転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第八章

192話 捕まえないのか?


「ごめん……重いだろ、下ろしていいぞ」
「い、いえ……とても軽いです」

 どデカいウサピョンと1人の人間を片腕で抱き上げてんだぞ、それで軽いってどんな腕力だ。

 いや、普段からあの巨大な剣を振り回しているのだから軽いと感じていてもおかしくはない。

 しかもエルデはそのまま階段を難なく上がっていくし、めちゃめちゃ安定しているし、本当に軽いと思っているらしい。

 やっぱりエルデは強敵だな。バレないようにしないと……あっ!? 女の子の話し方にするの忘れてた……!!
ば、バレてないよな、バレてないよな!?

 エルデの顔を覗き込めば、真っ赤になって目を釣りあげて口を食いしばっている。

 ……うん、大丈夫そうだな。

「着きました」

 塔のてっぺんに着いてからエルデがそう言った。

「う、うん」

 だんだんといたたまれなくなってきたし、やっと降りられるのかと安堵していたのに、下ろしてくれない。

「エルデ?」
「……その、手を繋いでいたいのですが……」

 ウサピョン連れだと手を繋ぐだけですごい手間が掛かるんだな。

「分かった。このままでもいい」

 イルエラにもよく抱えられるし……しかしイルエラの抱え方とはやはり違う。エルデは今俺を女の子扱いしているからな。ちゃんと女の子のこと考えてるならなんで森に入ったり、こんな不気味な所に連れてきたりしたんだ。

 エルデが俺を抱えたまま端へと近付く。かなり高いし、何よりこの塔事態が古くて壊れそうだと言うのに――や、やっぱりダメだ! こんな怖い思いをさせていたら女の子に嫌われるぞ!

 無意識にイルエラごとエルデに身体をくっ付けていれば、イルエラがエルデの胸を蹴り出す。暴れないでくれ、今暴れないでくれ!!

「ま、待って、怖い怖い怖い……!」
「大丈夫です。落としませんから」
「そう言う問題じゃない! 精神的に殺られる!」

 ひいひい言いながらくっ付いていれば、相手は顔が真っ赤だし口元が緩んでいるし……貴様、やはりお化け屋敷的な効果を狙っていたのか。こうなると吊り橋効果の方が近いのか。

 端っこまで辿り着けば、エルデが「見ていただきたい」と言ってくる。お前はそんなに俺を怖がらせたいか!

「ここから見る景色が素晴らしいと教えて貰ったのですが……これほどとは思わなかった……です」
「え……景色?」

 怖くて視線と意識を逸らしていた方へ、そっと視線と意識を向けてみる。

 周囲には白い森、その向こうには先刻まで自分達がいたであろう白い街並みが広がっていた。

 確かに、絶景だ。その白さは前世のゲーム〝WoRLD oF SHiSUTo〟の世界そのものだ。けれどその美しさも41層の街並みでは、霞んでしまう。

「お気に召しませんでしたか?」

 エルデが俺の反応を見て、不安そうに尋ねてくる。

「……そうだな」

 そう呟けば、エルデが肩を落とすのを手に感じられた。いつの間にか、彼の肩を強く掴んでしまっていたようだ。慌てて手を離せば、エルデはそっと俺を地面に下ろした。

 手は繋がないことを選択したらしい。流石に疲れたか?

「で、では、他にもポイントを聞いてきたので別の場所から――」

 必死に言うエルデに対して、首を振る。

「41層の街並みじゃ、どこから見ても喜べないと思う。確かに綺麗だ。絶景だ。でも、見ていると自分の無力さを思い知らされる」
「無力さ……?」
「ここからは見えないけど、奴隷達は今も酷い目に合わされている筈だ。一般人は奴隷がいることが普通だと考えている。だから、自分達が奴隷にしていることを酷いことだとは思っていない。昨日接していて分かったんだ、みんな、とてもいい人達だ。屋台の店主達も、お客さんも、みんな笑ってた。でも、彼等も奴隷を持っているだろう。この町をそんな風にしてしまったことが悔しい……。そんな人達が無自覚に人を傷付ける行為をしていることが悲しい」

 エルデは町を眺めながら静かに聞いていたが、思い出したかのようにこちらに振り向いてから言った。

「……実は、俺はある方に、この街の奴隷の扱い方について聞かされたのです。ここ数日は言われたとおり現状を把握しようと町の中を見て回っていたのですが、そんな様子はなく……皆、楽しそうに笑っていて。素敵な町だなと。奴隷の姿など一人も見当たらないのです」

 まるで答えを聞きたいと言いたげな話し方だ。踊り子ならいろいろな階層に呼ばれるし、ビレストよりは詳しいと考えられているのかもしれない。

 何より、エルデが俺の話を聞いて、対応しようとしてくれていたなんて……ちょっと嬉しい。

「皆が隠しているんだ。ビレストの騎士団長様が町を歩いているのに、奴隷を外に出すバカはいない。そうでなくても王様の来訪で41層には兵士が集まってきている、王様の目に触れないように気を配ってるんだろう。多分今は、建物の中か、地下室か、森の中に放り出したか、人目につかないところに連れて行かれたか……隠す方法はいくらであるからな、貴族に売った可能性もある。気に入って貰えれば、金儲け出来るし」
「貴族に売るのですか? ただの一般人と貴族に交流があるとは思えませんが……」

 エルデは顎に手を当てて唸る。彼なりに考えようとしているらしい。

「昨日の屋台、見て回ったか?」
「は、はぁ……休憩時間に。食事は必要なので」

 他の騎士ならちゃんとしたお店でご飯を食べてそうだが、エルデは屋台を回ったのか。もしかしたら、現状を把握する為に屋台へ向かったのかもしれないが、それはそれで喜ばしいことだ。

「リッカル焼き、綿の実、ゲコ掬い、べムゥの肉……他にもあったけど、俺の印象に残っているのはコレだ。
 べムゥの肉やゲコ掬いはいい。べムゥは家畜化されているから、人に食べられる肉としては有名だ、まあ値段は高い方だけど、一般人でも手は出せる。
 ゲコは上級階層の繁栄した町にならありとあらゆる種類のゲコを揃えている専門店なんかもあるし、似たような店のチェーン店も存在している。これらは兵士と交渉すれば仕入れることが可能だ。
 だが、リッカルと綿の実は、33層ベルファインの魔獣の森にしか存在しない代物なんだ。
 リッカルは確かに草食動物でそこら辺にいそうな印象を受けるけど、彼等はベルファインの森でしか暮らせない。なぜなら彼らの主食は綿の実だ。
 そしてその綿の実は魔力を持つ樹木になり、自らも魔力を持っている――つまり周囲が濃い魔力で満ちている空間、強い魔獣達の巣窟であるベルファインの森でしか育たない」

 小さなウサピョン達が住んでいるようなちっぽけな魔力しか持たない森で、自家栽培なんか、出来る筈がない。

 そもそも綿の実の樹木事態が運び出せる大きさではないし、苗だって運び出すことは禁止されている。

「あれは間違いなくベルファインから密猟してきたものだ。リッカルは槍で串刺しにしていたあたり、自分で狩りに行っている。1人ではあの量を運ぶのは大変だろうから、複数人のグループ、闇取引で手に入れた通行証でベルファインに侵入し、一般人では手に入らないようなアイテムを使って上手く仕留めてきてるんだろう」
「……そ、それが本当なら大問題です」

 これは密猟のこともだが、通行証のことも言っているのだろう。

「通行証は貴族でも手に入れるのが困難だ、しかし貴族の中でももっとも通行証を手に入れやすい人達がいる」
「通行証が手に入りやすい? それはいったい……」

 通行証は申請した後に厳しい審査がある、どんな目的でその階層に訪れるのか、通行する時の検査はもちろん通行後の検査もあるし、怪しいと思われれば家の中まで調べられることもある。

 だがまあその大半は金――つまり賄賂でどうにかできる。しかし、その前が厄介なのだ。

 なぜなら通行証の申請は天級階と呼ばれる7人の貴族と、四皇級階と呼ばれる4人の貴族の部下達が内容を確認して3人分の判を押すことによって、やっと申請が通るからだ。

 下手な文章じゃまず落とされる。

 まず行きたい階層に行く目的をしっかり書くこと、それを果たした後に何に活かすのか、申請を通してこの地下都市に何のメリットがあるかなど。なかなか面倒くさい。

 しかし、それを一言ですませられる人々がいる。それが。

「コックとパティシエだ」

 養成学校に通うほどのお金を持っているのは貴族とまではいかないが裕福な家庭だ、まあ貴族の中でも目指す者もいるだろう、なぜなら宮廷パティシエも宮廷コックも貴族の出が多い。王宮に一般人を入れたくないお偉い方の差別と言う名の努力の結晶である。

 しかし他の貴族達が、彼等は通行証が手に入りやすいと知ってしまえば、雇われる側の人間である彼等はいい様に利用される。

 免許を取ってそれを利用しコック、またはパティシエであると名乗り、実際には料理をしなくても雇われる人も存在する。つまり通行証の申請の内容として使う為だけに自分を売っているのだ。

 雇われている分給金も発生する。貴族様方がコックやパティシエを目指す理由はこれだ。

「つまり彼らを雇っている貴族も手に入れやすい。特に王族や上級貴族に仕えている者なら、食料を手に入れるためだと言えば、期限付きの通行証だが簡単に手に入れることが出来る。この町の宿屋のコックらしい、ターナデル・エルランディルは22階層ラウルにいる上級貴族エルランディル男爵の息子で間違いない。確か双子で、弟の方がそんな名前だった気がする」

 エルデが黙り込んで、彼を見上げれば、じっと見つめられる。

 イルエラが腕の中で暴れ出してから、ハッとする。

 貴族の息子の名前を知ってるなんて、踊り子が話していい内容じゃなかったかも!?

「あ、よ、よく貴族様方に呼ばれるので噂を少々おほほほほ……」
「…………俺は、お前――あなたに謝らなければならない」
「え?」

 エルデが俺から街へと視線を戻して言った。

「俺はあなたの笑顔に惹かれたと言いましたが、……あなたは誰かに似ているとも感じていた。俺の正義は間違っていると言ってくれたヴァントリア・オルテイル様です」

 ギクゥッとして慌ててイルエラを抱き直す。足は1歩下げて逃げる体制だ。イルエラを下ろしたら全力疾走するぞ。

 そおっとエルデを警戒しながら、イルエラを地面に下ろせば、エルデがこちらの行動など気にも止めずに語り出した。

「俺は気付けなかった。俺はビレストの騎士団長になって、王の命令のままに動いて来た、しかし、下の階層へは降りたこともなかった。王の敵から王を守る、ただそれだけの事を正義だと考えてきた。下に降りれば、あなたの言った通り、黒い所は隠されてしまう。我々は白いところしか見ようとしなかった。屋台の話もそうだ、あなたに聞いた後に怪しんでしまっている。正義を貫くのならば、悪を見極める力も必要でした」
「エルデ……」

 もし、もしもエルデが苦しむ人々を救ってくれる正義になるなら、どんなに心強いだろう。

「それを教えてくれたヴァントリア様は……俺の知るヴァントリア様は、いつも怒っていた」
「……え?」
「いつも怒っていて、悲しんでいて、そして泣いていた、俺はあの人に笑って欲しかった」
「…………笑って?」

 何を言ってるんだ、悲しいしむかつくことも多いけど、俺は結構楽しんでるぞ。

「いえ、きっとあの人の心の許せる相手の前ならば、あの人は自然に笑えているんでしょう。しかし、俺の前ではそんな表情は見せてはくれない。だから、あなたの笑顔を見た時、俺は……こんな風に、ヴァントリア様が俺に笑いかけてくれたらと、思ってしまって……」

 …………ん? つまりどう言うことだ。

「失礼なことをしてしまったことをお許しください」
「何のこと?」

 エルデは言いにくそうに視線を泳がせたが、キッと目を釣りあげて、俺に向き直る。肩を掴まれ、顔を近付けられる。申し訳なさそうな顔だ。

「リアさん、俺は、あなたではなく、ヴァントリア様に惹かれているんです。ヴァントリア様をあなたに重ねていました、許してください」
「……は?」

 ヴァントリアに、惹かれ……?

 ヴァントリアを、重ね……?

「言ってる意味がわからん」

 エルデがふぅぅっと息を吐いてから、すううっと息を吸い込み、俺の肩を掴んでいた手を引き寄せて、力強く抱き締められる。



「俺はお前が好きなんだッ!! ヴァントリア・オルテイル!!」



「……え」



 ヴァントリア……オルテイル?



「ば、バレ……」


 口をパクパクさせていれば、エルデが静かに呟く。

「さっきの話を聞いて気づかない方がおかしいだろう……でしょう」
「す、好きって」

 そう呟けば、エルデの身体が硬くなる、筋肉が強ばっているらしい。密着した胸から、バクバクバクバクと相手の激しい鼓動が聞こえてくる。

 好き、好き? 好き、好き……好き。好き、すき、すき、すき?

「誰が誰を……」
「…………っ、お、俺が、ヴァントリア様をだ、です。どうにかなりたい訳ではない、ありません、本当にお前、あなたに惹かれているのか、分からない、です。なので返事はいらない、いりません。勢いに任せて、言ってしまっただけだ、です。忘れてもらって、構わない、です」
「俺の正体が分かったんだろ? 捕まえないのか?」
「捕まえてもいいのか?」

 腕を広げるエルデを見て、少し哀れに思う。かっこいい激強正義のエルデ様が恋を知ってバカになってしまった。

「俺を王宮に連れ帰らなくてもいいのかって聞いてるんだ」
「今日は非番だ、です。それに……今はまだお前を悪か正義が判断している最中だ、だから。俺の中ではお前、あなたはは正義ですが、世間的に見て、そして王の目にお前がどう映るのか、俺はまだ判断が出来かねている。今は正義としての手が下せません」
「そ、そっか」

 エルデも色々と考えてるってことでいいのか?

 にしては汗を流しまくっている気がする。ヴァントリアに恋とか絶対におかしいし。

「エ、エルデ。もう今日はお開きにした方が……帰ってから冷静に考えてみるといい」
「そうしたいのは山々なのですが、お前、あなたと離れたくない……と言うか、俺におま、貴方との時間をください」
「嫌だ。帰れ」
「好きなんだ!! 時間を!!」

 だからその顔怖いって。

「い、いえ。わ、わかりました……今日の俺はどこかおかしい気がする、します。冷静になるために、帰って考えてみようと思う、思います」

 そう言ったエルデに手を取られ、何だ? と眺めていれば、その手は彼の口元に引かれていく。

 エルデの厚い唇が沈み込むように手の甲に押し当てられる。弾力があり柔らかい唇だが、感触から男のモノだと分かる。

 触れるだけだったと言うのに、離れていく唇はどこかセクシーだし、まだ残っている手の甲の上の感触は滲み出るエロスを感じる。

 女の子にしたらイチコロだろうな。

 それを合図に、やっと解放されると思うとほっとした。

 もうずっと混乱している気がする、男とデートして、バレたと思ったら好きだと告白されて……どんな一日だ。

 エルデと塔を降り、森を通り過ぎて、町へと戻ってくる。その間中ずっと後ろを歩き、プレッシャーを放ちまくって一言も話さなかったエルデに、勇気を振り絞って振り返る。

「じゃ、じゃあな」
「手紙を出してもよろしいでしょうか」
「……え」

 何だいきなり。

「住所は……」
「逃亡中だからないです」
「そ、そうですか……」

 手を振ってエルデと別れる、エルデはどこか引き留めたがっているような気がしたが、敵とこれ以上一緒に行動するわけにもいかない。先刻自分で話したことを思い出し、早く帰って作戦を立てたいと言う気持ちに駆られていた。

 本当にやっと終わった、と前を歩くイルエラを見ながらとぼとぼ歩いていれば、ガッと手首を掴まれて、後ろから抱き締められる。

「え、エルデ……!?」

 力強い腕に抱擁され、咄嗟にその名を呼んだのだが。


「――ブチ殺ス……」



「え?」


 俺を後ろから抱き締めてくる相手にイルエラが気付いて身を翻す。イルエラは地面を蹴りロケットのような土煙を立てて飛び跳ねて、こちらへ突っ込んでくる。ーー相手の横っ腹にウサピョンの体当たりが直撃する。

 サイズが規格外のウサピョンならではの巨体を使った一撃に、後ろの男はバランスを崩し、掴まれていた俺もろとも地面にすっ転んだ。

 拘束が解けて慌てて起き上がり距離を取る。ウサピョンが駆け寄ってきて警戒するように構えたが、辺りを見渡してももうそこには誰もいない。まるで元から誰もいなかったかのように感じるほどの静けさだ。

「イ、イルエラ、今のって……」

 イルエラが首を振る。イルエラも分からないらしい、相手の顔が俺で隠されて見えなかったのかもしれない。

 いや、見えていたとしてもイルエラは45層に捕らえられていた囚人だ、相手が誰なのかまでは分からないだろう。

 それにしてもどこかで聞いたことある声だったような……前世のゲームで出たキャラか?

 酷くドスの聞いた声だったな、低い声で特徴的だからすぐ分かりそうなのに……分からない。

 心当たりがないかウォルズに聞いてみよう。



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