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第九章 普通の恋人同士なら行かないで…そう言うのかな…
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その質問は桂が一番訊かれたくないものだった。
なぜって、その問いの答えが「いいえ。」である事を桂が一番よく分かっていたから…。
ジュリオの授業をするようになって2週間が経っていた。ジュリオは桂の予想通りかなり優秀で、授業も順調に進んでいた。
ジュリオも桂に合格点をつけたようで、2週間経つ頃にはすっかりお互いに打ち解けて友人のようになっていた。が…かえってそれが裏目にでてしまった。
ジュリオは好奇心旺盛だ。わからない事や納得いかない事は、自分が理解できるまで質問してくる。
そしてジュリオはその日の授業の最後、雑談を交わしていた時に今まで一応は遠慮していたその質問を頃合い良しとして桂にぶつけてきた。
「カツラはリョーのラバーですか?」
「は…?」
桂はキョトンとジュリオを見つめた。質問の意味が分からなかったのだ。そのリアクションにジュリオは
「オー。スミマセン。言い方悪かったですか?」と逆に訊きかえしてきた。
自分の質問が通じなかった事にショックを受けたように、落ち込んだ表情でジュリオが桂をジッと見つめた。慌てて桂がぶんぶんと頭を振る。
日本語教師の心得…学習者に日本語へのコンプレックスを植付けるな、を思い出す。
人間誰だって慣れない言語で、質問をしてそれが通じなかったら落ち込む。
そしてその落ち込みが語学へのコンプレックスになるのだ。学習者に接する上で一番気をつけなければいけない事だったのに…。
「ごめんなさい。ジュリオさん。質問の意味は分かります。ただ…俺イタリア語に疎いんで、ラバーの意味が分からなかったんです。すみません」
桂は素直に理由を言って謝った。学習者に対して嘘や見栄や、知ったかぶりはいけない…これも日本語教師の心得。
桂の返事を聞いて、ジュリオが安心したような微笑を浮かべた。そして大袈裟に両手を軽いホールド・アップの形にしてあげると、ジュリオもまた謝った。
「カツラ…ごめんなさい。ラバー、英語です。ラバーは…」
英語と聞いて桂の頬がカァッと赤く染まった。ジュリオが口にした単語だから、イタリア語だと思っていた。最もイタリア語であっても発音はそれ程変わりなかっただろうが…。
「…分かりました。ジュリオさん。意味が…」
桂は視線を机の上の教材に落としながら、小さい声で答えた。それを聞いてジュリオが喜んだよう顔をする。
「良かったです。日本語ではなんと言いますか?私日本語でなんて言うか知りません」
無邪気にジュリオは桂に質問する。桂は日本語教師としてジュリオの質問に答えなければならない・・と言う義務とその回答を最初の質問にも絡めて答えるべきなのか?…と相反する疑問が胸の中で葛藤していた。
「…恋人…です。恋人…と言います」
ますます小さい声で桂は答えた。ジュリオが「SI」とそうだ!と言うように相槌を打った。
「そうです。コイビトです。私この言葉前に聞いたことあります。とてもきれいな日本語だと思いました」
…漢語から来た言葉なんだけどね…。桂はジュリオの話しに頭の中で突っ込んだ。
「で…カツラはリョーのコイビトですか?」
容赦なくジュリオは追求してくる。桂は情けない思いになりながら、それでも返事をした。
自分が答えなければジュリオはきっと亮に訊ねるだろう。その時に亮がなんて答えるのか桂は聞きたくなかった…。
それだったら自分から簡単に事実だけを伝えれば良い…。桂は強張りそうな頬の筋肉に力を入れて、必至で笑顔を浮かべた。
「いいえ。違います。ジュリオさん。俺 と山本君は友達です。山本君は俺のコイビトじゃありません」
「そうですか…」
桂の返事を聞いてジュリオがふーんというような表情を浮かべる。桂の答えに納得していないのはありありだった。少し首を傾げると桂の胸の内を探るように一瞬押し黙った。
その沈黙がいたたまれなくて、桂は話しを逸らすように傍らにあった横浜のガイドブックを開いてジュリオに差し出し た。
「ジュリオさん。横浜のどこを見たいですか?これから観光プランを決めましょう。」
途端それまでの話しを忘れたように、ジュリオが興味を持った顔で桂の差し出したガイドブックを覗き込んだ。
「カツラ、私は三渓園が見たいです」
ジュリオの答えを聞いて桂もホッとしたような笑みを浮かべた。亮と自分の関係なんて考えたくなかった…。
なぜって、その問いの答えが「いいえ。」である事を桂が一番よく分かっていたから…。
ジュリオの授業をするようになって2週間が経っていた。ジュリオは桂の予想通りかなり優秀で、授業も順調に進んでいた。
ジュリオも桂に合格点をつけたようで、2週間経つ頃にはすっかりお互いに打ち解けて友人のようになっていた。が…かえってそれが裏目にでてしまった。
ジュリオは好奇心旺盛だ。わからない事や納得いかない事は、自分が理解できるまで質問してくる。
そしてジュリオはその日の授業の最後、雑談を交わしていた時に今まで一応は遠慮していたその質問を頃合い良しとして桂にぶつけてきた。
「カツラはリョーのラバーですか?」
「は…?」
桂はキョトンとジュリオを見つめた。質問の意味が分からなかったのだ。そのリアクションにジュリオは
「オー。スミマセン。言い方悪かったですか?」と逆に訊きかえしてきた。
自分の質問が通じなかった事にショックを受けたように、落ち込んだ表情でジュリオが桂をジッと見つめた。慌てて桂がぶんぶんと頭を振る。
日本語教師の心得…学習者に日本語へのコンプレックスを植付けるな、を思い出す。
人間誰だって慣れない言語で、質問をしてそれが通じなかったら落ち込む。
そしてその落ち込みが語学へのコンプレックスになるのだ。学習者に接する上で一番気をつけなければいけない事だったのに…。
「ごめんなさい。ジュリオさん。質問の意味は分かります。ただ…俺イタリア語に疎いんで、ラバーの意味が分からなかったんです。すみません」
桂は素直に理由を言って謝った。学習者に対して嘘や見栄や、知ったかぶりはいけない…これも日本語教師の心得。
桂の返事を聞いて、ジュリオが安心したような微笑を浮かべた。そして大袈裟に両手を軽いホールド・アップの形にしてあげると、ジュリオもまた謝った。
「カツラ…ごめんなさい。ラバー、英語です。ラバーは…」
英語と聞いて桂の頬がカァッと赤く染まった。ジュリオが口にした単語だから、イタリア語だと思っていた。最もイタリア語であっても発音はそれ程変わりなかっただろうが…。
「…分かりました。ジュリオさん。意味が…」
桂は視線を机の上の教材に落としながら、小さい声で答えた。それを聞いてジュリオが喜んだよう顔をする。
「良かったです。日本語ではなんと言いますか?私日本語でなんて言うか知りません」
無邪気にジュリオは桂に質問する。桂は日本語教師としてジュリオの質問に答えなければならない・・と言う義務とその回答を最初の質問にも絡めて答えるべきなのか?…と相反する疑問が胸の中で葛藤していた。
「…恋人…です。恋人…と言います」
ますます小さい声で桂は答えた。ジュリオが「SI」とそうだ!と言うように相槌を打った。
「そうです。コイビトです。私この言葉前に聞いたことあります。とてもきれいな日本語だと思いました」
…漢語から来た言葉なんだけどね…。桂はジュリオの話しに頭の中で突っ込んだ。
「で…カツラはリョーのコイビトですか?」
容赦なくジュリオは追求してくる。桂は情けない思いになりながら、それでも返事をした。
自分が答えなければジュリオはきっと亮に訊ねるだろう。その時に亮がなんて答えるのか桂は聞きたくなかった…。
それだったら自分から簡単に事実だけを伝えれば良い…。桂は強張りそうな頬の筋肉に力を入れて、必至で笑顔を浮かべた。
「いいえ。違います。ジュリオさん。俺 と山本君は友達です。山本君は俺のコイビトじゃありません」
「そうですか…」
桂の返事を聞いてジュリオがふーんというような表情を浮かべる。桂の答えに納得していないのはありありだった。少し首を傾げると桂の胸の内を探るように一瞬押し黙った。
その沈黙がいたたまれなくて、桂は話しを逸らすように傍らにあった横浜のガイドブックを開いてジュリオに差し出し た。
「ジュリオさん。横浜のどこを見たいですか?これから観光プランを決めましょう。」
途端それまでの話しを忘れたように、ジュリオが興味を持った顔で桂の差し出したガイドブックを覗き込んだ。
「カツラ、私は三渓園が見たいです」
ジュリオの答えを聞いて桂もホッとしたような笑みを浮かべた。亮と自分の関係なんて考えたくなかった…。
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