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第十三章 ― 先の約束なんてしたくない…ただ…苦しさが募るだけ…―
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ふうわりとした優しい感触が自分の頬に触れるのを感じて、桂はまどろみから引き戻された。心地よいうとうとした眠りを、その優しい刺激が邪魔をする。
「なんだ…?」
覚束ない頭のまま、桂はゆっくりと目を開けた。リナが出て行ってから、どうやら眠ってしまった自分に気がつく。
「ごめん、目、覚めたか…?」
頭の上から恐る恐ると言った感じの声が響いてくる。聞きなれた…そして聞くたびに胸がざわついてしまう愛しい声に、桂は視線を部屋にさ迷わせた。
「……やま…もと…?」
頭を横に向けると、ベッド脇の床にペタンと座りこんだ亮の自分を見つめる視線とぶつかった。亮がおずおずと桂の顔を覗きこむと、弱々しい頼りない口調で桂に声を掛けた。
「大丈夫か…?」
言って、桂の頬にまた指を這わせて撫でると、そのまま指を滑らせて桂の幾分汗で湿った額から髪の毛を梳きあげた。
優しい亮の仕草にドキドキしながら桂も亮の顔をジッと見つめた。今日の亮の瞳にはこの間の怒りの色は少しも見られなかった。
「ああ。大丈夫」
亮に逢えた喜びと、どんなに考えたくない…そう思っても、亮への気持が泉のように溢れ出てしまって、桂はニコッと笑って返事をすると、自分の頬に触れる亮の指先に自分もおずおずと指を触れさせた。
桂の顔を覗き込んでいた亮がその笑みを見てハッと驚いたような顔をした。途端首筋まで真っ赤に染め上げると、バツが悪そうにプイッと顔を背ける。それでも自分の指先に触れる桂の指をぎゅっと握り締めた。
「…リナが…喜んでた…。エスプレッソ・マシン…。…ありがとう…」
黙ってしまった亮の横顔を静かに見つめながら桂は言った。
リナと亮の間でどんな話しがあったのか分からない。でも今日のリナの様子では明らかに亮を許したのが分かった…。
聡明な彼女の事…もちろんエスプレッソ・マシンに釣られた訳ではないのだろう。彼女を納得させるだけの事を恐らく亮は言ったのだ…。
桂の言葉に亮は視線を戻すと、そっと桂の指先に唇を這わせた。
久しぶりの甘い刺激に桂もみるみる顔を赤らめていく。慈しむように桂の指先1本1本に唇を触れさせていった。
「いや…あれは俺が悪いから…。気にするな…」
低い掠れたような声で言うと、また桂の指に唇を触れる。
いつにない優しい亮の行為に桂は胸の鼓動を高鳴らせながら亮の顔を見つめつづけた。
この穏やかな時間がずっと…続いて欲しい…願わずにはいられない…。
亮の唇の切れたような傷に桂は目を留めた。
それが、あの夜自分が殴った傷跡だと気付いて、桂の心拍数が一気に上がった。あの夜の出来事がDVDの早送りのように、脳裏に再生される。
自分の傷跡に視線を一心に注ぐ桂に気付いた亮が、静かに微笑んだ。桂の指から唇を離すと、そのまま桂の瞼にそっとくちづける。
そのまま宥めるように、もう一度、気にするな…と囁いた。言って、首筋から肩口へと唇を滑らせる。
桂の唇から感じて吐息が漏れる。その表情を見つめながら亮が口を開いた。
「…桂…この間の……」
言いかけたまま黙り込んでしまった亮に、それまで恍惚としながら亮の愛撫に身を任せていた桂が眼を開いて、なに…?と眼で続きを促した。
言い難そうに視線を揺らしながらも亮が言葉を継いだ。
「お前の…もう…やめようって言葉…。まだ…そう思っているか…?」
心なしか怯えたように震える亮の声。
…あの夜の…間違いなく…自分の本心だった…その言葉…。
桂は一瞬息を呑んだ。
「…あ…」
分からない…分からなかった…。自分が止めたいのか…。亮から離れたいのか…。
「…ちが…」
終りを予感しつづけていた…その度に胸が潰れそうなほど辛かった…。それでも……たとえ10ヶ月だけでも…最後のその瞬間がくるまで………亮の側にいたい…。
桂の瞳からスッと一筋だけ涙が零れた。どうにもならない溢れる想いとコントロール出来ない亮への感情を持て余しながら桂は黙って、亮の瞳を見つめながら首を左右に振った。
桂の涙を亮は唇で拭うと、耳朶を甘噛みしながら、抑揚を押さえた声根で言い聞かせるように囁く。
「俺に…もう少し時間をくれよ。……頼むから……やめるって…言うな…っ!」
最後の言葉が終らないうちに、亮は昂ぶる感情を爆発させるようにきつい口調そのままに、激しく桂のだるくて動きのままならない身体を掻き抱いた。
乱暴に自分の胸の中に引き寄せ、桂の身体と一つになりたいかのように強く抱きしめる。
亮の腕の拘束にときめきながらも、亮の言葉の意味が理解できず…。それでも桂も久し振りの亮の胸に体を寄せ背中に腕を回した。
自分の背中に桂の腕が回るのを感じると、亮の抱きしめる腕に強暴なほどの力が篭った。その力を緩める事もせず、亮は黙って桂を抱きしめつづける。
亮の逞しい胸に桂も頬を埋めた。
今だけは…もう…何も考えたくなかった…。
ただ…亮とずっと、こうして温もりを分かち合いたかった…。
「なんだ…?」
覚束ない頭のまま、桂はゆっくりと目を開けた。リナが出て行ってから、どうやら眠ってしまった自分に気がつく。
「ごめん、目、覚めたか…?」
頭の上から恐る恐ると言った感じの声が響いてくる。聞きなれた…そして聞くたびに胸がざわついてしまう愛しい声に、桂は視線を部屋にさ迷わせた。
「……やま…もと…?」
頭を横に向けると、ベッド脇の床にペタンと座りこんだ亮の自分を見つめる視線とぶつかった。亮がおずおずと桂の顔を覗きこむと、弱々しい頼りない口調で桂に声を掛けた。
「大丈夫か…?」
言って、桂の頬にまた指を這わせて撫でると、そのまま指を滑らせて桂の幾分汗で湿った額から髪の毛を梳きあげた。
優しい亮の仕草にドキドキしながら桂も亮の顔をジッと見つめた。今日の亮の瞳にはこの間の怒りの色は少しも見られなかった。
「ああ。大丈夫」
亮に逢えた喜びと、どんなに考えたくない…そう思っても、亮への気持が泉のように溢れ出てしまって、桂はニコッと笑って返事をすると、自分の頬に触れる亮の指先に自分もおずおずと指を触れさせた。
桂の顔を覗き込んでいた亮がその笑みを見てハッと驚いたような顔をした。途端首筋まで真っ赤に染め上げると、バツが悪そうにプイッと顔を背ける。それでも自分の指先に触れる桂の指をぎゅっと握り締めた。
「…リナが…喜んでた…。エスプレッソ・マシン…。…ありがとう…」
黙ってしまった亮の横顔を静かに見つめながら桂は言った。
リナと亮の間でどんな話しがあったのか分からない。でも今日のリナの様子では明らかに亮を許したのが分かった…。
聡明な彼女の事…もちろんエスプレッソ・マシンに釣られた訳ではないのだろう。彼女を納得させるだけの事を恐らく亮は言ったのだ…。
桂の言葉に亮は視線を戻すと、そっと桂の指先に唇を這わせた。
久しぶりの甘い刺激に桂もみるみる顔を赤らめていく。慈しむように桂の指先1本1本に唇を触れさせていった。
「いや…あれは俺が悪いから…。気にするな…」
低い掠れたような声で言うと、また桂の指に唇を触れる。
いつにない優しい亮の行為に桂は胸の鼓動を高鳴らせながら亮の顔を見つめつづけた。
この穏やかな時間がずっと…続いて欲しい…願わずにはいられない…。
亮の唇の切れたような傷に桂は目を留めた。
それが、あの夜自分が殴った傷跡だと気付いて、桂の心拍数が一気に上がった。あの夜の出来事がDVDの早送りのように、脳裏に再生される。
自分の傷跡に視線を一心に注ぐ桂に気付いた亮が、静かに微笑んだ。桂の指から唇を離すと、そのまま桂の瞼にそっとくちづける。
そのまま宥めるように、もう一度、気にするな…と囁いた。言って、首筋から肩口へと唇を滑らせる。
桂の唇から感じて吐息が漏れる。その表情を見つめながら亮が口を開いた。
「…桂…この間の……」
言いかけたまま黙り込んでしまった亮に、それまで恍惚としながら亮の愛撫に身を任せていた桂が眼を開いて、なに…?と眼で続きを促した。
言い難そうに視線を揺らしながらも亮が言葉を継いだ。
「お前の…もう…やめようって言葉…。まだ…そう思っているか…?」
心なしか怯えたように震える亮の声。
…あの夜の…間違いなく…自分の本心だった…その言葉…。
桂は一瞬息を呑んだ。
「…あ…」
分からない…分からなかった…。自分が止めたいのか…。亮から離れたいのか…。
「…ちが…」
終りを予感しつづけていた…その度に胸が潰れそうなほど辛かった…。それでも……たとえ10ヶ月だけでも…最後のその瞬間がくるまで………亮の側にいたい…。
桂の瞳からスッと一筋だけ涙が零れた。どうにもならない溢れる想いとコントロール出来ない亮への感情を持て余しながら桂は黙って、亮の瞳を見つめながら首を左右に振った。
桂の涙を亮は唇で拭うと、耳朶を甘噛みしながら、抑揚を押さえた声根で言い聞かせるように囁く。
「俺に…もう少し時間をくれよ。……頼むから……やめるって…言うな…っ!」
最後の言葉が終らないうちに、亮は昂ぶる感情を爆発させるようにきつい口調そのままに、激しく桂のだるくて動きのままならない身体を掻き抱いた。
乱暴に自分の胸の中に引き寄せ、桂の身体と一つになりたいかのように強く抱きしめる。
亮の腕の拘束にときめきながらも、亮の言葉の意味が理解できず…。それでも桂も久し振りの亮の胸に体を寄せ背中に腕を回した。
自分の背中に桂の腕が回るのを感じると、亮の抱きしめる腕に強暴なほどの力が篭った。その力を緩める事もせず、亮は黙って桂を抱きしめつづける。
亮の逞しい胸に桂も頬を埋めた。
今だけは…もう…何も考えたくなかった…。
ただ…亮とずっと、こうして温もりを分かち合いたかった…。
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