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第十章 ― そうか…俺はマリーゴールドなんだ…―
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カランと溶けた氷がグラスの中で崩れ落ちた。
桂の話しを聞き終わって、リナがハァと小さい溜息を零した。そして桂の手の空いたグラスを取り上げると店のバーテンダーに代わりのグラスを頼んだ。
「ねぇ…かっちゃん」
物思いに耽ったような桂にリナが優しく声を掛けた。
「…ん…?」
リナは桂の前にカクテルのグラスを置くと、うっすらと笑みを浮かべて言った。
「覚えている?高校を卒業した時の事?かっちゃんの事あっさり振った木村の事?」
こっぴどく自分を振った同級生の名前を出されて桂が苦笑いを浮かべた。
「ああ。覚えているさ。俺…すげぇ、酷い振られかたしたっけ」
そうね。とリナが答えて続けた。
「確か、かっちゃんは退屈で面白くない…。お前みたいな奴はつまらない。って言われたんだっけ?」
「そうそう…」
フッと桂が笑って答えた。
高校生になって初めて人が好きになるのがどう言う事か…それが分かった。
木村と言うクラスメイトと付き合って…。
2年間…夢中になって彼と恋をしていた…。それこそ周りが見えなくなるくらい…。自分のありったけをぶつけて恋に溺れていた。それが…。
― もう終りにしようぜ。―
― なに遊びに本気持ち込んでんだよ。―
― あぁ飽きたんだ。お前退屈なんだよ。―
若い恋人は、言葉を凶器に変えて桂を切り裂いた…。
リナが昔を懐かしむように
「あの時のかっちゃん、もうボロボロで…。泣いたり、叫んだり、喚いたり。一生懸命、木村に縋っちゃって…。それこそもう…みっともないくらいに…」
「ああ…そうだったな」
思いだし笑いを浮かべて桂はグラスに口をつけた。リナもうっすらと笑いながら続ける。
「ううん…木村の事だけじゃない…。それこそあの頃の私達って泣いたり笑ったり…。感情の赴くままに過ごしてた」
泣いたり笑ったり…本当にありったけの感情を剥き出しにして生きてきた…。
青春を懐かしむ歳ではないが、桂はがむしゃらだった高校生の頃を懐かしく思い出す。
「ねぇ…かっちゃん。気がついている?自分の事」
首を傾げて桂の瞳の奥にある何かを探るようにリナが桂の顔を覗き込んだ。何を?と返して桂はまた一口甘いカクテルを啜った。
「あの頃のかっちゃん、ううん。あの頃だけじゃない。いつだってかっちゃん、誰かと恋愛してる時すごく正直だった。それこそもう犬みたいに分かり易いくらい…。ラブラブだともうメロメロ状態で惚気てみたりとか。ダメになると、泣いて愚痴ったりとか」
「俺って、そんなか?」
自分がリナに見せてきた様々な姿を考えて桂が苦笑した。
「お互い様だろ。お前だって、いっつもすごいじゃないか。」
ちゃかして答える桂にリナが、ううん、と頭を左右に振って否定した。
「でもね。かっちゃん。今のかっちゃん、ちっとも正直じゃないよ」
「え?」
意外なリナの言葉に桂は唖然としてリナを見詰めた。
「どう言うことだ?」
リナが優しい瞳で桂を見ながら続けた。
「気付いてないよね。かっちゃん、あいつと付き合うようになって、何を考えているのかぜんぜん分からなくなっっちゃったよ。彼が好きなのに…まるで感情に蓋をしているみたい。なんで好きなのに好きって言えないの?どうして、ニューヨークに行かないでって、送りたくなんかないって言わなかったの?」
桂はグラスを置くと俯いた。ボソリと呟いた。
「だって…仕方がないだろ…」
桂はしばらく手の中のグラスを見詰めていたが顔を上げると、リナに笑みを見せながら答えた。
「リナ…。俺達は契約なんだ。セックス・フレンドなんだよ。だから…だから…俺は自分の気持を出す事なんて出来ない…」
言って不意に熱い物が胸の中に込み上げてくる。
「もし…俺があいつに好きだって伝えて…、あいつがその気持を煩がったら…。それが原因でこの契約が打ちきりになってしまったら…。俺…俺…」
桂の瞳からポトっと涙が零れ落ちた。リナがギュッと桂の手を握り締める。
「ゴメン…。ゴメン…。かっちゃん、ゴメンね。かっちゃんの気持わかってたはずなのに…」
桂もギュッとリナの手を握り返した。親友に不要な心配をさせて迷惑を掛けている…。申し訳無いと思いながらも今の桂にはリナの手の暖かさがありがたかった。
「リナ。ホントに大丈夫だから…。俺…あいつと一緒に居たいから…。だから、なんだって我慢できるんだ…。心配掛けてごめんな」
桂の話しを聞き終わって、リナがハァと小さい溜息を零した。そして桂の手の空いたグラスを取り上げると店のバーテンダーに代わりのグラスを頼んだ。
「ねぇ…かっちゃん」
物思いに耽ったような桂にリナが優しく声を掛けた。
「…ん…?」
リナは桂の前にカクテルのグラスを置くと、うっすらと笑みを浮かべて言った。
「覚えている?高校を卒業した時の事?かっちゃんの事あっさり振った木村の事?」
こっぴどく自分を振った同級生の名前を出されて桂が苦笑いを浮かべた。
「ああ。覚えているさ。俺…すげぇ、酷い振られかたしたっけ」
そうね。とリナが答えて続けた。
「確か、かっちゃんは退屈で面白くない…。お前みたいな奴はつまらない。って言われたんだっけ?」
「そうそう…」
フッと桂が笑って答えた。
高校生になって初めて人が好きになるのがどう言う事か…それが分かった。
木村と言うクラスメイトと付き合って…。
2年間…夢中になって彼と恋をしていた…。それこそ周りが見えなくなるくらい…。自分のありったけをぶつけて恋に溺れていた。それが…。
― もう終りにしようぜ。―
― なに遊びに本気持ち込んでんだよ。―
― あぁ飽きたんだ。お前退屈なんだよ。―
若い恋人は、言葉を凶器に変えて桂を切り裂いた…。
リナが昔を懐かしむように
「あの時のかっちゃん、もうボロボロで…。泣いたり、叫んだり、喚いたり。一生懸命、木村に縋っちゃって…。それこそもう…みっともないくらいに…」
「ああ…そうだったな」
思いだし笑いを浮かべて桂はグラスに口をつけた。リナもうっすらと笑いながら続ける。
「ううん…木村の事だけじゃない…。それこそあの頃の私達って泣いたり笑ったり…。感情の赴くままに過ごしてた」
泣いたり笑ったり…本当にありったけの感情を剥き出しにして生きてきた…。
青春を懐かしむ歳ではないが、桂はがむしゃらだった高校生の頃を懐かしく思い出す。
「ねぇ…かっちゃん。気がついている?自分の事」
首を傾げて桂の瞳の奥にある何かを探るようにリナが桂の顔を覗き込んだ。何を?と返して桂はまた一口甘いカクテルを啜った。
「あの頃のかっちゃん、ううん。あの頃だけじゃない。いつだってかっちゃん、誰かと恋愛してる時すごく正直だった。それこそもう犬みたいに分かり易いくらい…。ラブラブだともうメロメロ状態で惚気てみたりとか。ダメになると、泣いて愚痴ったりとか」
「俺って、そんなか?」
自分がリナに見せてきた様々な姿を考えて桂が苦笑した。
「お互い様だろ。お前だって、いっつもすごいじゃないか。」
ちゃかして答える桂にリナが、ううん、と頭を左右に振って否定した。
「でもね。かっちゃん。今のかっちゃん、ちっとも正直じゃないよ」
「え?」
意外なリナの言葉に桂は唖然としてリナを見詰めた。
「どう言うことだ?」
リナが優しい瞳で桂を見ながら続けた。
「気付いてないよね。かっちゃん、あいつと付き合うようになって、何を考えているのかぜんぜん分からなくなっっちゃったよ。彼が好きなのに…まるで感情に蓋をしているみたい。なんで好きなのに好きって言えないの?どうして、ニューヨークに行かないでって、送りたくなんかないって言わなかったの?」
桂はグラスを置くと俯いた。ボソリと呟いた。
「だって…仕方がないだろ…」
桂はしばらく手の中のグラスを見詰めていたが顔を上げると、リナに笑みを見せながら答えた。
「リナ…。俺達は契約なんだ。セックス・フレンドなんだよ。だから…だから…俺は自分の気持を出す事なんて出来ない…」
言って不意に熱い物が胸の中に込み上げてくる。
「もし…俺があいつに好きだって伝えて…、あいつがその気持を煩がったら…。それが原因でこの契約が打ちきりになってしまったら…。俺…俺…」
桂の瞳からポトっと涙が零れ落ちた。リナがギュッと桂の手を握り締める。
「ゴメン…。ゴメン…。かっちゃん、ゴメンね。かっちゃんの気持わかってたはずなのに…」
桂もギュッとリナの手を握り返した。親友に不要な心配をさせて迷惑を掛けている…。申し訳無いと思いながらも今の桂にはリナの手の暖かさがありがたかった。
「リナ。ホントに大丈夫だから…。俺…あいつと一緒に居たいから…。だから、なんだって我慢できるんだ…。心配掛けてごめんな」
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