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お前は最悪な趣味をした変態だな。
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「人を殺したことがあるか、でしたっけ……?」
唐突に暗闇の奥から義孝の声がしたので、汐は伏していた頭をもたげた。周囲が暗いのも手伝って声は普段より強く汐の頭の中に響いた。義孝は汐には背中を向けベッドに横たわっている。
「あるよ、あるに決まってるじゃないですか。汐様、考えてごらんなさい。この国には、死刑制度がありますよね。だから、殆どの人間は無自覚な人殺しなのですよ。例外、生まれた瞬間から、次の死刑が執行される前に死ねば、その人間は人殺しではない。しかしそれ以外全員、人殺しです。」
「なるほど面白い。一理あるかもしれん。だがな、俺がお前に聞いてるのは、」
その瞬間、汐の頭が前に引き寄せられた。思わず、卑しい声が漏れ出てしまった。汐は取り繕うように軽く咳払いし、身を起こした。汐の首からは鎖状に編み上げられた縄が垂れ下がっていて、その縄は義孝が寝ているベッドの中へ延びていた。その首縄は、渚が置き土産として汐の首にかけ、結び目を作り、結び目から伸びた縄を器用に鎖状に編み上げたものだった。それが勢いよくベッドの中で引っ張られたのだった。
汐は部屋の主だというのに床に寝ていたのだった。外は寒くとも、汐の中はまだずっと熱かった。だから、渚が部屋を出ていってから、随分時間が経ったような気がしているのに、冷たい床の上でもいつまでも眠れないで居たのだ。義孝も同じなのか、と、思うと汐の心の中に一つ、小さな白い花が咲いたようになった。気持ちがはやり、身体が急き、伸びるように起き上がった。
ベッドの上で、暗い影の塊が、緩慢な動作で起き上あがった。そして、ベッドの上に腰掛けて汐を見降ろした。
「どうでもいい……」
影の中に軽蔑の眼差しがある。白目の部分が闇の中で煌々と光っていた。
「今のお前の口から出てくる言葉全てに価値がない。」
一瞬だけ白目の部分が小さくなってまた大きくなる。義孝は縄を手の中で握る、というより、軽く指にかけるようにして、持って立ち上がった。彼は足音一つ立当てずベッドから降りた。そして、部屋のドアの方へ身体を向け、一瞬の躊躇も無く歩き始めた。一瞬歩を進めることを迷った汐だが、すぐ彼の意に添うように後ろから這ってついていった。彼は部屋のドアを開け放った。瞬間冷たい風が部屋の中を吹き抜ける。汐の皮膚の表面は鳥肌がたち、同時に下腹部に感じていた熱がさらに大きく、熱くなった。義孝が黒いTシャツに金のラインの入った黒ジャージを身につけているのに対して、汐は首縄以外は何一つ身に着けてはいなかった。それなのに、全身汗ばませているのは、汐だけで、月明かりに微かに照らされた義孝の顔は白く全く上気の気配の一つも無く、かなり白々としていた。
義孝は片手をジャージのポケットに突っ込んで、汐にとってはかなり長い間、涼しい顔をして外廊下を眺めていたが、おもむろに一歩外へと踏み出す。汐は、声を出したい衝動を押し、堪えた。堪えている内に、頭の中に、虚が、ブランクが大きく拡がって、じんじんとして、身体を巡り始めた。その広がりは、言葉の代わりに、目の表面の潤みとなって表出し、下腹部の中に溢れ始める精のエネルギーの元と変わる。
汐は、義孝にならって廊下に一歩、手を、踏み出した。手のひらとそして膝が、酷く冷たい床にあたるが、何故か内側からは、温かい。静まり返った屋敷の中で小さな息遣いだけが五月蠅い。汐は呼吸を整えながら、彼の飼い犬のように這って付き従い彼の導く方向へ進んでいった。屋敷は静まり返っている。義孝は、汐の兄、忍の部屋のドアの前まで来ると足を止めた。そして、ドアの向こうが透けて見えるのかのように、じっと見て、言った。
「ここに射精しろ、出せ。」
汐は一瞬聞き違えたかと思い思わずヒュッと息を吸い込んだ。義孝はやはり前を向いて片手を、縄を握っていない方の手をポケットに突っ込んだまま、ドアの下の方に視線だけを、スッと動かした。眼が、そこに出せと言っていた。ほんの数刻前、渚の手で射精させられた。それを、傍らで義孝にじっと見られていた。
汐が動けないでいる間、義孝がポケットに突っ込んでいた方の手を出した。その手に、刺青を彫る際などに衛生面を考えて彼が嵌めることがある黒いビニール手袋がまるで使用済みのコンドームのようにだらりとぶらさがっていた。彼はその黒いビニールを手に嵌め始めた。
バチン!と大きな音を立ててゴム手袋が彼の手に嵌った。義孝は緩慢な動作で汐の横に屈み汐の手首をとった。そして、汐の両の手を忍の部屋のドアの表面に導いた。汐は膝立ちになって、月明かりの下に勃起した雄が堂々と義孝の前にまでしっかり露になった。
だらだらと汐の背中に汗がつたい始め、だらだらと透明な汁が流れ始め周囲に風に乗って微かに臭い立った。既に息が上がっていた汐の半開きの薄い唇の隙間に、黒い、指が、ぬる…ぬる…と、蛇のように入り込み、汐の口内をねちねちと音を立てながらその小さな黒蛇が入念に犯し始めた。指は、こりこりと口蓋を引っ掻き、喉の奥の膨らみに触れ歯の裏の肉を触り、はぁ、はぁ、と大きく開かれた口の奥から濡れた息が、手袋を濡らし結露させた。ぬちゃぬちゃと音をたてて、透明な糸を引いた。片手がようやく引き抜かれたと思うともう片方の手の指が、同じように口内に入ってくる。弄繰り回され、ふいに、その指が、下唇をなぞり、上唇をなぞり、円を描くようにゆっくりくるくると、動いた。汐は開いていた口をゆっくり優しく閉じ、唇で優しく指を噛み、その指を、歯を少しも立てないで乳でも吸うように吸って可愛がるようにして、舐め続けた。
指は汐の蕩ける熱い口内の、感度の良い部分で優しくひっかくように蠢いて、汐は優しく閉ざした唇の奥、粘膜に溢れた喉の奥から、見た目に似合わぬ甘い声を出し始めた。汐は、自分の内から不本意に漏れ出たこの声に羞恥した。そして不意に自分の、いや渚の後ろ盾があって自分が、なんとか取りまとめている野蛮な男共のことを考え、余計に羞恥した。本当は何度も逃げ出したいと思った。見ろ、今のこの様子を、これが、これで、どうして人の上になど立っていられる。逆なら良かったんだ、そんなことを、今になってさえもつい渚の前で言ってみたくなるが、言ったところで互いの傷の抉り合いになるだけ、いつまでも渚に甘えても居られない。視線を感じた。目の前に義孝の顔が、覗き込むようにしてあり、目が合った。口の中を最後まで軽く爪でくすぐったく引っ掻くようにしながら指が抜けていくと、今まで考えていた全ての些末事をきれいさっぱり忘れて余計、気持ちよくなった。普段と何一つ変わらない、喜びも悲しみも見えない。彼は、さも当たり前という顔をして、こちらを見ている。汐が瞬きすると何故か視界がかすんだ。頬に熱いものがつたいった。指が完全に抜け、指から滴った唾液が、ぽた、ぽた、と、床を濡らした。
彼は汐の背面に移動した。背後から身体を抱えられるようにして、月光に照らされててらてらと光る黒い手が、汐の細い身体を這い、胸の突起を弾くように弄り始めた。汐は兄の部屋のドアに手を付いて背を、ぐぅと、丸めるようにして、ぶるぶる、震え始めた。爪がドアを引っ掻き掛けて、大きく手を開きなおすが、妙に手の中がぬめって滑る。伏せた頭、薄っすら開いていた目をしっかり、自分の身体の方へ向けると、視界のその先で義孝の黒い指先が、硬く反るように勃起した汐のピンク色の乳首を引っ掻くのが見え、汐はまた目をきつく閉じ、項垂れて耐えていた。次にまた薄っすらと目を開いた時、空いていた方の右手が汐の尾てい骨の方へ移動していくのがみえた。その辺りは今ちょうど、火の噴く程、熱かった。
身体の中に、さっき自分が吸いたてた指が入ってきたのが直ぐに認識できない程、汐の肉は十分にほぐれていた。二本、三本と入って動かされて、ようやく汐は、わかり、それから義孝が、このまま忍の部屋のドアへと射精に導かせようとさせていることを察した。
ぁ、ぁ、と思わず粘ついた喉の奥の肉から甘い小さく声が漏れて、全身に強く力が入り、骨が軋み、汗が、ぼたぼたぼたっ、と音を立てて廊下に落ちた。すぐ耳元に小さな息がくすぐったい。汐と反対に全く乱れないのない呼吸音がし、耳を擽って、その度に背骨に電流が走るような痺れが訪れる。止めろとも言えない、息をしている、だけなのだから。その時、ドアの向こうで、ガタンと音がした。汐の心臓は飛び出んばかりだったが、身体の上を中を弄ぶ手の動きは一切止まらず寧ろより一層激しくなって、汐を責め始めるのだった。思わずまた、くぅ、と小さく声が漏れ出、叫び出したくなるのを堪えた。
兄貴が……と、口に出かかり、口を固く結んで、目を強く閉じ、堪えが汐の眉を強くしかめさせる。しかし、強く閉じた瞼と反対に、またじょじょに口は呆け始め、開き、つーっと蜘蛛の糸のような涎が垂れ、はぁはぁと上がっていく息の中に猫のような高い声が混じる。きつく閉じた目の内、汐が頭の中で、はやく、はやく、イカなければ、と思う程に、何かがつっかえて、イケず、余計に身体に力が入り、軽く腰が揺れた。
「犯してやろうか。」
「ぁ……?」
涎交じりに出した声と同時に、中で指が強く折り曲げられ、汐は身体を前に折るように屈め、ぉ゛っ、と小さく声を出して啼き、指三本の効果でぶるぶる震え始めた。
「お前の兄貴の部屋の前で犯してやろうかって聞いてんだよ。俺が。お前を。」
汐が身体の中の異変でいっぱいいっぱいになって答えられずにいると、中からゆっくりと義孝の指が抜けようとするのを汐の肉が強く締め付けるのだが、無理に振り払うように抜かれてしまう。同時に、ふいに首にかかっていた圧力が無くなったことに気が付いた。後ろから常に軽く縄を引っ張られていたことに、たった今気が付いたのだった。そして体の上をまるで蛭のように吸い付くように這っていた指も体から離れていき、背中越しに感じていた布のこすれも無くなった。ぼた、と重い音がし、目の前に縄がぶら下がって、持ち手が廊下に上に落ちた。終わり、俺が、駄目だから、失望させたか、きっと義孝はそっぽを向いているに違いないな、と、汐がおずおずと怯えた犬のように義孝の方を向くと、予想に反して彼は、ポケットに両手を突っ込み、無表情に汐を眺めているのだった。じっと見ている、しかし、それは、錯覚かもしれないが、確かに彼のその黒い瞳の奥の方に火のような紅い輝きが一瞬走るのが、汐には見えた。ぞっとするような、人によってはそれを見ただけで逃げてしまう様なものだった、だめだ、いつまでも見ていたら、それこそ、吸い込まれていきそう。こんな人間が居て、いいのか、人間?いや、人間では無いのかもしれない。そういう者こそ、人の上に立つべきなのだ。汐は再び、脳の奥の方が不自然にじーんじーんとして、義孝の方に向けた身体の中心で、雄が、萎えるどころか余計いきり立っておさまらなくなり、はぁはぁと、自分の口角が上がっていってしまうのを感じたが、もう、耐えることは止めた。
「ああ……、そうしてほし」
言い終わるよりはやく、義孝の足が勢いよく後ろに引かれたかと思うとその裸足の足先が思い切り、一切の手加減無しに汐の腹部に食い込んだのだった。勢い廊下に倒れ込むように尻もち付き、それでも開かれた股の間で萎えずにいる。腹部を抑えながら手を付き、起き上がり、義孝の前に膝をついて視線を彼の腰のあたりに彷徨わせた。すると、義孝は黙ったまま、そのままするりと汐の横を通り過ぎて、元来た道を戻ろうとする。
「ま、待て、……待ってください、」
振り返り、すがるようにつんのめった汐の視線の先で足が止まり、再び身体が汐の方に向いた。
「……。なんで?」
義孝がかなり白々しい様子でそう言うのを、普段の場でなら、可愛いなと思うのだが、今は全くそう思わない。今、義孝に自分の非礼について問われているのだ。だから、上手く答えなければいけない、彼の満たされるように。汐は上目づかって、目を逸らしたいのを我慢しながら、揺れる瞳を見せながら、義孝に縋った。
「お………犯して欲しいからです、……」
「ああ、そう……、じゃ、別に、お前の部屋で良いだろ。」
汐は自分の尾てい骨の下の、さっきまでさんざんほじくられていた熱い肉溝の部分がきゅううと締って、蹴られたことで一瞬物理的に萎えかけていた、様々な部分が精神的なマゾでまた激しく熱く、乳首までもがじんじんと熱く上向いて来るのを感じ、また、口角の上がった口から涎を垂らしながら「ここが、ぁっ、ここでが、いいです……っ」と力むような口調で言っていた。
義孝は目を左上の方に一瞬向け考えるそぶりを見せ、それから、汐の顔では無く、身体の方を見て、ふ、と一瞬口に出し、「何で?もうすぐ巡回の奴が来るかもだぜ、それでもいいのかよ、この、変態。頭おかしいんじゃないのか、お前。」と言った。汐はもう、昂ってとまらなくなった。割って入るように「いいっ、いいです、」と汐の口はもう勝手に、喘ぐように言ってまた、勝手に、最初、義孝に手を取ってポーズをさせられたように、今度は自ら兄の部屋のドアに手を付いて腰を突き出す素振りを恥ずかしげも無く見せた。すると、汐の見上げる先で義孝の表情が、変わったのだった。あからさまな嘲笑が目元、口元に浮かび、「お前は最悪な趣味をした変態だな。」と吐き捨て、汐の背後に近づいて来、覆いかぶさった。
さっきまで無かった熱が、汐の背面に押しあたっていた。ぁ、と声を出す間もなく、いつの間にか汐の熱い肉蕾の中を義孝の蛇が押し入ってきており、その身体からどうしてそんなに強い力が出るのかと思う程、強い力で、浅いところから億、下から勢い上に向かって、突き上げ、中の楽園を粉々に蹂躙、擦り潰すように、穿つのだった。汐はもう絶叫しそうな程であったが場所が場所であることが、それを禁じる。そのことが一層、さらに、汐の興奮を掻き立て、頭の中が痴呆のように、淫の気だけで満たされ、残されたわずかな理性が、獣のような声を揚げたてるのを必死で耐え、代わりにバキバキバキと血管を全身に、特に肉棒のその筋に太く青く這わせ、弓なりになった背を真っ赤にしながら、背後から強く、突かれるたびに歓喜、つい、頭をドアに打ち付けた。
頭をドアに打ち付けたことで、汐は最悪なことに一瞬、正気に戻って、目を見開いた。ああ!俺は駄目なんです、兄さん、えらそぶってるけど、見てくれよ、本当は、駄目なんだから俺は、こんなに、弱い、本当は、ああ、絶対見られたくない、こんな姿、忍なんかに、忍如きに、死ね、糞兄、お前のせいで渚が変に気が立って俺が犠牲になったんじゃないか、低能の癖して、ああ、低能だからこんな家の跡目を意地でも継ぎたがるわけね、あはは、お前さえいなければ、と、二律背反した掛けはなれたその思考に打ちのめされたが、彼には、義孝にはそのすべてが、見透かされているのだ。汐の思考が爆発しかけるかというそのきわどいタイミングで、胸元の突起をほんの軽く、またピっと指先で弾かれただけで、汐の理性如きはふっとんでいった。すぐに汐の頭の中から兄のことなど消し飛び、兄に対して思った重い感情のその全てが義孝への重い感情に瞬時に置き換わり、溢れた。身体から溢れ出てしまいそうな程に、いっぱいになってしまった。一突きごとに彼の名前が脳内に染み込んで反響していく。声に出す代わり、喉の奥から低い獣じみた狼のような声がぐるぐるぐるぐると出ると、それが義孝を悦ばせたらしく、汐の中に棲み着いて跳ね回る義孝の蛇がより一層膨らみ大きくなって、汐の肉壺の奥を強く突きあげるのを、全身で、感じたのだ。狂いそう。だらだらと涎と汁を垂れ流しながら、頭をスパークさせている内、その名前が、頭の中の名前が一番大きくなった時、後ろから首縄を軽く引かれた。その時、すべてが、背面から男に犯され中を擦られることでギンギンにいきり立ったあまりにも哀れな雄から一斉に勢いよく放出された。ビュゥゥゥ!!!!、激しく忍の部屋の木目調の奇麗なドア面に、濃い白濁液が発射され、だらだらと下に向かって垂れていく。汐の身体は音を立てるのも気にせず廊下に崩れ落ちるようになる。続いて、中に、どくどくと熱い液が溢れる感覚に、声を出して悶えた。家の檜の匂いの上に、自分の匂いと義孝の匂いでいっぱいだ。精液と一緒に、一緒に理性まで飛ばしちゃったみたいだ。
肉奥から、ずるりと、義孝が抜けていった。まだ……と無意識に汐の濡れた蜜壺が締るがそこにはもう強さは無く、赤子が軽く母の指を握るくらいの引き締まり方しかできない。精液以外の汁までもあたりに飛び散り、廊下一面濡れた。汐が廊下で丸くなっていつまでもブルブルしているのに対して、義孝はしたたかにジャージを整え、ビリビリと音を立てて手から黒手袋をはがし、ポケットの奥に雑につっこんだ。そうして、また指を引っ掻けるようにして縄を拾い上げて、廊下を元来た道を進み始めようとする。汐は本来なら疲労して動けないはずの身体を精神の力だけで起き上がらせた。来た時とはすっかり違った呆けた頭でしかし足取りは来た時より随分しっかりとして彼を追っていくのだった。部屋に戻り、扉を閉められた。そして、義孝の手で部屋の明かりのスイッチがカチ、とつけられた時、同時に、汐の頭の中でカチリとスイッチの切れる音がした。
義孝は手に取っていた縄をベッドの脇に優しく置き、ポケットの中にゴム手袋をゴミ箱へ放り投げて、静かに汐のベッドに腰掛けてぼーっとしていたかと思うと、窓の外を見始めた。夜空に半月が浮かんで、気持ちのいい風がそよぎ、庭の木々を静かに揺らしていた。
汐は、持ち手のいなくなった縄を引きずりながら、自分の寝床として床に引いていた毛布の元に戻った。大変なことをしてしまった……後始末をしてこなければ……と今度はだらだらと冷や汗をかき始めた。我ながら忙しい奴だ、と汐は自分で自分を嘲笑った。それにしたって、あんまりだぜ、やりすぎじゃないかよ、今の義孝にならば、おそらく口に出して言っても許される、それくらい、もうわかる。でも…………。汐は手で顔を覆った。良かった、良かった……………。汗ばむ、その下で笑んでしまう。笑みがおさまるのを待って、汐はようやく掌を顔から外し、探るように義孝の方を上目づかう。まるで汐が見るタイミングがはじめからわかっていたかのようなタイミングでまたすぐに見返された。駄目だ、と思う。そんな風にされると、また、さっきのように、戻ってしまうじゃないか。汐は必死の装いで「酷いことをする。」と苦笑いして見せた。
「……。ああされて、然りだろ。」
彼はそう言って直ぐに、布団の中に身体を滑り込ませ汐に背を向けるのだった。
「……。」
汐は義孝の背後で思わずにやにやとしていたが、口には出さず、怠い身体を何とか立ち上がらせて、電気を消した。自分の首から垂れ下がっている縄を手に取った。逡巡の後、義孝の背後からベッドの中にもぐりこみ、腕を回して縄の先を彼の手に握らせた。反応はなかった。汐は自分が兄の部屋の前の後始末も、しでしでかしたことさえも忘れて、意気揚々と、そのまま朝まで泥のように深く眠った。
唐突に暗闇の奥から義孝の声がしたので、汐は伏していた頭をもたげた。周囲が暗いのも手伝って声は普段より強く汐の頭の中に響いた。義孝は汐には背中を向けベッドに横たわっている。
「あるよ、あるに決まってるじゃないですか。汐様、考えてごらんなさい。この国には、死刑制度がありますよね。だから、殆どの人間は無自覚な人殺しなのですよ。例外、生まれた瞬間から、次の死刑が執行される前に死ねば、その人間は人殺しではない。しかしそれ以外全員、人殺しです。」
「なるほど面白い。一理あるかもしれん。だがな、俺がお前に聞いてるのは、」
その瞬間、汐の頭が前に引き寄せられた。思わず、卑しい声が漏れ出てしまった。汐は取り繕うように軽く咳払いし、身を起こした。汐の首からは鎖状に編み上げられた縄が垂れ下がっていて、その縄は義孝が寝ているベッドの中へ延びていた。その首縄は、渚が置き土産として汐の首にかけ、結び目を作り、結び目から伸びた縄を器用に鎖状に編み上げたものだった。それが勢いよくベッドの中で引っ張られたのだった。
汐は部屋の主だというのに床に寝ていたのだった。外は寒くとも、汐の中はまだずっと熱かった。だから、渚が部屋を出ていってから、随分時間が経ったような気がしているのに、冷たい床の上でもいつまでも眠れないで居たのだ。義孝も同じなのか、と、思うと汐の心の中に一つ、小さな白い花が咲いたようになった。気持ちがはやり、身体が急き、伸びるように起き上がった。
ベッドの上で、暗い影の塊が、緩慢な動作で起き上あがった。そして、ベッドの上に腰掛けて汐を見降ろした。
「どうでもいい……」
影の中に軽蔑の眼差しがある。白目の部分が闇の中で煌々と光っていた。
「今のお前の口から出てくる言葉全てに価値がない。」
一瞬だけ白目の部分が小さくなってまた大きくなる。義孝は縄を手の中で握る、というより、軽く指にかけるようにして、持って立ち上がった。彼は足音一つ立当てずベッドから降りた。そして、部屋のドアの方へ身体を向け、一瞬の躊躇も無く歩き始めた。一瞬歩を進めることを迷った汐だが、すぐ彼の意に添うように後ろから這ってついていった。彼は部屋のドアを開け放った。瞬間冷たい風が部屋の中を吹き抜ける。汐の皮膚の表面は鳥肌がたち、同時に下腹部に感じていた熱がさらに大きく、熱くなった。義孝が黒いTシャツに金のラインの入った黒ジャージを身につけているのに対して、汐は首縄以外は何一つ身に着けてはいなかった。それなのに、全身汗ばませているのは、汐だけで、月明かりに微かに照らされた義孝の顔は白く全く上気の気配の一つも無く、かなり白々としていた。
義孝は片手をジャージのポケットに突っ込んで、汐にとってはかなり長い間、涼しい顔をして外廊下を眺めていたが、おもむろに一歩外へと踏み出す。汐は、声を出したい衝動を押し、堪えた。堪えている内に、頭の中に、虚が、ブランクが大きく拡がって、じんじんとして、身体を巡り始めた。その広がりは、言葉の代わりに、目の表面の潤みとなって表出し、下腹部の中に溢れ始める精のエネルギーの元と変わる。
汐は、義孝にならって廊下に一歩、手を、踏み出した。手のひらとそして膝が、酷く冷たい床にあたるが、何故か内側からは、温かい。静まり返った屋敷の中で小さな息遣いだけが五月蠅い。汐は呼吸を整えながら、彼の飼い犬のように這って付き従い彼の導く方向へ進んでいった。屋敷は静まり返っている。義孝は、汐の兄、忍の部屋のドアの前まで来ると足を止めた。そして、ドアの向こうが透けて見えるのかのように、じっと見て、言った。
「ここに射精しろ、出せ。」
汐は一瞬聞き違えたかと思い思わずヒュッと息を吸い込んだ。義孝はやはり前を向いて片手を、縄を握っていない方の手をポケットに突っ込んだまま、ドアの下の方に視線だけを、スッと動かした。眼が、そこに出せと言っていた。ほんの数刻前、渚の手で射精させられた。それを、傍らで義孝にじっと見られていた。
汐が動けないでいる間、義孝がポケットに突っ込んでいた方の手を出した。その手に、刺青を彫る際などに衛生面を考えて彼が嵌めることがある黒いビニール手袋がまるで使用済みのコンドームのようにだらりとぶらさがっていた。彼はその黒いビニールを手に嵌め始めた。
バチン!と大きな音を立ててゴム手袋が彼の手に嵌った。義孝は緩慢な動作で汐の横に屈み汐の手首をとった。そして、汐の両の手を忍の部屋のドアの表面に導いた。汐は膝立ちになって、月明かりの下に勃起した雄が堂々と義孝の前にまでしっかり露になった。
だらだらと汐の背中に汗がつたい始め、だらだらと透明な汁が流れ始め周囲に風に乗って微かに臭い立った。既に息が上がっていた汐の半開きの薄い唇の隙間に、黒い、指が、ぬる…ぬる…と、蛇のように入り込み、汐の口内をねちねちと音を立てながらその小さな黒蛇が入念に犯し始めた。指は、こりこりと口蓋を引っ掻き、喉の奥の膨らみに触れ歯の裏の肉を触り、はぁ、はぁ、と大きく開かれた口の奥から濡れた息が、手袋を濡らし結露させた。ぬちゃぬちゃと音をたてて、透明な糸を引いた。片手がようやく引き抜かれたと思うともう片方の手の指が、同じように口内に入ってくる。弄繰り回され、ふいに、その指が、下唇をなぞり、上唇をなぞり、円を描くようにゆっくりくるくると、動いた。汐は開いていた口をゆっくり優しく閉じ、唇で優しく指を噛み、その指を、歯を少しも立てないで乳でも吸うように吸って可愛がるようにして、舐め続けた。
指は汐の蕩ける熱い口内の、感度の良い部分で優しくひっかくように蠢いて、汐は優しく閉ざした唇の奥、粘膜に溢れた喉の奥から、見た目に似合わぬ甘い声を出し始めた。汐は、自分の内から不本意に漏れ出たこの声に羞恥した。そして不意に自分の、いや渚の後ろ盾があって自分が、なんとか取りまとめている野蛮な男共のことを考え、余計に羞恥した。本当は何度も逃げ出したいと思った。見ろ、今のこの様子を、これが、これで、どうして人の上になど立っていられる。逆なら良かったんだ、そんなことを、今になってさえもつい渚の前で言ってみたくなるが、言ったところで互いの傷の抉り合いになるだけ、いつまでも渚に甘えても居られない。視線を感じた。目の前に義孝の顔が、覗き込むようにしてあり、目が合った。口の中を最後まで軽く爪でくすぐったく引っ掻くようにしながら指が抜けていくと、今まで考えていた全ての些末事をきれいさっぱり忘れて余計、気持ちよくなった。普段と何一つ変わらない、喜びも悲しみも見えない。彼は、さも当たり前という顔をして、こちらを見ている。汐が瞬きすると何故か視界がかすんだ。頬に熱いものがつたいった。指が完全に抜け、指から滴った唾液が、ぽた、ぽた、と、床を濡らした。
彼は汐の背面に移動した。背後から身体を抱えられるようにして、月光に照らされててらてらと光る黒い手が、汐の細い身体を這い、胸の突起を弾くように弄り始めた。汐は兄の部屋のドアに手を付いて背を、ぐぅと、丸めるようにして、ぶるぶる、震え始めた。爪がドアを引っ掻き掛けて、大きく手を開きなおすが、妙に手の中がぬめって滑る。伏せた頭、薄っすら開いていた目をしっかり、自分の身体の方へ向けると、視界のその先で義孝の黒い指先が、硬く反るように勃起した汐のピンク色の乳首を引っ掻くのが見え、汐はまた目をきつく閉じ、項垂れて耐えていた。次にまた薄っすらと目を開いた時、空いていた方の右手が汐の尾てい骨の方へ移動していくのがみえた。その辺りは今ちょうど、火の噴く程、熱かった。
身体の中に、さっき自分が吸いたてた指が入ってきたのが直ぐに認識できない程、汐の肉は十分にほぐれていた。二本、三本と入って動かされて、ようやく汐は、わかり、それから義孝が、このまま忍の部屋のドアへと射精に導かせようとさせていることを察した。
ぁ、ぁ、と思わず粘ついた喉の奥の肉から甘い小さく声が漏れて、全身に強く力が入り、骨が軋み、汗が、ぼたぼたぼたっ、と音を立てて廊下に落ちた。すぐ耳元に小さな息がくすぐったい。汐と反対に全く乱れないのない呼吸音がし、耳を擽って、その度に背骨に電流が走るような痺れが訪れる。止めろとも言えない、息をしている、だけなのだから。その時、ドアの向こうで、ガタンと音がした。汐の心臓は飛び出んばかりだったが、身体の上を中を弄ぶ手の動きは一切止まらず寧ろより一層激しくなって、汐を責め始めるのだった。思わずまた、くぅ、と小さく声が漏れ出、叫び出したくなるのを堪えた。
兄貴が……と、口に出かかり、口を固く結んで、目を強く閉じ、堪えが汐の眉を強くしかめさせる。しかし、強く閉じた瞼と反対に、またじょじょに口は呆け始め、開き、つーっと蜘蛛の糸のような涎が垂れ、はぁはぁと上がっていく息の中に猫のような高い声が混じる。きつく閉じた目の内、汐が頭の中で、はやく、はやく、イカなければ、と思う程に、何かがつっかえて、イケず、余計に身体に力が入り、軽く腰が揺れた。
「犯してやろうか。」
「ぁ……?」
涎交じりに出した声と同時に、中で指が強く折り曲げられ、汐は身体を前に折るように屈め、ぉ゛っ、と小さく声を出して啼き、指三本の効果でぶるぶる震え始めた。
「お前の兄貴の部屋の前で犯してやろうかって聞いてんだよ。俺が。お前を。」
汐が身体の中の異変でいっぱいいっぱいになって答えられずにいると、中からゆっくりと義孝の指が抜けようとするのを汐の肉が強く締め付けるのだが、無理に振り払うように抜かれてしまう。同時に、ふいに首にかかっていた圧力が無くなったことに気が付いた。後ろから常に軽く縄を引っ張られていたことに、たった今気が付いたのだった。そして体の上をまるで蛭のように吸い付くように這っていた指も体から離れていき、背中越しに感じていた布のこすれも無くなった。ぼた、と重い音がし、目の前に縄がぶら下がって、持ち手が廊下に上に落ちた。終わり、俺が、駄目だから、失望させたか、きっと義孝はそっぽを向いているに違いないな、と、汐がおずおずと怯えた犬のように義孝の方を向くと、予想に反して彼は、ポケットに両手を突っ込み、無表情に汐を眺めているのだった。じっと見ている、しかし、それは、錯覚かもしれないが、確かに彼のその黒い瞳の奥の方に火のような紅い輝きが一瞬走るのが、汐には見えた。ぞっとするような、人によってはそれを見ただけで逃げてしまう様なものだった、だめだ、いつまでも見ていたら、それこそ、吸い込まれていきそう。こんな人間が居て、いいのか、人間?いや、人間では無いのかもしれない。そういう者こそ、人の上に立つべきなのだ。汐は再び、脳の奥の方が不自然にじーんじーんとして、義孝の方に向けた身体の中心で、雄が、萎えるどころか余計いきり立っておさまらなくなり、はぁはぁと、自分の口角が上がっていってしまうのを感じたが、もう、耐えることは止めた。
「ああ……、そうしてほし」
言い終わるよりはやく、義孝の足が勢いよく後ろに引かれたかと思うとその裸足の足先が思い切り、一切の手加減無しに汐の腹部に食い込んだのだった。勢い廊下に倒れ込むように尻もち付き、それでも開かれた股の間で萎えずにいる。腹部を抑えながら手を付き、起き上がり、義孝の前に膝をついて視線を彼の腰のあたりに彷徨わせた。すると、義孝は黙ったまま、そのままするりと汐の横を通り過ぎて、元来た道を戻ろうとする。
「ま、待て、……待ってください、」
振り返り、すがるようにつんのめった汐の視線の先で足が止まり、再び身体が汐の方に向いた。
「……。なんで?」
義孝がかなり白々しい様子でそう言うのを、普段の場でなら、可愛いなと思うのだが、今は全くそう思わない。今、義孝に自分の非礼について問われているのだ。だから、上手く答えなければいけない、彼の満たされるように。汐は上目づかって、目を逸らしたいのを我慢しながら、揺れる瞳を見せながら、義孝に縋った。
「お………犯して欲しいからです、……」
「ああ、そう……、じゃ、別に、お前の部屋で良いだろ。」
汐は自分の尾てい骨の下の、さっきまでさんざんほじくられていた熱い肉溝の部分がきゅううと締って、蹴られたことで一瞬物理的に萎えかけていた、様々な部分が精神的なマゾでまた激しく熱く、乳首までもがじんじんと熱く上向いて来るのを感じ、また、口角の上がった口から涎を垂らしながら「ここが、ぁっ、ここでが、いいです……っ」と力むような口調で言っていた。
義孝は目を左上の方に一瞬向け考えるそぶりを見せ、それから、汐の顔では無く、身体の方を見て、ふ、と一瞬口に出し、「何で?もうすぐ巡回の奴が来るかもだぜ、それでもいいのかよ、この、変態。頭おかしいんじゃないのか、お前。」と言った。汐はもう、昂ってとまらなくなった。割って入るように「いいっ、いいです、」と汐の口はもう勝手に、喘ぐように言ってまた、勝手に、最初、義孝に手を取ってポーズをさせられたように、今度は自ら兄の部屋のドアに手を付いて腰を突き出す素振りを恥ずかしげも無く見せた。すると、汐の見上げる先で義孝の表情が、変わったのだった。あからさまな嘲笑が目元、口元に浮かび、「お前は最悪な趣味をした変態だな。」と吐き捨て、汐の背後に近づいて来、覆いかぶさった。
さっきまで無かった熱が、汐の背面に押しあたっていた。ぁ、と声を出す間もなく、いつの間にか汐の熱い肉蕾の中を義孝の蛇が押し入ってきており、その身体からどうしてそんなに強い力が出るのかと思う程、強い力で、浅いところから億、下から勢い上に向かって、突き上げ、中の楽園を粉々に蹂躙、擦り潰すように、穿つのだった。汐はもう絶叫しそうな程であったが場所が場所であることが、それを禁じる。そのことが一層、さらに、汐の興奮を掻き立て、頭の中が痴呆のように、淫の気だけで満たされ、残されたわずかな理性が、獣のような声を揚げたてるのを必死で耐え、代わりにバキバキバキと血管を全身に、特に肉棒のその筋に太く青く這わせ、弓なりになった背を真っ赤にしながら、背後から強く、突かれるたびに歓喜、つい、頭をドアに打ち付けた。
頭をドアに打ち付けたことで、汐は最悪なことに一瞬、正気に戻って、目を見開いた。ああ!俺は駄目なんです、兄さん、えらそぶってるけど、見てくれよ、本当は、駄目なんだから俺は、こんなに、弱い、本当は、ああ、絶対見られたくない、こんな姿、忍なんかに、忍如きに、死ね、糞兄、お前のせいで渚が変に気が立って俺が犠牲になったんじゃないか、低能の癖して、ああ、低能だからこんな家の跡目を意地でも継ぎたがるわけね、あはは、お前さえいなければ、と、二律背反した掛けはなれたその思考に打ちのめされたが、彼には、義孝にはそのすべてが、見透かされているのだ。汐の思考が爆発しかけるかというそのきわどいタイミングで、胸元の突起をほんの軽く、またピっと指先で弾かれただけで、汐の理性如きはふっとんでいった。すぐに汐の頭の中から兄のことなど消し飛び、兄に対して思った重い感情のその全てが義孝への重い感情に瞬時に置き換わり、溢れた。身体から溢れ出てしまいそうな程に、いっぱいになってしまった。一突きごとに彼の名前が脳内に染み込んで反響していく。声に出す代わり、喉の奥から低い獣じみた狼のような声がぐるぐるぐるぐると出ると、それが義孝を悦ばせたらしく、汐の中に棲み着いて跳ね回る義孝の蛇がより一層膨らみ大きくなって、汐の肉壺の奥を強く突きあげるのを、全身で、感じたのだ。狂いそう。だらだらと涎と汁を垂れ流しながら、頭をスパークさせている内、その名前が、頭の中の名前が一番大きくなった時、後ろから首縄を軽く引かれた。その時、すべてが、背面から男に犯され中を擦られることでギンギンにいきり立ったあまりにも哀れな雄から一斉に勢いよく放出された。ビュゥゥゥ!!!!、激しく忍の部屋の木目調の奇麗なドア面に、濃い白濁液が発射され、だらだらと下に向かって垂れていく。汐の身体は音を立てるのも気にせず廊下に崩れ落ちるようになる。続いて、中に、どくどくと熱い液が溢れる感覚に、声を出して悶えた。家の檜の匂いの上に、自分の匂いと義孝の匂いでいっぱいだ。精液と一緒に、一緒に理性まで飛ばしちゃったみたいだ。
肉奥から、ずるりと、義孝が抜けていった。まだ……と無意識に汐の濡れた蜜壺が締るがそこにはもう強さは無く、赤子が軽く母の指を握るくらいの引き締まり方しかできない。精液以外の汁までもあたりに飛び散り、廊下一面濡れた。汐が廊下で丸くなっていつまでもブルブルしているのに対して、義孝はしたたかにジャージを整え、ビリビリと音を立てて手から黒手袋をはがし、ポケットの奥に雑につっこんだ。そうして、また指を引っ掻けるようにして縄を拾い上げて、廊下を元来た道を進み始めようとする。汐は本来なら疲労して動けないはずの身体を精神の力だけで起き上がらせた。来た時とはすっかり違った呆けた頭でしかし足取りは来た時より随分しっかりとして彼を追っていくのだった。部屋に戻り、扉を閉められた。そして、義孝の手で部屋の明かりのスイッチがカチ、とつけられた時、同時に、汐の頭の中でカチリとスイッチの切れる音がした。
義孝は手に取っていた縄をベッドの脇に優しく置き、ポケットの中にゴム手袋をゴミ箱へ放り投げて、静かに汐のベッドに腰掛けてぼーっとしていたかと思うと、窓の外を見始めた。夜空に半月が浮かんで、気持ちのいい風がそよぎ、庭の木々を静かに揺らしていた。
汐は、持ち手のいなくなった縄を引きずりながら、自分の寝床として床に引いていた毛布の元に戻った。大変なことをしてしまった……後始末をしてこなければ……と今度はだらだらと冷や汗をかき始めた。我ながら忙しい奴だ、と汐は自分で自分を嘲笑った。それにしたって、あんまりだぜ、やりすぎじゃないかよ、今の義孝にならば、おそらく口に出して言っても許される、それくらい、もうわかる。でも…………。汐は手で顔を覆った。良かった、良かった……………。汗ばむ、その下で笑んでしまう。笑みがおさまるのを待って、汐はようやく掌を顔から外し、探るように義孝の方を上目づかう。まるで汐が見るタイミングがはじめからわかっていたかのようなタイミングでまたすぐに見返された。駄目だ、と思う。そんな風にされると、また、さっきのように、戻ってしまうじゃないか。汐は必死の装いで「酷いことをする。」と苦笑いして見せた。
「……。ああされて、然りだろ。」
彼はそう言って直ぐに、布団の中に身体を滑り込ませ汐に背を向けるのだった。
「……。」
汐は義孝の背後で思わずにやにやとしていたが、口には出さず、怠い身体を何とか立ち上がらせて、電気を消した。自分の首から垂れ下がっている縄を手に取った。逡巡の後、義孝の背後からベッドの中にもぐりこみ、腕を回して縄の先を彼の手に握らせた。反応はなかった。汐は自分が兄の部屋の前の後始末も、しでしでかしたことさえも忘れて、意気揚々と、そのまま朝まで泥のように深く眠った。
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