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第五章 前編
72話 繋ぐ結晶
博士の部屋に着いてから、さて、どうしようかと考える。前に博士から材料を持ってくる様に言われた時は場所を教えて貰えたが、今回は自分で探さなくちゃならない。それに白い粉の状態ではないだろうし……。
……そう言えば、ゲームで集めていた時の場所ならまだ覚えてるぞ。確か、棚の中の奥……と、床材の下、そして額縁の裏に隠された金庫があって、そこに大量に貯蓄されている。しかも其の結晶はどういう生態か知らないが小さなカケラでも残しておけば大きく成長するんだ。
多分実験中にカケラが飛んだとかで見つからない儘成長したんだろう。博士も知らない秘密の育成場所だ。
……ただ、ほとんど床が崩壊していて壁もこの分じゃどうなっているか。
丈夫だったのか残っている壁際の床を進み、ゲームで確認する箇所を探ってみると。
「……あった! やっぱりゲームの通りだ!」
それに俺達プレイヤー——ウォルズ軍団に採られることがなかったからか、かなり大きい。
全部は持っていけないな……。この端っこのカケラだけでも持ってけば育成出来るかも……。
博士の部屋程は取れないがアイテムポーチに一アイテムだけでも残していたら三つに増えていたりなんてこともあった。
ただかなり時間は掛かるから、回復薬はショートカットで登録出来るし……。ポーチを放置していて久し振りに開けてみたら……というパターンが多かった気がする。
そうと決まれば、手のひらサイズ位は貰っとこう。
…………………ぐぬぬ。
「うううう、んにゃあああああああ、あああああっ、このおおおお、おのれええええええっ、ただの塊の分際でええええええッ!!」
こ、このヴァントリア様を莫迦にしやがって。ヴァントリアどんだけザコキャラなんだ。結晶なんかにからかわれてやがる。
どんなに力を入れようと結晶はビクともしない。
もしかして専用の削る道具が必要なのか? 採取のモーションで持っていたような持っていなかったような。
でも仮にあったとしても、そんなもの持ってないし……。ウォルズに貰った剣でも使ってみようかな……。
剣の柄を握った途端、スッと身体が軽くなった気がした。代わりに、装飾の錆が広がり、刀身が暗く淀んだ気がしたけど……。気のせいか。
「よぉし、結晶ちゃんおいでぇ。お兄さんが優しく扱ってあげるからねぇ」
壁沿いの根っこの部分の、比較的小さな結晶に剣を突き刺してぐりぐりしていると、刀身が赤く輝き出して、ぐんぐんと結晶が成長していく。
「え、ちょっ、ちょっ!?」
力まかせに剣を引っこ抜き、距離を取る。な、何事。
「……確か、この黒い石が俺の呪いを吸い上げてて……でも許容範囲を超えてダダ漏れで……。結晶にぶっ刺したら結晶が成長して……」
……もしかして、呪いが栄養源……とか?
つまり植物で言う肥料の役割……。いや、二酸化炭素。
二酸化炭素を酸素にするみたいに、呪いを吸収して無害な結晶体にしている。まさか呪いも吐き出してるとか。
無理だわけわからん。一体この結晶で何が起きてるんだ。
ただ結晶の成長を促したのは呪いであることは間違いない筈だ。
結晶に刺している間だけ、電池切れの電球みたいに暗かった刀身が赤く輝いたし、何より黒く淀んでいた中央の石が美しい澄んだ色をしていた。
だが結晶から抜き取った途端、真っ黒に染まりだだ黒くなったのだ。ヴァントリアの中の呪いで一気に黒く淀んで…………なんか俺が汚いものみたいじゃん。何この石ムカつく……。
睨み付けて得意の悪い顔で脅してみても、ピクリともしない。当たり前だけど、ムカつく。
「……刺している間は綺麗ってことは、結晶の方が吸収力が強いってことか……」
このデカイ結晶だからこそかも知れないが。
な、なら俺からも呪いを吸い取って貰えるかも!
「よっし! 幾らでも食べちゃってくれ!」
ガッと剣をもう一度刺せば、2倍、3倍、5倍とどんどん大きくなっていく。ま、待って部屋覆い尽くしちゃう。慌てて抜こうとしたが、——ぬ、抜けない!?
「ちょちょちょちょちょ、て言うか長くない? どんだけヴァントリア呪い溜め込んでんの」
どんどん大きくなるし、剣から黒い靄が結晶の中に取り込まれていく様が見えている為、自分から吸い上げられているのは確認出来るのだが。
……身体には何も変化がない……。この剣の柄を持った時軽くなった気がしたのは気のせいだったのか?
そ、其れにしたってどうすれば……。
結晶に腕を取り込まれそうになって思わず柄から手を離すと、成長が面白いくらいピタリと止まった。
指先で、ちょん、と柄に触ってみると、瞬く間に肥大化する。
……指先だけでこんだけの量吸われるなら、何で俺はビクともしないんだ。
もし、呪いの底が尽きたなら、結晶が大きくなる筈もないし。結晶が吸い上げているモノが魔力だったとしたらザコキャラのヴァントリアにそんな量の魔力ある筈ない。
「……一体どう言うことなんだ」
もうこの44層には誰も来ないし、博士ももうここには戻って来ないだろう。
実験道具ならシストに沢山買って貰えるだろうし、新しい部屋も用意されていることだろう。
なら、いっそ。
「何処まで吸わせれば俺の中の呪いがなくなるのか、試してやろうじゃないかぁ……っ!」
ちょっと楽しくなって、柄をガッと両手で掴むと、——今まで時が止まったように動かなかった結晶が美しく花が咲き乱れるように生成されていく。自らを主張しながら、キラキラと光を飛ばして其の形を変化させる。
終いには地面にも立てなくなり、結晶に乗っかって柄にぶら下がるようにしがみ付く。
本当に呪いは吸われているんだろうか……少しも、成長が止まる気配がない。
こんな特大サイズの結晶滅多に見られないぞ。
もしかして周囲の呪いまで吸収してるからデカくなってるとか。……でも呪いって黒い砂のようなものに見える。それらは一つになって霧みたいに見えてる訳だ。
部屋の中の呪いが吸収されているようには見えなかったけど。肉眼じゃ分からないのか……? でも見えてるし……。
流石にこれ以上デカくなったら困ると手を離す。そして後悔する羽目になる。
……さっきので抜けなかったのにどうやって抜けばいいんだ……。根っこだから抜けないことはないと思うけど、刀身は半分くらい飲み込まれてしまっている。
「……ヒ、ヒオゥネに頼む……とか」
でも、あいつは危険だってウォルズに忠告されてるし。さっきは手振っちゃったけど。
ウォルズに貰った剣をこのまま置いていくのは不用心だよなぁ。この石だって希少なものみたいだし……。
「……仕方がない、戻るか」
もちろん、エレベーターへは戻らない。
皆はエレベーターで苦しんでいるし、そんな状態なのに、剣を引っこ抜いてくれ、なんて頼めない。問題を起こして迷惑を掛けたくない。ザコキャラならザコキャラらしく大人しくしてれば良かったのか?
でも、薬を調合出来るのは俺しかいないし。何より苦しんでいる皆を放って置けない。
……今はヒオゥネしか頼れる人がいないもんな。其れに結晶も全部あげるって言えば1カケラくらいくれるかもしれないよな!
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