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第六章
144話 仮面舞踏会
うさぎの雪崩で地面に倒れてうさちゃんに埋もれてしまった。目の前が真っ暗だ。虫をしゃぶるウサギさんの鳴き声だけが聞こえてきて悪寒が走る。
「虫を食ったら凶暴化して人間も襲うんだよ」
なんてジノとイルエラに説明するウォルズの言葉を聞いて、いてもたってもいられなくなる。
――この爽やか鬼畜野郎ッ!!
そ、そうだ何も殺さなくたって! 今持っているのは木の剣だし、気絶させればなんとかなるかも!
うさぎを引っぺがして、気合いを入れる。
「とりゃ!」
振ってみたものの、丁度ウサギが頭に乗っかって尻で目を塞がれてしまう。スカッと剣が空を切る音がした。
「てりゃ!」
沢山いるはずのウサギにかすりもしない。当たり前だが手応えはまったくなかった。
――全然当たんない!
「ヴァントリア! ほら、教えたこと思い出して!」
ウォルズの声援を聞いてから少し冷静になり、ウサギさんを剥がしていざもう一度。飛び掛かってくるウサギさんだけに集中してへ剣を構える。
――見える、見えるぞ! うさちゃんが飛び掛ってくる姿が!
「おりゃ!」
剣はスカッとうさちゃんの下を潜った。視界から姿を消され、頭を踏みつけられる。
「んりゃ!」
遠くからジノの溜息が聞こえる。
イルエラは逃げたウサギもどきを捕まえては結び直し、ウォルズは声援を送り、テイガイアはだんまりだ。
ウォルズの動きを真似しているつもりだけれど、当てようとすればするほど当たらない。どうやら当てようとすると型が崩れて上手くいかないらしい。それに意思の弱さが問題だ。
殴るの可哀想。
――そんなこんなで結局3匹ほど掠るくらいの結果しか得られず。
「実践は無理かもね」
なんてからからとウォルズに笑われてしまった。そんなはっきり言わなくても。
うさぎは後回しになり、同じ構えで、落ちてきた葉っぱに刃先を当てる練習をしたり、体力も付けようとのことでジョギングしたり。
ウォルズとテイガイアの機転を聞かせた指導によって数日打ち込んだ結果。Lv.10からLv.30まであがった。すごい効果である。レベルが20も上がるなんて、なかなか難しいことだぞ。――まあこれはウォルズの分析だから当てにならないけど。
ウサギさんは可哀想で切れなかったけれど。昆虫なら上手くいった。鳴かないからな。後血も出ないし。目も怖くないし。緑色の液体は出て来たけど。
ウサギさんより一回り大きな虫なら倒せるレベルになった。
「相手は倒せなくても、防御はするんだよ」
と、口癖のようにウォルズが言うのでそうすることにする。せめて防御くらいできないと力を付ける以前に足でまといになってしまう。まだ足でまといなことには変わりないけれど。
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舞踏会当日――仕立て屋が大型馬車に乗ってやって来て街中で商売を始めていた。
魔法を使ってすぐに服を完成させてしまう、魔法の仕立て屋である。これはストーリーでも流れており、貴族のお嬢様方が食い入るように聞いていたのを覚えている。また、服が作られていく過程も流れて面白い。ゲームではここで装備も作ってもらえるし、このイベントでしか手に入らない期間限定の装備も出るので、前世でも盛り上がっていた。
ウォルズがちゃっかり得意の絵でデザインを考えて店主に注文を出していたらしく、俺達は衣装を受け取ることとなった。
……また変なのじゃないだろうな?
そんな心配はいらなかったようで、衣装は案外普通のデザインだった。
ウォルズ曰く「こういうのは変にいじらない方がいい。王道が一番いいんだ」らしい。
それぞれ用意されたタキシードをウォルズから受け取る。
「こんな服は久しぶりだな」
テイガイアが静かに呟いたので、彼を見てみると。タキシードはピシッと着こなしていたが――いつの間に着替えた――髪ももっさりだし髭も整えられていない。
それを見たウォルズが真顔でスチャッと、くしとハサミとカミソリを構えたのを見て、さっと血の気が引く。
ほ、本気だ……。
テイガイアはウォルズに任せて。俺とジノとイルエラは衣装に着替える為、試着用の大型馬車の中へ入った。
イルエラもジノも俺も着方が分からなかったが。丁度様子を見に来た仕立て屋が着せてくれた。衣装だけでなく仮面も渡される。
そう言えば仮面舞踏会だったな。
みんな顔が割れているし、兵士だって舞踏会に来るだろう。仮面があって良かった。
イルエラにはシルクハットが用意されていた。仮面とくっ付いているようなので、「室内だから帽子を取れ」とかなんとか言われることは無さそうだ。
どんな身分であろうと仮面を外すことはタブーとされている、イルエラの頭のクリスタルは目立つからな、ウォルズはそれを考慮したようだ。
仮面を付けて馬車を出れば、ウォルズも他の馬車で着替えを済ませていたようで。
煌びやかな衣装に身を包むみんなは、いつもと一味違うが、一番はやはりテイガイアだった。
仮面越しではあるが、美しい顔立ちと特徴的な瞳の色が露わになり、さらには髭も髪もセットされてまるで別人だった。
周りの女性もちらちらとテイガイアを気にしている。更にウォルズもイルエラもジノもみんな美形なので注目の的だ。
「むむむ……」
ヴァントリアも容姿はいいものの悪い噂が絶えないし。ほとんどの王族は王宮で過ごす為、住民に顔が知られていることはめったにない。だがヴァントリアの場合、女漁りに町に出向き、やりたい放題やっていた為、顔を覚えられているかもしれない。
俺の居場所が嗅ぎ付けられるのも住民が兵士に情報を与えているからじゃないだろうか。
いや、待てよ。14歳の俺は人目につかないよう心掛けていたな。ゲームでも誰かを襲う時は路地裏や室内がほとんどだった。
ザコだから民衆を敵に回すと厄介だっただろうし、ヴァントリアの場合民衆を敵に回すとオルテイル一族の名が汚れるとシスト様に嫌われると考えてやめていたかもしれない。
それに昨日も普通に街を歩いたけれど特に反応はなかった。
しかしウォルズに万が一とウィッグを被らされる。目立たないこげ茶髪のウィッグだった。ウォルズは「髪さえ隠せれば目はなんとかなるよ」と自分も薄い茶髪を被った。彼の衣装はみんなと一緒で白いタキシードだ。
「あーあ。ウォルズの綺麗な髪と原作通りのタキシード姿が見られないのは残念だな」
ゲームでは青色のタキシードなんだよな。
肩を窄めてしょんぼりしていたらウォルズはひょーと息を吸い込んでフーっと息を吐いた。口元には何かを抑えるように手が添えられている。
「ああガッカリするヴァントリア可愛い……ウォルズのこと好きすぎかよ。これはデキてるわ」
控えなさい。
打ち震えて萌えているウォルズを引きずって、舞踏会の会場へと向かう。
煌びやかな会場の階段を上っていって、俺達は会場の門をくぐった。
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