〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

文字の大きさ
47 / 95
第八章 ―もっと…楽で楽しい恋愛がしたかった…—

しおりを挟む

 ジュリオの日本語は日常生活には支障がなかった。それが桂のジュリオに対する最初の評価だった。

 今日受けてもらったレベルチェック用のテストを見ながら、ホッと安堵の息を漏らす。本人が親日家を自称するだけあってテストの成績もかなりの好成績だった。

 初中級で習う文型は殆どマスターしている。ひらがな、カタカナは全て読み書きできる。漢字も150位は書けるようだった。本人も漢字が大好きと言っていたっけ…。

 桂は一つ一つのテスト結果を丁寧に分析していく。この分析が甘くなると、今後の学習プランに支障が出てくるので、桂は慎重にジュリオの資料やテスト結果に目を通していった。

「日常生活で意志の疎通を図ることは出来る…と。難しい語彙も案外知っていたよな…」

 そう呟いて桂はフッと思いだし笑いを浮かべた。ジュリオが亮の事を「ウルサイお邪魔虫、駆除しました」と言ったのを思い出したからだ。 

「一体駆除なんて言葉何所で覚えたんだ?」 

 一人苦笑しながら呟くと、ジュリオ用のレポートに注意事項を書き連ねていった。

「接続詞の使い方が苦手らしいな。単文レベルの会話文だから、長い複文を話せるように指導。ああ…それにテ形の定着を図る事。依頼などの機能面も強化しないとな…」

 ジュリオと会った2時間の間に交わしたインタビューを思い出して、桂はあれこれジュリオの事を考える。

 日本語の実力も素晴らしいが、ジュリオ自身も魅力的な人物だと言う事がインタビューの間に窺がい知れた。サービス精神が旺盛で、色々なイタリアの話しをしながらあれこれと桂を楽しませようとしていた。

 容姿も素敵だったな…桂はそう考える自分に気付いて苦笑した。亮との事に悩んでいるくせに、素敵な人をしっかりチェックしている自分の現金さに笑ってしまう。

 漆黒のウエーブが緩く掛かった髪、大きな濡れたようなダークブラウンの瞳が表情豊かにクルクルと動く。

 背が高くがっしりとした体躯。身体からは、仄かなコロンが彼の体臭と溶合って甘い芳香を放っていた。 

「あんな人と恋愛できたら…きっと楽しくて幸せだったろうな…」

 ジュリオの魅力溢れる姿を思い出しながら桂はつい、口に出して言ってしまっていた。

「彼だったら…今みたいに苦しい思いはしなくてすんだかも…」

 そう呟いてから、ハッとしたように驚いた表情を浮かべた。桂はその考えを振りきるように頭を振る。胸に自分に対する激しい嫌悪感が溢れてくる。

…今…俺は山本の恋人なんだ…

 こんな事考えるなんて…山本に失礼だ…俺スゴイ嫌な奴…。

 自分で望んで飛び込んだんだ…何逃げるような事言ってんだ…。

 バカだな…。

 そう自分を叱咤すると、桂はもう一度レポートに意識を戻し、学習プランを考えるのに神経を集中しはじめた。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...