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第伍章
93話 使用済みの使用済み
拗ねる子供をあやしたことなんかないから、どう言えばいいかわからなくなって、取り敢えず頭を撫でる。
博士は昔これが好きだったっぽいし。
ゆっくりと寝返りを打って胸にくっついてくる。
うふふぅ、甘えられるのはいいなぁ。可愛い。
「嬉しいです。本当に。また会えるだなんて。これは夢じゃないですよね。バン様、キスしても?」
「何でそうなる。ダメだ」
もうヒオゥネで散々な目に合ったんだ。もうそう言う類のトラブルはいらない。
「バン様……本当に本当に本物なんですよね」
両頬をさすってくる手から逃げる。指先が冷たい。
博士は両手をじっと見つめた後、自分のほっぺたに押し付ける。何してるんだ?
「あ、そうだ、テイガイアに頼みたいことがあったんだ」
「何でしょう?」
「町を見てみたいんだ。ディオンの話だと町には塔があって、そこからなら見れるらしいんだけど」
ディオンと呼んだ時かすかに反応したように見えたが気のせいみたいだ。顎に手をやってふむぅと宙を眺め出す。
「町には出たことがないですね……」
「え!? 今までずっと!?」
博士は当然と言わんばかりに答える。
「はい。食事は出ますし、研究室は学校にしかないので」
「そっか。やっぱり研究とか実験とか好きなんだな」
「はい! バン様からいただいたビギンも元気です」
「ビギン?」
何だそれ。
「人工生命の始まりなので。ビギニングでビギンです。元気ですよ。見ますか?」
ビギニングってなんぞ。
博士はくるまっていた毛布からいそいそと出て行き、何時も持ち歩いていると言う壁際に置かれた手提げ鞄を持ってくる。
その中を漁る博士を眺めていたら、彼の手に巻き付く白い触手を発見してぎょっとする。
「寮に持って来てたのか!? と言うかいつも持ち歩く鞄だったんじゃ——」
「バン様との思い出ですから……ビギンを見る度にバン様を思い出しておりました」
少しばかり太く長くなった触手を取り出して、愛しそうにその触手に頰を擦り寄せる。
すると触手が激しく動き出した。興奮している。面食いは健在らしい。相変わらず両想いだなお前達。
伸びて来た触手に、テイガイアは唇を突き出してぶちゅっとキスする。ギョッとしたが、口を開けようとするテイガイアを見て、ハッとする。
其れは以前ある変態が使っていた。
「——ダメっ! それある人の使用済み!」
触手を手から奪い取ると、え、とポカンとされる。
「……ごめん。まさかキスまでする仲になるとは、思わなくて」
思わなかったとしても、ウォルズと愛の口付けを交わし合っていた汚れた触手なんかを純粋な子供にあげるなんて……俺はなんてことを。
今の感じ……どう見ても慣れていた。触手から仕掛けたに違いない。
純粋無垢だった美しい博士の唇を割って無理矢理触手プレイをしたに違いない。
……ウォルズと間接キスとか、知らない方がいいのか?
ん、あれ、よく考えたらジノとイルエラもウォルズも博士も間接キスしたのか。いや、触手は其々違ったみたいだし平気かな。
……でもウォルズみたいな変態と間接キスしてしまってたなら博士が可哀想だよなぁ。
俺も同じ目に合うしかないか……。
触手は博士から離れたからか動きが鈍い。……お前、俺のこと忘れてやがるな。
恨まれても仕方ない、恨みをよく買うヴァントリア様だし、博士にあげたとは言え、捨てられたと勘違いされてもおかしくないし。でも忘れるなんてムカつく……。
「お前が呪いを抑える効能があろうがなかろうが知ったことじゃない。兼ねてから呪いは王子様のキスで解けるものなんだからな」
触手は博士と一緒に不思議そうに首をかしげる。——触手が同じ方向に倒されただけだが。
「俺は王族、つまり王子様だ。お前なんかよりよっぽど呪いを熟知してるんだからな」
呪いそのものだし、何より王子だし、そして俺は女性との関係を持ちまくってたんだから。博士より、ウォルズより、上手いキスが出来るんだからな。
まったく俺に興味を示さない触手へ、顔を近づける。博士が俺の行動の意味に気が付いたようにハッとしたが、そんなことより触手だ。
一番近くにあったしょぼくれた一本の触手に唇を付ける。相変わらず生臭い。なんか変な感じ。
舌を出して舐めれば、ピクッと触手が反応した。
ここからはヴァントリア様のキステクに掛かっているな。俺以外考えられないようにしてやる。これ以上純粋な子達に変なことさせないように俺しか求められない身体にしてやるふはははは。おええ、まじゅいよぉ。
口の中に含んでしゃぶったり、舌を絡めたり、軽く先にキスするだけだったが、触手はみるみるうちに元気を無くし、ビクビクと震えて動かなくなった。
……もしかして酸欠か? それとも流石にヴァントリアとのキスは気持ちが悪くて拷問だったか。俺も拷問だった。よく考えたら何で俺が触手なんかとキスせにゃならんのだ。
でも博士一人をウォルズの被害者にするのは申し訳ないし。
それにしたって…………ヒオゥネもルーハンもどうしてあんなにうまかったんだろう。
ルーハンは初めての癖にめちゃめちゃうまかったよなぁ。……よく考えたら前世の俺のファーストキスってルーハンなんだよなぁ。
ルーハンとのキスを思い出しながら触手にぶちゅぶちゅしていて、ハッとする。熱烈な視線を感じて、下を見ると。
顔を赤くして鼻血を垂らす博士がいた。触手と俺の口元を、下から覗き込むようにガン見していたのだ。
あ、えっと。そうだよね、触手大好きなんだもんね。触手プレイに興味持っちゃうよね。
博士の純粋な心を守るつもりが……逆に使い方を教えてしまったらしい。
「……これ、返して貰ってもいい?」
俺の口周りに全ての触手が入り乱れて近付こうとしてくるが、瓶を引いて拒絶する。
何だ貴様、散々に浮気した上に俺のことも忘れてた癖に。今更甘えたって可愛いなんて思ってやらないからな。
お前を好きでいたピークはもう過ぎてるんだ。
「だ、ダメです……絶対ダメです。バン様のだえk——いえ、人工生命の始まり……ですから」
ん? 何か言い掛けたか?
……子供から好きなものを取り上げるのは可哀想か。それに博士は純情だから変なことに使ったりしないよな。先刻のだってただのスキンシップだったみたいだし。
はい、と返すと、テイガイアは光の速さで口を開ける。
え。
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