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5話
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緑色の瞳の男性は、私の方に近付いてきて言った。
「この図書室は、許可されたものしか入れないはずだが?」
「あ、はい。私、王女様の親しい友人でして、本日は許可を頂いて、調べ物をしておりました。」
「メリーアン・・王女の?友人なのか?」
「はい。今日はお茶会に招いて頂いて、そのままこちらに。・・・あなたは?王宮で働いている方ですか?」
ふと思う。この男性は、いったい何者なのだろう?今日の身なりを見ると、文官・・・といった所だろうか?
ゆっくりと、見上げて顔を覗くと、緑色の瞳を大きくして、眉間に少し皺を寄せてボソリと言う。
「おまえ、私が誰か分からないのか・・・」
「え?」
「まぁいい。ところで、何を読んでいたんだ?ここは法律の棚だ。ずいぶん熱心に読んでいたな。」
「え、あぁ・・・はい。200年前の法典ですよ。」
「200年前?何故そんなものを?」
あ~・・・これは、本当の事を言っていいのだろうか?また、女がと言われるのではないか?そう思って、上目遣いで様子を仰ぎ見る。
緑色の目をした男性は、スタスタとやってきて私の隣に座って、本を覗き見る。
「だいぶ古い物だな。古文じゃないか。読めるのか?しかも、これは当時の法律が書かれてあるだけだぞ?」
「はい。この時の、法律がどうだったのか知りたかっただけなので・・・」
意味が解らない、と言う顔をされたので、私は、観念して話すことにした。
「この時代を治めていたのが、我が国で唯一の女王です。今は男社会ですが、200年前は女性が王様だったんです。彼女の治める世の中がどんなだったのか調べようと思いまして。」
緑色の目が、暫く私を見つめた後、本に目を落として、ページをめくる。
「この女王が治めていた時代は、だいぶ長く続いて平和で栄えたという。まぁ、本当かウソか、彼女の強大な魔力で国中を守っていたとか、伝説の様な話まで史実として書かれていたが、彼女の史書は、残念ながら、女帝をよく思わない先の国王が燃やしてしまったのだ。だから、もう残されていない。今では、この法典を見て時代背景を想像する以外に方法が無いだろう。」
「・・・そうなんですね。」
それは、とても残念だと落胆する。
「歴史書を読むのが趣味なのか?」
その質問に、首を振って笑って答える。
「いいえ。女性の生き方とか、社会の在り方について、調べて考えたかったんです。」
「・・・女王にでもなるつもりか?」
「まさか!(笑)我が家は領地内の教会で、男女問わず領地民に読み書きなどを教えているんですよ。それで、女性に勉強なんて必要ないと言われることがあります。でも私は、女性こそ博学であるべきと思います。国民の多くは子供を育てるのが母親だからです。私自身、女性である前に1人の人間だから。そうみんなに教えるにはどうしたら良いのかなって。」
と、持論を展開してしまってから、こんなことを言ってしまって大丈夫だったのか?不安になって、恐る恐る男性を仰ぎ見る。彼は、私を見下ろしたままで、ポカンとした顔をしていた。
「なるほど。」
そう言って、長い指を顎に添わせると、うーんと考える仕草をする。
「道理ではあるが、しかし、そう考える者は少ないだろうな。」
「教育のせいですよ。」
「何?」
「女は男に逆らわない。子供を産むモノ。そう、物心ついたころから教え込まれれば、他の事は何も考えなくなります。それは洗脳です。私にとっては、奴隷のように思えます。それを、変えることが、出来ないかって、考えているんです。」
「ふむ。なるほど。」
私の言葉に、否定も肯定も無い。ただ、話を聞いて真剣に考えている。そんな男性に会ったのは、この国では初めてだ。
この人は、どこの誰なんだろう?
と、彼の横顔を眺めていて、ハッと気が付く。窓から差し込む太陽光が、桃色に染まっていた。
「いけない!もうこんな時間だわ。」
立ち上がって、慌てて持っていた本を棚に返却する。そして、振り返ると、その人は言った。
「名は、なんと言う?」
「私は・・・・」
言いかけて、やめる。そして、ふと、思いついたことを提案した。
「お互いに名前は、知らないでおきませんか?」
「何故だ?」
「だって、私、話を聞いてくれて嬉しかったから。だから、どこの誰なのか知らないまま『対等な友人』っていうのが良いなって。」
名乗ってしまえば、宰相の孫だと解ってしまう。きっと、対等には話してくれなくなってしまう。
「また、もし会えたら、私の話を、普通に聞いてもらいたいなって。」
願望を口にして、彼の顔を見上げる。
夕陽に照らされて、頬か桃色に見えた。きっと私も桃色に染まっているのだろう。じっと彼を見つめていると、彼は目を細めて微笑んだ。
「解った。そうしよう。」
それからというもの。
私は王宮図書室へ、毎日行くようになった。彼の計らいで「この子が来たら入れてやれ」と司書さんに顔パスを依頼してくれた。最初は、純粋に本を自由に読めるのが嬉しかった。それが、そのうちに、彼に会うのが楽しみになっていった。
図書室のいつもの場所。窓際のアンティークの長椅子に、2人で座る。
決まった時間の30分~1時間だけだとしても、ありのままの自分で、駆け引きも無く、気負う事も無く、ただの友人として話をする。ソフィアにとっても、ヴィンセントにとっても、それは新鮮で、安らぎをもたらした。
「見て見て!これはね、隣国の本なの。新刊だからこの図書館にだって無いわよ。」
「凄いな、どうやって手に入れたんだ?」
「それは秘密。でね、見て見て!」
「秘密ばかりだな。ん?ちょっと待て。前のページに戻ってくれ。」
2人で1つの本を夢中で見ていて、ふと、私が彼を見上げた時だった。
至近距離に彼の顔があって、ドキンと心臓が鳴る。彼も、本から視線を移して、私を見る。目が合ってしまって、だけど、目を逸らす事も出来なくて・・・。
それは、たぶん、どうすることも出来ない、流れで・・・。
キスをしていた。
彼のキラキラとしたエメラルドの瞳が細められて、見惚れていると、顔が近づいてきて、軽く唇を合わせた。
何とも言えない、フワフワとした気持ちになる。彼の唇はサラっとしていて心地よく、太くてゴツゴツした指が、私の頬を優しく撫でた。
気が付くと、夢中でキスをしていて、抱きしめられる。
次第に、噛みつくような吸い付くようなキスに変わっていて、大きな手が、私の乳房を下から持ち上げるように揉みしだく。そのまま、押し倒されて、首筋を愛撫されていた。
はじめての経験に、ドキドキと胸が高鳴って、どうしたら良いのか分からないのに、ただ触れられると、気持ち良くて、心地いい。何かに飲み込まれていくみたいに、体を許していく。
そのまま、ショーツの中に彼の手が入り込んできて、初めて、そこを人に触られて、驚いて声も出ない。暫くまさぐられてから、彼の手が止まった。少し驚いたように私の目を見て・・・たぶん、処女だと気がついた様子で・・・。私は、視線をそらす。
体を少し離して、そっと耳に唇をつけてから、彼は囁く。
「ベッドに行こう」
そう誘われて、火照った顔を誰にも見られないようにと祈りながら、彼の手に引かれるまま、ついて行った。
「この図書室は、許可されたものしか入れないはずだが?」
「あ、はい。私、王女様の親しい友人でして、本日は許可を頂いて、調べ物をしておりました。」
「メリーアン・・王女の?友人なのか?」
「はい。今日はお茶会に招いて頂いて、そのままこちらに。・・・あなたは?王宮で働いている方ですか?」
ふと思う。この男性は、いったい何者なのだろう?今日の身なりを見ると、文官・・・といった所だろうか?
ゆっくりと、見上げて顔を覗くと、緑色の瞳を大きくして、眉間に少し皺を寄せてボソリと言う。
「おまえ、私が誰か分からないのか・・・」
「え?」
「まぁいい。ところで、何を読んでいたんだ?ここは法律の棚だ。ずいぶん熱心に読んでいたな。」
「え、あぁ・・・はい。200年前の法典ですよ。」
「200年前?何故そんなものを?」
あ~・・・これは、本当の事を言っていいのだろうか?また、女がと言われるのではないか?そう思って、上目遣いで様子を仰ぎ見る。
緑色の目をした男性は、スタスタとやってきて私の隣に座って、本を覗き見る。
「だいぶ古い物だな。古文じゃないか。読めるのか?しかも、これは当時の法律が書かれてあるだけだぞ?」
「はい。この時の、法律がどうだったのか知りたかっただけなので・・・」
意味が解らない、と言う顔をされたので、私は、観念して話すことにした。
「この時代を治めていたのが、我が国で唯一の女王です。今は男社会ですが、200年前は女性が王様だったんです。彼女の治める世の中がどんなだったのか調べようと思いまして。」
緑色の目が、暫く私を見つめた後、本に目を落として、ページをめくる。
「この女王が治めていた時代は、だいぶ長く続いて平和で栄えたという。まぁ、本当かウソか、彼女の強大な魔力で国中を守っていたとか、伝説の様な話まで史実として書かれていたが、彼女の史書は、残念ながら、女帝をよく思わない先の国王が燃やしてしまったのだ。だから、もう残されていない。今では、この法典を見て時代背景を想像する以外に方法が無いだろう。」
「・・・そうなんですね。」
それは、とても残念だと落胆する。
「歴史書を読むのが趣味なのか?」
その質問に、首を振って笑って答える。
「いいえ。女性の生き方とか、社会の在り方について、調べて考えたかったんです。」
「・・・女王にでもなるつもりか?」
「まさか!(笑)我が家は領地内の教会で、男女問わず領地民に読み書きなどを教えているんですよ。それで、女性に勉強なんて必要ないと言われることがあります。でも私は、女性こそ博学であるべきと思います。国民の多くは子供を育てるのが母親だからです。私自身、女性である前に1人の人間だから。そうみんなに教えるにはどうしたら良いのかなって。」
と、持論を展開してしまってから、こんなことを言ってしまって大丈夫だったのか?不安になって、恐る恐る男性を仰ぎ見る。彼は、私を見下ろしたままで、ポカンとした顔をしていた。
「なるほど。」
そう言って、長い指を顎に添わせると、うーんと考える仕草をする。
「道理ではあるが、しかし、そう考える者は少ないだろうな。」
「教育のせいですよ。」
「何?」
「女は男に逆らわない。子供を産むモノ。そう、物心ついたころから教え込まれれば、他の事は何も考えなくなります。それは洗脳です。私にとっては、奴隷のように思えます。それを、変えることが、出来ないかって、考えているんです。」
「ふむ。なるほど。」
私の言葉に、否定も肯定も無い。ただ、話を聞いて真剣に考えている。そんな男性に会ったのは、この国では初めてだ。
この人は、どこの誰なんだろう?
と、彼の横顔を眺めていて、ハッと気が付く。窓から差し込む太陽光が、桃色に染まっていた。
「いけない!もうこんな時間だわ。」
立ち上がって、慌てて持っていた本を棚に返却する。そして、振り返ると、その人は言った。
「名は、なんと言う?」
「私は・・・・」
言いかけて、やめる。そして、ふと、思いついたことを提案した。
「お互いに名前は、知らないでおきませんか?」
「何故だ?」
「だって、私、話を聞いてくれて嬉しかったから。だから、どこの誰なのか知らないまま『対等な友人』っていうのが良いなって。」
名乗ってしまえば、宰相の孫だと解ってしまう。きっと、対等には話してくれなくなってしまう。
「また、もし会えたら、私の話を、普通に聞いてもらいたいなって。」
願望を口にして、彼の顔を見上げる。
夕陽に照らされて、頬か桃色に見えた。きっと私も桃色に染まっているのだろう。じっと彼を見つめていると、彼は目を細めて微笑んだ。
「解った。そうしよう。」
それからというもの。
私は王宮図書室へ、毎日行くようになった。彼の計らいで「この子が来たら入れてやれ」と司書さんに顔パスを依頼してくれた。最初は、純粋に本を自由に読めるのが嬉しかった。それが、そのうちに、彼に会うのが楽しみになっていった。
図書室のいつもの場所。窓際のアンティークの長椅子に、2人で座る。
決まった時間の30分~1時間だけだとしても、ありのままの自分で、駆け引きも無く、気負う事も無く、ただの友人として話をする。ソフィアにとっても、ヴィンセントにとっても、それは新鮮で、安らぎをもたらした。
「見て見て!これはね、隣国の本なの。新刊だからこの図書館にだって無いわよ。」
「凄いな、どうやって手に入れたんだ?」
「それは秘密。でね、見て見て!」
「秘密ばかりだな。ん?ちょっと待て。前のページに戻ってくれ。」
2人で1つの本を夢中で見ていて、ふと、私が彼を見上げた時だった。
至近距離に彼の顔があって、ドキンと心臓が鳴る。彼も、本から視線を移して、私を見る。目が合ってしまって、だけど、目を逸らす事も出来なくて・・・。
それは、たぶん、どうすることも出来ない、流れで・・・。
キスをしていた。
彼のキラキラとしたエメラルドの瞳が細められて、見惚れていると、顔が近づいてきて、軽く唇を合わせた。
何とも言えない、フワフワとした気持ちになる。彼の唇はサラっとしていて心地よく、太くてゴツゴツした指が、私の頬を優しく撫でた。
気が付くと、夢中でキスをしていて、抱きしめられる。
次第に、噛みつくような吸い付くようなキスに変わっていて、大きな手が、私の乳房を下から持ち上げるように揉みしだく。そのまま、押し倒されて、首筋を愛撫されていた。
はじめての経験に、ドキドキと胸が高鳴って、どうしたら良いのか分からないのに、ただ触れられると、気持ち良くて、心地いい。何かに飲み込まれていくみたいに、体を許していく。
そのまま、ショーツの中に彼の手が入り込んできて、初めて、そこを人に触られて、驚いて声も出ない。暫くまさぐられてから、彼の手が止まった。少し驚いたように私の目を見て・・・たぶん、処女だと気がついた様子で・・・。私は、視線をそらす。
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