〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第四章 この想いを終わらせるために…始めたんだ…

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 今まで仕事一辺倒だった桂の生活が激変した。もちろん亮の存在の所為だ。
 
 桂は大学の仕事意外にフリーで契約をしている日本語学校にも教えに行っている。

 日本語教師…今人気の高い仕事ではあったがまだまだボランティアとしての印象が強く、桂のように仕事として確立している教師は稀だった。

 しかも給料はとても安く、同世代の男性に比べると「雀の涙」だった。

 リナは「どうしてそんなに手間隙掛かって、しかもお金にならない仕事をかっちゃんは夢中でやるの?」と呆れ半分でよく訊ねたものだった。

 その度桂は苦笑いを浮かべて「好きだから。」と答えていた。

 好きだから…それ以外に理由なんてない。
 桂はこの仕事に誇りを持っていた。

 もちろん授業の準備は大変だし、自分自身日本語の闇と向かい合って仲間と激論を戦わす事もしばしば。

 手に負えない学習者もいたりする。それでも来日した当初日本語を全く喋れなかった学習者が、自分の指導で少しずつクリアーな日本語を話し出していくのを見る度、桂の心は喜びで一杯になっていったのだ。

 国際交流なんて大げさなもんじゃない…ただ、この教師の仕事が大好き。

 大勢の外国人学習者と知り合い、彼らから様々な文化を教えてもらう。それもこの仕事の楽しさだった。 

 亮と付き合うようになるまで、桂の生活の殆どは仕事で埋まっていた。
日中は授業だし、夜は授業の準備、あとは真柴ら同僚講師と飲みに行っての日本語談義だ。

 日本語教師に関係ない事といえば、大学の後輩との飲み会か後はせいぜいリナと出かける事ぐらいだった。それが…今は…。

 桂は携帯が振動するのを感じてポケットから携帯を出して見た。

 亮からの「今日こいよ。」と言う誘いのメールだった。今日はまだ水曜日。週末まではまだ時間がある。桂は携帯のメッセージを見て溜息を吐いた。

 付き合うようになって2ヶ月あまり。付き合いは順調に進んでいた。毎週末の夢見るようなデート…。流行のデートスポットに行って食事をする。

 亮のエスコートはソツが無くて、こういった事に慣れない桂はドキドキしてしまう。亮の仕事が忙しくない時は金曜日の夜と土曜日を1日一緒に過ごす。

 最初の時に桂が朝黙って帰ってしまって以来、亮は桂の動きにやたらに敏感になっていた。

 桂は亮の激しすぎる…自分の全てを絞り尽くすようなセックスの所為で意識を飛ばす事もしょっちゅうで…。

 でも目を覚ますと必ず亮が自分を抱きしめて、眠らずに桂の顔を眺めている。たまに亮が眠っていて、桂がどんなに注意して静かに亮の胸の中から出ようとしても、すぐ目を覚まして…「なんで起きるんだ…。」と桂に怒る。

 そして最近は今日のように平日の夜まで桂を呼び出す事も多くなっていた。亮の部屋で桂が料理を作り亮がそれを楽しむ。そしてそんな時、亮は絶対に桂を帰したがらなかった。

 亮が自分を恋人として扱ってくれる。それはとても嬉しい…桂は携帯をしまうと考えこむ。

 でも怖くてしかたがなかった。彼と過ごす時間はとても楽しくて…愛しくて…彼と一緒に居る事に慣れていってしまう自分が怖かった。

 この時間は10ヶ月しか続かない…。10ヶ月が終わった時、亮が居なくなって自分はどうするんだろう…。

 最初から分かっていた事とはいえ、桂は不安ばかりが募る。

 亮はいつのまにか自分の事をごく普通に「かつら」と名前で呼ぶようになっていた。

 自分の名前が彼の口から自然に言われる度、桂の胸は震えてしまう。

 もう残り8ヶ月だから…8ヶ月後には俺の名前を彼の口から聞く事は無くなる…。その事を考える度桂は胸の潰れそうな思いを味わっていた。

 それなら…この理不尽な関係を終わらせれば良い。そう思っても、終わらせる勇気も桂には無かった。

 いっそ彼が自分の期待を裏切るようなイヤな奴だったらこんな苦しみはなかったのかもしれないのに…。それだったらセックスを楽しむだけで割り切れた…。 

 でも亮を知れば知るほど彼に惹かれて、魅せられていく自分の気持を押さえることができなくなる。

 桂はもう一度重い溜息を吐いて、研究室の窓から初夏の日差しが照りつける空を見詰めた。

 どんなに迷っても…俺は今日も彼のマンションに行くんだろう…な…。と考えながら。
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