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第三章
31話 自分とは
怖い怖い怖い怖い怖い怖い……なんだ、これ。なんか、脳の奥が疼く。何かが湧き上がってくるような、何か、奥深くで隠れていた何かがこじ開けてくるような、脳の奥から何かが這い出てくる。気持ちの悪い、気味の悪い何かが。呪いの霧に触れた時と似てる。寒くて飲み込まれそうになる。脳から全身に回ってくるみたいに悪心を起こす。
——誰か。誰か。助けて。
捕まる。その腕に。瞳に。
その青い瞳に。黒い腕に。
「誰か——ッ」
たす、け
「——何してんだこの変態野郎おおおおおおおおおおッ!!!!!」
この声、この跳躍。
一瞬にしてウォルズが吹き飛ばされる。
後ろから迫っていたドラゴンの牙も、地面を蹴ることで簡単に避け切ってしまう。軽々とこんな芸当が出来るのは。
「ジノ……っ」
ウォルズは地面に伸びている。マデウロボスもそちらに目を向けているようだ。動く物を追う本能が備わっていると思っていたのだが、かなり賢いらしい。
「今の内だ、逃げるぞ!」
「えっ」
流石にジノでもマデウロボスは倒せないか。
……ウォルズには倒せるんだよな?
大丈夫かな。
ジノに引かれて必死に走っていた足を止めると、ジノが「何してんだ! お前体力なさ過ぎだろ!」とか失敬なことを言い出す。
「戻ろうジノ、あいつを助けないと……」
「アホか! 今引き返してもお前がいたら足手纏いだ!」
ジノから放たれたその言葉は、ジノも気付かない位俺の胸を抉ってきた。
足手纏い。足手纏い……?
イルエラやジノにかっこいい所を見せて、ウォルズみたいに戦って、俺は役に立ちたかった。でも足手纏いにしかならないのか。
ヴァントリア・オルテイルだからじゃない。
そもそも俺はゲームをプレイしただけで身体を動かすことなんて知らない引き篭もりだ。
ジノに手を引かれて走っているこの状況に、引っ張って貰っているというのに息が上がっている此の状態に。
ただ、ただ、自分の力不足を実感して絶望するしか出来なかった。
俺達は共に森を抜け出したが、二人で行動した為失格になった。ジノは足手纏いだから置いてくる為に来たと言ったが、なら森に置いていって係員に申し出ろと言われていた。
ゲームでも傷を負って休んでいる男が何人かいて、彼等に話し掛けることが出来る。放っておけ、と言う奴もいれば、係員に言っておいてくれないか、とミッションを与えてくる奴もいた。
魔獣狩りでのルールなんだ。其れを破らせてしまった俺はまたジノの足を引っ張ってしまった。手を引いて貰ったのに、代わりに引けるのが足だけなんて、何て俺は無力なんだ。
その後は、次々と帰ってくる男達と、魔獣を運ぶ係員達を眺めるだけだった。体重をはかり、優勝者が決まろうとした時だ。
大勢の係員が山の中から大綱を引いて現れた。そして、その前には金髪の勇者がこちらに向かって歩いてきているのが見える。
「おい! あれ、森の主、マデウロボスだぞ!」
「すげええ、俺主なんて初めて見たぜ。ましてや倒された状態なんて……」
「あの細っこいのが倒したのか?」
ウォルズ・サハニア。勇者はダテじゃないらしい。
ウォルズは何やらキョロキョロしていたが、舞台に上げられて大盛り上がりだ。優勝者はウォルズ。
彼が主を倒して一人勝ちしたが、その他の魔獣はイルエラがちゃっかり倒して稼いできた。準優勝を獲得したイルエラには賞金が支払われる。
魔獣から採れる素材は、屋根瓦、壁、家具、鎧、武器、調理器具等あらゆる物に使える為高値が付く。
イルエラはウォルズと同じ、涼しい顔でやってきて俺にお金を渡してきた。お前のだろ、と押し返せば。
「私はお前に助けられた。だからお前の手柄だ」
そう言って頭を撫でられて、恥ずかしくなった。
イルエラの瞳に自分の気持ちが見透かされているような気がする。もし俺が落ち込んでいるのを知って頭を撫でられているなら尚更だ。情けなくて恥ずかしくて、みっともない。
でも、相変わらず安心できる大きな手だ。
「ありがとう。イルエラ。元気でたよ」
イルエラの目が細くなり、彼の口元がゆるりと緩む。
「……何の話だ?」
何も見透かされてなんかなかったらしい……。
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