転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第二章

18話 美しい瞳



 ベロベロむちゅむちゅと頰にしゃぶりつく彼からバッと離れて、後ずさる。

「なななななな、な、なな」

 何なんだこの状況!

「可愛い」
「うえっ!?」
「なんて愛らしいんだ、私の伴侶。ヴァントリア。誓おう、君を愛し続け——」

 ハッ、さ、サングラスか!

 呪いのせいで勢いは殺されているが誰彼構わず口説き倒すモンスターもどきになっているらしい。

「ととととと、とにかく待ってろ!」

 サングラスを無理矢理掛けた所為か、耳にぶっ刺したが取り敢えず放っておこう!

 走り出そうとした時、今度はイルエラに腕を掴まれる。

「ヴァントリア! 待て。危険だ。あんな奴放っておけ」

 袖でゴシゴシ頰を擦られ、おかんか、と思ったが口には出さない。

「確か、博士の部屋は穴が近い。あの辺りは呪いが一番濃いだろう」
「イルエラは博士を頼む」

 そう言ってイルエラの腕を振り払って走る。

「頑固者め……」

 と後ろから小さな呟きが聞こえた気がした。




         ◇◇◇




 イルエラの言っていた通り、博士の部屋は穴が近く、呪いが充満していた。

 呪いで腐敗する兵士の身体から、腐臭が襲う。

 更に石の壁もドロドロに溶け肉のように腐っていっている。地面も脆く、踏み込んだだけで45層に床が落ちる。大量の落とし穴状態と言ったところだ。

 イルエラに来て貰った方が良かったか? でも、もしも彼でもこの量の呪いじゃダメかもしれないし。

 それにしてもやはり、何故か自分には呪いが効かない。

 ——廊下の端はまだ丈夫そうだったので、壁に沿って博士の部屋に入る。

 シストの所為ではだけた肌がめちゃ寒いが、今はそんなこと言ってられない。

「あった」

 博士の言っていた白い瓶と、机の引き出しの白い粉を発見した。

 それを両手に握って外に出ようとした途端、ぐらっと足元がもたついて。

「うわっ」

 地面から手が生えて、それが自分の足を掴んでいる。

 穴の空いた場所から大量の顔がこちらを覗いていた。

「ひえっ」

 そう言えば、イルエラの檻の近くにこいつらの檻があった……!

 い、一体どうすれば。

 小脇に瓶達を抱えて、火の魔法を彼らに放つ。しかし、全く効いていない。

 こいつらは一体何なんだ!

「うわっ、ちょ、この、」

 引っ張られ、穴の中に引きずり込まれそうになる。

 ドロドロとした顔がこっちを見ている。しかし、落とそうとしてくるだけで、何もしてこない。一体こいつらは何がしたいんだ。

 ……何かに似ているような。

 人型で、そして、このドロドロとした感じ。

 ハッとする。

 周囲の壁や地面を見て、そして、死体達を見て、ゾッと背筋に悪寒が走った。

 ————ハイブリッドの失敗作。

 呪いを受けさせ、処分しようとしていたのかもしれない。

 亜人達が呪いを受け続け。しかし彼等は通常の人間より耐性があるようだ。ジノやイルエラがその例だ。

 身体だけが腐り、意志は残っている。発狂しているものや、小さなもの、口から血を吐き続けているものなど。

 数え切れないほどの顔が、自分を見て、羨望の眼差しと救済の眼差しを向けてくる。

 ——苦しい。殺してほしい。助けてほしい。元の姿に戻りたい————…………



 ……こんなの、知らない。


 ゲームで流れなかった45層の真相が、こんなものだったなんて。

 新発売されたゲームは前作の続きらしい。舞台は45層も含まれる。きっともうみんな、この事実を知っているのだろう。

「すまない……助けられないんだ」

 呪いを解くことも、殺すことも出来ない。

 シストやウォルズなら、確実に助けられただろう。

 自分がヴァントリアとして生まれたことを、この時初めて、最悪だと感じたのだった。

『アウ、アウ、アウア』

 何かを言おうとする彼等を見捨てることしか出来ない。

「すまない……」

 腐って爛れた手に、そっと手を重ねる。彼の顔に、大量の雫が落ちていく。一体なんだと眺めていたが、やがて、自分の瞳から落ちているものだと気が付いた。

 大量の顔が、じっとその様子を眺めている。ただ、眺め続けていた。

 自分を掴んでいた手は、ぐい、ぐいと強い力で引っ張ろうとする。しかし、その手はやがて、ゆっくりと離れた。

 きっと、自分達を助けることの出来る勇者ではないと、判断したのだろう。彼等は、まばらに散っていく。諦めたように、責めるように、離れていった。

 その中で、自分の足を握っていた者だけが、じっと、ただこちらを眺めていた。


「……必ず、いつか助けるから待っててくれっ!」

 ——また、勢いで言葉が紡がれる。

 責任の残る言葉を、簡単に使ってしまった。

 走り去る時も、彼はじっとこっちを眺めていた。

 淡い桃色の、美しい瞳だった。





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