転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第七章

166話 二人きり



 ウォルズは、両腕に抱えていた樽をドカドカっと床に落としてから、口を抑える。

「まさかの、触手サンドですか! 二人の呪いの触手でヴァントリアをあんあん言わせるんですね! もっとやれ!」

 黙りなさい! 変なサンドを作るんじゃない!

 ウォルズは酒樽を一つ抱っこして、そろり、そろりと部屋の中に入ってくる。

「ちょっとウォルズさん酒樽くんと一緒に観賞しててもいいですか。邪魔はしませんから、隣で全裸になってるだけだから。ちょっとウォルズさん覗き込んじゃうかもしれないけど、許してやってくださいな」

 テイガイアから離れて酔っ払いウォルズさんに近づく。

「もう飲むのはやめろって。お酒は回復薬じゃないから」
「ウォルズさんの心を癒してくれるのはいつでもヴァントリアとお酒です」
「はいはい。俺達は忙しいんだ。酔っ払いの相手はしてられない。ほら、マスターなら酔っ払い相手も慣れてるだろうから行ってこい」

 マスターごめん。

 しかしウォルズは「忙しい?」と首を傾げてくる。

「ラルフの呪いが暴走してるんだ。呪いを解く方法をテイガイアと探してる。酔っ払い相手に聞くことじゃないけど、何か知らない?」

 ウォルズは酒樽を置いてから、もぞもぞし始める。聖剣レクサリオンを腰から外し、鞘ごと、ほい、と差し出してくる。

「…………何?」
「呪いを抑えるならウォルズさんの剣使えばいいよー。ヴァントリアの呪いを抑えるのは無理だけどー、他の人の呪いならこれを傍に置いてるだけで抑えられるからー」
「それを早く言え!?」

 無駄にキスしてしまったじゃないか! あれ、もしかしてテイガイアの呪いもその剣で解けたんじゃないの!? 無駄に使った俺の唇返せ!

 ウォルズの剣を奪い取り、ラルフの傍に置けば、彼の肌に広がっていた痣が、徐々に薄くなっているのがわかる。本当に効いている。

「な、なんで教えてくれなかったんだよ!」
「確かに呪いは抑えられるし、呪いも斬れるし、呪いにはすっごく便利なウォルズさんの剣だけど、呪いを解くことはできないんだよねー。多分方法はあるんだけど扱い方がイマイチ分からないというかー」

 ウォルズは酒樽を開けようとしているのか、覗き込んだり、板と板の隙間に爪を突っ込んでみたり、側面をペンペンと叩いてみたりしている。

「ウォルズにはまだ色々言いたいことあるけど、これでラルフの呪いは抑えられたな」

 テイガイアに振り返ると、彼はじっとラルフの顔を眺めている。

「テイガイア?」

 声をかければ、テイガイアは俺の傍にやってくる。そうして俺の頰を撫でてから言った。くすぐったい。

「私はこのままラルフくんの様子を見ています。バン様は戻ってもらって構いません。無理を言って申し訳ありませんでした」
「いや、俺こそ、力になれなくてごめん。俺も残るよ。ラルフを放っておけないし、交互に見よう。テイガイアだって休まなくちゃ」
「バン様は覚えてないかもしれませんが、貴方が一番身体を休めるべきなんです。なのに無理を言ってしまった。ラルフくんは私が見ていますから。貴方は少しでもウォルズさんの傍にいた方がいい」
「え、なんでウォルズ?」
「貴方が暴走した時、貴方の呪いを解いたのはウォルズさんです。彼の傍にいる限りバン様の呪いは抑えられる。私もバン様の傍にいられるから魔獣化しないんです」

 ウォルズに振り返れば、ウォルズは酒樽に抱き付いてスリスリしている。「結婚しよう」と酒樽を見つめる姿は完全に怪しい。……何をしとるんだあの酔っ払いは。

 ウォルズを眺めていたら、むぎっとテイガイアに抱きしめられた。

「テ、テイガイア?」
「バン様、愛しています」
「う、うん」
「愛しています……ヴァントリア様」
「も、もういいって! 分かったから! 酔っ払いの介抱は俺がするから!」

 もう、回りくどいんだよ。つまり酔っ払いをどうにかしてくれって言いたいんだろ。

「じゃあラルフのことは頼む。何かあったらいつでも呼んで」
「はい」

 酒樽を抱っこするウォルズを説得して、部屋を後にする。

 ウォルズは廊下に残っていたもう一つの酒樽も脇に抱えて「さー行こーいこー! サイコー!」と酒場へと戻っていった。

 テイガイアとラルフ、大丈夫かな。

 気になるけれど、俺も暴れたらしいし、ウォルズの傍にいた方がいいと言うテイガイアの言葉は正しいのかもしれない。ウォルズが視界に入るだけで安心する。

 酒場に戻ってから、ウォルズは踊り子達の中でわーわーギャイギャイとお酒を堪能している。そんな姿に安心なんて……変な話だけど。

 机の上に乗って酒樽のお酒を配り始めるウォルズに近づく。

「ウォルズ、話があるんだけど」
「ヴァントリアは未成年だからだめよーフルーツジュースおいしいから、フルーツジュース飲みなさい」

 ウォルズは「よちよち」と俺の頭を撫でる。張り倒してやろうかこいつ。

「ウォルズ、大事な話なんだ」
「俺も好きだよ」

 …………ん?

 ウォルズは机にコップを置いてから、ぎゅっと俺の手を両手で掴んだ。

「俺もヴァントリアが好き。万も好き。両方ひっくるめて君が好き」
「………………はい?」

 首を傾げれば、相手も同じように首を傾げる。

「大事な話って告白じゃないの?」
「な、な訳ないだろっ!? いいから来いこの酔っ払い!」

 みんなの前で何を言い出すかと思ったら! ヒュウヲウンだって店主だって目をまん丸くしているじゃないか!

 酔っ払いの踊り子達がキャーキャー言ってるけれど、彼女達の酔いが覚めた時に誤解を解いておこう。


 俺は自分の呪いを使って暴れたらしい、けれど全く覚えていない。自分が何をしたのか、何をしてしまったのか、知りたい。

 でもそれを聞くのはウォルズの口からじゃないと、怖い。

 それに、ヒオゥネが言ってた、ウォルズのキスで呪いが解けたって言うのも気になるし。テイガイアもさっき、ウォルズが呪いを解いたって。

 ウォルズはヒオゥネの言葉を否定しなかった。本当にウォルズが俺にキスしたのか?

 ラルフが槍に刺されたところまでの記憶はある。その後がわからない。気付いたら、ウォルズは傷だらけだし、会場は破壊されていた。

 何だか、すごく寒かった気がする。

 寒かったけど、俺はウォルズの腕の中にいて、ウォルズはあったかくて安心したんだ。ヒオゥネとは違って、ぽかぽかした、お日様みたいな、日向ぼっこしてるみたいな、安心するあたたかさ。

 ウォルズを俺の部屋に連れてくる。正確には、俺とジノとイルエラの泊まる部屋だ。先刻ラルフを手当てしていたのはテイガイアとウォルズの泊まる部屋。

 俺は部屋の奥にある、出窓を開ける。出窓に座れるよう、ベンチになっているので、そこにウォルズを座らせて風に当たらせる。

「少しは酔いがさめたか?」
「ヴァントリアかわいい~ウォルズさんのお膝に乗ってお酒ついでごらん」
「さめてないなこれは……」

 ん?

 窓を開けたことがなかったから気付かなかったけれど、外には壁と階段がある。

 前の壁にはぽっかりと真四角の穴が開いていて、どうやらそこから風が吹き込んできているらしい。その壁と、自分達のいる部屋の間に、階段があるのだ。

「ちょっと、ここで待ってて」
「んーウォルズさんかわいいヴァントリアを待ってる」

 出窓から外へ降りて、階段へ降り立つ。壁の穴を覗いてみたら、今度こそちゃんとした外だった。あかりのついた街が見える。穴から頭を引っ込めて、今度は頭上を見上げた、すると、満点の星空が見えて、思わずほうっと息をつく。

 建物の外階段だろうか。宿をかしていることは秘密だから、外側は壁で覆って、中が見えないようになっているんだ。

 そうだよな、窓開けてお客さんが顔見せちゃったら、宿屋ってバレバレだし。

「と言うことはこの上は屋上に繋がってるのか」

 ちょっとワクワクした気分で階段を登れば、そこにはなかなか広い屋上があった。

 すっげー。屋上なんて初めてきた。

 壁は高いが、また窓代わりの四角い穴がある。下を覗いてみれば、今は暗いし、周りに人はいない。兵士に見つかることもないだろう。そんなに高くはなかったけれど、夜の街を眺めるのには丁度いい。風も心地いいし。

 ウォルズも連れてこよう。……入っていいんだよな、たぶん。

 不安になって辺りをキョロキョロ見渡していたら、壁に文字が刻まれているのを発見した。そこには、お泊り客はご自由にお使いくださいと書いてある。ここって最高の宿屋だな。

「うわー広いねーきれいだねー」
「ウォルズ!? 待ってろって言ったのに!」

 階段の方から声が聞こえて振り返れば、お酒のせいで顔を赤くしているウォルズがやってきていた。


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