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Vol.1『ファムファタ女と名探偵』
ハードボイルドと女の嘘
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十一時になるところだった。陽気とまではいかないが、我が家(事務所)はかなりの明るさだ。このビルは日当たりがいい。
「由紀奈、ちゃん? 助手さん?」
彰子が俺に訊いてきた。その下ろした黒髪が、静かに光を蓄えている。とても柔らかそうだ。触りたい。
「……まあ似たようなもんだ。俺の従姪だ」
「高一だよー」
由紀奈も貧乳だ。
「由紀奈、この人はな、柏木彰子ちゃん。今回の依頼人だ」
「ちゃん付けかよ」
「嬉しい!」
よしウケた。こういうポイントの積み重ねが大事なんだ。
「――前の彼もね、私のこと、ちゃん付けで呼んでたの」
「知らねーし」
PCの画面から目を離さずに言う。
「おいこら由紀奈」
と無礼なガキを窘めながらも、俺は俺で内心穏やかならざるものを覚えていた。この俺を差し置いてこの俺よりも先に彰子をちゃん付けで呼ぶ人間がいただと? これは一度は顔を拝んでやらねばなるまい。
「そう、それで私の依頼もね、その彼のことなんだけど、由紀奈ちゃん、もう聞いた?」
「いーえ」
「その彼のところにね、」
「成敗しに行く」
「ちがうでしょ!」
「成敗してやる」
「ちがいます!」
「淳ちゃん黙れよ。あ、そういや淳ちゃん、ってちゃん付けだった。きも。で、なにー? 依頼って」
「前の彼のところに置いてきちゃった私のブラを、取り返してきて欲しいの」
「なんだそりゃ」
「だよな、由紀奈。なんだそりゃだよな?」
「わかる」
「わかるんかい!」
「わかるよ、女だもん。だから、なんだそりゃって言ったのは、その前彼にだよ」
「ね、わかるでしょう?」
彰子のそれは由紀奈に言ったのか、それとも俺に言ったのか。
「ねー柏木さん、どんなブラ?」
「それに一緒に入ってない? ――そう、そのフォルダ」
彰子もPCの前に移動し、由紀奈にそう示した。カチカチと微かな音がする。
「うわっ。極盛りじゃん」
「すごいでしょう?」
「これ、柏木さんだよねー? 顔隠してるけど」
「もちろん私。ね、すごいでしょう? 魔法のブラなの」
「やーしかもスタイルいーし。細ーい。白ーい」
これはつまり察するに、下着姿の彰子のお宝画像が、そのモニターに今、映し出されているという事か!
「こんだけ盛れたら神だわー。これは欲しいわー」
「思うでしょう?」
「うん、思う」
「俺にも見せろ、貧乳ども」
「だーめっ」
「こっち来んな」
急に結束を固めやがった。これだから女ってやつは。
「ねー柏木さん、これってどっかのホテル? 誰が撮ったの?」
「それは……前の前の彼かなあ」
「うらやまけしからんな」
「えっちだねー」
「俺にも見せろ」
「すっこんでろ」
「はい……」
すっかり除け者扱いだ。この疎外感は何だ。意気消沈どころの騒ぎじゃない。俺は両目に涙の滲み出すのを感じたが、いや、そういうのは自分の力で掴み取ってこそのハードボイルドじゃないか、と思い直し、自分を奮い立たせなんとかこらえた。仕方ない。ここは実力がものを言う世界なんだ。
「あーそうだ、忘れてた」
「な、何だ!」
「淳ちゃん、お茶出して。忘れてたっしょ。ほら早くー。あっち行きな」
バイトの助手(ガキ)に顎でこき使われる、俺こと篤藩次郎(偽名)であった。
「由紀奈、ちゃん? 助手さん?」
彰子が俺に訊いてきた。その下ろした黒髪が、静かに光を蓄えている。とても柔らかそうだ。触りたい。
「……まあ似たようなもんだ。俺の従姪だ」
「高一だよー」
由紀奈も貧乳だ。
「由紀奈、この人はな、柏木彰子ちゃん。今回の依頼人だ」
「ちゃん付けかよ」
「嬉しい!」
よしウケた。こういうポイントの積み重ねが大事なんだ。
「――前の彼もね、私のこと、ちゃん付けで呼んでたの」
「知らねーし」
PCの画面から目を離さずに言う。
「おいこら由紀奈」
と無礼なガキを窘めながらも、俺は俺で内心穏やかならざるものを覚えていた。この俺を差し置いてこの俺よりも先に彰子をちゃん付けで呼ぶ人間がいただと? これは一度は顔を拝んでやらねばなるまい。
「そう、それで私の依頼もね、その彼のことなんだけど、由紀奈ちゃん、もう聞いた?」
「いーえ」
「その彼のところにね、」
「成敗しに行く」
「ちがうでしょ!」
「成敗してやる」
「ちがいます!」
「淳ちゃん黙れよ。あ、そういや淳ちゃん、ってちゃん付けだった。きも。で、なにー? 依頼って」
「前の彼のところに置いてきちゃった私のブラを、取り返してきて欲しいの」
「なんだそりゃ」
「だよな、由紀奈。なんだそりゃだよな?」
「わかる」
「わかるんかい!」
「わかるよ、女だもん。だから、なんだそりゃって言ったのは、その前彼にだよ」
「ね、わかるでしょう?」
彰子のそれは由紀奈に言ったのか、それとも俺に言ったのか。
「ねー柏木さん、どんなブラ?」
「それに一緒に入ってない? ――そう、そのフォルダ」
彰子もPCの前に移動し、由紀奈にそう示した。カチカチと微かな音がする。
「うわっ。極盛りじゃん」
「すごいでしょう?」
「これ、柏木さんだよねー? 顔隠してるけど」
「もちろん私。ね、すごいでしょう? 魔法のブラなの」
「やーしかもスタイルいーし。細ーい。白ーい」
これはつまり察するに、下着姿の彰子のお宝画像が、そのモニターに今、映し出されているという事か!
「こんだけ盛れたら神だわー。これは欲しいわー」
「思うでしょう?」
「うん、思う」
「俺にも見せろ、貧乳ども」
「だーめっ」
「こっち来んな」
急に結束を固めやがった。これだから女ってやつは。
「ねー柏木さん、これってどっかのホテル? 誰が撮ったの?」
「それは……前の前の彼かなあ」
「うらやまけしからんな」
「えっちだねー」
「俺にも見せろ」
「すっこんでろ」
「はい……」
すっかり除け者扱いだ。この疎外感は何だ。意気消沈どころの騒ぎじゃない。俺は両目に涙の滲み出すのを感じたが、いや、そういうのは自分の力で掴み取ってこそのハードボイルドじゃないか、と思い直し、自分を奮い立たせなんとかこらえた。仕方ない。ここは実力がものを言う世界なんだ。
「あーそうだ、忘れてた」
「な、何だ!」
「淳ちゃん、お茶出して。忘れてたっしょ。ほら早くー。あっち行きな」
バイトの助手(ガキ)に顎でこき使われる、俺こと篤藩次郎(偽名)であった。
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