〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第二章  彼のために・・・自分のために・・・唇へのキスはしない・・・

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 ここだから…。 

 亮は車を駐車場で停めると桂を店の中へ案内していく。

 都会とは思えないような鬱蒼とした森の中のようなところにそのレストランは有った。

 フランス辺りの別荘のような建物の中へ入るとすぐにウエイターが二人を出迎えた。

 亮は慣れた様子で彼と言葉を交わす。ウエイターに案内され、奥まった静かな個室に落ちついた。 

 亮と二人っきりで向かい合って座る。

 腰を落ちつけると、今度は気持が落ち着かなくなって、桂はどこを見て良いのか分からず視線を部屋の中へさ迷わせた。

 そんな桂の様子を亮が唇の端に笑みを浮かべながら眺めると、桂に話しかけた。

「フレンチは好きかな…?俺…あんたの好み聞いていなかったから勝手に決めちゃったけど…。」

 桂は視線を亮に戻す。

 正直な所、好きも何も…と言った心境だった。 

「イヤ…俺フランス料理…あまり食べた事無いんで…。でも…」

 亮が一瞬驚いたように瞳を見開いたのを見て、慌てて付け加えた。

「でも…好きです!美味しい料理はなんでも好きなんで…!」

 アワアワと冴えない返事をする桂を亮は楽しそうに見詰め、そしてクスッと笑った。良かった…と安心したように付け加える。

 亮があらかじめオーダーしておいたのだろう綺麗な料理がどんどんテーブルに並んでいく。

 彼の勧めるワインに口を付けながら料理を味わっていく。

 メインが終わり食後のコーヒーになる頃には、桂の緊張も解れてすっかり亮と打ち解けていた。

 お互いの事を自己紹介交じりにあれこれ話していく。その中で桂はどんどん亮を理解し始めていた。

 亮が、父親が経営するインテリア雑貨の輸入販売を手がける貿易会社の跡取だと言う事も。英語やイタリア語が堪能だと言う事も。

 …そして彼が恋人としては申し分がないという事も…。
 
 亮は食事の間中桂を楽しませようと、色々な話しを冗談交じりに聞かせてくれる。そのウイットに飛んだ話に、桂は夢中になって聞き入っていた。

 亮もまた桂の個人的な事に興味を示してあれこれと訊ねる。

 まぁ…恋人同士を演じるのなら…当たり前の事なのだが…。

 亮は始め桂がサラリーマンだと思っていたらしく、桂が横浜にある国立大学の留学生センターで働いていると聞いて驚いていた。

「…へぇ…どんな事やってんの?」

 興味津々と言った面持ちで桂に訊ねる。桂は照れながら答える。

「日本語を教えているんだ…。」
「…???日本語…?誰に?」

 亮がキョトンとして尋ねる。そんな表情すらカッコ良くて桂はボーっと見惚れながら返事をしていた。

「大学に留学してきた外国人の生徒に、日本語の指導をするんだ。授業について行けるように。」

 それを聞いて亮が無邪気に顔を綻ばせて言う。

「スゴイ…カッコイイ仕事してんだなぁ。面白そう。」

 桂は亮がそう言うのを聞いて、舞いあがってしまいそうなほど喜んでしまう。 

 彼にそんな風に言ってもらえるなんて夢にも思わなかった…。

 彼の一言一言に喜んでしまう自分の感情をコントロールする事が出来なくなってしまう。 

 2時間近く、そのレストランで食事と会話を楽しんだ。

 桂が自分の分は払うと言っても亮は取り合わず「今日の分は俺が勝手に決めた事だから。」そう言って、勘定を支払ってしまっていた。

 レストランを出る。春の涼しい夜風がワインで酔った桂の頬に心地よい。

 気持がどうしても浮き立ってしまう。
駐車場まで亮と並んで歩く。

 桂はこれからどうするのか…?どうなるのかをあれこれ想像してドキドキし始めていた。

― 恋人ごっこ —
 当然これで終わりになるはずも無く…。

 不意に亮が桂の指先に手を伸ばしてギュッと握り締める。

 突然の行為に桂は驚いて亮を見詰めた。

 彼は桂の指先を握り締めたまま、驚く桂を見詰め返した。優しい笑みを浮かべると、先ほどまでとは打って変わった口調で言う。

「俺のマンションで良いかな?」

 甘さを滲ませた声音で囁かれて…桂は声もなく赤くなりながらコクンと頷いていた。
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