱きかかえられて身体をデスクの上に裏返された。足が抱え上げられてまさに蛙のように折られ、下半身から一直線に顔を覗き込まれる。二条が無邪気な笑みを浮かべて霧野を見降ろしていた。恐ろしいというより無垢な表情だった。それから勢い怒張した肉の槍が見える。

霧野の身体が軽くのけぞって、右の瞼の下の辺りが痙攣した。これから被検体のように腹を切り開かれても良いと一瞬邪な思いが霧野の中に浮かんだ。

「なんて顔をするんだ、お前。」

二条の声が震え、また覆いかぶさってくる。四つの腕をついた獣だったのが、腕が絡み合いさらに境い目がなくなった。暴力的でありながら、抗おうと思う隙を与えない容赦の無い動きであった。一方的に食われている感覚。

境い目がなくなっても彼の双眸が霧野と彼が違う生き物だと主張し、絡み合っていたはずの二条の腕の片方が気が付くと霧野の視線のすぐ真上にあった。青く浮き出た血管が良く見えた。

二条の指が首の動脈をしめ、まるで蛇が緩やかに獲物を殺すように心地の良い酸欠が訪れた。下から食われる感覚から逃れようと上で強く息を吐くが吸うことができない。頭の中で爆発しそうなほどの速さで、脈打つ音がきこえ、全身が同じように脈打つ。それと別に下半身に咥える肉の特に熱い脈打ちを感じ、顔が熱く溢れた涙と涎が、デスクまで濡らした。

意識が現実とふわふわとした快楽だけの世界をいったりきたりをする。射精とは別の熱い感覚が下半身から足先まで走り、何度か身体が二条の腕から逃れるように跳ねたが、それで終わるはずもなく、大量の尿が霧野の下半身からじょろじょろと噴出した。

朦朧とした霧野の意識の隅で、二条の優し気な笑い声が聞こえた。すっかり肉の緊張した身体を裂くように肉の槍がくぽくぽと身体を突き続けた。中で、一段と熱い物が溢れる感じがした。首の締まりがゆるみ、意識が現実に戻ってくる。

「あ……っ、う…」
「まだまだ、元気そうじゃねぇか。ん?お前のおかげで、俺も、まだ元気だ。」
出したばかりだというのに、まだ二条のモノの勢いは衰えず中で存在を主張した。
「ん……く、」

余韻で言葉がすべて喘ぎに変換され、意識が半分快楽の中にいるせいで、マトモな言葉が出ない。自分の唾液のまじった荒い呼吸音が世界の音の半分を満たしてうるさかった。その時、視界の隅の方で何か動いた気がした。先に二条が身体をそちらの方に向けた。それから貫かれた身体から一気に獣が引き抜かれ、霧野は言葉にならない声をあげた。

「……なんだお前、今日は非番だろ。来るなら連絡しろよ。」
「連絡?しましたよ、出ないんだからしょうがない。何してんのかと思えば……」
聞き覚えのある声であった。普段よりワントーンもツートーンも高い間宮の声だ。霧野のかすんだ視界の中で間宮が二条に何か言っていた。
「何故こんなところに二人で、危ないじゃないですか、」
「危ない?どこが、見ろこのザマを。これでどうやって逃げようっていうんだ。」
二つの靄がかった大きな塊が霧野を見降ろしていた。霧野はデスクの上で伸び、自身の身体の上に精液と尿を散らしながら、視線が宙を彷徨っていた。
「……。」
「お前まさか嫉妬してるんじゃないだろうな、面倒くせぇ、」
「大体ここ、俺の席じゃないですか。どうして、」
「ああー……うるせぇなぁ、わかったよ、どけばいいんだろ……ほら、どいてやるよ」

間宮を遮るように二条の腕が再び霧野を抱き、再び中に雄を突き入れた。
「ん゛っ!?、」
間宮のいる手前、霧野は朦朧としつつも声を抑え、身体を強張らせた。身体が浮く感じがした。しかし、今度は感じではなく、二条に貫かれたまま抱きかかえられていたのだった。立位の状態となり、自然と二条の肩、首元に手を回していた。朦朧とする意識の中で、凄まじい筋力だなと思ったと同時に、ズンっと重力でさらに奥まで物が押し込まれ、何も考えられなくなった。霧野の眉はしかめられ、疲労と快楽の中で瞼は半ば閉じられていた。
「お゛あっ……」
身体がぶるぶると震えていた。逃れようと身体を動かせば、勝手に身体が感じた。行き場を失った足が宙彷徨った。
「なんだ?自分から快楽を貪って、すっかり好きだなぁ。」
「……ちが、っ!!」
身体の中で何か爆発した。二条がそのまま下から上に突き上げるように身体をゆすっているのだった。二条に抱きつようにしてバランスをとるしかなかった。彼の背中に爪を立て、傷になるほど強く搔いたが、何も言わず、何も変わらない。安定しない姿勢の中で唯一、彼の固く反り立った一物だけが霧野を支え、貫き続けた。断続的にこらえきれない声が漏れていた。上に上がって落ちるたびにチカチカと視界が煌めいた。

「ははは、フリーフォールみたいだろ。スリルがあって楽しいかな?」
フリーフォールは、遊園地のアトラクションの中でも確かに好きだったと霧野はぼんやりと思った。座ったまま無抵抗のまま上空にまで運ばれ、止まり、焦らされたうえ、こちらの意志と関係なく落下させられるアトラクションだ。大人向けのたかいたかい、とも言える。ははは、と一瞬一緒に笑ってみたが、すぐさま余裕がなくなった。
「ふっ……う゛ぅっ」
息も絶え絶えに二条の身体に抱えられていると、妙な感覚が身体の中にゾクゾクと沸き上がった。中がゆるゆると締まり、先ほどの余韻もあいまって甘い感覚が頭を満たしていった。霧野の眉間にしわがより、紅潮した頬と対称的に、半ば閉じかけた瞼の中の瞳はどこに意志があるのかわからぬ虚ろさを見せていた。
「んん……」
二条が体の向きをかえた。抱きかかえられたまま霧野が薄目を開けると間宮が馬鹿のように突っ立っていて、そこに彼が居たことを思い出した。見たこともないような表情でふたりを見ていた。見せつけるように、また強く上下に身体が動いていた。間宮が何か言いかけたが、その開いた口から出てくる言葉はなかった。目を逸らしたそうにするが、逸らせず、こちらをじっと見続けているように見えた。

二条が動きを止め、向きをかえたので、彼は霧野の視線から外れた。抱えられながら歩かれると、また彼の一部品になってしまったのかのような感覚に満たされた。白彫りの刺青の周囲がうっすらと桃色に色づいていた。

「んん?おとなしくしてると思ったらじんわり身体が熱くなったな。まるで俺のチンポケースじゃないか。このまま組長の部屋まで運んでやろうか。」
「ふざけんな゛……っ、」
流石の彼も大柄な霧野を抱えているのに疲れたらしく、息が激しく上がっていた。「やれるものならやってみろ」と元気があれば続けたいところだが黙っていた。そのような挑発をすれば、彼はどんな手を使ってでもやるだろう。そういう男である。近くのソファの上に霧野はそのまま寝かせられ、二条がその上に覆いかぶさった。二条の顔がさっきまでいた方向、間宮の方を向いた。

「ほら、どいてやったんだから、座れよ、そこに。座りたかったんだろ。そこで見てろ。」

間宮の席からソファまで遮るものがなく、ある意味見るには特等席とも言えた。
「……」
霧野が視線を向けた時、間宮が荷物を降ろし、ゆっくり椅子を引いていた。俯いていて表情が見えないが、心なしか手が震えているように見えた。間宮は椅子に腰かけ二人の交合う方へ体を向けた。

その時また、霧野の中に仕上がった身体の奥を開かれる感覚がして、間宮どころではなくなった。しかし、彼の意識がこちらを向いているのは明らかであった。開いていた扉が軽く閉じるような感覚があり、意識が鋭く、はっきりとしていった。そして、羞恥による背徳的な気持ちよさがにじみ出ていくのだった。それから急速に疲労で身体が重くなり始めた。
「くそ……、」
幾度か突かれているうちに、目のやりどころが分からなくなり顔を片腕で覆っていた。

「んっ……、ぅっ」
「なんだ?さっきより反応が悪いな。どうしたのかな?疲れたのか?」

二条の手が乳首のピアスを幾度かはじき、太ももと臀を平手で叩いた。
「はひっ……っ、う、」
身体が触れられた箇所を中心に霧野の体はまたジンジンと疼き、反り返るほど激しく勃起していた。
「うぅ……」
「もうちょっとだな。お前はもう十分に淫乱だから少し喝をいれてやるか。」と言って二条の動きが一瞬止まったので、腕の隙間から二条を見上げると、拳が振り上げられていた。ゾッとしてとっさに両腕で顔を覆って力を入れたが、拳は下腹部のあたりに堕とされ鈍い音と共に鳩尾に深いパンチが入っていた。力を入れてガードする余裕もなく、直接内臓に衝撃をくらってしまう。

「勝手にひとりで気持ちよくなって、ダメじゃないか。お前は俺達に使っていただいているという自覚を持って身を捧げないといけない。だってそうじゃないか?じゃなかったらどうしてお前は生かされてるんだ?ん?」

身体が裏返り、嘔吐しそうな感覚と嗚咽、咳き込みと同時に、身体が拒絶反応で強く強く二条の物を締め上げ、中で一層霧野を押し開いていじめるのだった。食道が痙攣して、逆流した胃液が喉を焼き、軽く嘔吐していた。

覆っていた腕をどけ、嘔吐のあとをぬぐった。顔中が気持ちが悪い。呼吸をととのえながら二条を見上げると、涙で滲んだ視界でもはっきり分かるほど、愛おしそうな顔をしてこちらを見ていた。
「くっ、異常者がっ……ああ゛っ!!」
霧野の肉棒の先端にあるピアスが二条の小指の先で軽く捩じられていた。霧野を見下げていた視線がそれ、横の方にゆっくりとむいた。

「そうだ、お前こっちにきて手伝ってやれよ。」
「く゛っ、や゛めっ……」
ペニスの先端を捩じる指先が外れた。二条の手が霧野の顔を掴み今度は容赦なく指が口内に突っ込まれた。
「ん、遥、お前に言ってるんじゃあないんだよ。あ、なんだこりゃあ……へぇ~……」
二条の親指がクリトリスをいじるかの如く、舌に穿たれたピアスを軽く弾いた。
「あ゛っ、あ、っ」
「おい、間宮、何してる。早くこっちに来て、遥の乳首とクリトリスでも舐めてやれ。何故だか知らねぇが急に穴の具合が悪いからな。」

何故だか知らねぇがの部分を二条は厭味ったらしい言い方で言った。彼がこちらに近づいてくる足音が聞こえ、ソファのすぐ横、霧野の横に間宮が膝をついた。それから、二条と霧野の汗ばんだ身体の間に入りこむようにして、二条と一緒に霧野の身体を押さえつけ、霧野の脇の少し下辺りに舌を這わせ始めた。

間宮の奇麗なピンク色をした三角形のしかし長い舌は、軽く口から出ている分には猫を思わせたが、動きは蛇のようにねっとりとしていた。優しく肋骨の隙間を舐め上げるようなそれは、暴力的な下半身に対して、痒いくすぐったいような刺激をあたえた。普段と違う丁寧な口遣い、噛むのではなく、ちろちろ舐め上げられたことで、霧野の緊張した身体が震え、軽く弛緩し始めた。舌が肋骨をなぞる様に何ん共往復する。くすぐったさとじれったさで鳥肌が立った体を、下から強引に突かれ続ける。霧野の息が再びはあはあと強い感じを帯びてきた。
「ああ、少しは、良くなってきたな。」
二条が言った。間宮は上目づかいで霧野の方をじっとりと見たが、霧野と目があうと直ぐに作業に夢中になるかのように目を伏せた。首元の刺青が汗ばんで濡れていた。

鋭い歯は、霧野の身体に一切突き立てられることはなく、徐々に舌は胸の突起の辺りをはあはあと強い息遣いと共にからめとり始めた。焦らすように周辺から最後に舌が強く、歯先が優しく実を摘むように優しく責め立てた。皮膚をくすぐる息、事前にピアスで焦らされてできあがっていた乳首への直接的な刺激に意志と関係なく霧野の身体は狂喜し、中がキュウと締まった。間宮の頭が二条に掴まれていた。

「下も、舐めてやれよ。」
「……」

間宮は何も言わなかったが二条の腕に押されるのに抗うこともなく、舌を出したまま、目を伏せ、霧野の下半身の方に沈んでいくのだった。滑らかなものがペニスの先端に到達しそれからペニスがぬらぬらとねっとりした温かい管の中につつみこまれていった。粘着質な音が前と後ろで二倍になって同時にカチ、カチ、と時計の時の刻むような音が聞こえ始めた。霧野のピアスが間宮の歯に当たり音を立てるのだ。

「ああっ!?……あ゛っ!!!」
「ふふふ、凄いだろ。何がどうなってるのかわからないか?……おお、良い具合だな。間宮、その調子でしっかりやってろよ。」
「……んっ、、」
間宮が、顔を顰め一度口をはなしかけたが頭を二条に触れられると再び沈んでいった。

下半身がどうにかなりそうだった。前後から激しい刺激をくわえられ、まるで腰から下が強い熱であぶられ溶けてなくなったようだ。筋肉が痙攣すると脳まで突き抜けるような衝撃が走り、射精した。間宮の口の中に。
それでも何も変わらず、吸いあげられるように全く同じ調子で舐められ続け、中を穿たれ続ける。

「や゛っ、よ゛せ……っ!!あぁ゛、ぉ…っ、ぁ」

身体が逃げそうになるのを、四本の太い腕が抱え込むように押さえつけるのだった。異常な熱気が部屋を満たし、三人分の熱で身体が汗にまみれてソファの革がぬるぬると滑って奇妙な音を立てた。
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