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第五章 前編
66話 視線
はぁ、と前からため息が聞こえる。どんよりとした空気が店の中を包んでいたが、ウォルズは困った様に笑ってこちらに向き直った。
「……これはある情報筋の話なんだけど。ヴァントリアは呪われてる。ウロボス一族と、オルテイル一族の呪いを同時に受けている」
ピクリとジノとイルエラが反応する。ジノが顔を真っ青にして思わずといった風に呟いた。
「呪いそのもの……」
「え?」
イルエラがそれに答えるように言った。
「ヒオゥネが言っていたことか」
「君等、ヒオゥネから聞いたのか……?」
「よくは覚えていないが……ヴァントリアが呪いそのものだと奴が言っていたことは覚えている。」
ヴァントリアが呪いそのもの? どう言うことだ。
呪いと言ったらヒオゥネで、でも、ヒオゥネとヴァントリアに接点はない。ウォルズが言ってたキスのシーンくらい……ひえ、やめ、ああっ想像なんてしてる場合か! と、兎に角、例のシーンくらいしかないじゃないか!
それにウォルズの言っていたウロボス一族とオルテイル一族からの呪いと言うのも気になるし……。
「……その石は呪いの侵食を抑える石なんだ。マデウロボスはヒオゥネの先祖で、彼も昔その手の実験を受けてあの姿になったと思われている。そしてあいつの中に呪いを抑える石が存在しているという情報も掴んでいた。いつかヴァントリアに会った時、助けてあげようと思って探してた。」
「マデウロボス……ウロボス一族だったのか。確かに名前もそれっぽいけど……」
ある情報筋とは前世のことだろう。前世でプレイしたA and Zの話だ。だからジノやイルエラの前では話そうとしなかったのか。
「抑えると言っても、石が吸収するだけだ。満タンになると、そこの武器みたいに、石から呪いが漏れて周囲に影響を与える。……でも無いよりはマシだ。武器の方はダメだったみたいだけど、万の左足の石なら充分な大きさがあるからまだ保つ筈だよ」
「……待て、呪いそのものと言うことは、ヴァンを吸収してしまうんじゃないのか」
「身体を生成するくらい圧縮された高濃度の呪いなんて、吸収したらすぐ満タンになって、こんな石なんかじゃ、何の機能も持てなくなるよ。漏れまくり。むしろ周囲に悪影響を及ぼす機能になるね……。だけど、その心配はない……ヴァントリアの身体は確かに呪いで出来てるけど、吸収はされないんだ。ちゃんと身体として変化して機能しているからだ」
難しくて頭が追いつかない。一体なんの話をしてるんだ。やっぱり晴兄は頭がいい。
「ヴァントリアにとって呪いは細胞みたいなものだ。簡単に剥がせるもんじゃない。もう身体の組織として彼の一部になってるんだ。多分、どんな方法で呪いを奪おうとしても無駄だ。でも、逆に注ぐことは出来る……」
ジノやイルエラの顔が険しくなる。そうか、彼等は博士の実験で呪いを管によって注がれていた。
「……呪いを注がれたらどうなるか君達なら分かる筈だ」
「普通なら身体が腐るか、バラバラに弾け飛ぶ。……そうして45層のゴミ捨て場に捨てられるのだろう」
……っ、もしかして、失敗作と呼ばれてた彼等のことを言ってるのか?
「どうしてヴァントリアは無事だと思う?」
「どうしてって……」
ウォルズの質問にジノが苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらにちらりと視線を向ける。
「呪われてるんだ。何層もの。何十層もの呪いが複雑に入り交じって呪われている……。あいつが、あいつらがヴァントリアを自分のものにしたいが為にヴァントリアに呪いを掛けて——」
「あいつらって?」
ウォルズはその言葉にハッとしてこちらに振り返る。
「ご、ごめん……それは言えない。思い出すと君が混乱する」
「そ、そっか……」
ウォルズの真剣な顔に何も言えなくなる。……全く話は理解できなかったけど、ただならぬ緊張感に、今は無理に聞き出すべきでは無いと分かった。
突っ込んで聞いたところで、何か利益がありそうではない。どちらかと言うと、聞いてはダメなような気がした。
よく分からないけど、ずっと、今も。誰かに見られているような気がして。
ウォルズは武器を手にすると俺の胸の前に差し出してくる。
「この話は終わりにしよう。ごめん。焦ってたみたいだ……」
「……何に焦ってたんだ?」
「……ヒオゥネと接触したんだよね? その、ヒオヴァンは尊いから存分に楽しんでくれて構わないんだけど、でもよくよく考えたらヒオゥネは危険だし……でもエロ……じゃなくて、とてもよいよね、じゃなくて、もっとやr……じゃなくて!」
「もう良い。言わんとしていることは分かった」
武器をウォルズから受け取ってさっさと話を切り上げようとする。彼が興奮しだす前に。
ヒオゥネは、追っかけられてた時もなんか怖かったし。彼が呪いについて研究してるなら、呪いがどうたらな俺は標的になりやすいってことを多分言いたいんだろう。
「ヒオゥネには充分気をつけるよ」
「そんな! ちょっとは油断して襲われちゃう展開になってもいいんだよ⁉︎ だから気をつけると言うよりは少し気にしちゃう程度でいいよ! あれ、俺どうしてこんなにヒオゥネのことばっかり考えてるんだ。も、もしかして俺、ヒオゥネのこと——的な展開とか本気で求めてるから!」
「あのな、お前はもう少し自重しろ」
ウォルズは残りの武器をジノやイルエラに渡す。
「僕には必要ねえよ」
「私も……あまり扱ったことはないから。持つ意味がないと思うが」
「護身用だよ。確かに君達は強いけど……俺より弱いんだし?」
ニコリと爽やかな笑みで答えたウォルズ。
分かりやすい挑発に二人の額に青筋が立つ。……なんかウォルズが爽やかじゃない。いや笑顔は爽やかだけど。なんというか、内側から黒く染め上げられたものがダダ漏れというか……。
言いたいことを言ったからか、なんか意地悪になってきたな。
つまり……ジノやイルエラに以前より心が開ける様になったってことか! いいことだ。うんうん。俺も早く皆と冗談を言い合ったり喧嘩したりできるような関係になりたいなぁ。
「何ニヤニヤしてるんだよ……お前も僕達が役立たずだって言いたいのか?」
「え、いや、仲良くていいなぁって」
「はああッ⁉︎ どう考えても嫌味言われてたじゃないか!」
「元気でいいなぁ」
「何のほほんと言ってんだよ。言っとくけどそれそこのおっさんと同じ台詞だからなっ」
ぷりぷりしちゃってまあ。やっぱり子供は可愛いなぁ。
よしよしと頭を撫でると目付きが一層鋭くなる。照れ隠しも健在か。
ウォルズが隣に並んで、ジノの頭を撫でていた俺の手を取る。一瞬ジノの目からウォルズに向けて世界を滅亡させる光線が出た気がしたけど気のせいだよな。
「武器も手に入れたことだし……博士を助けに行きたいけど」
「もう行くのか? 皆俺の所為で疲れてるんじゃ……」
「俺は平気だよ? 体力あるから。あれ位じゃへこたれない」
ジノとイルエラがウォルズの言葉にムッとする。
「僕だってスタミナくらいあるっての!」
「私も負けない……少し暴れたくらいで疲れるような情けない奴と一緒にするな」
やっぱり皆男だからかプライドは高いらしいな。
……イルエラもジノもウォルズも凄いな。俺なんてヘトヘトなのに。
「そうだよな。暴れてすらいないのに疲れてる俺ってやっぱり情けないんだよな……」
「……いや、その、お前のことではなくて。疲れているなら私が担いでやろうか?」
「——い、いいよ! い、いっつもいっつも担がれて逆に疲れる!」
腰に手を回されそうになり、思わず回避すると、イルエラの眉間にシワが寄った。
わ、悪かったよ、そんなに怒るなよ。
「た、助かってるよ。で、でもなんか、恥ずかしい」
担がれて走り回られるなんて恥ずかしくて耐えられない。注目の的じゃないか、一応前世は引き籠りなんだぞ。
「…………」
「イルエラ?」
やっぱり怒ってるのか?
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