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第三章 恋人ごっこをするなら、自覚しないと...

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 テーブルに並んだたくさんの料理に亮が目を見張った。

 桂が料理をしている間中気になってキッチンを覗き込んだりしていたのだが「座っていてください」と桂にやんわりと追い返されていたのだ。

「和食っぽい感じにしたんですけど良かったですか…?」

 驚いた顔そのままで食卓についた亮を、心配そうに見詰めながら桂が訊ねる。

 実際亮の口に自分の料理が合うか心配だった。彼の好みはフランス料理…それしか分からなかったから…。

「いや…和食…すげェ好きだけど…。あんた料理できるんだ…?」

 亮はご飯を盛られた茶碗を受け取りながら聞く。
どの料理も彩り鮮やかに、食欲をそそる良い香りをさせていた。

 桂は微笑むと、ハイと答える。

「趣味なんです。好きなんで…」

 亮が喜んでくれているのが分かって照れくさい。頬を赤らめながら桂が答えた。

「料理がか?へぇ…あんた…すげぇな。スゴイ美味そう…。」

 家庭料理なんて何年振りだろ…。
そう亮が言うのを聞いて今度は桂が驚く。思わず亮に訊ねていた。

「ここで食事はしないんですか?」

 ご飯と肉じゃがを口に頬張りながら亮が、しないね…と即答する。その答えのあまりの速さに桂は思わず笑ってしまう。

「いつも外食ばかりなんだ。まぁ後はコンビニ弁当とかね。弁当だったら、この部屋で食うけど」

 苦笑いを浮かべながら、亮はさらにさわらのソテーをを突っつき、付け合せのアスパラガスを飲み込むと、すぐに生春巻きを口にほおりこんでいく。

か旺盛な食欲で、桂は彼が喜んで自分の作った料理を食べていく様を幸せな思いで見詰めた。

「彼は…健志さんは料理したりしないんですか…?」

 止せば良いのに、桂はつい健志と自分を比べて訊ねてしまう。健志の名前を聞いて、一瞬亮が眉を寄せた。

「あいつはしないよ。生活感が出るような事は好きじゃないんだ」

 不機嫌そうに答える。

 生活感が出る…=お前はダサい…そう言われたようで桂は一瞬ショックを受ける。

 それでも…目の前で亮が喜んで自分の料理を食べてくれている…。それだけで良いじゃないか。と思いなおした。

 生活感を嫌う健志…。俺は健志さんじゃ無いんだ…。

 俺が生活感の出る事をしたって…それはたった10ヶ月だけなんだから…。健志さんが戻ってきたら、またフランス料理を食べに行けば良いんだ…。
 
 一体どこに幾つ胃袋が存在するのかと思うほど、旺盛な食欲で亮は桂の手料理を平らげた。

「本当に美味かった…。ありがとう…。ご馳走様でした」

 少し照れたように、殊勝に両手を合わせてご馳走様という亮に桂は微笑んで、お粗末さまでしたと答える。
 
 この部屋に来た時のギスギスしたぎこちなさが消えて、桂はホッとしていた。

 彼の機嫌が良くなって良かった…。別に餌で釣ろうとしたわけじゃないが…ギクシャクしたままじゃ辛すぎるしな…。

 手伝うよ…一応そう言った亮を押し止めて桂は手際良く食器を洗っていく。

 食器洗い機があったので、ざっと汚れを落とした食器類をそれに入れていった。

 スイッチを押して食器洗い機が動き始めると、それまでソファーに座って桂の動きを目で追っていた亮が立ちあがってきて、驚いたような顔で食器洗い機を覗きこむ。

「すげぇ…。これ本当に動くんだ…」

 感嘆したように食器洗い機をしげしげと見詰めて、そう言う彼に桂は笑ってしまう。

 本当に、この部屋で自炊などした事無いのだろう。当然この文明の利器も使った事がないのだ。

 亮の話では朝食も会社近くのカフェかファーストフードですますらしい。それに部屋で使ったコップ類は週に3日来る通いの家政婦が洗ってくれるらしく、亮はただ使ったものを放置しておけば良いのだ。

 本当にこの部屋は寝るだけに使っているんだな…。もったいない…。

 桂はそう考えて自然笑みを浮かべてしまう。

 食器洗い機の観察に飽きた亮が、今度は桂を何かを含んだような瞳で見詰める。桂が笑みを浮かべているのを見ると、スッと桂に手を伸ばした。

 アッと思う間もなく、桂の身体が亮に抱き寄せられる。

 急に亮の胸に自分の顔を押し当てられて、桂の心拍数が跳ねあがった。亮の身体の熱っぽさに、今まで感じなかった甘い痺れのような物が体に広がって行く。

 桂の身体を自分の腕の中に抱き込めたまま、亮が桂の肩口に顔を埋める。亮の掌が淫靡に桂の背中のラインを、身体の感触を確かめるように撫で擦っていった。

「…あ…」

 亮のつけている爽やかなコロンの匂いが桂の鼻先を掠める。

 その瞬間、桂の鼓動がドクッと鳴った。亮の身体の熱さに耐えきれなくて、桂は身体を捩るが、亮が逃がさまいと、その動きをキツク抱きしめる事で封じ込めると、桂の肩に顔を埋めたまま亮がくぐもぐった声で囁いた。

「俺…今度は…あんたが食いたい…」

 亮のキザなセリフに桂は身体の奥がカッと激しく火照りだすのを感じていた。
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