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Vol.3『なりそこないのサンタクロース』
サンタクロースは飲んだくれ
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椒センパイのノーブルなノリに持ってかれちゃって、また降矢さんち行ったけどちょっとは収穫あったし(イヴちゃんの写真は無いってこと)、それよりも、降矢さんが絵を書き始めたのと、美術部のコーチをやることになった、っていう二つのいいことがあって、降矢さんのほうにむしろ、収穫あったって言えるんじゃないかな。
みたいなことを、淳ちゃんに報告した。報告しながら、『イプセン』のカウンターで二人で飲んでた。烏龍茶をね。
「――そうか。それは良かったな」
淳ちゃんの方はというと、彰子さんのとこまで行って、一年前のこの時期の失踪事件について調べるよう頼むついでに、昼間っから飲み歩いてたらしい。
「飲み歩いてたって、何。淳ちゃん飲めないくせに」
「言葉の綾だ。俺は烏龍茶しか飲んでない」
「ずっと彰子さんと一緒だったのかよ」
「言葉の綾だ。あいつも忙しいみたいだったからな、用件だけだ」
「『あいつ』って、何その呼び方」
「言葉の綾だ」
「さっきから何だよ言葉の綾言葉の綾って」
「まあまあ、由紀奈ちゃん。格好つけたい年頃なのよ、淳ちゃんは」
バー『イプセン』のマスター、箕浦美智雄さんが、バックヤードから出てきて言う。
「なんだそりゃ」
「はい、どうぞ。オムライスでーす。お疲れ様、お二人さん!」
「待て待て、なんだこれは。どうして皿がひとつなんだ」
マスターが出してきたのは、特大の皿ひとつにでーんと乗っかった、特大のオムライスだった。ケチャップで『SKULL』って書いてある。どういう趣味だよ。
「どういう趣味だよ。ウケる」
「二人で仲良く食べてね。うふん」
五十過ぎのテカテカしたオネエなおっさんだけど、あたしはこの人、好きなんだよね。まー、こういう仕事してるから、人に好かれるキャラなのは当たり前か。さすがだな、って思う。
「いただきまーす」
あたしは食べるよ、お腹すいてたからね。淳ちゃんは何を照れてんのか、怯んでる。そうか、あたしとオムライス共有するのがそんなに嫌か。ならいいよ、あたしが全部食べてやる。
「んで、淳ちゃん、なんだっけ? 飲み歩いてたって話」
「ああ、降矢はイヴと一緒に、よくバーで飲んでたって話だったよな?」
「うん。そんで、降矢さんの行きつけだった店は、潰れて無くなってた」
店の名前は降矢さんから聞いてた。それで調べてみたら、入ってたビル自体が再開発で取り壊されて、店は移転もしないでそのまま畳んじゃってた。
「そうだ。だから、ここら近所のバーというバーを総当たりしてたんだ」
「総当たりって、本気か」
「ほんの二十五軒だ」
「昼間っから開いてんの?」
「意外とな。準備中のところも多かったが、お構いなしだ」
「ただの嫌がらせじゃん」
「ちゃんとどの店でも一杯頼んで飲んできたぞ。こう見えて俺は律儀なんだ」
「逆にうざいね。何、烏龍茶のロック頼んだの? いちいち変な顔されて?」
「恥を忍んでこそのハードボイルドだ」
「のくせに、オムライス共有は嫌がるんだ。あっそ。で、それで何かわかった?」
「色々わかったぞ。まず、『イヴ』は二十歳だ」
「へー」
「一年前に二十歳だから、今は二十一だな。『ハタチになったからお酒を』うんぬんな会話をしたり聞いたりしたバーテンダーが、数人いた。降矢の顔写真も見せた。連れの女がそう言ってたと。だからまあ、確かだろう」
ちなみに降矢さんの写真は、ネットで拾った。イヴちゃんのは何も出てこないのにね。降矢さんは楽勝だった。ちなみに彼のウェブサイトは、どこかに依頼して作ってもらったものらしくて、そして今は当然、更新は止まってる。
「なるほどねー。淳ちゃんやるじゃん」
「どうだ、探偵らしいだろう」
「今回は助手だけど」
「はいはい、そうだったそうだった。あともうひとつ。降矢の評判なんだが」
「うん」
「良くはなかった。イヴと出会う以前はそんなでもなかったんだがな、絵が売れ出して、飲みに来る回数が増えたことは増えたんだが、イヴと付き合い出してからは、かなりの頻度になったらしい。ほぼ毎晩、だ。しかも、明け方までずっといる。イヴもだ」
「太客じゃん?」
「ちゃんと金を払えばな。だが、ある時期から、払いをツケにするようになってだな。それでも何度かはまとめて払っていたんだが、最後の方は払わなくなった」
「最後のほう?」
「十二月だ。去年の。そしてイヴが消えて、降矢も店に現れなくなった。そして、店自体、無くなった。移転して営業を続ける話もあったんだがな」
「降矢さんのせいでその話も無くなった?」
「いや、そこまではわからんな。ともかく、そんな話を聞いた」
「へえー。そっか、降矢さん、そんな感じだったんだ……」
無害な人ってイメージだったけど、そんな闇もあったんだ。イヴちゃんと明け方まで遊んでたら、絵なんてその時からもう描いてなんかいなかったろうし。イヴちゃんがいなくなって絵が描けなくなったって、降矢さん自分では言ってたけど、あれ、嘘だ。
「――由紀奈。煙草、吸っていいか?」
「ん、いーけど。あ、その前にこれ、残りぜんぶ食べて。あたしもーいらない」
「お、おう……由紀奈お前、結構食ったな」
「げふ」
……なんか、全部うまくいけばいいな、って思った。イヴさん見つけて、ヨリ戻して、絵もちゃんと描くようになって……ま、絵は描くつもりになってたみたいだけどね。
「由紀奈ちゃん、気をつけて帰るのよ~。特にそのハンサムにね!」
「え、ハンサム? え、どこどこ?」
「つまんないから。ほんとつまんないから。やめな」
あたしと淳ちゃんは、降矢さんたちみたいに長居はしない。オムライスが終わると、淳ちゃんも飲むわけじゃなく、イプセンを出てあたしを送ってくれた後は、家(事務所)に引き上げるって言ってた。
みたいなことを、淳ちゃんに報告した。報告しながら、『イプセン』のカウンターで二人で飲んでた。烏龍茶をね。
「――そうか。それは良かったな」
淳ちゃんの方はというと、彰子さんのとこまで行って、一年前のこの時期の失踪事件について調べるよう頼むついでに、昼間っから飲み歩いてたらしい。
「飲み歩いてたって、何。淳ちゃん飲めないくせに」
「言葉の綾だ。俺は烏龍茶しか飲んでない」
「ずっと彰子さんと一緒だったのかよ」
「言葉の綾だ。あいつも忙しいみたいだったからな、用件だけだ」
「『あいつ』って、何その呼び方」
「言葉の綾だ」
「さっきから何だよ言葉の綾言葉の綾って」
「まあまあ、由紀奈ちゃん。格好つけたい年頃なのよ、淳ちゃんは」
バー『イプセン』のマスター、箕浦美智雄さんが、バックヤードから出てきて言う。
「なんだそりゃ」
「はい、どうぞ。オムライスでーす。お疲れ様、お二人さん!」
「待て待て、なんだこれは。どうして皿がひとつなんだ」
マスターが出してきたのは、特大の皿ひとつにでーんと乗っかった、特大のオムライスだった。ケチャップで『SKULL』って書いてある。どういう趣味だよ。
「どういう趣味だよ。ウケる」
「二人で仲良く食べてね。うふん」
五十過ぎのテカテカしたオネエなおっさんだけど、あたしはこの人、好きなんだよね。まー、こういう仕事してるから、人に好かれるキャラなのは当たり前か。さすがだな、って思う。
「いただきまーす」
あたしは食べるよ、お腹すいてたからね。淳ちゃんは何を照れてんのか、怯んでる。そうか、あたしとオムライス共有するのがそんなに嫌か。ならいいよ、あたしが全部食べてやる。
「んで、淳ちゃん、なんだっけ? 飲み歩いてたって話」
「ああ、降矢はイヴと一緒に、よくバーで飲んでたって話だったよな?」
「うん。そんで、降矢さんの行きつけだった店は、潰れて無くなってた」
店の名前は降矢さんから聞いてた。それで調べてみたら、入ってたビル自体が再開発で取り壊されて、店は移転もしないでそのまま畳んじゃってた。
「そうだ。だから、ここら近所のバーというバーを総当たりしてたんだ」
「総当たりって、本気か」
「ほんの二十五軒だ」
「昼間っから開いてんの?」
「意外とな。準備中のところも多かったが、お構いなしだ」
「ただの嫌がらせじゃん」
「ちゃんとどの店でも一杯頼んで飲んできたぞ。こう見えて俺は律儀なんだ」
「逆にうざいね。何、烏龍茶のロック頼んだの? いちいち変な顔されて?」
「恥を忍んでこそのハードボイルドだ」
「のくせに、オムライス共有は嫌がるんだ。あっそ。で、それで何かわかった?」
「色々わかったぞ。まず、『イヴ』は二十歳だ」
「へー」
「一年前に二十歳だから、今は二十一だな。『ハタチになったからお酒を』うんぬんな会話をしたり聞いたりしたバーテンダーが、数人いた。降矢の顔写真も見せた。連れの女がそう言ってたと。だからまあ、確かだろう」
ちなみに降矢さんの写真は、ネットで拾った。イヴちゃんのは何も出てこないのにね。降矢さんは楽勝だった。ちなみに彼のウェブサイトは、どこかに依頼して作ってもらったものらしくて、そして今は当然、更新は止まってる。
「なるほどねー。淳ちゃんやるじゃん」
「どうだ、探偵らしいだろう」
「今回は助手だけど」
「はいはい、そうだったそうだった。あともうひとつ。降矢の評判なんだが」
「うん」
「良くはなかった。イヴと出会う以前はそんなでもなかったんだがな、絵が売れ出して、飲みに来る回数が増えたことは増えたんだが、イヴと付き合い出してからは、かなりの頻度になったらしい。ほぼ毎晩、だ。しかも、明け方までずっといる。イヴもだ」
「太客じゃん?」
「ちゃんと金を払えばな。だが、ある時期から、払いをツケにするようになってだな。それでも何度かはまとめて払っていたんだが、最後の方は払わなくなった」
「最後のほう?」
「十二月だ。去年の。そしてイヴが消えて、降矢も店に現れなくなった。そして、店自体、無くなった。移転して営業を続ける話もあったんだがな」
「降矢さんのせいでその話も無くなった?」
「いや、そこまではわからんな。ともかく、そんな話を聞いた」
「へえー。そっか、降矢さん、そんな感じだったんだ……」
無害な人ってイメージだったけど、そんな闇もあったんだ。イヴちゃんと明け方まで遊んでたら、絵なんてその時からもう描いてなんかいなかったろうし。イヴちゃんがいなくなって絵が描けなくなったって、降矢さん自分では言ってたけど、あれ、嘘だ。
「――由紀奈。煙草、吸っていいか?」
「ん、いーけど。あ、その前にこれ、残りぜんぶ食べて。あたしもーいらない」
「お、おう……由紀奈お前、結構食ったな」
「げふ」
……なんか、全部うまくいけばいいな、って思った。イヴさん見つけて、ヨリ戻して、絵もちゃんと描くようになって……ま、絵は描くつもりになってたみたいだけどね。
「由紀奈ちゃん、気をつけて帰るのよ~。特にそのハンサムにね!」
「え、ハンサム? え、どこどこ?」
「つまんないから。ほんとつまんないから。やめな」
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