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第十三章 ― 先の約束なんてしたくない…ただ…苦しさが募るだけ…―
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しおりを挟む「エスプレッソ・マシンを2台」
それも最高級のよ。リナは悪戯っぽく微笑みながらそう桂に伝えた。
「どう言うことだよ…?」
事情のわからない桂は、今しも部屋を出て行こうとしているリナをベッドの上から見ながら訊ねた。
医者の出した診断書のお陰で桂は全ての仕事をキャンセルしていた。
一週間余りの療養生活。リナとのんびり過ごしたお陰か、あれほど痛んだ胃も回復に向かいはじめていた。
そんな桂に安心したのか、リナは自分も「かっちゃんの所引き払うわ」と告げたのだった。
店に行く身支度をバッチリして…そして桂にエスプレッソ・マシンの事を告げた。
桂のキョトンとした表情におかしそうな表情を浮かべると
「あいつよ。山本よ」
言って、またクスクスと笑う。
「山本って…?」
桂は自分が倒れて以来、姿を現さない亮の名前をリナの口から聞いて、心臓が跳ねあがりそうになる。
リナは尚もクスクスとひとしきり笑うと続けて言った。
「ああ…腹が立ったから、このマンションに近寄らせなかったの…。ずっと追い返していたのよ。そしたらね…あいつ…」
本当に可笑しくてならないのか、リナがまたフフッと笑いを漏らした。
「突然、5日前かな…?店に来て…『この店に必要な物あるか?』って聞くわけ」
「それで…?」
山本がリナの店に…?
あいつまた、なんかしたのか…?
桂は状況が見えずに湧き起こる不安を押さえながら話しの続きを促した。リナは穏やかな優しい瞳で桂を見つめると
「だから…そうねェ…って言って。かっちゃんに会いたいなら、この店にピッタリのインテリア性のあるエスプレッソ・マシンが2台欲しいわぁ…って言ったの」
「…え…?」
俺に会いたい…?山本が…?ホントに…?ドキドキしながらリナが口を開くのを桂は待った。
「そしたらね。昨日…本当にステキで性能も抜群のエスプレッソ・マシンが店に到着したわ。もちろんイタリア製よ。お陰でぐっと店の雰囲気が良くなったわ」
あいつ、性格は最悪だけどセンスは良いわ。
そう嬉々として言うリナの言葉に、桂は、そうか…良かったな…。と相槌を一応打った。いまいちリナと亮の間のこの出来事が理解できない。
困惑気味に瞳を白黒させる桂に、リナは玄関でハイヒールを履きながら優しく声を掛けた。
「今夜あいつ来るから…。だから許してあげたら…。一応反省しているみたいよ」
それを聞いて桂は苦笑を浮かべて言い返した。
「酷い事言われたのはお前だろうが…。モノに買収されたのかよ」
リナは桂の言葉に、そうよ、と飄々と答えると少しだけ真剣な眼差しを桂に向けて言った。
「あいつ…案外複雑な奴かもね。かっちゃん…、もう少し自信を持ってあいつと話し合ってみたら?そうすれば、あいつの中の何かが見えてくるかもよ」
「山本の中の何か…?」
リナの言葉を噛み締めるように桂は繰り返した。
リナはコートを羽織るとドアを開けながら、そうよ。と答えた。
桂を振り返ると言い聞かせるように告げる。
「あいつ…あの時確かに私に嫉妬していたよ。私がかっちゃんの恋人だって言ったから…。普通ただのセックス・フレンドに嫉妬なんてするかな?」
嫉妬…?嫉妬してくれた…・?本当に…?
考えて桂は頭を振った。そんな訳あるはず無い…。どうして…嫉妬する…?セックスだけの俺に…。あれは、恋人ごっこの契約内容を破ったと言う…怒りだ。そして俺に対する所有欲。
混乱したような桂を、理解に満ちた瞳で眺めるとリナは、またね、と言って静かに出て行った。
部屋の扉が閉まる音を聞きながら桂はリナの言葉とあの夜の亮の姿を繰り返し思い出していた。
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