王様の愛人

月野さと

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4話

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 それからというもの、お城では側近たちが騒いだ。
「何?陛下が恋を?」
「間違いありません!陛下があのように女性に興味を持たれるなど!初めての事ですよ!」
「それで!それで、どこの娘だ?」
「わかりません。」
「なんじゃと!!探せ!探し出せ!!」

 ヘンドリックが執務室にやってきた。
「陛下ーーー!!聞きましたぞ!どのような娘なのじゃ?」
 部屋に入って来るなり、物凄い勢いでヘンドリックはヴィンセントに問いかける。ヴィンセントは、部屋中に響き渡る程の溜息を吐く。

「落ち着け、ヘンドリック。ただ、少し気になった女性が居ただけだ。言うことが風変りだったからな。」
 そうなのだ。男に盾突く女性を初めて見た。女性は意見しないもので、男の体を求める以外は、見初められる為に美しさを磨き、より良い男を手に入れることが名誉なのだと思っていた。
 ヴィンセントの母親もまた、美容や美しい宝石やドレス、地位とセックスに溺れていたと記憶している。

「ただ、少し気になっただけだぞ。」
「陛下から気になる女性など!はじめてじゃ!これは一大事じゃ!して、名前は?年齢は?」
「・・・わからん。私より若いと思うが、女性の年齢など気にした事も無いからな。」
 それを聞いた文官のアデルが、書類を見ながら言った。
「あ~解ります!エロを熟知した年上も魅力的だし、初心な年下もイイですよね~。俺も選べないなぁ~。ノアは?どうなんだよ?」
 従者であるノアは、ヴィンセントにお茶をつぎながらビクッとする。
「そっ、そうですねぇ。僕は普通に相性の良い方なら、年齢は気にしません。」
 部屋の中央にある、応接セットのソファーでお茶を飲んでいた騎士団長のグレイも参戦する。
「私は年上女性をオススメするぞ?ウチの姉さん女房は最高だ。毎晩ベッドでも凄いし、家や私へのサポートも完璧だ。」
 
 その会話を聞いて、ヴィンセントは思った。
 やはり、基準は体の相性なのだ。それが普通だし、あの娘が言っていた『愛』とは、後から付属してくるもので、気持ちの持ちようなのでは無いのか?と思う。それに、結婚は現実なのだ。人生のパートナーである限りは、Give&takeは重要だ。女は男を喜ばせ、男はそれに答えて与えてやる。子供を産ませることで、お互いの利益を確固たるものにする。

『身分や見た目や財産だけの関係なんて、虚しいだけだわ!!』
 彼女は、確かにそう言った。

 虚しい・・・。
 その言葉が、妙にしっくりきた。

 そうだ。私は虚しさを感じていたのだ。それが認められずにいた。

 幼少のころから完璧を求められ、常に努力してきた。全てを周囲に認められ、恵まれた容姿も相まって、賢帝と呼ばれ、その地位と名声を手に入れてきた。
 誰もが私に媚びへつらい、我こそは王妃にと、我先に孕もうと必死で、数えきれないほどの女性とベッドを共にしてきた。しかし、どんなに完璧で美しい女を抱いて、快楽に明け暮れても・・・何故か、どこか感じてしまう虚無感。
 

 目を閉じて、あの娘の顔を思い出す。
 彼女は、何もかもが、他の誰とも違った。

 はじめてだった。
 私の目を真っすぐに見返す、まっさらな目。あの清々しいほどの真っ直ぐな瞳。そして、発した言葉は私の胸を打った。しかも、『愛』などと恥ずかしげもなく・・・。
 そんな事を考えていると、ドクンっと、心臓が大きく鼓動を打ちはじめた。 
 あの、背筋のピンと伸びた姿勢。媚びたりしない、気の強そうな瞳。その全てを包んでしまう、甘く柔らかそうな亜麻色の長い髪。にわかに見せた、恥ずかしそうに微笑んだ表情。思い出すだけで、ギュウっと胸を締め付けられる。

「陛下?どうされました?」
 従者のノアが心配そうに、顔色を伺ってくる。
 急に恥ずかしくなって、赤面してしまう。
「何でもない。」
 ドキドキと胸が、鳴りやまなくなった。

 

◇◇◇◇◇

 

 ソフィアは王宮のバラ庭園に招かれた。
 王女様が、仲良しの3人でお茶会をしよう、と仰ったのである。親友のセリーヌ・ベルモント伯爵令嬢と、王女様と私は、子供の頃から親交があって、仲良くしていた。王女様は、留学中の話を聞きたがったので、心のままに話をした。

「小国と思って気にも留めていなかったけれど、女性の社会進出が確立しているなんて、素晴らしいわ。」
 王女様の言葉に、セリーヌも頷く。
「我が国では、女性が働くなんて、考えられませんものね。でも・・・私は素敵な殿方との結婚が夢だったから、この国で産まれて良かったわ。」
「セリーヌ。もちろん、それも素敵な夢よ。1つの素晴らしい生き方だわ。つまりはね、女性が1人の人間として、自由に将来を決められるってことなのよ。」
 私は、話の分かる2人と話をするのが大好きだ。どうしたって、わくわくする。

「自由に将来を決められる・・・?」
「そう!結婚だけじゃない。自分の生きる道を、自分で決められるってこと。」
 私の言葉に、王女様が息を飲む。
「・・・素晴らしいわ!とても、素敵なことだわ!私・・・実は、幼い頃に夢がありましたの!」
 王女様が身を乗り出して話し出す。
「実はね、私、天文学者に憧れてましたのよ!気がつたら、たくさんの天文学の本を読んでいた時期がありましたわ。でも・・・じいやに「王女には天文学など必要ない」と、取り上げられてしまって・・・」 
 ショボンとする、王女様の手を取る。
「王女様。素敵な夢ですわ。私、そんな女性のために、この国に学校をつくりたいと思ったのです。」
 セリーヌと王女様が、私に注目する。
「女性だけの、女性の為の学校です。身分も関係なく、学びたい者が、学びたい事を、心行くまで学べる学校です。」
 私が、留学先で見てきて学んだように、この国の女性達も、学ぶことができれば、きっと世界は変わるはず。
  
 王女様は、勢いよく立ち上がって、ソフィアの手を取る。 
「それは、素敵だわ。名案よ!!是非、力を貸しますわ。」
 王女様が言う。親友のセリーヌも、1番上に手を重ねて言った。
「私にも、何か出来ることがあったら協力するわ。」

 友人2人に、そんなふうに言われて、疑心暗鬼になりかけていた自分を奮い立たせる。
 
 自由になりたい。このまま、好きでもない男性と結婚して、子供を産むだけの道具になりたくない。そうだわ、もっと協力者を増やさなければ!きっと、私と同じように、自由を手に入れたい女性はいるはずよ!

 すると、王女様が腕を組んで、難しい顔をして言い出した。 
「でもね、ソフィア。学校となると、持続的な資金が必要でしょう?」
「はい・・・。」
 現実問題、そうなのだ。例えば、莫大な資産を誇る我が侯爵家に資金投資をお願いできたとしてだ(ムリだけど)、それだけでは足りない。学費をとるつもりだけれど、そもそも人気が出るのか?それに貴族だけの学校を目指しているのでは無いので、学費面の問題&課題は山積みなわけで・・・。

 王女が軽い感じで言う。
「お兄様に作ってもらえないか聞いてみるわ。」
「えええ?!!」
 親友のセリーヌも、そしてソフィアも、とんでもない声を上げた。王女様の兄上といえば、王様である。
「だって、王立学園なら人気も出るでしょう?お金だって国の税金よ。国民の為に税金を使って学校経営するってだけでしょう?悪い事なんてないじゃない?卒業生には就職先も必要になるし、国が全てをサポートできれば完璧でしょう?」
 あら?なんで驚くの?という感じで、王女様は言う。
 
 ソフィアは、ボー然とする。
 まぁ、何て言うか、そんな願っても無いことが、上手く行くのだろうか?と、思う。

「まぁ、任せておきなさいって!私がお兄様にお願いしておくわ♪」 
「・・・はい。では、よろしくお願い致しますわ。王女様。」
 そういった流れになった。まぁ、ダメ元ということで、任せるかぁ~。


「あ、そうだわ!ソフィア。図書室に行きたいと言ってたわね?」
「はい!!」
 この王宮にある図書室は、国内1番の所蔵数を誇る。私が思うに、この図書館こそが、今現在1番学べる場所である。と思っている。教えてくれる人が居ないなら、自分で調べるしかない!本は何でも私に知りたい事を教えてくれる。それで、王女様に、お願いしていたのだ。
 しかし、王宮図書室は、決められた人間しか入室出来ない。それを、王女様の許可を得て、入室できることになった。

 ワクワクしながら、図書室に入室する。
 そこは、とても静かで重厚な空気が漂っていた。
 キョロキョロと見回して中に進んで行く。
「こっちかしら。」
 読みたい本を探して、少しふらふらと歩きまわってから、それは見つかった。
「これだわ♪」
 目的の本を、手に取って突き当りの窓の前にある、アンティークな長椅子に座って本を読む。本の匂い。静かで冷たい空気。この空間は、本当に好き。ページをめくった時の、この音も好きだったりする。
 そんな静かで穏やかな空間の中、暫く集中して、本を読んでいると、何か視線を感じた。
 
 ゆっくりと、顔を上げる。
 そこには、一人の男性が立って、こちらを見ていた。

「おまえは・・・こんな所で何をしている?」

 切れ長の緑色の目をした、長身の男性だった。その顔に見覚えがあった。

「あ・・あなたは、この前の夜会で助けて頂いた・・・?」

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