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第八章
202話 奴隷解放軍
俺達は松明の光と、あちこちの壁に設置されている光に導かれるまま男の後を着いていく。
「こんなところがあったなんて……」
「地下通路って奴か?」
ジノとキョロキョロしながら歩いていれば、凸凹の地面に躓いて転けそうになるのを、男に片腕で受け止められる。
「あ、ありがと」
「知らないのは無理もありません。最近オレ達が作った通路ですからね」
「おれ達って、兄様達が作ったんですか?」
「え……?」
「でも、41層になんて用はないはずじゃ……サイオン兄様も降りてきたし、一体何が起きてるんですか」
「…………」
「えっと。ディスゲル兄様?」
「お、おいバカ!」
と、首を傾げていたジノがハッとして小突く。ん? なになに? 構って欲しいのか?
そう思って頭を撫でてやろうとしたら、白コートが戸惑うように言った。
「…………な、何でオレのことが分かるんだ? お前まさか」
――あ、そ、そうか、俺今は女の子の姿なんだった!
「み、見たことがありましたから! 私のお兄様に似ててついお兄様と呼んでしまったんですごめんなさい!」
「そ、そうか……」
白コートに連れていかれるまま辿り着いた先は、人工的に作られた大広間だった。
「ここは?」
「ここは奴隷解放軍の基地です。内緒にしててくださいね」
いま、何と言った……?
「奴隷……解放、軍?」
「まだこの41層にしかないが、オレの王族の証……もう正体はバレてるからいいか。オレの王族の証を使ってそれぞれの層へ行き奴隷を解放していくつもりだ」
「な、何でそんなことをディスゲル兄……ディスゲル様が……?」
「……オレの弟が、奴隷が大好きなんだ」
ん?
「アンタとよく似た赤い髪の赤い瞳の弟だ」
ジノが反応し、「ヴァントリア・オルテイルのことか?」と聞く。
「オイオイ、悪い噂は聞いてるだろうけど呼び捨てはだめだぞ」
ジノの眉がピクリと動く、不機嫌そうである。
「アイツにいじめられてる奴隷達を見るのはあんまし好きじゃなかったんだ。兄さん達も無視してたからオレも関わらないようにしていたが、アイツは本当にタチが悪い。金遣いは荒いし女好きだし、シスト兄さんが43層に落としてくれた時は凄く助かったな」
めちゃくちゃ嫌われてるな、ヴァントリア。
「オレはほとんど王宮にいなくてね、偶にこうやって下層に降りてきたり、地上に旅しに行ったりしているんだ」
「え、地上に?」
――出られていたのか!
そもそも王族の一人であるディスゲル兄様が下層に降りてきていたなんて知らなかった、引きこもりだと思っていたのに。
「アンタなら知っているんじゃないのか?」
「え」
「アンタ、貴族じゃないのか? アンタって一度見たら忘れないような綺麗な容姿をしているけど……悪いが覚えてなくてね。オレはあんまし貴族って好きじゃないんだよな。媚び媚びしてて。アンタは貴族の子供とかそう言う類の人なんじゃないのか? たまーに馴れ馴れしくオレ達のことを兄様って呼ぶ奴がいる。誰と結婚する気なのか知らないけどな」
それ本人に言っちゃうのかよ。いや俺はそう言う貴族じゃないけど。
「ま、まあ、そんなとこ」
――ピピピと音がして、ズボンのポケット辺りに小さな魔法陣が浮かぶ。この通信魔法石もゲームに出て来たものだ。音まで完璧な再現――いや、ゲームの世界なのだから当たり前か。
ディスゲル兄様も通信機である腕輪に連絡が入ったようだ。それぞれ、通信に出て通話する。
「どうしたアランディル」
『大変よ! この階層の領主が所有している屋敷から奴隷達の姿が消えたわ!』
「何!?」
『兵士がそう騒いでいるの、間違いないわ!!』
「もしもしウォルズ?」
『大成功! 博士から連絡あったよ、奴隷の皆さん連れ出せたって~!』
テンションの高い声が通信魔法石から漏れ、「え……」とディスゲルがこちらに振り向く。
ジノも俺も通話に気を取られ、それに気がつくことはなく。
『俺もラルフも回収済み』
「今どこにいるんだ?」
『出口への最短距離は俺タチがもう調べた。やっぱり皆エレベータの前にしかいないな。階段の存在は知らないらしい』
ディスゲルは、階段? と思うが口にはしない。返事がなかったためか切られた通信機を口元に近づけながら隣から聞こえてくる話を聞いている。
『俺とラルフはそろそろ待ち合わせ場所につくけど。博士ももうすぐだって言ってた』
「どうしよう、俺達、途中でダンデシュリンガーに会って、えっと、今奴隷解放軍の基地にいるんだけど」
『え、何それその設定知らない』
「俺もわかんないんだけど……今地下に――」
「――オイ」
と手を引かれ、ディスゲルに止められる。
「ここのことは秘密なんだ、あまり広めないでくれ」
「そ、そっか」
通信に戻り、ディスゲルの怪しむような視線に戸惑いながらも伝える。
「あ、えっと、とにかくすぐに向かうよ」
通信を切り、ディスゲル兄様に向き合う。
「逃がしてくれてありがとう、俺達そろそろ行くよ」
「行くって、ダンデシュリンガーは手強いぞ」
「でも俺の仲間は上にいるんだ、俺達がいかないと計画が――」
「計画?」
俺達の会話を黙って聞いていたジノが耳打ちしてくる。
「ヴァン、そいつ王族なんだろ、迂闊なことは話すな」
「そ、そうだな」
こっそりと答えてから、ディスゲル兄様に尋ねる。
「あ、あの出口はどこに――……」
「待て、さっき言っていた奴隷を連れ出したと言うのはどう言うことなんだ。あんなに大勢連れ出したら、すぐに見つかって奴隷達も罰を受けることになる! 何を考えてるんだ、解放した後はどうするつもりだ!」
通信の話が聞かれていたと気が付くが、相手は同じく奴隷解放を目的としている、否定する必要がない。ここは答えておこう。
「クジャに行こうと思ってる」
「クジャ?」
彼処ならあのバカがいるはずだしな。
「ま、待て、別の層に移ると言うことか? アンタ達は王族の証を持っているってことか?」
答える前に、ジノに手を引かれる。
「……ヴァン、もう行かないと」
「そうだな」
「――待て!」
背を向けて去ろうとすると、呼び止められる。
「俺、嬉しいんだ」
「ヴァン?」
ディスゲル兄様に振り返る。
「ディスゲル兄様が、奴隷達を助けようとしてくれてたこと。本当に嬉しい。本当に……」
ディスゲル兄様の表情と動きが止まると、その様子を見ていたジノに「行こう」と言われる。天井が弧を描き、地面の小石が揺れるのを見て、何かを察知したジノに腕を引かれる。ジノに引っ張られるまま、走り出し。背後からの炸裂音を感じながら、俺達は出口を探し始めた。
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