〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第七章 カミサマ…お願い…今だけ…俺を彼の本当の恋人でいさせて…

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「…ん…。か…つ…ら」 

 亮の自分を呼ぶ声に桂は慌ててベッドに駆け寄ると亮の顔を覗きこむ。 

「目が覚めたか?」

 ん…亮が掠れた声で答えると、甘えたように桂の首に手を回す。その甘えた仕草に桂は笑いながらも、よいしょと言って亮の体を抱き起こした。姿勢が楽なように枕の位置を直して腰にあてがってやる。

「大丈夫か?」

 桂は心配で、もう一度額に手を当てながら訊ねる。2時間位休んだ位じゃ下がるわけもなく、熱は相変わらず高いままだった。

「お粥食べられそうかな?薬飲んで欲しいんだけど…なんか胃に入れないと…」

 桂が言うのを聞いて、それまで朦朧としたような顔だった亮が嬉しそうに笑った。

 その邪気のない笑顔に桂の心臓がドクッと跳ねあがった。いつも見せる気取ったニヒルな笑顔じゃなく、本当に無邪気な笑い顔。あまりに素直な亮の表情に桂の胸がドキドキと高鳴る。

 どうして…どうして…こんな顔見せるんだ?そんな表情を知ってしまったら…辛くなる…。 

「ウン…食う…。俺…腹がペコペコ」

 亮が微笑んだまま答える。

 良かった、そう答えてから、桂は準備しておいたお粥を盆に乗せて運ぶ。

 少しでも滋養がつけば良いと思って卵粥にした。中華風の鶏がらの良い匂いが漂ってきて、亮がくんくんと鼻を鳴らす仕草をする。

「熱いから…気をつけて」

 言って桂は、盆を亮の膝に置く。

「食べさせてくれないのか?」

 亮が掠れた声で甘えるような事を言う。

 桂は胸に湧く甘い動揺を何とか隠しながら、生意気な男の額をちょんと小突いた。子供扱いされて、亮が不機嫌そうに顔を顰める。それを見てクスリと笑うと桂は言った。

「ダメ…。自分で食べろよ。ほら…レンゲ」

 亮は渋々…本当に渋々と桂には見えたのだが、レンゲを取ると卵粥を掬って口に運んだ。

「美味い…」

 パッと顔を輝かせて、桂を見ながら言う。桂が良かった…というのも聞かずに、後は黙々とお粥を食べて行く。

 桂は黙って、幸せな思いのまま亮のそんな様子を見守っていた。亮はアッというまにお粥を平らげると、いつも通り「ごちそう様」と両手を合わせて言う。

 桂は盆を片付けると、今度は亮にクスリと水の入ったコップを渡す。

「じゃ、今度はこれを飲んで。風邪薬だから。熱もこれで下がると思うよ。」

 亮は手の中の錠剤をジッと見つめると、今度は真剣な瞳で桂を見ながら言う。

「桂、薬飲ませてよ」

 何を言おうとしているのかは、いくら鈍い桂でも分かる。

 本当はしてあげたい…でも、そんな事は出来ないんだ。桂はもう一度、亮の額をちょんと突ついた。そして、わざと冗談めかして笑いながら言う。

「ダメ…。そう言う事は健志さんにしてもらえ」

 それを聞いた瞬間、亮の顔が耳朶まで真っ赤に染まった。プイッと顔を背けると、そのままぐいっと薬を流し込む。不機嫌そうに顔を顰めると、桂の顔を見ずに、ベッドに潜り込んだ。急に態度を変えた亮に桂は戸惑う。

 俺…また…地雷踏んだのか?でも…いくら何でも、口移しで薬飲ます事は出来ないだろ?

 自分に背を向けて寝ている亮を見て、桂は溜息を吐く。どうして亮はこんなに本物の恋人がするような行為を要求するんだろう? 

 桂は食器を洗いながら考える。亮の背中を見つめるが、眠っているのか分からない。

 亮が何かを要求する度、俺が全部叶えてあげたい…そう思うのを彼は知っているのだろうか?
 
 亮の願いだったら、なんだって受けいれて、全部してあげたい。思う気持ちは歯止めが効かなくて…やっと、我慢しているのに…。

 山本は良いさ。

 桂は苦々しげに考える。俺がやるだけやって、契約が終っても、今度は健志さんが俺の代わりに亮の願いを叶えるだろう。

 でも…俺はどうなる?亮がいなくなったら、願いを叶えてやる相手がいないんだ。俺が本命を見つけるまで…失恋から立ち直るまで…俺は何かする度に亮の事を思い出してしまうだろう…。

 今だって…絶対部屋に入れないって決めていたのに…。

 これから俺は絶対ベッドで寝るたびに、自分のベッドで眠る亮を思い出すんだ…。そうしたら俺は不眠症への道、まっしぐらじゃん。

 取りとめも無い考えが桂の頭の中をグルグル回る。

 桂は洗い上げた食器を拭いて片付けるとシャワーを浴びにバスルームへ入った。亮の姿が見えない所で頭を冷やしたかった。
 
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