転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第八章

191話 ご予定は!!



 エルデに連れてこられた場所はオープンテラスだった。てっきり高級なお店に行くと思っていたのに……そして高いものを奢らせようと思っていたのに……まあ仕方がないか。

 エルデならこう言う庶民的な所で食事をしていても違和感はない。

「何でも好きなものを選んでいただいて結構です」

 エルデは緊張が解けてきたらしく、目を合わせなければだが、普通の声量が出せるようになった。イルエラを膝に乗っけて一緒にメニューを見ていれば、エルデは店員さんが持ってきた水をグビグビと飲んでいく。それを見た店員さんが水差しを置いていく。継ぎ足しては水を飲みまくるエルデは誰から見ても変人だ。

 早く決めてあげよう。

「このランチセットがいいです」

 俺がそう言えば、イルエラが見上げてくる。

「食べきれないから俺――私の分食べていいよ」

 昨日沢山食べたから、まだお腹がいっぱいなんだ。

 エルデが「わかりました」とそっぽを向きながら言って、店員さんを呼ぶ。エルデも同じものを選んだらしい、メニュー見てなかったもんな。緊張し過ぎだ。こっちも緊張してしまうじゃないか。

「あの……どうして俺――私、なんかを……その」

 例え女の子の姿でも中身がヴァントリアなんだ、そんな奴を好きになるなんて……エルデはどこかおかしいんじゃないだろうか。

「……いえ、その。あ、お、い、う、え、笑顔が素敵です。あと、舞台での踊りもとても綺麗で……あ、今日の服装もとてもよくお似合いで、ございます……」

 今度はえらく声が小さいな。

「ありがとうございます」

 笑顔や踊り……それから服を褒められた、なるほど容姿に惚れたと言うことでいいのか。ヴァントリアは一応美形という設定なんだし、女体化したらそれなりに可愛いのかもしれない。自分じゃじっくり見てないからわかんないな。周りの目と、女の子の身体と言うことばっかりが気になって……。

 そんなことを考えていたら、店員さんがランチセットを2つ持ってくる。テーブルに広げられた料理達はなかなか美味しそうだ。食べ終わったらデートも終わりだし帰っていいよな。

 そう思ってイルエラと分け合いながら食べていれば、既に完食して俯いていたエルデが震え出す。食べるのが早すぎる。

「ああああの!! もしよろしければ、この後も少しだけお時間をいただきたいのですが、ご予定は!!」
「え……あ、いやーそれは……」
「見て欲しいものがあるのです!! どうか!」

 長く一緒にいたらバレてしまうかもしれない。早く帰りたい。本当は作戦だって立てなきゃならないのに、何で俺はエルデとデートなんかしてるんだ。

 いやいや待て待て、これはデートじゃない、食事に誘われたからただ飯を食べに来ただけだ。イルエラもいるし。

 それに変に期待を持たせるのは悪い気がする……ちゃんと断らないとダメだよな。

 やんわりと、やんわりと断ろう。愛することはないとか有り得ないとか決してないとか酷い振り方はしないぞ。

 それにしても……少ししか食べていないのにもうお腹いっぱいだ。お腹がパンパンで振り方なんか考えている場合じゃない。

「はい、あーん」

 イルエラの口元に運んでやれば、口を付けてもぐもぐして食べていく。かわいい。

 ニヤニヤしてその光景を眺めていたら、エルデから視線を感じて顔を上げる。しかし目が合う前にバッと顔を背けられる。

 ……もしかして昨日、俺もヒオゥネに同じようなことをしてたのか……?

 見てたってバレバレじゃないか。どう思われたんだろう……恥ずかしくなってきた。

「ん……?」

 エルデからの視線は離れたのに、……まだ視線を感じる気がする。

 キョロキョロと辺りを見渡すが特に誰かに見られている様子はない。

 しかしこう、突き刺さるような、おぞましいような視線が偶に感じられるんだが。

 いやいつも見られているような気がするあの青い瞳ではなくて……もっと別の類いの……。……やっぱり気のせいか?

 食事を済ませた後は、エルデの迫力に押し切られ、彼の〝見せたいモノ〟がある場所へ向かっていた。

「一体どこに向かってるんですか?」
「もうすぐ着きます」

 やって来たのは町の周囲を囲んでいる森だった。西側の森だ、ウサピョンポイントではないな。しかし女の子と森って……エルデは雄々しいデートプランを立てるようだ。ウォルズに教えてあげよう。

「手を……」
「え?」
「に、握ってもよろしいでしょうか……ッ!!」

 え……ええー……男と手を繋ぐのはちょっと……。ジノなら子供だしよく引かれるし構わないんだけど。

「ご、ごめん、なさい」

 申し訳なくて顔を反らせば、ガーンと言う音が聞こえてきそうなくらい、どんよりとした空気が前から漂ってくる。……分かりやすい。

 エルデ……相手が男と知らないで頑張ってるなんて、ちょっと哀れだ。仕方がないな。

「……指だけなら、いい……です」

 エルデの周りに小ぶりの花が咲く。光も当たってキラキラして見える。エルデの嬉しそうな顔のせいで見える幻覚だ。

 エルデはガッツポーズをしてから、その拳をそのまま差し出し、勢いよく中指を立てる。

 お前……俺じゃなくても振られるぞ。

 その中指に小指をくっ付ければ、エルではみるみる顔を真っ赤にして俯いていく。そんなエルデを見ていたら、男同士だからとか妙な感じはなくなっていった。

 エルデにとっては本当に純粋に、女の子を好きになっただけなんだもんな。それに好意を向けられるのは嫌じゃない。

 これは優越感のようなものを感じるからだ。いや、嫌われ者だからなのか、好かれると言うことに慣れないのかもしれない。

 戸惑いはするけれど、好きだと思って貰えていることは嬉しいかも。

「着きました」
「……塔?」
「はい。今は使われておりませんが、魔獣が街へ侵入しないように見張る為の塔でした!!」

 エルデが立て付けの悪い塔の扉を開け、中に入るように手で促してくる。

 中は真っ暗だし誇りっぽく、黒いシミがあったり、見た目がグロい昆虫も多くいたりとなかなか不気味だ。エルデよ、もしかして怖がる女の子にくっ付いてきて欲しいとか言う、お化け屋敷的な効果を狙っているのか? もし狙っていないなら色々と残念すぎるぞ。

 エルデが「こちらです」と手引いて階段を登っていく。ナチュラルに手を握られてしまった。……引っこ抜いちゃだめか? 何より……指をくっ付けた時くらいからイルエラさんがその手をじっと見ているのが気になる。

 落とさないから! 片手でも落とさないように頑張るから耐えて!

「ちょ!?」
「えっ?」

 イルエラさんが突然モゾモゾしだして、俺とエルデの手に小さな手を伸ばす。無理無理無理、届かないから落ち着け。

「どうかされましたか?」
「イルエ――ウ、ウサピョンが、落ちそうなので手を離してもいいですか……」

 イルエラが大人しくなる、見上げてくる、花が散って見える。……ウサピョンになってわがままが通ることを覚えてしまったか。

「では俺が持ちましょう」
「え……」

 イルエラが見上げてくる、イルエラの何かを訴えてくる目を見てから、ハッとした。

「そうか! その手があったか! よろしくお願いします!」

 俺と比べて倍以上の腕力を持っているであろうエルデならきっと、片手でもどデカいウサピョンを抱っこできる! 安定するぞ! 良かったなイルエラ。

 イルエラを差し出せば、暴れ出す。イルエラはエルデに抱っこされそうになるのを、エルデの手を蹴りまくって必死に抵抗している。

 巨体な割に激しく暴れるものだから、イルエラを落としそうになる。慌てて抱っこし直せば、イルエラがホッと息を付いた。そうしてから、顔を上げてイルエラが見つめてくる。

「……どうしたんだ?」

 ……ビレストの団長様は敵だ、恐ろしい敵だ、もしかして、トラウマになっているのか。それとも敵の世話にはなりたくないのか。……俺はエルデに抱っこされたんだけど。ご飯も奢って貰ったし世話されまくりだぞ。それにエルデの抱っこは結構安定してたぞ。

「そうだ! いいこと思いついた! エルデ様! 俺ごと抱っこしてください!」
「え?」
「そうすれば落ちないよな」
「…………」

 エルデがこちらをじっと見つめながら黙り込む。

 イルエラを片手に抱えて、エルデと手を繋ぎ直して近づけば、エルデが一歩後ろに下がり、階段を一段登った。

「エルデ?」
「…………っ、……し、失礼します……!!」
 エルデが階段を降りてきて屈み、俺の膝裏に腕を回す。――それから浮遊感を感じて、高い位置から階段を見下ろす体制になる。

 見事に片腕だけで軽々と俺達を抱き上げるエルデ様。さすが……凄い腕力だ。

 俺は今、エルデの左腕に座って左手に膝下を抱えられている状態だ。俺の右手はイルエラを抱えていて、左手はエルデの右手を握っている。

 ……よく考えたら、何なんだこれは。



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