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第八章 ―もっと…楽で楽しい恋愛がしたかった…—
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しおりを挟むジュリオの日本語は日常生活には支障がなかった。それが桂のジュリオに対する最初の評価だった。
今日受けてもらったレベルチェック用のテストを見ながら、ホッと安堵の息を漏らす。本人が親日家を自称するだけあってテストの成績もかなりの好成績だった。
初中級で習う文型は殆どマスターしている。ひらがな、カタカナは全て読み書きできる。漢字も150位は書けるようだった。本人も漢字が大好きと言っていたっけ…。
桂は一つ一つのテスト結果を丁寧に分析していく。この分析が甘くなると、今後の学習プランに支障が出てくるので、桂は慎重にジュリオの資料やテスト結果に目を通していった。
「日常生活で意志の疎通を図ることは出来る…と。難しい語彙も案外知っていたよな…」
そう呟いて桂はフッと思いだし笑いを浮かべた。ジュリオが亮の事を「ウルサイお邪魔虫、駆除しました」と言ったのを思い出したからだ。
「一体駆除なんて言葉何所で覚えたんだ?」
一人苦笑しながら呟くと、ジュリオ用のレポートに注意事項を書き連ねていった。
「接続詞の使い方が苦手らしいな。単文レベルの会話文だから、長い複文を話せるように指導。ああ…それにテ形の定着を図る事。依頼などの機能面も強化しないとな…」
ジュリオと会った2時間の間に交わしたインタビューを思い出して、桂はあれこれジュリオの事を考える。
日本語の実力も素晴らしいが、ジュリオ自身も魅力的な人物だと言う事がインタビューの間に窺がい知れた。サービス精神が旺盛で、色々なイタリアの話しをしながらあれこれと桂を楽しませようとしていた。
容姿も素敵だったな…桂はそう考える自分に気付いて苦笑した。亮との事に悩んでいるくせに、素敵な人をしっかりチェックしている自分の現金さに笑ってしまう。
漆黒のウエーブが緩く掛かった髪、大きな濡れたようなダークブラウンの瞳が表情豊かにクルクルと動く。
背が高くがっしりとした体躯。身体からは、仄かなコロンが彼の体臭と溶合って甘い芳香を放っていた。
「あんな人と恋愛できたら…きっと楽しくて幸せだったろうな…」
ジュリオの魅力溢れる姿を思い出しながら桂はつい、口に出して言ってしまっていた。
「彼だったら…今みたいに苦しい思いはしなくてすんだかも…」
そう呟いてから、ハッとしたように驚いた表情を浮かべた。桂はその考えを振りきるように頭を振る。胸に自分に対する激しい嫌悪感が溢れてくる。
…今…俺は山本の恋人なんだ…
こんな事考えるなんて…山本に失礼だ…俺スゴイ嫌な奴…。
自分で望んで飛び込んだんだ…何逃げるような事言ってんだ…。
バカだな…。
そう自分を叱咤すると、桂はもう一度レポートに意識を戻し、学習プランを考えるのに神経を集中しはじめた。
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