【完結】疎まれ軍師は敵国の紅の獅子に愛されて死す

べあふら

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平穏で波乱な日々① ※

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 グランカリス帝国へ渡り、部屋へ通された直後から、フェリは三日三晩、高熱で寝込むこととなった。

 これまで、ずっと張りつめていたものが、ここにきて緩んだ。
 敵国に連行され、おかしな話ではあるが。でも、不思議と、不思議だとは思わなかった。



 4日目となる深夜。フェリは、ふと目を覚ました。

 この3日間、飽きる程に寝た。
 両親と離れて以来の、熟睡だった。もう、眠れる気がしない。
 熱が下がり、体調が落ち着けば、当然のことだった。

 高い天井。広い部屋。立派な家具。そして、清潔な寝具。一瞬、ここがどこだかわからなくて。

「気分は、どうだ?」

 隣に在る温もりが、フェリを現実に引き戻す。

「え……あ、………身体が痛い…、です。寝すぎて……」

 当然のように、寄り添う紅の獅子がいた。
 あまりの近さと、不可解な状況に、フェリは言葉を失う。
 
 そんなフェリに、ジグムントは何の躊躇いもなく、当然のように触れる。

「もう、熱は下がったようだな」

 額に額を重ね、温度を共有し、ジグムントは安堵した。

「その……ご面倒を、おかけしました」

 フェリは、かの過酷な環境を、長年生き抜いてきたのだ。儚げでいて、意外と丈夫だった。

 この数日のことを、フェリは必死で振り返る。

 熱と、悪夢にうなされる中、フェリの元を幾度となくジグムントは訪れていた。

 この3日間、ジグムントはこの部屋に、比較的長い時間……いたような気がする。
 それどころか、フェリの看病をしてくれていた女性と一緒に、交代で世話をしてくれたように、思う。

 朦朧とする意識の中でも、優しく触れられるこの温もりは、違えようがない。

 夜に至っては、ずっと。寄り添うようにその温もりと共に眠った。その間は、あのおぞましい悪夢は見なかった。

 なぜ、グランカリス帝国の、最高権力者であるはずの、この男が。

 と、覚醒した頭では疑問に思うのに。フェリの心はこの状況を拒絶していない。同じ寝台に寝ていることすら、今更のことのように感じられる。

 つまるところ、フェリはジグムントに対し、妙な親しみのようなものを、感じるようになっていた。

 敵国の、このような立派な人物に、図々しいにも程がある。しかも、出会って数日だ。

 この状況が何を意味するのか、何か対応を必要とするものなのか、フェリには理解できない。

 これまで、これほどフェリの至近距離に入ってくる人は、心理的にせよ、物理的にせよ、両親の他はいなかった。
 自分の中にある、新たに芽生えたこの男に対する感情が、一体どういったものなのか、把握できないでいた。

 初めてのことに、フェリは戸惑うばかりだった。

「面倒など……私がしたくて、していることだ」

 ジグムントは頬を緩め、目を細める。フェリの頭を優しく撫でた。

 そんなジグムントの様子に、フェリはこの男のせいだ、と思った。

 ジグムントがフェリに対して、まるで大切な人に対するような、そんな眼差しを向けるから。そして、そのように触れるから。

 それにつられて、この男の為すことを拒否する気持ちがわいてこない。まるで昔から知っているような、親しい人のように感じるのだ。きっと。フェリはそう思うことにした。

 熱に朦朧とする中で、変なことを言わなかったか。しなかったか。フェリは必死に思い出し、そして思い出したことを、すぐに後悔した。

 なんだか、「傍にいて欲しい」だとか、「いかないで」と言って引き留めたりだとか。添い寝するジグムントに「温かくて気持ちがいい」だとか、そんなことを言ったような気がするが……いや、有り得ない。気がするだけだ、と思うことにする。

「ふっ……存外、甘えた、なのだな」

 気のせいにはしてもらえない現実に、フェリはひどく狼狽えた。

 ぼっと、一気に顔に火照る。また、熱が出たのでは、と思うほどに、顔が、全身が熱くなる。

「申し訳、ありませんっ……このようなこと、…これまで……っ」

 フェリには、絶対に、有り得なかったことだった。
 苦痛に喘いでも、病に苦しんでも、助けを求めることなど、無かったのだから。
 そんな相手が、いなかったのだから。

 寝台から這い出ようと、真っ赤になって必死にもがくフェリを、ジグムントはくすくすと笑った。

「フェリ、落ち着け」

 静かな声と共に、優しく名を呼ばれ、さらに、ぴったりと寄り添われ、フェリは固まった。

 それを、実に愉快そうに笑うジグムントの心境を測りかね、フェリの思考はせわしなく彷徨った。
 でも、この落ち着かない感じも、嫌ではない。嫌ではないことが、わからない。

「汗をかいただろう。拭いてやろう」

 フェリの意志も関係なく、同意も必要とせず、ジグムントはすぐさま行動に移す。
 湯の入った桶に、布を浸し、ぎゅっと固く絞り、そして、フェリの服を脱がそうとするものだから。フェリは「自分で脱げます」と丁重に断り、自身で上衣を脱いだ。

 自分で拭けると主張するフェリを、ジグムントは「まあ、まあ」と無意味な言葉で制した。

 覇王は、権力者らしく、強引な性格のようだ。

 フェリの貧相な身体を、慣れた手つきでジグムントが拭っていく。
 細い身体の白い肌に浮き彫りになる数多の傷跡は、フェリがこれまで生きてきた証だった。その一つ一つが、ジグムントを切なく、哀しく、そして愛おしくさせる。

 この身体で一人、受け止めてきたのだと、その想いのままに、ジグムントはフェリに、触れた。
 
 信じられないほどの、心地よさに、フェリは思わず吐息を零す。

「フェリ……そなた、今、自分がどんな顔をしているか、わかっているのか……?」

 フェリは、人に触れられることが、こんなにも恋しいことだとは、知らなかった。身体が自ずと熱くなり、未知の高まりがフェリを襲う。

「あ、……申し訳、ありません。見ないで……くださいませ……っ」

 きっと、不相応にも、その思いのままに、もっと触れて欲しいと、熱望する顔をしているのだろう。

「無理を申すな」

 熱い吐息がフェリの首筋を擽る。

「私に触れられて、昂ったのだろう?ここは、欲している……違うか?」
「なっ……あ、これは……っ」

 じんじんと熱を持ち、布を押し上げるフェリの陰部をジグムントは何のためらいも無く、撫で上げた。

「あっ……何を…んぅっ」

 ムンデ国では、醜い容姿と忌諱され、触れることすら嫌悪されていたため、それが嫌がらせだとしても、フェリを性的に辱める者はいなかった。
 8歳で両親と離れたフェリは、性的な接触に対する知識も経験も皆無だった。

 何をされているのか、自分の感じる感覚が何なのか、理解できずに混乱する。

「や、…は…あ、あぁ……」
「恐ろしいか?」

 ジグムントはそう言って、フェリの肌を直接なぞる。
 わき腹から胸へと、大きな手が這い、そして、何度も確かめるように往復する。

 恐ろしい?……何が、だろうか。
 この行為のことか、ジグムント自身のことか。初めての感覚に、どうとらえていいのか、わからない。けれど、拒みたくない。もっと欲しい。

 この人が与えてくれる、全てを、一つも逃したくない。何故か、そんな欲求が沸々と湧いてくる。

 フェリは、自分でも理解できない感情に囚われて、ふるふると首を横に振った。
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