188 / 202
なんだてめぇら、もうギンギンじゃねぇかよ。情けねぇの、触ってもねぇのに。しごきたくてたまらねぇか?
しおりを挟む
「こちらの意は固まった。ところで貸出期間を一日なんかケチなこと言わず、一週間程度伸ばさないか。」
「随分と自信がおありなのですね。」
「どうする?」
「そりゃ受けますよ。言っておきますが、忖度なんかさせませんからね。後悔しても知らないんだから。」
「勝負ごとにおいては常に対等が望ましい。気は使ってもらわなくて結構だ。」
霧野の方へと川名の視線が向いた。彼はじっと霧野を見ていたかと思うと、ふいに言った。
「何だお前、間宮の方に勝ち目があると思っているのか?自信がないのか?珍しく。いつもの威勢の良さは一体どこにいったんだよ。え?」
「………。」
「お前がそんな顔をするのは珍しいな。心配しなくても、ただ、使役されていた時間が長いという、それだけの話。本質的には違わない。存分にお前の本質的な部分を受け入れてみたらどうだろう。そうすれば何も問題なくことは進む。」
「本質的な部分?……あはは、何言ってんだか、本質的な部分というのは、お前の言うところのマゾヒズムのことかな?言っておくけど俺は悦んでお前に従ったことなんか一度も無いんだ。そこは勘違いしないでもらいたいね。」
と言いながらも、霧野は自分で自分に対して、本当に?と今一度問うた。今のこの状況下でのことではない。彼と、黒い仕事していた時の話だ。彼の元で一人間として仕事をしていた時の話だ。
川名は霧野の発言に、怒るでもなく、ただ、笑んだ。悪意のある笑みだった。
「ああ、いつもの調子が出てきたじゃないか。じゃあ、せっかくだし、もっとお前の調子をよくするようなこと、言ってやろうか。」
「何……。」
「お前は、本当は、まだ、こんなものでは、全然、物足りないと思っているのだろう。そうなんだろう。渇望している、欲張り。とんでもない欲張りの癖に、無駄にプライドが高いのも手伝って、それを自分で口にできないでいる。代わりに、態度で出す。状況によっては最悪のタイプだな。わかるかな、つまり、お前は典型的モラハラ気質。お前は俺にこうして使ってもらってる分には害が無いが、他の場所で生きていると、害悪なんだよ。お前が俺の元以外で上手くやれなかった原因の一つがそこに在る。だから、そんな、社不で、最っ低なお前をもう一つ崖の、淵の方へ、追い込んでやる。俺と、この世界の、善意だよ。そう、一週間も今の二条の所にお前が行く、となると、下手すれば、お前では無く、間宮の方が先に死ぬという可能性の問題についてを。」
「俺ではなく?何故だ?おかしいじゃないか。どうして勝ったはずの間宮を二条が殺す必要がある。」
「……。何もおかしなことは無い。お前の出来が良ければ良い程に、二条は、古いの方の性奴隷には欲望全部ぶつけて殺すくらいのことはやりかねない。そういえばお前はさっき間宮と何か会話していたな。おそらくわざと負けろとでも言われたんじゃないかな。まぁ、そういうリスクもあるってこと。別に単なる俺の杞憂で済むならいいけどな。……お前、自分のせいで人がどうこうなるのはもう嫌だとかなんだとか、そんな、まるで、何かの、主人公みたいなこと、言ってのけたよな、俺に対して。違ったっけ?霧野捜査官。」
◆
「法務がわかる人間が少なすぎますね。葉山は正確には部外者だしあまり任せてられない。」
「ちょうどひとりいいのがいるから、試しに少し手伝わせてやろうか。」
「誰です?ただでさえクソ忙しいんだから、組長のお得意の戯れで使えない奴寄こさないでくださいよねぇ。」
「ああ、使えなかったらすぐ言ってくれていいよ。まだ、試用運転期間中だから、彼。」
そして澤野優希が二条の元に一時的に派遣されることになる。この時点では彼がどこに配属になるかまだ確定していない。武闘派の新入りが入った。いつも通りのしょうもない噂(どうせ自分に敵う訳がないから)がたっていたが、どちらかといえば事務仕事、噂の張本人が派遣されてくるとは思ってもみなかった。
何度か事務所内で見かけたことはあったが、改めて見ると、顔つきと全身に品性の高さを兼ね備えていて、品性の低いのが多い、ヤクザとしては他から少し浮いている。しかし同時にどこか二条にも似た、人を見下したような、達観したような、高飛車な雰囲気、そして生物として肉体的に発達している野蛮な雰囲気が、この場に彼を馴染ませることに成功しているらしかった。両立するアンビバレントな雰囲気が余計にその男を目立たせる。まだ下っ端だからという理由で、服装は、野暮で目立たないグレーのスウェットを敢えて選んで着ているようだったが、それでも、隠せない資質。目立つ。もし、ほんの少しでも上等な衣服を着せてやれば、どうなるか。ただ歩くだけで目を引く人間というのものがあることを二条は知っていた。それは裏社会でも十分に有用なスキルの1つである。
見目、そして、多少戦闘力があり肉壁(ボディーガード)位になら使えるという理由だけで川名に気に入られているという話なら、美里と大して変わらない。単なる組長の飼い猫という話で終わりだ。ペットを様々な方法で楽しませてやりたい、もしくは、苦しませて様子を見ていたいという気持ちもわかる。しかし、ただでさえ厄介な仕事の処理に組長の欲望を混ぜられるのは至極迷惑だ。まぁ、仕方ない。こうして自分が四苦八苦しているのを上から眺めているのも、川名の悦楽の1つに含まれてしまうのだろうから。
試しに特に期待もせず法務関連の書類作成を任せてみる。淡々と取り組み特にミスも無い。納期より十分はやく期待以上の成果物が上がってくる。二条は少なからず驚いた。今まで若い奴に仕事を任せてみても、話にならないか及第点60点程度の物しか上がってこなかった。
澤野は不明点があれば仕事を受け渡した瞬間に先取りして詰めて来るのだった。妙だ、こいつ……。二条は思った。これじゃあ普通の企業勤めでも全く問題ないのではないか。社会に適合できない人間の受け皿として我々のような組織が存在しうるのに、どうにも……怪しいな……。二条が澤野の方を目を細め睨んでいるのに彼は直ぐ気が付いて、萎縮するでもなく、そして往往のチンピラにあるように虚勢だけの威嚇をするでもなく、黙ったままただ、つかつかと真っすぐ二条の方へ歩み寄ってきたのだった。これも少なからず二条を驚かせた。
「何か俺……いや、私の仕事に、ミスでもありましたか。」
澤野は言葉の割に自信満々な様子だった。二条のすぐ近くに手を付いて、さっき自分が提出したばかりの書類を、頭のすぐ横から、覗き込んでくるのだった。仄かに香水の匂いと獣臭い匂いが入り混じって鼻をくすぐる。どうも、香水で自分の本来の雄臭い部分、対照的な野蛮な獣臭を消しているかのように思えるが……流石に、考えすぎか。
二条が黙っていると「ああ、強いて言えばこの偽造印は俺が関与してないから、出来がいいかどうか、わかりませんね。別にこれは俺が作った訳じゃないから。」とつぶやいた。
偽造印の担当は間宮である。澤野は、ちら、と視線を暇そうにほとんど微睡みながら電話番をしている間宮の方にやってから二条の方に視線を戻し、明らかに嘲笑という感じで二条にだけ見える角度で笑んだのである。
間宮が偽造印を作っていることは、こちらからは一言もこの男に伝えていない。見た目の割に、いい性格してるな⋯⋯こいつ⋯⋯。なるほど、そういう意味では社会に適合できていないかもしれないが、こういうタイプ、つまり自分の目的のために、人を足蹴にすることに対して何の罪悪も抱かないタイプ、そういう人間の方が環境さえ合えば大成する。それから、二条は澤野に自分に共通するある部分を感じた。サディズムである。しかし、こういったS気の強い人間の方が、しごきががあるというのもまた、事実。二条は久しぶりに自分の意思で人が欲しいと思った。
二条は再び川名の部屋を訪れた。
「どこで拾ったんですか、アイツ。」
「ああ、やっぱり、それなりに使えたんだろう?」
川名は手帳に何か描いていた。手の動きからして、人と話しているのにまた暇つぶしに絵でも描いているらしい。まぁ、気分がよい証拠でもあるが。そういう態度が上から目をつけられる原因の一つでもあるんですよと以前にも言ったつもりだったが、最初から改める気が、無い。以前、つい、何を描いてるのかと問うたら、サッと手帳を見せられ、そこに人間の首から下の裸体のスケッチが描かれていたことがある。それは明らかに間宮の身体だった。
「質問に答えてくれませんかね。笑ってないで。」
「別に。俺のシマ、周辺の組のシマ、チンピラ筋者誰彼構わず関係なく辻斬り的に暴れまわってる奴が居るっていうからさ、このままじゃ危ないからウチで拾ってやったんだよ。そんなに気になるなら自分でも軽く洗ってみればいいだろ。」
「⋯⋯。」
川名に言われたとおり、軽く洗ってはみたが、気持ち悪い程、何も出てこなかった。普通、どんな人間でも、少しくらい怪しい情報、埃のようなものが出てくるのだが、この男に限っては、無い。もっと徹底的に調べることも可能だが、金も時間も労力もかかる。こんなよくわからない若造の新入りに対してそこまで時間を割く必要があるのか。今は使えるのだから使ってしまった方が、いいのではないか。ただでさえ人が足りない。猫の手でも借りたいと思っていたところで、適当に集めてまかせてはみたが、馬鹿が何人集まったところで寧ろ邪魔でしかないとわかった。仕事から余計な仕事を増やし生み出す天才的な阿保の集まりだ。
それに、澤野に何か裏があるとすれば、近くで見張っていれば必ずどこかで尻尾を出す。今までも何度か、他の組、警察関係者、公安などが影から接触してきたことがあった。だが、それはそれで無問題、寧ろウェルカム。こちらが残虐に報復してやる程、奴らも芯からビビる。一度恐怖心を植え付けさえすれば、こちらが優位で交渉が進む。こちらが相手の頭を踏みながら交渉が可能。こちらがおとなしくしているのに、先に手を出してきたのは向こうだから。担当交代、世代交代して、また、来たけりゃ勝手に来るがいい。何人でも。何度でも。殺してやる。
だから仮に澤野がその実、黒だとしても、いや、もしかしたら、その方が、最終的には、良いのかもしれない。きっと楽しい最期を贈呈してあげられるだろう。ただ今、これほど使えそうな人材がこの組に存在しない事実、それから、腕も立つという話、使えるだけ使って、それからでも、別に。
二条は着衣の上からでもわかる澤野の肉体の若さ、張り、色、その芳醇さを、実際に触れたかのように、感じていた。数年もこの社会の中でもまれ、耐えられる素体なら、さらに良くなるに違いない。そうして、こちらの欲望さえも、満たせれば、それこそ、ハッピーなのではないだろうか。
「何。お前の下に欲しい?」
「ええ、他の奴より話が通じる。アイツより年喰ってても話通じねぇヤツの方が多いんですもん。いい加減にして欲しいナ……。」
「ああ、そう。でも、お前の下は駄目。俺が先に見つけたから。」
舌打ちしかけたのを抑えた。ふとした時に、この高慢な上司を嬲り殺してあげたい衝動に駆られる。それは単に苛立つとか腹が立つからという話ではなく、衝動で、そう思うのだった。きっと気持ちがいいと思う。川名は涼しい顔をしたまま続けた。
「だからお前にも言ってるじゃないかお前が良いと思えば適当に拾ってきていいって。葉山とかこっちに入れれば?お前位だぜ、全然自分から人員を拾ってこない奴は。間宮だって俺が言わなきゃ今頃組員にして無かったし、ともすればもう死んでたろ。」
「まぁ、そうですがね。悪いけど……、俺は、あんまり、人を見る目には、自信が無いんでねぇ……。葉山は無理ですよ。一応カタギの仕事もしてますからね。今の関係性でちょうどいいんです。はぁ、まぁ、わかりました。アンタのことだから、俺がごねる程に、離す気がなくなる。とりあえず、今のままでいいです。ただ、もし気が変わったら考えて欲しいくらいですね。」
諦め半分の気持ちで川名の部屋を後にした。事務所の階段の陰になっているところで何やら男同士で揉めているのが見えた。喧嘩か。暇つぶしに遠くから少し見てみようか。
「アンタさぁ、誰だか知らないけど、新入りの癖に二条さんとの距離が近くない?」
「⋯⋯、⋯⋯。」
なんだ。誰かと思えば間宮と澤野じゃないか。
何を揉めているのかは大体想像がつくが、どうでるつもりだろうか。会話か?闘争か?
「なんとか言ったら?君は唖か?」
「いえ、別に。」
澤野は動じる様子もなく冷めた瞳で間宮を見た。
「距離、ですか。なるほど、距離、ねぇ。どうでもいいな、そんなこと。呼び出されたから何かと思えばあまりにもどうでもいい話でしたから、驚きのあまり言葉が出なかっただけです。その点については、どうも、すみませんでした。」
「お前⋯⋯、⋯⋯、」
間宮の顔がサッと赤らんだ時だった。微かに澤野の無関心げだった顔にも色が付いたのは。ただ間宮の顔色の変化とは性質が違う。口の端がわずかにあがり、瞳の中に冷たさとは別の、これから人を追い詰める愉しさにわくわくするというような色がちらついたのだった。それが間宮には、無い。
「仕事だから、近づいた。それ以上でも以下でもありません。パーソナルスペースの間隔が気になるとかそういう話ですかね。あのねぇ、兄さん、俺はあの人に何の疚しい感情も持っていませんし、だいたい、持つわけないじゃないですか。俺はホモじゃないしね。でもね、俺は、評価はされたいんだよ。されないと話にならない。当たり前だ、俺は上を目指すためにここにいるから。ここ数日観察しただけでも、あのグループでは貴方を除いてあの人とは一定の距離を保っている、心理的にはもちろん、物理的にも、かなりの距離がある。彼を恐れているから⋯⋯、でしょ。だったら特別になるためには、他の奴らと差をつける為には、多少無理してでも、距離を詰めていく必要がある。ご心配なさらなくても、彼とどうこうなりたいだとか考えてるわけじゃありませんし、貴方はあの人に仕えて長いようですが、俺は一時的に仕事を手伝うよう組長から指示されてるだけですよ。だから、貴方の想像しているようなことには、ならないかと。気に障るなら申し訳ありません、が、俺は態度を改めるつもりないから。力付くで従わせようってならどうぞ、悦んで。いつでも襲ってくれて構わないです。朝でも、昼でも、夜でも。」
「⋯⋯⋯。なるほど。ぺらぺらと聞いてもないことまで長台詞どうも、ありがとう⋯⋯。で、言いたいことはそれで終わりか⋯⋯?」
「ああ、では、一つ付け加えるなら、兄さんのその態度もどうかと思いますよ。その調子じゃ俺に対してだけじゃないんでしょ。勘違いしないでほしいんですが別に俺は兄さんと敵対したいわけじゃないんですよ。どちらかといえば仲良くしたいくら」
間宮が話の途中で「死んでも嫌!」と捨て台詞を吐くと同時に油断していた澤野の鳩尾に一発入れて素早く去っていくのを、二条は待ち構えていた。
「あっ⋯⋯⋯⋯」
目の前で間宮の顔がみるみる紅潮していった。間宮は手で顔を擦るように覆ってから、再び顔を恥ずかし気に二条の方へ向けるのだった。
「見ていたんですか?」
「前にも忠告したよな。新入りを俺の見てないところでいびるのは寄せと。」
「いびる?違いますよ⋯⋯、懇親を深めようとしてただけですよ……。」
「懇親?ふーん、懇親ねぇ。」
二条は間宮との距離を詰め勢いよく拳を間宮の鳩尾に沈めた。蹲って、立てなくなるまで。
「どうした?これが、お前の懇親の深め方なんだろ?なぁ、俺はもっとお前との懇親を深めようとしてんだぜ、ハヤク、ほら、はやく、立てよ⋯⋯これがお前の望みなんだろ。なぁ……。」
苦痛と喜悦の両立した顔を見るのはこれで何度目だろうか。やめてほしいといいつつ求めている。アンビバレントな表情。望むなら、与えてあげる。
「何を、なさってるんですか。」
気が付くと、暴力の情事にふけっていた二人のすぐ側に澤野が立っていたのだった。間宮は床に腹を抑えて胃液を吐きながら震え蹲っていて気が付いていない様子だった。そろそろ限界も近そうだ。
「もしさっきのことが原因なら、俺が悪いですから、やめてください。」
と言いながらも、澤野の瞳の奥は、明らかにそうは言ってないのだった。
「わかった、いいよ、お前も一発、やりかえしてやって。悦ぶから、きっと。」
◆
「お前、俺が来るまで、何してたんだ?え?遥との交尾でも強制されたか。」
二条の語の滓かな揺らぎに、間宮は下腹部に快感を覚えた。二条の足もとに蹲っているだけで、気持ちがいいのだった。このままこの時間が永久に続けばいいのにと思う。今この時だけは嫌なこと全部無かったことになるから。
「いいえ、組長の指示の元ノアの手伝い半分霧野さんのお身体を奇麗にしていただけです。」
「それだけ?」
「はい、それだけです。」
「それじゃあお前には相当物足りなかっただろ。」
目の前に、何か重い物が落ちる音がした。
視線を音のする方へ向けると、銀色の物体が畳の上に転がっていた。
凹凸のある双頭ディルドだった。銀色で美しいフォルムの中心に、線が溝になって彫ってある。よく見ると溝は中心の太い線から一センチおきにも薄く彫られており、つまり、挿入された者がおよそどこまで身体の中にこの異物を収められたかが数値で判定できるようになっているのだった。
「もっと欲しいだろ、刺激が。」
「……、……。これは、つまり、霧野さんと、やれ、ってこと?」
頭を上から踏みつけられ畳に頭が付き横から軽く側頭部を叩かれている。
「ぁ゛…‥」
「他に、誰と、やるっていうんだよ。ええ?寝惚けてんのかてめぇ。」
四つん這いになり、霧野と双方尻を向かい合わせになる。間宮の中に、無遠慮に、重く冷たい塊が、ぶ、つ…‥、ぬぷ……ぬぷ……ぬぷ……と、蛇のように入りこんでくる。しかしそれは霧野も同じこと。同じこの被虐的な、ペニスではなく、尻の穴を玩具で弄ばれて、感じてしまう、屈辱的な感覚を、共有しているということ。
「ん……、ん……、」
「なんだ間宮てめぇまさかもう感じてんじゃねぇだろうな。まだ何も始まってねぇぞ。」
「あ……ぁ、まだ、大丈夫……す、」
「じゃあもっと気合入れて腰いれろよ。」
「あ……はい…」
尻を、一段回、強く霧野の方へ押しやった。すると押された側から小さな低いキレたような唸り声が聞こえたが、同時にこちらも中に一目盛り分、異物が挿入されるのだ。頭が自然と下がって、身体が震え始める。ぁ、ぁ、と声が出ちゃうのが止まんない。どろぉ……と口から何か垂れた。自分の涎、間宮は口元をぬぐいながら、二条の方をちらと見た。目があった。あ、まずい、組長の家をこれ以上穢すと、また、二条さんへの、借金が、借金借金借金借金借金……人生終了、何故か、余計に身体が熱く、止まらない、止まらない……止めたいのに……。高い声が、漏れている。
「へぇ~これだけガバガバでも感じるもんなんだな。」
「まぁ、変態の能無しですからね。」
駄目だ、そんなこと言わないで。
双頭ディルドは、身をよじらせると、重みが更に内臓の奥へと堕ちるように進む、そして、自分の熱、そして霧野の熱で冷えていたはずの鉄はもう生暖かくなっていた。霧野との距離がさらに、近くなる。熱を感じる。今、大体中心線ぐらいまでは入ったと身体で感じられるけれど、霧野の尻の密着を感じられない。霧野の方の進み具合が、芳しくないようだ。もう、身体の方に意識が向いていて、あまりわからないが、遠く声が響いてる感じだと何やら霧野は叱責されているらしかった。間宮はぼんやりと、自分の身体を覗き込むようにして、霧野の方を見た。汗が、畳に落ちた。まだ苦戦している、じゃあ、こちらから、動いてあげる。
身体を軽く前後に振ると、霧野が声を漏らしたのが聞えた。間宮の背筋にぞくぞくと痺れが走った。
そうだよ、霧野、そのまま頑張ってもっとこちら側に腰を落として来いよ。そうしたら、俺も、お前も気持ちいのだし、川名も二条も、満足するだろ、全員がハッピー。今、お前の中、肉は、精神は、開きつつあるのだから。さらに腰をこすりつけるようにすると、中心線を間宮の肉体の方が先に越えた。
「んぅ゛…‥……」
奥まで収まるのと、霧野との距離が近くなったのとで、自然、声が漏れてしまった。上から「なぁんだ、最初からこっちの勝負にすれば俺の方が勝ってたのに。どっちの方が奥まで入れられるか。これじゃどうみても二センチくらいは余裕で俺の方が勝ってますよね。」と二条が揶揄うように言って、受けて川名が「はぁ?そんなこというならさぁ、このまま綱引きでもさせてみるか?それだったらこっちにも勝ち目あると思うけど。だってお前のはガバガバじゃんか。とても締りで俺のに勝てないと思うが。」と返す。最悪の奴隷品評会である。
その間も、間宮は腰をゆくらせ、自分の身体の下から、霧野の方をのぞき見続けていた。対して、向こうは苦悶の表情で目も口もきつく閉じていて、目を合わせたくても、合いそうもない。間宮は今、上の人間を差し置いて今自分が最も霧野に近い場所にいると思った、そして、もっと霧野を感じたいと思った。もっと欲しい。尻同士がぶつかって小さな音をたてた。通常の性行為で肉同士がぶつかって音を立てるように。そのまま前後運動を続けると、間宮は自分の雄の膨らみを感じながらも、目の前で、それよりもずうっと速にく、霧野の濡れ赤らんだ雄が、みるみると膨らんで、揺れているのに、やましい、悦びを覚えた。「へぇ……あんた、も、きもちいんだ……、よかったよ、…‥おれも、…‥いい、から、だから、……だから、」
もっと、気持ちよく、なって。
パン、パン、と、こちらが一定の速さで腰を落とすと、段々向こうの肉が、合わせ打ちしてくるようになる。おそらく意図的にではなく、霧野の身体が無意識に肉の疼き、そこを貫かれことを求めて呼応しているのだった。霧野の硬く膨らんだ雄は、腹の下で、ブルンブルンと揺れ、透明な汁がほとばしった。蒸れる。尻同士がくっつく度、双方の皮膚の湿りで尻の皮膚が、ぬるぬる滑る。霧野のきつく食いしばった歯の間から、小さな声がう゛、う゛、と、少しずつ、吐息と共に、漏れ始めているのを、間宮は顔を赤らめながら、眺めていた。同時に、視線、二条と川名の視線を、上から感じていると、これは霧野と同じだろうが、間宮の中に気持ちのいい惨めさが起こり、被虐心を擽った。それは霧野も同じだろうし自分よりも、もっとずっと強いだろうと感じた。だからまだ、目を閉じたまま、拒絶してるのだ。そうやって拒絶する程、多分、お前は感じてしまうのに。
「なんだてめぇら、もうギンギンじゃねぇかよ。情けねぇの、触ってもねぇのに。しごきたくてたまらねぇか?」
意地で黙っている霧野の代わりに「ぁ、しごきたい、……しごきたいれす」と揺れながら答えた。身体の中をまた快楽が貫いて、狂いそうに、頭の奥がぼーっとしてくる。
「へぇ、お前はそうらしいがお前の相方の答えが無いね。」
「……言えよ、……、何故、なんで黙ってる、馬鹿……っ」
「……、……。」
結局快楽の終着点の無い、雄、ペニスを使わせてもらえない、感じたくないはずの惨めな、負けた雄同士のまぐわい。突くと同時に突かれている。その時、向こうから大きく突かれ、間宮は声を漏らし、向こう側を見た。紅潮し眉を顰め一見怒っているように見まがえるが、熱い息遣いのその端々を、途切れ途切れの堪え声が彩っていた。そうすると、そのひょ上の意味も、一転する。一層彼の瞼が強く閉じられたと同時に、霧野の雄が青筋立て力強く、隆起していった。柔らかな肉の隙間に突き刺さった結合部が一層引き締まり、間宮が飲み込んでいたよりもっと咥え込むように二人の腸液でぬるぬるになったディルドをその肉の中に取り込んでいき、中心線が霧野の方へと移動していく。霧野の肉体の奥を強く、えぐる。二人の結合部の下に、ぬるい滴り、なまぬるく潮臭い水たまりができていた。
「ぁ゛……っ。ぁ゛、……きり…‥」
その時何故か、名前を、お前のその名前を、呼んでみよう、と、思った。その瞬間に、何か存在しないはずの記憶が、頭の中の空白の部分に、電流のように駆け巡った。間宮は知らないロッジの中で霧野と向かい合って朝食をとっていた。
「二条のどこがそんなにいいんだよ。頭おかしいだろ。」
彼は普段より随分馴れ馴れしかった。普段なら後半の一文でブチ切れてるところだが、何故か記憶の中の自分は冷静なまま「もう、ある程度は惰性かもしれないな。でも、惰性でも別に良いんだ。」と言った。霧野は間宮の回答が気に入らなかったのか「……。答えになって無い。」と不機嫌に言って自分の食器を持ってキッチンのある方へ消えるのだった。キッチンのある方?何故この架空のロッジについてそんなことを思うのだろう。
半分、彼の名前を口走った時だった、霧野の方を向いていたはずの頭を徐に掴まれ、口の中にペニスを一発で深々突っ込まれたのは。喉を突かれた衝撃で、今までため込んでいた露が目の奥から、あふれ頬をつたった。
「んえ゛……」
震えながら、上目遣いに、その人の方を見た。川名組長。そうだった。元々そういう話だったじゃないか。フェラチオで相手の主をイカせる、ゲーム。もとより、こちらの快楽はオマケみたいなもの。そう、俺達が感じる感じ無いは最初から問題でさえ、無い。当然の事。そうだ。何をやってるんだ、主達を感じさせることこそ、至高。
このゲームは、今までも何度か戯れにやらされたことがあるが、二条の手前、間宮は無敗である。腰をくゆらせながら、川名組長のペニスを吸っていく、器用に、いつも通り、やろう、そう思うのだが、その瞬間、身体の奥、肉筒の奥の好きな部分を激しく突かれ、全身から力が抜けた。こんな風に、いや、別の人間い掘られながらやったことだて何度もあるのに、その時でさえ、感じなかった、何かが、弾けそう。キ……、効く、効く、また、間宮の肉の奥、たっぷりと今までの戯れによって、芳醇な蜜で満たされた部分を、霧野のデカ尻から勢いまかせで突かれてて、中で快楽がさく裂してし、熱い、腰が、砕けそうになる。「ううう゛ん……!!ふぐぐ……んん……!」駄目だ、このままじゃ、二条を負かせてしまう、そんなの、絶対、許されない、のに。それでも、また、霧野と互い豊満な尻同士こすれあわせている内、この前後運動もやめられず、自分の内側で、ディルドの快楽を、身体が、むさぼってしまう。痺れる快楽が、霧野から、自分の方へ、脊髄を直接つなげられたかのように、頭まで、貫かれたように感じる、その快楽を。同時に、今、霧野も同じか、それ以上の快楽を、同じ牝孔で感じているのかと、そう思うと、何故か、どうしてか、今まで経験したことのない、雄の高まりを、覚えてしまうのだった。間宮のペニスはここに来て完全に勃起した。間宮は自分の下半身が溶けているような感覚に苛まれた。そして、それは霧野も、同じこと。
間宮の川名に対するフェラチオは、決しては下手ではない。しかし、今に限っては、口、喉、舌の動きがいつものようにいかず、おろそかになっているのだった。絶対に、負けては、いけないのに。最悪、廃棄、されてしまうかも、しれないのに、そう思うと、余計に下半身が、漲った。そう思っても、舌の筋がこわばり、硬くなり、このまま舌を出し、どうでもよく、アヘ顔晒して昇天してもいいまで、ある。
顔を、両側から川名に優しく抱かた。人から、こんな風に扱われたことは今まで一度も、無かった。なんだかペニスというよりも乳でも吸わされているような気持ちになってくるのが、二条の一物を口に含む時とは随分違う感覚だった。自然涙が溢れた。呼吸する度、身体中が、肉、全部が、霧野と川名という異常なコンビのダブルフェロモンによって細胞の隅々まで、ぜんぶが、満たされていく、いや犯されてイク、ようになって、身体から力が抜けていく。
前から後ろから突かれる快楽に、だんだんと肉体が、川名とそして霧野によって染められ、支配されてくる。何を、やってるんだ、こらえなきゃ、薫……、俺がこんなじゃ、薫がどう思うか考えろよ……薫は俺がいないと、駄目なのに。もし、俺がいなくなったら、壊れちゃうのに……。そうやって言い聞かせ、束の間、理性を取り戻してみても、すぐに、口の中を川名が犯し、背後では霧野が勢いよく動いて、肉と肉がぶつかり突かれ、頭の中が真っ白になっちゃう。傍から見れば何て滑稽なんだろう。でも気持ちいいんだから、これが。どうしてか……気持ち悪いけど……。「ん‥…っ、んく…‥ぅ……ううん゛……」随分前から自分の口から喘ぎ声が漏れ出ているのだった。焦点があわないのと涙で、川名組長の姿が重なって靄がかって見える。息が、できない。今、霧野より自分の方が随分うるさいまである。また、舌がおろそかになってしまっている。でも、誰からも、今、怒られない。また組長の指が優しく間宮の頬を撫で目元をぬぐった。感じたことのない快楽に痺れた。
優しくしないで、頼むから。組長は、ただ、イカされないようにしてれば、いいのだから。
「気持ちがいいのだろう。このまま触りたければ触っていいぞ、お前の乳首だろうと、陰茎だろうと、お好きに。」
「う゛うう……」
「それとも、少しばかり、こちらから触ってやろうか。」
川名の指が手袋越しに間宮の胸部に触れた。「!……!…‥」また、勢いよく中のディルドが動く、霧野が上と下とで、器用に、いつものように、以前のように、器用に、自分の仕事を全うしているというのに、すぐ抜かされる、自分は、何も、できてない。というか、できない。できてなかった。今までも、今も。そして、これからも、どこまでも、快楽の、奴隷……。そして、噴き溢れるのは、川名の精液ではなく、間宮自身の愛液そればかりだった。
「随分と自信がおありなのですね。」
「どうする?」
「そりゃ受けますよ。言っておきますが、忖度なんかさせませんからね。後悔しても知らないんだから。」
「勝負ごとにおいては常に対等が望ましい。気は使ってもらわなくて結構だ。」
霧野の方へと川名の視線が向いた。彼はじっと霧野を見ていたかと思うと、ふいに言った。
「何だお前、間宮の方に勝ち目があると思っているのか?自信がないのか?珍しく。いつもの威勢の良さは一体どこにいったんだよ。え?」
「………。」
「お前がそんな顔をするのは珍しいな。心配しなくても、ただ、使役されていた時間が長いという、それだけの話。本質的には違わない。存分にお前の本質的な部分を受け入れてみたらどうだろう。そうすれば何も問題なくことは進む。」
「本質的な部分?……あはは、何言ってんだか、本質的な部分というのは、お前の言うところのマゾヒズムのことかな?言っておくけど俺は悦んでお前に従ったことなんか一度も無いんだ。そこは勘違いしないでもらいたいね。」
と言いながらも、霧野は自分で自分に対して、本当に?と今一度問うた。今のこの状況下でのことではない。彼と、黒い仕事していた時の話だ。彼の元で一人間として仕事をしていた時の話だ。
川名は霧野の発言に、怒るでもなく、ただ、笑んだ。悪意のある笑みだった。
「ああ、いつもの調子が出てきたじゃないか。じゃあ、せっかくだし、もっとお前の調子をよくするようなこと、言ってやろうか。」
「何……。」
「お前は、本当は、まだ、こんなものでは、全然、物足りないと思っているのだろう。そうなんだろう。渇望している、欲張り。とんでもない欲張りの癖に、無駄にプライドが高いのも手伝って、それを自分で口にできないでいる。代わりに、態度で出す。状況によっては最悪のタイプだな。わかるかな、つまり、お前は典型的モラハラ気質。お前は俺にこうして使ってもらってる分には害が無いが、他の場所で生きていると、害悪なんだよ。お前が俺の元以外で上手くやれなかった原因の一つがそこに在る。だから、そんな、社不で、最っ低なお前をもう一つ崖の、淵の方へ、追い込んでやる。俺と、この世界の、善意だよ。そう、一週間も今の二条の所にお前が行く、となると、下手すれば、お前では無く、間宮の方が先に死ぬという可能性の問題についてを。」
「俺ではなく?何故だ?おかしいじゃないか。どうして勝ったはずの間宮を二条が殺す必要がある。」
「……。何もおかしなことは無い。お前の出来が良ければ良い程に、二条は、古いの方の性奴隷には欲望全部ぶつけて殺すくらいのことはやりかねない。そういえばお前はさっき間宮と何か会話していたな。おそらくわざと負けろとでも言われたんじゃないかな。まぁ、そういうリスクもあるってこと。別に単なる俺の杞憂で済むならいいけどな。……お前、自分のせいで人がどうこうなるのはもう嫌だとかなんだとか、そんな、まるで、何かの、主人公みたいなこと、言ってのけたよな、俺に対して。違ったっけ?霧野捜査官。」
◆
「法務がわかる人間が少なすぎますね。葉山は正確には部外者だしあまり任せてられない。」
「ちょうどひとりいいのがいるから、試しに少し手伝わせてやろうか。」
「誰です?ただでさえクソ忙しいんだから、組長のお得意の戯れで使えない奴寄こさないでくださいよねぇ。」
「ああ、使えなかったらすぐ言ってくれていいよ。まだ、試用運転期間中だから、彼。」
そして澤野優希が二条の元に一時的に派遣されることになる。この時点では彼がどこに配属になるかまだ確定していない。武闘派の新入りが入った。いつも通りのしょうもない噂(どうせ自分に敵う訳がないから)がたっていたが、どちらかといえば事務仕事、噂の張本人が派遣されてくるとは思ってもみなかった。
何度か事務所内で見かけたことはあったが、改めて見ると、顔つきと全身に品性の高さを兼ね備えていて、品性の低いのが多い、ヤクザとしては他から少し浮いている。しかし同時にどこか二条にも似た、人を見下したような、達観したような、高飛車な雰囲気、そして生物として肉体的に発達している野蛮な雰囲気が、この場に彼を馴染ませることに成功しているらしかった。両立するアンビバレントな雰囲気が余計にその男を目立たせる。まだ下っ端だからという理由で、服装は、野暮で目立たないグレーのスウェットを敢えて選んで着ているようだったが、それでも、隠せない資質。目立つ。もし、ほんの少しでも上等な衣服を着せてやれば、どうなるか。ただ歩くだけで目を引く人間というのものがあることを二条は知っていた。それは裏社会でも十分に有用なスキルの1つである。
見目、そして、多少戦闘力があり肉壁(ボディーガード)位になら使えるという理由だけで川名に気に入られているという話なら、美里と大して変わらない。単なる組長の飼い猫という話で終わりだ。ペットを様々な方法で楽しませてやりたい、もしくは、苦しませて様子を見ていたいという気持ちもわかる。しかし、ただでさえ厄介な仕事の処理に組長の欲望を混ぜられるのは至極迷惑だ。まぁ、仕方ない。こうして自分が四苦八苦しているのを上から眺めているのも、川名の悦楽の1つに含まれてしまうのだろうから。
試しに特に期待もせず法務関連の書類作成を任せてみる。淡々と取り組み特にミスも無い。納期より十分はやく期待以上の成果物が上がってくる。二条は少なからず驚いた。今まで若い奴に仕事を任せてみても、話にならないか及第点60点程度の物しか上がってこなかった。
澤野は不明点があれば仕事を受け渡した瞬間に先取りして詰めて来るのだった。妙だ、こいつ……。二条は思った。これじゃあ普通の企業勤めでも全く問題ないのではないか。社会に適合できない人間の受け皿として我々のような組織が存在しうるのに、どうにも……怪しいな……。二条が澤野の方を目を細め睨んでいるのに彼は直ぐ気が付いて、萎縮するでもなく、そして往往のチンピラにあるように虚勢だけの威嚇をするでもなく、黙ったままただ、つかつかと真っすぐ二条の方へ歩み寄ってきたのだった。これも少なからず二条を驚かせた。
「何か俺……いや、私の仕事に、ミスでもありましたか。」
澤野は言葉の割に自信満々な様子だった。二条のすぐ近くに手を付いて、さっき自分が提出したばかりの書類を、頭のすぐ横から、覗き込んでくるのだった。仄かに香水の匂いと獣臭い匂いが入り混じって鼻をくすぐる。どうも、香水で自分の本来の雄臭い部分、対照的な野蛮な獣臭を消しているかのように思えるが……流石に、考えすぎか。
二条が黙っていると「ああ、強いて言えばこの偽造印は俺が関与してないから、出来がいいかどうか、わかりませんね。別にこれは俺が作った訳じゃないから。」とつぶやいた。
偽造印の担当は間宮である。澤野は、ちら、と視線を暇そうにほとんど微睡みながら電話番をしている間宮の方にやってから二条の方に視線を戻し、明らかに嘲笑という感じで二条にだけ見える角度で笑んだのである。
間宮が偽造印を作っていることは、こちらからは一言もこの男に伝えていない。見た目の割に、いい性格してるな⋯⋯こいつ⋯⋯。なるほど、そういう意味では社会に適合できていないかもしれないが、こういうタイプ、つまり自分の目的のために、人を足蹴にすることに対して何の罪悪も抱かないタイプ、そういう人間の方が環境さえ合えば大成する。それから、二条は澤野に自分に共通するある部分を感じた。サディズムである。しかし、こういったS気の強い人間の方が、しごきががあるというのもまた、事実。二条は久しぶりに自分の意思で人が欲しいと思った。
二条は再び川名の部屋を訪れた。
「どこで拾ったんですか、アイツ。」
「ああ、やっぱり、それなりに使えたんだろう?」
川名は手帳に何か描いていた。手の動きからして、人と話しているのにまた暇つぶしに絵でも描いているらしい。まぁ、気分がよい証拠でもあるが。そういう態度が上から目をつけられる原因の一つでもあるんですよと以前にも言ったつもりだったが、最初から改める気が、無い。以前、つい、何を描いてるのかと問うたら、サッと手帳を見せられ、そこに人間の首から下の裸体のスケッチが描かれていたことがある。それは明らかに間宮の身体だった。
「質問に答えてくれませんかね。笑ってないで。」
「別に。俺のシマ、周辺の組のシマ、チンピラ筋者誰彼構わず関係なく辻斬り的に暴れまわってる奴が居るっていうからさ、このままじゃ危ないからウチで拾ってやったんだよ。そんなに気になるなら自分でも軽く洗ってみればいいだろ。」
「⋯⋯。」
川名に言われたとおり、軽く洗ってはみたが、気持ち悪い程、何も出てこなかった。普通、どんな人間でも、少しくらい怪しい情報、埃のようなものが出てくるのだが、この男に限っては、無い。もっと徹底的に調べることも可能だが、金も時間も労力もかかる。こんなよくわからない若造の新入りに対してそこまで時間を割く必要があるのか。今は使えるのだから使ってしまった方が、いいのではないか。ただでさえ人が足りない。猫の手でも借りたいと思っていたところで、適当に集めてまかせてはみたが、馬鹿が何人集まったところで寧ろ邪魔でしかないとわかった。仕事から余計な仕事を増やし生み出す天才的な阿保の集まりだ。
それに、澤野に何か裏があるとすれば、近くで見張っていれば必ずどこかで尻尾を出す。今までも何度か、他の組、警察関係者、公安などが影から接触してきたことがあった。だが、それはそれで無問題、寧ろウェルカム。こちらが残虐に報復してやる程、奴らも芯からビビる。一度恐怖心を植え付けさえすれば、こちらが優位で交渉が進む。こちらが相手の頭を踏みながら交渉が可能。こちらがおとなしくしているのに、先に手を出してきたのは向こうだから。担当交代、世代交代して、また、来たけりゃ勝手に来るがいい。何人でも。何度でも。殺してやる。
だから仮に澤野がその実、黒だとしても、いや、もしかしたら、その方が、最終的には、良いのかもしれない。きっと楽しい最期を贈呈してあげられるだろう。ただ今、これほど使えそうな人材がこの組に存在しない事実、それから、腕も立つという話、使えるだけ使って、それからでも、別に。
二条は着衣の上からでもわかる澤野の肉体の若さ、張り、色、その芳醇さを、実際に触れたかのように、感じていた。数年もこの社会の中でもまれ、耐えられる素体なら、さらに良くなるに違いない。そうして、こちらの欲望さえも、満たせれば、それこそ、ハッピーなのではないだろうか。
「何。お前の下に欲しい?」
「ええ、他の奴より話が通じる。アイツより年喰ってても話通じねぇヤツの方が多いんですもん。いい加減にして欲しいナ……。」
「ああ、そう。でも、お前の下は駄目。俺が先に見つけたから。」
舌打ちしかけたのを抑えた。ふとした時に、この高慢な上司を嬲り殺してあげたい衝動に駆られる。それは単に苛立つとか腹が立つからという話ではなく、衝動で、そう思うのだった。きっと気持ちがいいと思う。川名は涼しい顔をしたまま続けた。
「だからお前にも言ってるじゃないかお前が良いと思えば適当に拾ってきていいって。葉山とかこっちに入れれば?お前位だぜ、全然自分から人員を拾ってこない奴は。間宮だって俺が言わなきゃ今頃組員にして無かったし、ともすればもう死んでたろ。」
「まぁ、そうですがね。悪いけど……、俺は、あんまり、人を見る目には、自信が無いんでねぇ……。葉山は無理ですよ。一応カタギの仕事もしてますからね。今の関係性でちょうどいいんです。はぁ、まぁ、わかりました。アンタのことだから、俺がごねる程に、離す気がなくなる。とりあえず、今のままでいいです。ただ、もし気が変わったら考えて欲しいくらいですね。」
諦め半分の気持ちで川名の部屋を後にした。事務所の階段の陰になっているところで何やら男同士で揉めているのが見えた。喧嘩か。暇つぶしに遠くから少し見てみようか。
「アンタさぁ、誰だか知らないけど、新入りの癖に二条さんとの距離が近くない?」
「⋯⋯、⋯⋯。」
なんだ。誰かと思えば間宮と澤野じゃないか。
何を揉めているのかは大体想像がつくが、どうでるつもりだろうか。会話か?闘争か?
「なんとか言ったら?君は唖か?」
「いえ、別に。」
澤野は動じる様子もなく冷めた瞳で間宮を見た。
「距離、ですか。なるほど、距離、ねぇ。どうでもいいな、そんなこと。呼び出されたから何かと思えばあまりにもどうでもいい話でしたから、驚きのあまり言葉が出なかっただけです。その点については、どうも、すみませんでした。」
「お前⋯⋯、⋯⋯、」
間宮の顔がサッと赤らんだ時だった。微かに澤野の無関心げだった顔にも色が付いたのは。ただ間宮の顔色の変化とは性質が違う。口の端がわずかにあがり、瞳の中に冷たさとは別の、これから人を追い詰める愉しさにわくわくするというような色がちらついたのだった。それが間宮には、無い。
「仕事だから、近づいた。それ以上でも以下でもありません。パーソナルスペースの間隔が気になるとかそういう話ですかね。あのねぇ、兄さん、俺はあの人に何の疚しい感情も持っていませんし、だいたい、持つわけないじゃないですか。俺はホモじゃないしね。でもね、俺は、評価はされたいんだよ。されないと話にならない。当たり前だ、俺は上を目指すためにここにいるから。ここ数日観察しただけでも、あのグループでは貴方を除いてあの人とは一定の距離を保っている、心理的にはもちろん、物理的にも、かなりの距離がある。彼を恐れているから⋯⋯、でしょ。だったら特別になるためには、他の奴らと差をつける為には、多少無理してでも、距離を詰めていく必要がある。ご心配なさらなくても、彼とどうこうなりたいだとか考えてるわけじゃありませんし、貴方はあの人に仕えて長いようですが、俺は一時的に仕事を手伝うよう組長から指示されてるだけですよ。だから、貴方の想像しているようなことには、ならないかと。気に障るなら申し訳ありません、が、俺は態度を改めるつもりないから。力付くで従わせようってならどうぞ、悦んで。いつでも襲ってくれて構わないです。朝でも、昼でも、夜でも。」
「⋯⋯⋯。なるほど。ぺらぺらと聞いてもないことまで長台詞どうも、ありがとう⋯⋯。で、言いたいことはそれで終わりか⋯⋯?」
「ああ、では、一つ付け加えるなら、兄さんのその態度もどうかと思いますよ。その調子じゃ俺に対してだけじゃないんでしょ。勘違いしないでほしいんですが別に俺は兄さんと敵対したいわけじゃないんですよ。どちらかといえば仲良くしたいくら」
間宮が話の途中で「死んでも嫌!」と捨て台詞を吐くと同時に油断していた澤野の鳩尾に一発入れて素早く去っていくのを、二条は待ち構えていた。
「あっ⋯⋯⋯⋯」
目の前で間宮の顔がみるみる紅潮していった。間宮は手で顔を擦るように覆ってから、再び顔を恥ずかし気に二条の方へ向けるのだった。
「見ていたんですか?」
「前にも忠告したよな。新入りを俺の見てないところでいびるのは寄せと。」
「いびる?違いますよ⋯⋯、懇親を深めようとしてただけですよ……。」
「懇親?ふーん、懇親ねぇ。」
二条は間宮との距離を詰め勢いよく拳を間宮の鳩尾に沈めた。蹲って、立てなくなるまで。
「どうした?これが、お前の懇親の深め方なんだろ?なぁ、俺はもっとお前との懇親を深めようとしてんだぜ、ハヤク、ほら、はやく、立てよ⋯⋯これがお前の望みなんだろ。なぁ……。」
苦痛と喜悦の両立した顔を見るのはこれで何度目だろうか。やめてほしいといいつつ求めている。アンビバレントな表情。望むなら、与えてあげる。
「何を、なさってるんですか。」
気が付くと、暴力の情事にふけっていた二人のすぐ側に澤野が立っていたのだった。間宮は床に腹を抑えて胃液を吐きながら震え蹲っていて気が付いていない様子だった。そろそろ限界も近そうだ。
「もしさっきのことが原因なら、俺が悪いですから、やめてください。」
と言いながらも、澤野の瞳の奥は、明らかにそうは言ってないのだった。
「わかった、いいよ、お前も一発、やりかえしてやって。悦ぶから、きっと。」
◆
「お前、俺が来るまで、何してたんだ?え?遥との交尾でも強制されたか。」
二条の語の滓かな揺らぎに、間宮は下腹部に快感を覚えた。二条の足もとに蹲っているだけで、気持ちがいいのだった。このままこの時間が永久に続けばいいのにと思う。今この時だけは嫌なこと全部無かったことになるから。
「いいえ、組長の指示の元ノアの手伝い半分霧野さんのお身体を奇麗にしていただけです。」
「それだけ?」
「はい、それだけです。」
「それじゃあお前には相当物足りなかっただろ。」
目の前に、何か重い物が落ちる音がした。
視線を音のする方へ向けると、銀色の物体が畳の上に転がっていた。
凹凸のある双頭ディルドだった。銀色で美しいフォルムの中心に、線が溝になって彫ってある。よく見ると溝は中心の太い線から一センチおきにも薄く彫られており、つまり、挿入された者がおよそどこまで身体の中にこの異物を収められたかが数値で判定できるようになっているのだった。
「もっと欲しいだろ、刺激が。」
「……、……。これは、つまり、霧野さんと、やれ、ってこと?」
頭を上から踏みつけられ畳に頭が付き横から軽く側頭部を叩かれている。
「ぁ゛…‥」
「他に、誰と、やるっていうんだよ。ええ?寝惚けてんのかてめぇ。」
四つん這いになり、霧野と双方尻を向かい合わせになる。間宮の中に、無遠慮に、重く冷たい塊が、ぶ、つ…‥、ぬぷ……ぬぷ……ぬぷ……と、蛇のように入りこんでくる。しかしそれは霧野も同じこと。同じこの被虐的な、ペニスではなく、尻の穴を玩具で弄ばれて、感じてしまう、屈辱的な感覚を、共有しているということ。
「ん……、ん……、」
「なんだ間宮てめぇまさかもう感じてんじゃねぇだろうな。まだ何も始まってねぇぞ。」
「あ……ぁ、まだ、大丈夫……す、」
「じゃあもっと気合入れて腰いれろよ。」
「あ……はい…」
尻を、一段回、強く霧野の方へ押しやった。すると押された側から小さな低いキレたような唸り声が聞こえたが、同時にこちらも中に一目盛り分、異物が挿入されるのだ。頭が自然と下がって、身体が震え始める。ぁ、ぁ、と声が出ちゃうのが止まんない。どろぉ……と口から何か垂れた。自分の涎、間宮は口元をぬぐいながら、二条の方をちらと見た。目があった。あ、まずい、組長の家をこれ以上穢すと、また、二条さんへの、借金が、借金借金借金借金借金……人生終了、何故か、余計に身体が熱く、止まらない、止まらない……止めたいのに……。高い声が、漏れている。
「へぇ~これだけガバガバでも感じるもんなんだな。」
「まぁ、変態の能無しですからね。」
駄目だ、そんなこと言わないで。
双頭ディルドは、身をよじらせると、重みが更に内臓の奥へと堕ちるように進む、そして、自分の熱、そして霧野の熱で冷えていたはずの鉄はもう生暖かくなっていた。霧野との距離がさらに、近くなる。熱を感じる。今、大体中心線ぐらいまでは入ったと身体で感じられるけれど、霧野の尻の密着を感じられない。霧野の方の進み具合が、芳しくないようだ。もう、身体の方に意識が向いていて、あまりわからないが、遠く声が響いてる感じだと何やら霧野は叱責されているらしかった。間宮はぼんやりと、自分の身体を覗き込むようにして、霧野の方を見た。汗が、畳に落ちた。まだ苦戦している、じゃあ、こちらから、動いてあげる。
身体を軽く前後に振ると、霧野が声を漏らしたのが聞えた。間宮の背筋にぞくぞくと痺れが走った。
そうだよ、霧野、そのまま頑張ってもっとこちら側に腰を落として来いよ。そうしたら、俺も、お前も気持ちいのだし、川名も二条も、満足するだろ、全員がハッピー。今、お前の中、肉は、精神は、開きつつあるのだから。さらに腰をこすりつけるようにすると、中心線を間宮の肉体の方が先に越えた。
「んぅ゛…‥……」
奥まで収まるのと、霧野との距離が近くなったのとで、自然、声が漏れてしまった。上から「なぁんだ、最初からこっちの勝負にすれば俺の方が勝ってたのに。どっちの方が奥まで入れられるか。これじゃどうみても二センチくらいは余裕で俺の方が勝ってますよね。」と二条が揶揄うように言って、受けて川名が「はぁ?そんなこというならさぁ、このまま綱引きでもさせてみるか?それだったらこっちにも勝ち目あると思うけど。だってお前のはガバガバじゃんか。とても締りで俺のに勝てないと思うが。」と返す。最悪の奴隷品評会である。
その間も、間宮は腰をゆくらせ、自分の身体の下から、霧野の方をのぞき見続けていた。対して、向こうは苦悶の表情で目も口もきつく閉じていて、目を合わせたくても、合いそうもない。間宮は今、上の人間を差し置いて今自分が最も霧野に近い場所にいると思った、そして、もっと霧野を感じたいと思った。もっと欲しい。尻同士がぶつかって小さな音をたてた。通常の性行為で肉同士がぶつかって音を立てるように。そのまま前後運動を続けると、間宮は自分の雄の膨らみを感じながらも、目の前で、それよりもずうっと速にく、霧野の濡れ赤らんだ雄が、みるみると膨らんで、揺れているのに、やましい、悦びを覚えた。「へぇ……あんた、も、きもちいんだ……、よかったよ、…‥おれも、…‥いい、から、だから、……だから、」
もっと、気持ちよく、なって。
パン、パン、と、こちらが一定の速さで腰を落とすと、段々向こうの肉が、合わせ打ちしてくるようになる。おそらく意図的にではなく、霧野の身体が無意識に肉の疼き、そこを貫かれことを求めて呼応しているのだった。霧野の硬く膨らんだ雄は、腹の下で、ブルンブルンと揺れ、透明な汁がほとばしった。蒸れる。尻同士がくっつく度、双方の皮膚の湿りで尻の皮膚が、ぬるぬる滑る。霧野のきつく食いしばった歯の間から、小さな声がう゛、う゛、と、少しずつ、吐息と共に、漏れ始めているのを、間宮は顔を赤らめながら、眺めていた。同時に、視線、二条と川名の視線を、上から感じていると、これは霧野と同じだろうが、間宮の中に気持ちのいい惨めさが起こり、被虐心を擽った。それは霧野も同じだろうし自分よりも、もっとずっと強いだろうと感じた。だからまだ、目を閉じたまま、拒絶してるのだ。そうやって拒絶する程、多分、お前は感じてしまうのに。
「なんだてめぇら、もうギンギンじゃねぇかよ。情けねぇの、触ってもねぇのに。しごきたくてたまらねぇか?」
意地で黙っている霧野の代わりに「ぁ、しごきたい、……しごきたいれす」と揺れながら答えた。身体の中をまた快楽が貫いて、狂いそうに、頭の奥がぼーっとしてくる。
「へぇ、お前はそうらしいがお前の相方の答えが無いね。」
「……言えよ、……、何故、なんで黙ってる、馬鹿……っ」
「……、……。」
結局快楽の終着点の無い、雄、ペニスを使わせてもらえない、感じたくないはずの惨めな、負けた雄同士のまぐわい。突くと同時に突かれている。その時、向こうから大きく突かれ、間宮は声を漏らし、向こう側を見た。紅潮し眉を顰め一見怒っているように見まがえるが、熱い息遣いのその端々を、途切れ途切れの堪え声が彩っていた。そうすると、そのひょ上の意味も、一転する。一層彼の瞼が強く閉じられたと同時に、霧野の雄が青筋立て力強く、隆起していった。柔らかな肉の隙間に突き刺さった結合部が一層引き締まり、間宮が飲み込んでいたよりもっと咥え込むように二人の腸液でぬるぬるになったディルドをその肉の中に取り込んでいき、中心線が霧野の方へと移動していく。霧野の肉体の奥を強く、えぐる。二人の結合部の下に、ぬるい滴り、なまぬるく潮臭い水たまりができていた。
「ぁ゛……っ。ぁ゛、……きり…‥」
その時何故か、名前を、お前のその名前を、呼んでみよう、と、思った。その瞬間に、何か存在しないはずの記憶が、頭の中の空白の部分に、電流のように駆け巡った。間宮は知らないロッジの中で霧野と向かい合って朝食をとっていた。
「二条のどこがそんなにいいんだよ。頭おかしいだろ。」
彼は普段より随分馴れ馴れしかった。普段なら後半の一文でブチ切れてるところだが、何故か記憶の中の自分は冷静なまま「もう、ある程度は惰性かもしれないな。でも、惰性でも別に良いんだ。」と言った。霧野は間宮の回答が気に入らなかったのか「……。答えになって無い。」と不機嫌に言って自分の食器を持ってキッチンのある方へ消えるのだった。キッチンのある方?何故この架空のロッジについてそんなことを思うのだろう。
半分、彼の名前を口走った時だった、霧野の方を向いていたはずの頭を徐に掴まれ、口の中にペニスを一発で深々突っ込まれたのは。喉を突かれた衝撃で、今までため込んでいた露が目の奥から、あふれ頬をつたった。
「んえ゛……」
震えながら、上目遣いに、その人の方を見た。川名組長。そうだった。元々そういう話だったじゃないか。フェラチオで相手の主をイカせる、ゲーム。もとより、こちらの快楽はオマケみたいなもの。そう、俺達が感じる感じ無いは最初から問題でさえ、無い。当然の事。そうだ。何をやってるんだ、主達を感じさせることこそ、至高。
このゲームは、今までも何度か戯れにやらされたことがあるが、二条の手前、間宮は無敗である。腰をくゆらせながら、川名組長のペニスを吸っていく、器用に、いつも通り、やろう、そう思うのだが、その瞬間、身体の奥、肉筒の奥の好きな部分を激しく突かれ、全身から力が抜けた。こんな風に、いや、別の人間い掘られながらやったことだて何度もあるのに、その時でさえ、感じなかった、何かが、弾けそう。キ……、効く、効く、また、間宮の肉の奥、たっぷりと今までの戯れによって、芳醇な蜜で満たされた部分を、霧野のデカ尻から勢いまかせで突かれてて、中で快楽がさく裂してし、熱い、腰が、砕けそうになる。「ううう゛ん……!!ふぐぐ……んん……!」駄目だ、このままじゃ、二条を負かせてしまう、そんなの、絶対、許されない、のに。それでも、また、霧野と互い豊満な尻同士こすれあわせている内、この前後運動もやめられず、自分の内側で、ディルドの快楽を、身体が、むさぼってしまう。痺れる快楽が、霧野から、自分の方へ、脊髄を直接つなげられたかのように、頭まで、貫かれたように感じる、その快楽を。同時に、今、霧野も同じか、それ以上の快楽を、同じ牝孔で感じているのかと、そう思うと、何故か、どうしてか、今まで経験したことのない、雄の高まりを、覚えてしまうのだった。間宮のペニスはここに来て完全に勃起した。間宮は自分の下半身が溶けているような感覚に苛まれた。そして、それは霧野も、同じこと。
間宮の川名に対するフェラチオは、決しては下手ではない。しかし、今に限っては、口、喉、舌の動きがいつものようにいかず、おろそかになっているのだった。絶対に、負けては、いけないのに。最悪、廃棄、されてしまうかも、しれないのに、そう思うと、余計に下半身が、漲った。そう思っても、舌の筋がこわばり、硬くなり、このまま舌を出し、どうでもよく、アヘ顔晒して昇天してもいいまで、ある。
顔を、両側から川名に優しく抱かた。人から、こんな風に扱われたことは今まで一度も、無かった。なんだかペニスというよりも乳でも吸わされているような気持ちになってくるのが、二条の一物を口に含む時とは随分違う感覚だった。自然涙が溢れた。呼吸する度、身体中が、肉、全部が、霧野と川名という異常なコンビのダブルフェロモンによって細胞の隅々まで、ぜんぶが、満たされていく、いや犯されてイク、ようになって、身体から力が抜けていく。
前から後ろから突かれる快楽に、だんだんと肉体が、川名とそして霧野によって染められ、支配されてくる。何を、やってるんだ、こらえなきゃ、薫……、俺がこんなじゃ、薫がどう思うか考えろよ……薫は俺がいないと、駄目なのに。もし、俺がいなくなったら、壊れちゃうのに……。そうやって言い聞かせ、束の間、理性を取り戻してみても、すぐに、口の中を川名が犯し、背後では霧野が勢いよく動いて、肉と肉がぶつかり突かれ、頭の中が真っ白になっちゃう。傍から見れば何て滑稽なんだろう。でも気持ちいいんだから、これが。どうしてか……気持ち悪いけど……。「ん‥…っ、んく…‥ぅ……ううん゛……」随分前から自分の口から喘ぎ声が漏れ出ているのだった。焦点があわないのと涙で、川名組長の姿が重なって靄がかって見える。息が、できない。今、霧野より自分の方が随分うるさいまである。また、舌がおろそかになってしまっている。でも、誰からも、今、怒られない。また組長の指が優しく間宮の頬を撫で目元をぬぐった。感じたことのない快楽に痺れた。
優しくしないで、頼むから。組長は、ただ、イカされないようにしてれば、いいのだから。
「気持ちがいいのだろう。このまま触りたければ触っていいぞ、お前の乳首だろうと、陰茎だろうと、お好きに。」
「う゛うう……」
「それとも、少しばかり、こちらから触ってやろうか。」
川名の指が手袋越しに間宮の胸部に触れた。「!……!…‥」また、勢いよく中のディルドが動く、霧野が上と下とで、器用に、いつものように、以前のように、器用に、自分の仕事を全うしているというのに、すぐ抜かされる、自分は、何も、できてない。というか、できない。できてなかった。今までも、今も。そして、これからも、どこまでも、快楽の、奴隷……。そして、噴き溢れるのは、川名の精液ではなく、間宮自身の愛液そればかりだった。
150
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる