転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
115 / 293
第伍章

112話 14歳でも腹が立つ



 高い本棚の並ぶフロアが148階まであると設定されている。

 ゲームで見たときは本好きじゃない俺でも行ってみたいと思えるくらい凄い舞台だった。こんな空間が現実にあったら本好きにはたまらないんだろうなぁと感心したものだ。

 現に、あの圧倒的な空間を目の前にして、鳥肌が立っている。どこを見ても本棚にビッシリと分厚い本が並ぶ様は壮観だった。

 また、フロアのごとの吹き抜けの壁に電灯が設置され、交差して模様を描き降り注ぐ光は、まるでアートのようで美しい。

 もちろん本も本棚も建物の装飾も、受付嬢の服も利用者の服も全て真っ白だ。白くないのは人間くらいか。

「すっげー……」

 あ、しまった、声を出してしまった――と思ったが、突然人が現れても驚かないくらいの混雑の仕方だったから、特に大事にはならなかった。

 ただ、熱気がすごい上に、ぶつかられたり押しのけられたり、引っ張られたりと、もみくちゃ状態だ。

 上のフロアに行くほど人が少ないようだし、上に避難しよう。脱出が得意なヴァントリア様の華麗なる人混みの隙間するりん技術で通り抜けていく。

 しかし同時に運の悪さも遺憾なく発揮され、おばさんのお尻に吹っ飛ばされたり見るからにお婆ちゃんと言った婦人の茶髪の鬘を掴んで返す暇もなく持ってきてしまったり。掴んだのはわざとじゃない、転びそうになって手を伸ばしたら掴んでしまっていただけで故意ではない。決して。

 その次は——……この熱気だ、暑くて脱いだんだろう。手に持っていた上着が人の波に引っ張られて目の前の男性が落としそうになる。

 咄嗟に拾ったが、持ち主はもういなくなっている。

 持ち主も俺も流されてしまって返せなくなったり、大男の身体が壁のように立ちはだかったりしたが、やはり脱出には優れているのか——目的の上のフロアに行く階段まで行き着いてしまった。

 今度は上に登る人の流れに乗ってしまう。そうして人型エスカレーターで流れ着いたのは21階だった。

 どっと疲れて床に崩れ落ちる。両足だけじゃ足りない、両手で身体を支えないとしんどい。

 それから机と椅子を求めて彷徨えば——広過ぎて迷ってしまった。

 絶対こんなところに椅子と机なんかないよな。相当奥の方にきてしまったみたいだし。あの混みようじゃ受付に落し物を届けることもできない。まあ、落としたんじゃなくて剥ぎ取ってしまったんだけど……。

 確かゲームでもこの図書館に調べ物に行ったウォルズやキャラ達が、情報と一緒に落し物のザコアイテムを手に入れていた。

 売ってもお金は手に入らないアイテムや、1円とか2円とかお金が僅かしか手に入らないアイテムが殆どだったが、極たまに超レアアイテムが出たり、逆に図書館でしか手に入れることの出来ないアイテムなんかもあったりした。

 ……そうは言ってもそれはゲームの世界だ。持って帰ることなんかできないな。売りに出すようなこともできない……。

 しかしあの受付に突っ込む勇気もない……勇気を出しても無理な気がしないでもない。

 もしかしたら目的の場所へ勝手に着いちゃう俺のはちゃめちゃな運命を使えば受付に行けるのか。……いや、脱出の時しか使えないんだなこれが。

 はぁ、長い茶髪の鬘と男性のコートなんて、持ってたってなぁ。これどうやって返せばいいんだ。あんな人混みから探し出すことも不可能に近い。

 それに落とし物をしても態々取りに来るのか、この図書館に。

 まあ受付に行かないと本が借りられないんだから皆並ぶんだろうけど。

 それにしたって、すごい人の量だったな。前世の記憶でもそうそうないぞ。

 ……だが引きこもりには辛い。マナーは悪いが人もいないし、取り敢えず床で休もう。

 ふへーとリラックスし過ぎなくらいに地面に身体を預ける。背凭れとして本棚に寄りかかっているが、意外と心地いいかも。何より床はカーペットタイルだ。

 ほへーと休んでいたら、背後から物音がして慌てて立ち上がる。今までの姿は人に見られてはいけない気がする。



「——ほら、ここだろ」



 ——ん? 男の声?



「——あっ、だ、だめよ」

 ん——……んん、ん? この感じ、ヤバくないか。


 だがしかし興味を持たない筈がない、そろりそろりそろぉりと声のする方へ移動する。

 どきどきわくわく。っとしながら、本棚から半分顔を出して覗き込む。

 すると、男の方の声に聞き覚えがあることに気がついた。

 幼さがあったので気付かなかったが——その人物を視界に入れた途端、思考が停止して口はあんぐりと開けたまんま閉じられなくなってしまう。

 想像していたより背が低く、そしてそんな姿からは想像も付かない悪い顔——血のような真っ赤な髪を揺らして女性と腰をすり合わせ——

「————ッほギャああッ!?」

 ——変な悲鳴が己の口から出て行って咄嗟に隠れる。女性の方の声が焦ったように震えた。

「だ、誰かいるの?」
「——……どうだっていい。余計なことで止めるな」

 や、やっぱり見間違いじゃない、この腹立つ感じ……

「見られて困るのはアンタでしょう!?」

 女性がヒステリックな声を上げ——その後すぐに呻き声がしんとした室内に響いた。人っ子一人いない空間でドサリと地面に何か落ちる音がする。

「俺をアンタ呼ばわりとは……愚かだな」

 女の声は答えない、だが、バリッと服を破く音が聞こえて——さっと血の気が引いていく。恐らく気を失ったであろう相手に対し、まだ何かするつもりなのか。

 ——止めなきゃ、止めないと!

 その前に、何か変装できるものはないのか、図書館にそんなもの存在する筈がな——……そこまで考えて、未だ手に持っていたモノを見る。

 成る程、この為の伏線だったか。

 ——なんて、変に納得して謝罪をしつつお借りする。

 それに記憶の世界だ、現実では盗っていないよ。

 なぜ変装する必要があるのか——知らない奴なら素直に止めに入れる。もし知り合いでも冷静になれず飛び出していただろう。だが。



 相手は——真っ赤な髪と、真っ赤な瞳の大嫌いな相手。


 見た目は14歳くらいか、ああ、博士の中学時代の姿を見て中学生なら未だ可愛いんじゃないかと期待した俺が莫迦だった。



 早く止めなくては、記憶といえど女性が酷い目に合わされてしまう。


 14歳のヴァントリア・オルテイルの手によって。


感想 23

あなたにおすすめの小説

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL