21 / 293
第二章
18話 美しい瞳
ベロベロむちゅむちゅと頰にしゃぶりつく彼からバッと離れて、後ずさる。
「なななななな、な、なな」
何なんだこの状況!
「可愛い」
「うえっ!?」
「なんて愛らしいんだ、私の伴侶。ヴァントリア。誓おう、君を愛し続け——」
ハッ、さ、サングラスか!
呪いのせいで勢いは殺されているが誰彼構わず口説き倒すモンスターもどきになっているらしい。
「ととととと、とにかく待ってろ!」
サングラスを無理矢理掛けた所為か、耳にぶっ刺したが取り敢えず放っておこう!
走り出そうとした時、今度はイルエラに腕を掴まれる。
「ヴァントリア! 待て。危険だ。あんな奴放っておけ」
袖でゴシゴシ頰を擦られ、おかんか、と思ったが口には出さない。
「確か、博士の部屋は穴が近い。あの辺りは呪いが一番濃いだろう」
「イルエラは博士を頼む」
そう言ってイルエラの腕を振り払って走る。
「頑固者め……」
と後ろから小さな呟きが聞こえた気がした。
◇◇◇
イルエラの言っていた通り、博士の部屋は穴が近く、呪いが充満していた。
呪いで腐敗する兵士の身体から、腐臭が襲う。
更に石の壁もドロドロに溶け肉のように腐っていっている。地面も脆く、踏み込んだだけで45層に床が落ちる。大量の落とし穴状態と言ったところだ。
イルエラに来て貰った方が良かったか? でも、もしも彼でもこの量の呪いじゃダメかもしれないし。
それにしてもやはり、何故か自分には呪いが効かない。
——廊下の端はまだ丈夫そうだったので、壁に沿って博士の部屋に入る。
シストの所為ではだけた肌がめちゃ寒いが、今はそんなこと言ってられない。
「あった」
博士の言っていた白い瓶と、机の引き出しの白い粉を発見した。
それを両手に握って外に出ようとした途端、ぐらっと足元がもたついて。
「うわっ」
地面から手が生えて、それが自分の足を掴んでいる。
穴の空いた場所から大量の顔がこちらを覗いていた。
「ひえっ」
そう言えば、イルエラの檻の近くにこいつらの檻があった……!
い、一体どうすれば。
小脇に瓶達を抱えて、火の魔法を彼らに放つ。しかし、全く効いていない。
こいつらは一体何なんだ!
「うわっ、ちょ、この、」
引っ張られ、穴の中に引きずり込まれそうになる。
ドロドロとした顔がこっちを見ている。しかし、落とそうとしてくるだけで、何もしてこない。一体こいつらは何がしたいんだ。
……何かに似ているような。
人型で、そして、このドロドロとした感じ。
ハッとする。
周囲の壁や地面を見て、そして、死体達を見て、ゾッと背筋に悪寒が走った。
————ハイブリッドの失敗作。
呪いを受けさせ、処分しようとしていたのかもしれない。
亜人達が呪いを受け続け。しかし彼等は通常の人間より耐性があるようだ。ジノやイルエラがその例だ。
身体だけが腐り、意志は残っている。発狂しているものや、小さなもの、口から血を吐き続けているものなど。
数え切れないほどの顔が、自分を見て、羨望の眼差しと救済の眼差しを向けてくる。
——苦しい。殺してほしい。助けてほしい。元の姿に戻りたい————…………
……こんなの、知らない。
ゲームで流れなかった45層の真相が、こんなものだったなんて。
新発売されたゲームは前作の続きらしい。舞台は45層も含まれる。きっともうみんな、この事実を知っているのだろう。
「すまない……助けられないんだ」
呪いを解くことも、殺すことも出来ない。
シストやウォルズなら、確実に助けられただろう。
自分がヴァントリアとして生まれたことを、この時初めて、最悪だと感じたのだった。
『アウ、アウ、アウア』
何かを言おうとする彼等を見捨てることしか出来ない。
「すまない……」
腐って爛れた手に、そっと手を重ねる。彼の顔に、大量の雫が落ちていく。一体なんだと眺めていたが、やがて、自分の瞳から落ちているものだと気が付いた。
大量の顔が、じっとその様子を眺めている。ただ、眺め続けていた。
自分を掴んでいた手は、ぐい、ぐいと強い力で引っ張ろうとする。しかし、その手はやがて、ゆっくりと離れた。
きっと、自分達を助けることの出来る勇者ではないと、判断したのだろう。彼等は、まばらに散っていく。諦めたように、責めるように、離れていった。
その中で、自分の足を握っていた者だけが、じっと、ただこちらを眺めていた。
「……必ず、いつか助けるから待っててくれっ!」
——また、勢いで言葉が紡がれる。
責任の残る言葉を、簡単に使ってしまった。
走り去る時も、彼はじっとこっちを眺めていた。
淡い桃色の、美しい瞳だった。
あなたにおすすめの小説
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました
藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。
=================
高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。
ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。
そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。
冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで……
優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL